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2020年04月28日 (火) | 編集 |
最後まで守り切る。
Netflixオリジナル作品。
クリス・ヘムズワース演じる心に傷を抱えた死にたがりの傭兵が、誘拐されたインドの麻薬王の息子の奪還作戦中、孤立無援の危機に陥る。
軍に封鎖された迷宮都市ダッカから、子供を庇いながらいかにして脱出するか。
MCUで「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」の監督に抜擢され、集大成「アベンジャーズ/エンドゲーム」で世界興行収入記録を塗り替えた、アンソニーとジョーのルッソ兄弟がプロデュース。
弟のジョーが脚本を手がけ、上記の2作品にスタント・コーディネイターとして参加し、「エンドゲーム」では第二班監督も担当したサム・ハーグレイヴが、見事な手腕を見せ長編監督デビューを飾った。
血で血を洗う非情の世界でしか生きられない、アウトローたちの壮絶な生き様、死に様を描くハードでパワフルな作品である。
元オーストラリア軍特殊部隊SASRの兵士で、傭兵を生業にしているタイラー・レイク(クリス・ヘムズワース)の元へ、傭兵仲間のニック(ゴルシテフ・ファラハニ)から依頼が入る。
インドのムンバイを拠点とする麻薬王マハジャンの息子オヴィ(ルドラクシャ・ジェイスワル)が、敵対するアミール・アシフ(プリヤンシュ・パイニュリ)の組織によって拉致された。
レイクの任務はアシフが支配するバングラディシュのダッカに潜入し、オヴィを救出すること。
救出作戦は難なく成功するも約束された金は支払われず、オヴィの父親の部下のサジュ(ランディープ・フーダー)がオヴィを奪還しようとしてレイクを襲うも失敗。
ダッカの街はアシフの息のかかった軍の部隊によって完全に封鎖され、レイクは孤立無援となってしまう。
レイクはオヴィを見捨てて逃げるべきだと言うニックの助言に従わず、ダッカに住むかつての戦友のギャスパー(デヴィッド・ハーバー)に助けを求めるのだが・・・
先日公開された「1917 命をかけた伝令」は全編ワンショット風の長回しがウリだったが、本作にも前半35分あたりからおよそ10分間に渡る、とんでもないワンショットシークエンスがある。
時間的にはそれほどでもないと思うだろうが、おそらく撮影の複雑さは本作の方が数段上だろう。
まるで迷路のようなダッカの下町を舞台に展開する、オヴィを守りながら逃走するレイクvsサジュvsアシフの命を受けた軍部隊の三つ巴の戦闘は凄まじい。
レイクの戦闘術が相手の懐に飛び込むような超接近戦中心で、カメラも極力人物に寄り添っているため、まるで自分も命がけの戦いの場に叩き込まれたような臨場感。
しかもずーっとレイクに張り付いているのではなく、時にはサジュに、時にはやられ役の軍部隊の方へと変幻自在のカメラワーク。
さすがMCUをはじめとする数々の作品で、度肝を抜くアクションを手がけてきたハーグレイヴ渾身の作である。
推測ではあるが、やはり監督がスタント畑出身で、オープニング8分間に及ぶ怒涛のPOVワンショットアクションが話題となった韓国映画「悪女/AKUJO」に相当触発されているのではないだろうか。
このワンショットシークエンスだけでなく、全編にわたって工夫を凝らしたアクションが散りばめられており、超近接銃撃戦から始まって,カーチェイスに格闘戦にナイフ術,果てはスナイパー同士の戦いから、ヘリにRPGを打ち込んだり、おおよそ考えられるありとあらゆるアクションがてんこ盛り。
しかも前記した通り凝りに凝ったカメラワークと計算された視線の移動、編集の妙技によって、それぞれのアクションが非常に魅力的に見えるように出来ている。
ついアクションの話ばかりしてしまうが、ジョー・ルッソの脚本も娯楽映画のツボを押さえた優れた仕上がりだ。
ベースとなっているプロット自体は「狙われた子供を守る、心に傷を負ったアウトロー」という典型的な話型だが、適度にキャラクターが描き込まれ、行動原理がブレないので説得力がある。
主人公のレイクは、幼い息子を病気で亡くして以来、自暴自棄になっている設定。
死へと向かう息子の姿に耐えられず、家族の元を逃げ出したことを悔いていて、オヴィを救うことは彼にとって見捨ててしまった息子への贖罪なのである。
レイクによって救出されるオヴィも、自分自身は平凡な十代の少年なのに、否応無しに修羅の道を生きる父親の影響下にあると言う現実に葛藤する。
暴力から逃れようとするオヴィが、命を奪うことの重みと悲しみを知るエピソードは秀逸だ。
劇中、タイラーの過去を聞いたオヴィが、ブラジルの作家パウロ・コエーリョの「溺れるのは川に落ちたからではない。ずっと川底にいるからだ」と言う言葉を引用し、実際にレイクやオヴィが水中にいる描写が象徴的に使われているが、この映画の登場人物たちは川の底に沈んだまま足掻いているのだ。
ユニークなのは、レイクとオヴィにはそれぞれ対となるキャラクターがいて、彼らの存在が物語を深化させていること。
レイクと対になるのは、オヴィの父親の部下サジュ。
実は麻薬組織の口座は当局に凍結されていて、オヴィの解放交渉をしようにも金がない。
そこで傭兵を雇って彼らがオヴィを救出したところを襲い、彼の身柄を抑える算段だった。
ところがレイクが優秀過ぎて計画は失敗し、サジュは窮地に立たされる。
レイクと同等の戦闘能力を備えるサジュの行動原理となっているのが、最愛の妻と息子だけは非情な裏社会から守りたいという願いで、家族を捨てて逃げ出した過去を持つレイクと好対照を形作る。
一方、オヴィに対応するのが、ダッカを陰から支配するアシフに感化され、スラムからのし上がろうとする少年ファラド。
年少の子供たちを束ね、その生活環境から暴力を行使することに全く迷いがないファラドは、オヴィとは正反対の裏社会の負の連環を象徴する人物だ。
これらのキャタクターの相対によって、レイクとオヴィの葛藤がより際立つのである。
今のハリウッドで一番兵士役が似合う男、クリス・ヘムズワースが素晴らしい。
完全にビッグ・リボウスキ化していた、「エンドゲーム」のソーと同一人物とは思えないほどカッコいいのだ。
コミカルなソーはソーとして、ヘムズワースにはこのハード路線を突き詰めて欲しい。
もちろんアクションもいいのだが、隠れ家でのギャスパーやオヴィとの対話シーンで、アウトロー(ヒーロー)の苦悩と哀愁を感じさせ、キャラクターの人間性がにじみ出る演技は強く印象に残る。
大人との戦いの時は躊躇なく撃ち殺すのに、相手が子供だと“おしおき”にとどめるのもいい。
もっともそれが相手の怒りに火を付けちゃうのだけど。
キャラクター造形はジョー・ルッソの功績が大きいとしても、ここまで的確に主人公の内面を汲み取って演出したサム・ハーグレイヴの手練れっぷりも印象的だ。
