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透明人間・・・・・評価額1650円
2020年07月13日 (月) | 編集 |
見えない誰かが追ってくる。

富豪のマッドサイエンティストでソシオパスの夫から妻が逃げ出したら、ハイテク透明人間になった夫に復讐される。
さすがリー・ワネル、ジャンル映画のツボを抑えつつ、未見性に満ちた見事な仕上がりだ。
原案はH・G・ウェルズの小説「透明人間」だが、1933年に公開された同名怪奇映画へのオマージュを捧げつつ、物語はモダンなオリジナル。
本作はもともとユニバーサル映画が目論んでいた往年の怪奇映画を連続リブートさせる”ダーク・ユニバース”の一作としてジョニー・デップ主演で企画されていたものの、第一弾となる「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」の無残な失敗によって立ち消えとなり、ワネルによって改めてリブートされた。
結果として他の映画とのリンクは無くなり、規模も縮小された低予算作品だが、逆に自由な発想が生かされた快作となった。
主人公のセシリアを演じる、エリザベス・モスが素晴らしい。

富豪で天才的科学者の夫エイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)から束縛的な支配を受けているセシリア(エリザベス・モス)は、ある夜妹のエミリー(ハリエット・ダイアー)の助けでセキュリティが張り巡らされた屋敷から脱出する。
彼女は友人の警察官ジェームズ(オルディス・ホッジ)の元に身を寄せるが、エイドリアンが探しに来るのではという恐怖を常に感じていた。
ところがある日、エイドリアンの兄で弁護士のトム(マイケル・ドーマン)から、彼が手首を切って自殺したと言う知らせが入る。
エイドリアンは自らの行いを悔い、500万ドルという巨額の遺産をセシリアに残していた。
しかしエイドリアンの本性を知るセシリアは、「彼は自殺を偽装