いぶし銀の漢の映画と思わせつつ、最後の最後でゴルシテフ・ファラハニにボンドガールばりの見せ場も用意し、全編に渡って娯楽映画の“粋”が詰まった快作。
出来れば大スクリーンで観たかった作品だが、コロナ自粛を乗り切るための熱く燃えたぎるエナジーをもらった。
今回はインドの麻薬王の息子の話なので、インドを代表するビールの一つ「ゴッドファーザー プレミアムラガー」をチョイス。
麦芽87%を使用した高級感のあるラガービール。
南国のビールらしく、切れがあり喉ごし爽快な味わいは辛口好きの日本人好みだろう。
ちなみに「スーパーストロング 」の方は麦芽67%でアルコール度数が6.5度と高くなっている。
どちらもスッキリしていて美味しいが、個人的には「プレミアムラガー」の方が好み。
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Netflixオリジナル作品。
クリス・ヘムズワース演じる心に傷を抱えた死にたがりの傭兵が、誘拐されたインドの麻薬王の息子の奪還作戦中、孤立無援の危機に陥る。
軍に封鎖された迷宮都市ダッカから、子供を庇いながらいかにして脱出するか。
MCUで「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」の監督に抜擢され、集大成「アベンジャーズ/エンドゲーム」で世界興行収入記録を塗り替えた、アンソニーとジョーのルッソ兄弟がプロデュース。
弟のジョーが脚本を手がけ、上記の2作品にスタント・コーディネイターとして参加し、「エンドゲーム」では第二班監督も担当したサム・ハーグレイヴが、見事な手腕を見せ長編監督デビューを飾った。
血で血を洗う非情の世界でしか生きられない、アウトローたちの壮絶な生き様、死に様を描くハードでパワフルな作品である。
元オーストラリア軍特殊部隊SASRの兵士で、傭兵を生業にしているタイラー・レイク(クリス・ヘムズワース)の元へ、傭兵仲間のニック(ゴルシテフ・ファラハニ)から依頼が入る。
インドのムンバイを拠点とする麻薬王マハジャンの息子オヴィ(ルドラクシャ・ジェイスワル)が、敵対するアミール・アシフ(プリヤンシュ・パイニュリ)の組織によって拉致された。
レイクの任務はアシフが支配するバングラディシュのダッカに潜入し、オヴィを救出すること。
救出作戦は難なく成功するも約束された金は支払われず、オヴィの父親の部下のサジュ(ランディープ・フーダー)がオヴィを奪還しようとしてレイクを襲うも失敗。
ダッカの街はアシフの息のかかった軍の部隊によって完全に封鎖され、レイクは孤立無援となってしまう。
レイクはオヴィを見捨てて逃げるべきだと言うニックの助言に従わず、ダッカに住むかつての戦友のギャスパー(デヴィッド・ハーバー)に助けを求めるのだが・・・
先日公開された「1917 命をかけた伝令」は全編ワンショット風の長回しがウリだったが、本作にも前半35分あたりからおよそ10分間に渡る、とんでもないワンショットシークエンスがある。
時間的にはそれほどでもないと思うだろうが、おそらく撮影の複雑さは本作の方が数段上だろう。
まるで迷路のようなダッカの下町を舞台に展開する、オヴィを守りながら逃走するレイクvsサジュvsアシフの命を受けた軍部隊の三つ巴の戦闘は凄まじい。
レイクの戦闘術が相手の懐に飛び込むような超接近戦中心で、カメラも極力人物に寄り添っているため、まるで自分も命がけの戦いの場に叩き込まれたような臨場感。
しかもずーっとレイクに張り付いているのではなく、時にはサジュに、時にはやられ役の軍部隊の方へと変幻自在のカメラワーク。
さすがMCUをはじめとする数々の作品で、度肝を抜くアクションを手がけてきたハーグレイヴ渾身の作である。
推測ではあるが、やはり監督がスタント畑出身で、オープニング8分間に及ぶ怒涛のPOVワンショットアクションが話題となった韓国映画「悪女/AKUJO」に相当触発されているのではないだろうか。
このワンショットシークエンスだけでなく、全編にわたって工夫を凝らしたアクションが散りばめられており、超近接銃撃戦から始まって,カーチェイスに格闘戦にナイフ術,果てはスナイパー同士の戦いから、ヘリにRPGを打ち込んだり、おおよそ考えられるありとあらゆるアクションがてんこ盛り。
しかも前記した通り凝りに凝ったカメラワークと計算された視線の移動、編集の妙技によって、それぞれのアクションが非常に魅力的に見えるように出来ている。
ついアクションの話ばかりしてしまうが、ジョー・ルッソの脚本も娯楽映画のツボを押さえた優れた仕上がりだ。
ベースとなっているプロット自体は「狙われた子供を守る、心に傷を負ったアウトロー」という典型的な話型だが、適度にキャラクターが描き込まれ、行動原理がブレないので説得力がある。
主人公のレイクは、幼い息子を病気で亡くして以来、自暴自棄になっている設定。
死へと向かう息子の姿に耐えられず、家族の元を逃げ出したことを悔いていて、オヴィを救うことは彼にとって見捨ててしまった息子への贖罪なのである。
レイクによって救出されるオヴィも、自分自身は平凡な十代の少年なのに、否応無しに修羅の道を生きる父親の影響下にあると言う現実に葛藤する。
暴力から逃れようとするオヴィが、命を奪うことの重みと悲しみを知るエピソードは秀逸だ。
劇中、タイラーの過去を聞いたオヴィが、ブラジルの作家パウロ・コエーリョの「溺れるのは川に落ちたからではない。ずっと川底にいるからだ」と言う言葉を引用し、実際にレイクやオヴィが水中にいる描写が象徴的に使われているが、この映画の登場人物たちは川の底に沈んだまま足掻いているのだ。
ユニークなのは、レイクとオヴィにはそれぞれ対となるキャラクターがいて、彼らの存在が物語を深化させていること。
レイクと対になるのは、オヴィの父親の部下サジュ。
実は麻薬組織の口座は当局に凍結されていて、オヴィの解放交渉をしようにも金がない。
そこで傭兵を雇って彼らがオヴィを救出したところを襲い、彼の身柄を抑える算段だった。
ところがレイクが優秀過ぎて計画は失敗し、サジュは窮地に立たされる。
レイクと同等の戦闘能力を備えるサジュの行動原理となっているのが、最愛の妻と息子だけは非情な裏社会から守りたいという願いで、家族を捨てて逃げ出した過去を持つレイクと好対照を形作る。
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年少の子供たちを束ね、その生活環境から暴力を行使することに全く迷いがないファラドは、オヴィとは正反対の裏社会の負の連環を象徴する人物だ。
これらのキャタクターの相対によって、レイクとオヴィの葛藤がより際立つのである。
今のハリウッドで一番兵士役が似合う男、クリス・ヘムズワースが素晴らしい。
完全にビッグ・リボウスキ化していた、「エンドゲーム」のソーと同一人物とは思えないほどカッコいいのだ。
コミカルなソーはソーとして、ヘムズワースにはこのハード路線を突き詰めて欲しい。
もちろんアクションもいいのだが、隠れ家でのギャスパーやオヴィとの対話シーンで、アウトロー(ヒーロー)の苦悩と哀愁を感じさせ、キャラクターの人間性がにじみ出る演技は強く印象に残る。
大人との戦いの時は躊躇なく撃ち殺すのに、相手が子供だと“おしおき”にとどめるのもいい。
もっともそれが相手の怒りに火を付けちゃうのだけど。
キャラクター造形はジョー・ルッソの功績が大きいとしても、ここまで的確に主人公の内面を汲み取って演出したサム・ハーグレイヴの手練れっぷりも印象的だ。
いぶし銀の漢の映画と思わせつつ、最後の最後でゴルシテフ・ファラハニにボンドガールばりの見せ場も用意し、全編に渡って娯楽映画の“粋”が詰まった快作。
出来れば大スクリーンで観たかった作品だが、コロナ自粛を乗り切るための熱く燃えたぎるエナジーをもらった。
今回はインドの麻薬王の息子の話なので、インドを代表するビールの一つ「ゴッドファーザー プレミアムラガー」をチョイス。
麦芽87%を使用した高級感のあるラガービール。
南国のビールらしく、切れがあり喉ごし爽快な味わいは辛口好きの日本人好みだろう。
ちなみに「スーパーストロング 」の方は麦芽67%でアルコール度数が6.5度と高くなっている。
どちらもスッキリしていて美味しいが、個人的には「プレミアムラガー」の方が好み。

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2020年04月19日 (日) | 編集 |
人生を変える内海の大航海。
老人養護施設に押し込められている身寄りのないダウン症の青年が、プロレスラーになると言う夢を叶えるために脱走することを決意。
ひょんなことから、シャイア・ラブーフ演じる逃亡中のならず者とバディを組み、筏で海と川を遡りプロレス学校を目指すロードムービーの佳作だ。
共にこれが長編監督デビュー作となる、タイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツのリリカルなオリジナル脚本。
全米でわずか17スクリーンでの封切りにも関わらず、週末トップ20位に食い込みロングランヒットとなった話題作だ。
二人を追いかける施設の介護士に、「サスペリア」のダコタ・ジョンソン、他にジョン・ホークス、ブルース・ダーンといった渋いキャストが脇を固める。
風光明媚なノースカロライナの内海の、独特の情景が素晴らしい。
プロレスラーに憧れているダウン症のザック(ザック・ゴッツァーゲン)は、家族に捨てられノースカロライナ州北部の老人養護施設に収容されている。
ある日ザックは、悪役レスラーのソルトウォーター・レッドネック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)が、エイデンという街で開設しているプロレス学校で学ぶために施設を脱走。
事件を公にしたくない施設長は、介護士のエレノア(ダコタ・ジョンソン)にザックを見つけて連れ戻すことを命じるが、彼の行方は知れない。
同じ頃、漁師のタイラー(シャイア・ラブーフ)はカニ漁をしている仲間のダンカン(ジョン・ホークス)から獲物を盗んでいたことが発覚し、埠頭に放火してボートで逃亡を図る。
ところが、ボートにはザックが隠れていて、図らずも逃亡者となった二人は、人目を避けるように南を目指す。
二人は逃亡中に筏を手に入れると、追ってきたエレノアも巻き込み、パムリコ湾を超えてエイデンを目指す。
しかし、そこにタイラーを追ってきたダンカンと手下のラットボーイが現れ、銃を突きつけるのだが・・・・・
舞台となるノースカロライナ州の東海岸は、アウターバンクスと呼ばれる南北320キロに及ぶ非常に細長い半島と砂州の島々によって、大西洋の荒波から隔てられている。
内側に位置するパムリコ湾、アルベマール湾は遠浅の海で、パムリコ川、チョーワン川などの河川が流れ込み、鬱蒼とした森林に覆われた非常に複雑な地形をしている。
不慮の病で一家の大黒柱を失った母娘の再生を描いた「パパの木」で、オーストラリアの大自然をスピリチュアルに活写したナイジェル・ブリックのカメラが、どこまでもフラットなアウターバンクスの内側の世界を象徴的に写し取る。
川と海が複雑に混じり合い、時には広大な海に、時には密林の川に、時には葦繁る湖や沼にも見える魅惑的なロケーションは、バラエティに飛んだビジュアルをワクワクする冒険の旅に与えているのだ。
劇中でも言及があるが、内海を舞台に海から川を巡る筏の冒険譚は、アメリカ文学の源流であるマーク・トウェインの小説「ハックルベリー・フィンの冒険」を思わせる。
もともと身寄りのない自由人のハックがザックで、奴隷制からの逃亡者のジムがタイラーである。
この二人が出会い、バディを組んで冒険の旅の起点となるのが、不思議話好きにはおなじみ、かつて植民者全員が謎の失踪を遂げたロアノーク島のマンテオなのも、これがある種のフォークロア的寓話であると考えれば合点がいく。
ただ、19世紀半の小説で、社会性の象徴となったのは逃亡黒人奴隷のジムだったが、21世紀のトランプの時代の物語で、物語の背景となるのはタイラーに代表されるプアホワイトだ。
カニ漁のライセンスを失ったタイラーは、ダンカンの獲物を失敬していたことがバレ、手酷く殴られるのだが、仕返しに彼の装備に放火して逃げる。
物語の中盤でタイラーに追いついたダンカンは、放火の損害額を「1万2千ドル。年間の稼ぎと同じだ」と言う。
平均年収が5万ドルを超える国で、彼らはわずか1万2千ドルの年収を巡り争っているのである。
またザックが憧れているプロレスラーのリングネーム、“ソルトウォーター・レッドネック”も、“海水の田舎者”、つまりは漁師のことだ。
もちろん、漁師にも色々あるので一概には言えないだろうが、ここでは内海でカニをとる漁師という職業がプアホワイトの象徴として使われている。
厳しい現実の中、それでも生きてゆくためには、心で支え合える仲間が必要だ。
主要登場人物三人は、全員が喪失と閉塞を抱えている。
ザックはダウン症ゆえに親に捨てられ、老人ばかりの養護施設に閉じ込められた。
プロレスラー志望だけあって、小柄な体格の割には怪力で健康なのに、社会の事なかれ主義によって自立の道を閉ざされ、自由に生きる権利を奪われているのである。
一方、タイラーは共にカニ漁を営んでいた自慢の兄のマイケルがいたのだが、タイラーの過失による交通事後で亡くなってしまい、贖罪の意識に取り憑かれ生活を立て直せない。
そして当初は二人の逃避行を追う者だったエレノアもまた、若くして夫を亡くした未亡人。
はじめは成り行きでザックを連れていたタイラーは、スパーリングの相手をしながらの旅の間に、ザックを尊敬すべき仲間として受け入れる。
やがてエレノアが二人に追いついた時、長年の親友同士の様な二人を見て、自分がザックを対等な存在として見ていなかったことに気づかされるのだ。
それぞれに家族を失った三人は、ちっぽけな筏の冒険を通してお互いへの共感を強め、プロレスラーになりたいというザックの夢を軸とした疑似家族のような関係となってゆく。
本作は言わば、ジェフ・ニコルズ監督がマーク・トウェイン的な川の文化を背景に、主人公の少年の一夏の成長を描いた「MUD-マッド-」ミーツ、偶然出会った疑似家族の愛と絆の物語をビターに綴った「チョコレートドーナツ」。
ついにエイデンにたどり着いた一行が見た世知辛い現実は、ザックの見ているプロレス学校のプロモーションCMが昔懐かしいVHSテープに入っていたことからも想像はついた。
しかしここでもまたザックの存在が、元ソルト・ウォーターレッドネックこと、クリスの眠っていたレスラースピリットに再び火を点ける。
クリスやタイラー、エレノアは喪失にプラスして精神的な閉塞を感じているが、ザックだけは施設に監禁という物理的な閉塞だけだったので、自由になった今は人々の道を照らす光となっているのである。
ハリウッド的な映画のウソに落とし込まず、無理に泣かせようとしない演出もセンス良し。
ザックとタイラーとエレノアは、幸運にも巡り会うことができたが、コロナ禍の殺伐とした世界で支え合い小さな幸せを求めるにはどうすればいいのか。
ジンワリとした余韻の中、思わず人恋しくなってそんなことを考えてしまった。
今回は舞台となるノースカロライナの「トポ エイトオークウイスキー」をチョイス。
ノースカロライナには蒸留所が多くあり、こちらは内陸のチャペルヒルにあるトポ蒸留所のウィスキー。
赤冬小麦100パーセントを原料に、8種のオーク樽を使用して熟成した一本だ。
ボトルを見ると、何やら角材状の物体が沈んでいるのだが、これは樽材の一部を切り出した物だそうで、出荷後の熟成を進める効果があるとか。
口当たりはドライな感じだが、徐々に甘みが出てくるタイプ。
ハイボールのベースにしても美味しそう。
記事が気に入ったらクリックしてね
老人養護施設に押し込められている身寄りのないダウン症の青年が、プロレスラーになると言う夢を叶えるために脱走することを決意。
ひょんなことから、シャイア・ラブーフ演じる逃亡中のならず者とバディを組み、筏で海と川を遡りプロレス学校を目指すロードムービーの佳作だ。
共にこれが長編監督デビュー作となる、タイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツのリリカルなオリジナル脚本。
全米でわずか17スクリーンでの封切りにも関わらず、週末トップ20位に食い込みロングランヒットとなった話題作だ。
二人を追いかける施設の介護士に、「サスペリア」のダコタ・ジョンソン、他にジョン・ホークス、ブルース・ダーンといった渋いキャストが脇を固める。
風光明媚なノースカロライナの内海の、独特の情景が素晴らしい。
プロレスラーに憧れているダウン症のザック(ザック・ゴッツァーゲン)は、家族に捨てられノースカロライナ州北部の老人養護施設に収容されている。
ある日ザックは、悪役レスラーのソルトウォーター・レッドネック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)が、エイデンという街で開設しているプロレス学校で学ぶために施設を脱走。
事件を公にしたくない施設長は、介護士のエレノア(ダコタ・ジョンソン)にザックを見つけて連れ戻すことを命じるが、彼の行方は知れない。
同じ頃、漁師のタイラー(シャイア・ラブーフ)はカニ漁をしている仲間のダンカン(ジョン・ホークス)から獲物を盗んでいたことが発覚し、埠頭に放火してボートで逃亡を図る。
ところが、ボートにはザックが隠れていて、図らずも逃亡者となった二人は、人目を避けるように南を目指す。
二人は逃亡中に筏を手に入れると、追ってきたエレノアも巻き込み、パムリコ湾を超えてエイデンを目指す。
しかし、そこにタイラーを追ってきたダンカンと手下のラットボーイが現れ、銃を突きつけるのだが・・・・・
舞台となるノースカロライナ州の東海岸は、アウターバンクスと呼ばれる南北320キロに及ぶ非常に細長い半島と砂州の島々によって、大西洋の荒波から隔てられている。
内側に位置するパムリコ湾、アルベマール湾は遠浅の海で、パムリコ川、チョーワン川などの河川が流れ込み、鬱蒼とした森林に覆われた非常に複雑な地形をしている。
不慮の病で一家の大黒柱を失った母娘の再生を描いた「パパの木」で、オーストラリアの大自然をスピリチュアルに活写したナイジェル・ブリックのカメラが、どこまでもフラットなアウターバンクスの内側の世界を象徴的に写し取る。
川と海が複雑に混じり合い、時には広大な海に、時には密林の川に、時には葦繁る湖や沼にも見える魅惑的なロケーションは、バラエティに飛んだビジュアルをワクワクする冒険の旅に与えているのだ。
劇中でも言及があるが、内海を舞台に海から川を巡る筏の冒険譚は、アメリカ文学の源流であるマーク・トウェインの小説「ハックルベリー・フィンの冒険」を思わせる。
もともと身寄りのない自由人のハックがザックで、奴隷制からの逃亡者のジムがタイラーである。
この二人が出会い、バディを組んで冒険の旅の起点となるのが、不思議話好きにはおなじみ、かつて植民者全員が謎の失踪を遂げたロアノーク島のマンテオなのも、これがある種のフォークロア的寓話であると考えれば合点がいく。
ただ、19世紀半の小説で、社会性の象徴となったのは逃亡黒人奴隷のジムだったが、21世紀のトランプの時代の物語で、物語の背景となるのはタイラーに代表されるプアホワイトだ。
カニ漁のライセンスを失ったタイラーは、ダンカンの獲物を失敬していたことがバレ、手酷く殴られるのだが、仕返しに彼の装備に放火して逃げる。
物語の中盤でタイラーに追いついたダンカンは、放火の損害額を「1万2千ドル。年間の稼ぎと同じだ」と言う。
平均年収が5万ドルを超える国で、彼らはわずか1万2千ドルの年収を巡り争っているのである。
またザックが憧れているプロレスラーのリングネーム、“ソルトウォーター・レッドネック”も、“海水の田舎者”、つまりは漁師のことだ。
もちろん、漁師にも色々あるので一概には言えないだろうが、ここでは内海でカニをとる漁師という職業がプアホワイトの象徴として使われている。
厳しい現実の中、それでも生きてゆくためには、心で支え合える仲間が必要だ。
主要登場人物三人は、全員が喪失と閉塞を抱えている。
ザックはダウン症ゆえに親に捨てられ、老人ばかりの養護施設に閉じ込められた。
プロレスラー志望だけあって、小柄な体格の割には怪力で健康なのに、社会の事なかれ主義によって自立の道を閉ざされ、自由に生きる権利を奪われているのである。
一方、タイラーは共にカニ漁を営んでいた自慢の兄のマイケルがいたのだが、タイラーの過失による交通事後で亡くなってしまい、贖罪の意識に取り憑かれ生活を立て直せない。
そして当初は二人の逃避行を追う者だったエレノアもまた、若くして夫を亡くした未亡人。
はじめは成り行きでザックを連れていたタイラーは、スパーリングの相手をしながらの旅の間に、ザックを尊敬すべき仲間として受け入れる。
やがてエレノアが二人に追いついた時、長年の親友同士の様な二人を見て、自分がザックを対等な存在として見ていなかったことに気づかされるのだ。
それぞれに家族を失った三人は、ちっぽけな筏の冒険を通してお互いへの共感を強め、プロレスラーになりたいというザックの夢を軸とした疑似家族のような関係となってゆく。
本作は言わば、ジェフ・ニコルズ監督がマーク・トウェイン的な川の文化を背景に、主人公の少年の一夏の成長を描いた「MUD-マッド-」ミーツ、偶然出会った疑似家族の愛と絆の物語をビターに綴った「チョコレートドーナツ」。
ついにエイデンにたどり着いた一行が見た世知辛い現実は、ザックの見ているプロレス学校のプロモーションCMが昔懐かしいVHSテープに入っていたことからも想像はついた。
しかしここでもまたザックの存在が、元ソルト・ウォーターレッドネックこと、クリスの眠っていたレスラースピリットに再び火を点ける。
クリスやタイラー、エレノアは喪失にプラスして精神的な閉塞を感じているが、ザックだけは施設に監禁という物理的な閉塞だけだったので、自由になった今は人々の道を照らす光となっているのである。
ハリウッド的な映画のウソに落とし込まず、無理に泣かせようとしない演出もセンス良し。
ザックとタイラーとエレノアは、幸運にも巡り会うことができたが、コロナ禍の殺伐とした世界で支え合い小さな幸せを求めるにはどうすればいいのか。
ジンワリとした余韻の中、思わず人恋しくなってそんなことを考えてしまった。
今回は舞台となるノースカロライナの「トポ エイトオークウイスキー」をチョイス。
ノースカロライナには蒸留所が多くあり、こちらは内陸のチャペルヒルにあるトポ蒸留所のウィスキー。
赤冬小麦100パーセントを原料に、8種のオーク樽を使用して熟成した一本だ。
ボトルを見ると、何やら角材状の物体が沈んでいるのだが、これは樽材の一部を切り出した物だそうで、出荷後の熟成を進める効果があるとか。
口当たりはドライな感じだが、徐々に甘みが出てくるタイプ。
ハイボールのベースにしても美味しそう。

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2020年04月14日 (火) | 編集 |
殺されたのは誰?
タイトルの「暗数」とは、警察が把握している事件の件数と、実際に起きているが警察が把握していない事件件数の差のこと。
要するに、誰にも知られることなく、闇に葬られた完全犯罪の数である。
本作では、チュ・ジフンが怪演する殺人犯のカン・テオが、キム・ユンソク演じるキム刑事に、突然「あと七人殺した」と自白する。
二転三転する供述に振り回されながらの大捜索の結果、身元不明の白骨死体が発見される。
ところが、カン・テオは「自分は運んだだけで殺してない」と、一転して自白を覆すのだ。
物証が少なく、自白に頼った捜査が冤罪を生みやすいのは万国共通。
カン・テオの目的は、情報を出し惜しみした供述で警察と検察を手玉に取り、裁判で無罪を勝ち取って公権力に対する世間の信用を失わせ、最後には自分が逮捕された殺人事件の再審を請求すること。
※以下、核心部分に触れています。
物語は実際に起こった事件に基づいていて、監督・脚本を務めるキム・テギュンは、キャラクターに過度に感情移入させることなく、適度な距離をとり淡々と物語を紡ぐ。
ちなみに一部メディアで混同されている様だが、「火山高」や「クロッシング」で知られるベテラン、キム・テギュン監督とは同姓同名の別人である。
ユニークなのが、おそらくは創作だと思われる主人公のキム刑事のキャラクターで、万年ヒラの現場刑事にして、数年前に妻をひき逃げ事件で失っている男やもめ。
その実、父親が裕福な事業家で、本人も株を持っていて、高級車を乗り回し休日はゴルフというリッチな生活。
色々達観してしまって、いわば趣味で捜査をしている様な人物ゆえに、カン・テオの戯言にも冷静沈着にじっくり付き合えるのである。
憎ったらしい切れ者の殺人鬼を演じる、チュ・ジフンのクズっぷりが本作の白眉だ。
金持ちだけど、実直で人情肌のキム刑事とのコントラストが際立つ。
カン・テオは自慢げに過去の犯罪を口にするが、彼の言っていることは半分本当で半分は嘘。
そのまま受け取れば翻弄されるだけなので、キム刑事はコンゲームを仕掛ける殺人鬼との対話を通して、半分の嘘に隠された真実を見極め、彼を追い詰めなければならない。
映画は基本的に、キム刑事とカン・テオの本心を探り合う対話、曖昧な供述を立証すべく駆けずり回るキム刑事の捜査、そしてどこまでが本当か分からない殺人の回想の各シークエンスの組み合わせで構成されている。
キム刑事は困難な捜査の末に、コツコツと証拠を集めて、遂にある刺殺事件を起訴に持ち込むのだが、ここからの展開も一筋縄ではいかない。
確たる物証がなく、状況証拠で事実関係を積み上げてゆくだけなので、時にはカン・テオの思惑通りになってしまうのだ。
ぶっちゃけ素人目にはちゃんと立証できてるように思うのだけど、裁判になると認められない供述が多かったのだろう。
これも実話ベースゆえか、基本は会話劇で地味な話ではあるのだが、丁寧に造形されたキャラクター同士の、火花散る演技合戦は充分にスリリング。
死者の気持ちに寄り添う、キム刑事の矜恃にはグッとくる。
中盤である容疑者を長年に渡って追い続け、結果警察を辞めることになった元刑事のエピソードが出てくるが、これは21世紀の韓国サスペンス映画の源流と言えるポン・ジュノの傑作「殺人の追憶」へのオマージュだろう。
底なし沼の様に、見えぬ全貌に呆然とさせられるラストも含めて、あの映画の影響は強く感じられる。
韓国の映画賞で脚本賞を総ナメにするほど高い評価を受けた構成の上手さもあり、最後まで先を読ませない。
実録サスペンス映画の、いぶし銀の佳作である。
今回は映画の舞台となった釜山の焼酎「C1」をチョイス。
「C1」ってなんぞや?と思ったら「Clean No.1」の略だとか。
韓国では地域ごとに人気のご当地焼酎があって、釜山では同市のデソン酒造の作る「C1」が大人気。
アルコール度数も比較的低く、マイルドで飲みやすい。
そのまま飲んでも良いが、個人的には冷やしてスパークリングウォーターで割るのが好み。
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タイトルの「暗数」とは、警察が把握している事件の件数と、実際に起きているが警察が把握していない事件件数の差のこと。
要するに、誰にも知られることなく、闇に葬られた完全犯罪の数である。
本作では、チュ・ジフンが怪演する殺人犯のカン・テオが、キム・ユンソク演じるキム刑事に、突然「あと七人殺した」と自白する。
二転三転する供述に振り回されながらの大捜索の結果、身元不明の白骨死体が発見される。
ところが、カン・テオは「自分は運んだだけで殺してない」と、一転して自白を覆すのだ。
物証が少なく、自白に頼った捜査が冤罪を生みやすいのは万国共通。
カン・テオの目的は、情報を出し惜しみした供述で警察と検察を手玉に取り、裁判で無罪を勝ち取って公権力に対する世間の信用を失わせ、最後には自分が逮捕された殺人事件の再審を請求すること。
※以下、核心部分に触れています。
物語は実際に起こった事件に基づいていて、監督・脚本を務めるキム・テギュンは、キャラクターに過度に感情移入させることなく、適度な距離をとり淡々と物語を紡ぐ。
ちなみに一部メディアで混同されている様だが、「火山高」や「クロッシング」で知られるベテラン、キム・テギュン監督とは同姓同名の別人である。
ユニークなのが、おそらくは創作だと思われる主人公のキム刑事のキャラクターで、万年ヒラの現場刑事にして、数年前に妻をひき逃げ事件で失っている男やもめ。
その実、父親が裕福な事業家で、本人も株を持っていて、高級車を乗り回し休日はゴルフというリッチな生活。
色々達観してしまって、いわば趣味で捜査をしている様な人物ゆえに、カン・テオの戯言にも冷静沈着にじっくり付き合えるのである。
憎ったらしい切れ者の殺人鬼を演じる、チュ・ジフンのクズっぷりが本作の白眉だ。
金持ちだけど、実直で人情肌のキム刑事とのコントラストが際立つ。
カン・テオは自慢げに過去の犯罪を口にするが、彼の言っていることは半分本当で半分は嘘。
そのまま受け取れば翻弄されるだけなので、キム刑事はコンゲームを仕掛ける殺人鬼との対話を通して、半分の嘘に隠された真実を見極め、彼を追い詰めなければならない。
映画は基本的に、キム刑事とカン・テオの本心を探り合う対話、曖昧な供述を立証すべく駆けずり回るキム刑事の捜査、そしてどこまでが本当か分からない殺人の回想の各シークエンスの組み合わせで構成されている。
キム刑事は困難な捜査の末に、コツコツと証拠を集めて、遂にある刺殺事件を起訴に持ち込むのだが、ここからの展開も一筋縄ではいかない。
確たる物証がなく、状況証拠で事実関係を積み上げてゆくだけなので、時にはカン・テオの思惑通りになってしまうのだ。
ぶっちゃけ素人目にはちゃんと立証できてるように思うのだけど、裁判になると認められない供述が多かったのだろう。
これも実話ベースゆえか、基本は会話劇で地味な話ではあるのだが、丁寧に造形されたキャラクター同士の、火花散る演技合戦は充分にスリリング。
死者の気持ちに寄り添う、キム刑事の矜恃にはグッとくる。
中盤である容疑者を長年に渡って追い続け、結果警察を辞めることになった元刑事のエピソードが出てくるが、これは21世紀の韓国サスペンス映画の源流と言えるポン・ジュノの傑作「殺人の追憶」へのオマージュだろう。
底なし沼の様に、見えぬ全貌に呆然とさせられるラストも含めて、あの映画の影響は強く感じられる。
韓国の映画賞で脚本賞を総ナメにするほど高い評価を受けた構成の上手さもあり、最後まで先を読ませない。
実録サスペンス映画の、いぶし銀の佳作である。
今回は映画の舞台となった釜山の焼酎「C1」をチョイス。
「C1」ってなんぞや?と思ったら「Clean No.1」の略だとか。
韓国では地域ごとに人気のご当地焼酎があって、釜山では同市のデソン酒造の作る「C1」が大人気。
アルコール度数も比較的低く、マイルドで飲みやすい。
そのまま飲んでも良いが、個人的には冷やしてスパークリングウォーターで割るのが好み。

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2020年04月10日 (金) | 編集 |
それは、受け継がれてゆく人生のループ。
新型コロナウィルスのパンデミックという映画さながらの緊急事態により、東京の映画館は全てクローズとなってしまい、映画ブログもネタがない。
まだレビューしてない作品はあるけど、せっかくなので引きこもり生活に潤いを与えてくれる配信作品をご紹介。
評価は映画館と違って料金がないので満点⭐️五つ。
Amazonプライムビデオで4月3日から配信が始まったばかりの「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」は、スウェーデンのアーティスト、シモン・ストーレンハーグの同名の物語付きイラスト集を原作にした異色のSFアンソロジー。
地下に“ループ”と呼ばれる巨大な研究施設がある街を舞台に、住人たちの身に起こるちょっと不思議な出来事を描いている。
全8話で構成されるシリーズは、第一話のマーク・ロマネクから始まり、第4話アンドリュー・スタントン、最終第8話ジョディ・フォスターと言った大物たちが各話の監督として参加している話題作だ。
全体を統括するショーランナーと脚本を担当したナサニエル・ハルパーンは、アーリー80’sの世界観で描かれるシリーズを貫く二つの原則を設定している。
一つは、1話完結のシリーズを通して、主人公がバトンタッチしてゆくこと。
あるエピソードの主人公は、必ず過去のエピソードで脇役として顔を出している。
もう一つは、各エピソードの主人公が、特定の“感情”に関する葛藤を抱えているということ。
例えばマーク・ロマネクが格調高く描く第一話「Loop」は、ループで働く科学者を母に持つ少女が、偶然に知り合った少年と共に突然失踪した母を探す物語だが、主人公はビジネスライクな親子関係から、母性へのわだかまりを抱いている。
第二話「Transpose」では、第一話で登場した少年の兄が主人公となり、憧れの友達に対する複雑な思春期のコンプレックスが描かれる。
そして第三話「Stasis」では、第二話の主人公が想いを寄せていた少女の、恋のトキメキが永遠に続けば良いのに、と願う乙女心といった具合。
SFとは言っても、ありがちなドラマの様に、広がり続ける世界観の謎で魅せようとはしていない。
基本は丁寧に作られた心理ドラマで、ぶっちゃけかなり地味だ。
この作品の特徴は、圧倒的にクオリティの高い映像と全編に漂う詩情。
事件を巻き起こす謎めいたアイテムは色々出てくるのだが、その正体などは一切描かれず、SF的な超常現象が主人公が密かに抱えている潜在的葛藤を顕在化する役割を負う。
シリーズを通してリリシズム溢れる佳作が続き、一歩引いて全8話を見ると第一話の主人公の少女とその息子が全体主人公となり、受け継がれてゆく人生で、生と死と時間に関する壮大なループを形作るという凝った構造。
どのエピソードも味わいがあるが、少年が“死”の意味を知るアンドリュー・スタントン監督の第四話「Echo Sphere」が一番好き。
人間の本質を突き詰めるためのSFであり、例えばドゥニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」とか、森見登美彦の小説を石田祐康が映画化した「ペンギン・ハイウェイ」あたりが好きな人はハマりそう。
一話完結とは言っても全体構成はきっちりと計算されているので、順番通りに観ることをオススメする。
今回は、夢うつつの世界で展開する作品ゆえカクテルの「ドリーム」をチョイス。
ブランデー40ml、オレンジ・キュラソー20ml、ぺルノ1dashを、氷と共にシェイクしてグラスに注ぐ。
ブランデーのコクのある甘味とオレンジの風味が組み合わさり、ぺルノが両方を引き立てる。
甘口の優しい味わいのカクテルだが、何気に飲む人を夢に誘うくらいに強い。
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新型コロナウィルスのパンデミックという映画さながらの緊急事態により、東京の映画館は全てクローズとなってしまい、映画ブログもネタがない。
まだレビューしてない作品はあるけど、せっかくなので引きこもり生活に潤いを与えてくれる配信作品をご紹介。
評価は映画館と違って料金がないので満点⭐️五つ。
Amazonプライムビデオで4月3日から配信が始まったばかりの「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」は、スウェーデンのアーティスト、シモン・ストーレンハーグの同名の物語付きイラスト集を原作にした異色のSFアンソロジー。
地下に“ループ”と呼ばれる巨大な研究施設がある街を舞台に、住人たちの身に起こるちょっと不思議な出来事を描いている。
全8話で構成されるシリーズは、第一話のマーク・ロマネクから始まり、第4話アンドリュー・スタントン、最終第8話ジョディ・フォスターと言った大物たちが各話の監督として参加している話題作だ。
全体を統括するショーランナーと脚本を担当したナサニエル・ハルパーンは、アーリー80’sの世界観で描かれるシリーズを貫く二つの原則を設定している。
一つは、1話完結のシリーズを通して、主人公がバトンタッチしてゆくこと。
あるエピソードの主人公は、必ず過去のエピソードで脇役として顔を出している。
もう一つは、各エピソードの主人公が、特定の“感情”に関する葛藤を抱えているということ。
例えばマーク・ロマネクが格調高く描く第一話「Loop」は、ループで働く科学者を母に持つ少女が、偶然に知り合った少年と共に突然失踪した母を探す物語だが、主人公はビジネスライクな親子関係から、母性へのわだかまりを抱いている。
第二話「Transpose」では、第一話で登場した少年の兄が主人公となり、憧れの友達に対する複雑な思春期のコンプレックスが描かれる。
そして第三話「Stasis」では、第二話の主人公が想いを寄せていた少女の、恋のトキメキが永遠に続けば良いのに、と願う乙女心といった具合。
SFとは言っても、ありがちなドラマの様に、広がり続ける世界観の謎で魅せようとはしていない。
基本は丁寧に作られた心理ドラマで、ぶっちゃけかなり地味だ。
この作品の特徴は、圧倒的にクオリティの高い映像と全編に漂う詩情。
事件を巻き起こす謎めいたアイテムは色々出てくるのだが、その正体などは一切描かれず、SF的な超常現象が主人公が密かに抱えている潜在的葛藤を顕在化する役割を負う。
シリーズを通してリリシズム溢れる佳作が続き、一歩引いて全8話を見ると第一話の主人公の少女とその息子が全体主人公となり、受け継がれてゆく人生で、生と死と時間に関する壮大なループを形作るという凝った構造。
どのエピソードも味わいがあるが、少年が“死”の意味を知るアンドリュー・スタントン監督の第四話「Echo Sphere」が一番好き。
人間の本質を突き詰めるためのSFであり、例えばドゥニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」とか、森見登美彦の小説を石田祐康が映画化した「ペンギン・ハイウェイ」あたりが好きな人はハマりそう。
一話完結とは言っても全体構成はきっちりと計算されているので、順番通りに観ることをオススメする。
今回は、夢うつつの世界で展開する作品ゆえカクテルの「ドリーム」をチョイス。
ブランデー40ml、オレンジ・キュラソー20ml、ぺルノ1dashを、氷と共にシェイクしてグラスに注ぐ。
ブランデーのコクのある甘味とオレンジの風味が組み合わさり、ぺルノが両方を引き立てる。
甘口の優しい味わいのカクテルだが、何気に飲む人を夢に誘うくらいに強い。

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2020年04月04日 (土) | 編集 |
抵抗する限り、チャンスはある。
伝説的なマスターピースをリブートさせた「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」で、見事な手腕を見せたルパート・ワイアットが監督・脚本を務め、謎のエイリアンに支配された近未来の人類を描く異色のSFサスペンス。
新型コロナのパンデミックで、大作の公開が続々延期になってしまった今となっては貴重な新作娯楽映画だ。
突如としてエイリアンが地球に襲来。
人類は圧倒的な科学力の差になす術なく敗北し、絶滅を避けるために降伏する。
それから9年後、世界各国が傀儡政権によってコントロールされている2027年のシカゴ。
人々の体には発信機が埋め込まれ、厳格に行動を管理されている。
エイリアンは都市の中心部を閉鎖区画とし、地下基地を建設して引きこもり、ほとんど姿を見せない。
社会は表面的には平穏を保っているが、地球の資源は急速に収奪され、格差はかつてないほどに拡大し、人々の間には不満が燻っている。
映画は、エイリアンに対するレジスタンス活動で死んだはずの男、ラファエルとその弟ガブリエル、共に天使の名を持つ兄弟を一応の軸としたある種の群像劇。
閉鎖区画に侵入し、爆破を試みようとするレジスタンスを追うのは、傀儡政権の指揮下にある人間の警察組織だ。
ジョン・グッドマンやヴェラ・ファーミガら、それなりに有名なスターも出てくるのだが、侵略SFのパッケージからイメージされる作品としてはものすごく地味。
基本的には侵略者に一矢を報いようとするレジスタンスのグループと、彼らの計画を葬り去ろうとする警察組織の人間同士の騙し合いで展開する。
キービジュアルには、水平線に並ぶガンダム風の巨大なロボットみたいな造形物も見て取れるが、立ってるだけで動かない。
エイリアンVS人類の戦いどころか、エイリアン側の動きはほとんど描かれないのだ。
作品のトーンは侵略SFと言うよりも、レジスタンスを描いた過去の戦争映画、例えばフランスが支配するアルジェリアでの抵抗運動を描いた、ジッロ・ポンテコルヴォ監督の傑作「アルジェの戦い」や、ドイツ軍に制圧されたローマのレジスタンスを描き、ネオレアリズモの嚆矢となったロベルト・ロッセリーニの「無防備都市」のSF版という趣だ。
全体像をなかなか見せずに、ディテールを小出しにしてゆく作劇。
キャラクターも誰一人深くは描かれず、物語の駒としてそれぞれの役割を果たすのみ。
ドキュメンタリーを思わせる、キャラクターと距離を置いた客観的な演出は、凝ったディテールの効果も相まってあたかもその場にいるような臨場感を作り出し、我々観客もレジスタンスの一員となった様な感覚に陥る。
パッケージから派手な侵略SFを期待すると肩透かしを食うが、ミステリタッチで描かれるスパイサイスペンスのバリエーションと思えば出来は悪くない。
謎めいたヴェラ・ファーミガの正体とか、刑事役のジョン・グッドマンの目的とか、畳み掛けるように全てが明らかにされるクライマックスには、ストーリーテリングのカタルシスがある。
製作会社のパーティシパント・メディアは、最近作を見てもスピルバーグの「ブリッジ・オブ・スパイ」や「ペンダゴン・ペーパーズ/最高機密文書」とかを作ってる社会派の会社なので、この作りも納得。
「マッチを擦り、戦争を起こせ。抵抗する限り、チャンスはある」
宇宙に追放された人々の行方とか、色々描かれていないところもあるのだけど、残念ながら興行的には失敗作となってしまったので、続編は期待薄。
しかしなかなかに挑戦的なオリジナル企画であり、いぶし銀のSFハードボイルドだ。
今回は、舞台となるシカゴ近郊の蒸溜所で生まれたウィスキー「コーヴァル シングルバレル フォーグレーン」をチョイス。
オーストリア生まれのロバート&ソネット・バーネッカー夫妻によって、2008年に創業したまだ若い蒸溜所だが、禁酒法の街シカゴのウィスキーブームを牽引する先駆者。
素材全てがオーガニックなのが特徴で、芳醇な香りとスパイシーな味わいを楽しめる。
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伝説的なマスターピースをリブートさせた「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」で、見事な手腕を見せたルパート・ワイアットが監督・脚本を務め、謎のエイリアンに支配された近未来の人類を描く異色のSFサスペンス。
新型コロナのパンデミックで、大作の公開が続々延期になってしまった今となっては貴重な新作娯楽映画だ。
突如としてエイリアンが地球に襲来。
人類は圧倒的な科学力の差になす術なく敗北し、絶滅を避けるために降伏する。
それから9年後、世界各国が傀儡政権によってコントロールされている2027年のシカゴ。
人々の体には発信機が埋め込まれ、厳格に行動を管理されている。
エイリアンは都市の中心部を閉鎖区画とし、地下基地を建設して引きこもり、ほとんど姿を見せない。
社会は表面的には平穏を保っているが、地球の資源は急速に収奪され、格差はかつてないほどに拡大し、人々の間には不満が燻っている。
映画は、エイリアンに対するレジスタンス活動で死んだはずの男、ラファエルとその弟ガブリエル、共に天使の名を持つ兄弟を一応の軸としたある種の群像劇。
閉鎖区画に侵入し、爆破を試みようとするレジスタンスを追うのは、傀儡政権の指揮下にある人間の警察組織だ。
ジョン・グッドマンやヴェラ・ファーミガら、それなりに有名なスターも出てくるのだが、侵略SFのパッケージからイメージされる作品としてはものすごく地味。
基本的には侵略者に一矢を報いようとするレジスタンスのグループと、彼らの計画を葬り去ろうとする警察組織の人間同士の騙し合いで展開する。
キービジュアルには、水平線に並ぶガンダム風の巨大なロボットみたいな造形物も見て取れるが、立ってるだけで動かない。
エイリアンVS人類の戦いどころか、エイリアン側の動きはほとんど描かれないのだ。
作品のトーンは侵略SFと言うよりも、レジスタンスを描いた過去の戦争映画、例えばフランスが支配するアルジェリアでの抵抗運動を描いた、ジッロ・ポンテコルヴォ監督の傑作「アルジェの戦い」や、ドイツ軍に制圧されたローマのレジスタンスを描き、ネオレアリズモの嚆矢となったロベルト・ロッセリーニの「無防備都市」のSF版という趣だ。
全体像をなかなか見せずに、ディテールを小出しにしてゆく作劇。
キャラクターも誰一人深くは描かれず、物語の駒としてそれぞれの役割を果たすのみ。
ドキュメンタリーを思わせる、キャラクターと距離を置いた客観的な演出は、凝ったディテールの効果も相まってあたかもその場にいるような臨場感を作り出し、我々観客もレジスタンスの一員となった様な感覚に陥る。
パッケージから派手な侵略SFを期待すると肩透かしを食うが、ミステリタッチで描かれるスパイサイスペンスのバリエーションと思えば出来は悪くない。
謎めいたヴェラ・ファーミガの正体とか、刑事役のジョン・グッドマンの目的とか、畳み掛けるように全てが明らかにされるクライマックスには、ストーリーテリングのカタルシスがある。
製作会社のパーティシパント・メディアは、最近作を見てもスピルバーグの「ブリッジ・オブ・スパイ」や「ペンダゴン・ペーパーズ/最高機密文書」とかを作ってる社会派の会社なので、この作りも納得。
「マッチを擦り、戦争を起こせ。抵抗する限り、チャンスはある」
宇宙に追放された人々の行方とか、色々描かれていないところもあるのだけど、残念ながら興行的には失敗作となってしまったので、続編は期待薄。
しかしなかなかに挑戦的なオリジナル企画であり、いぶし銀のSFハードボイルドだ。
今回は、舞台となるシカゴ近郊の蒸溜所で生まれたウィスキー「コーヴァル シングルバレル フォーグレーン」をチョイス。
オーストリア生まれのロバート&ソネット・バーネッカー夫妻によって、2008年に創業したまだ若い蒸溜所だが、禁酒法の街シカゴのウィスキーブームを牽引する先駆者。
素材全てがオーガニックなのが特徴で、芳醇な香りとスパイシーな味わいを楽しめる。

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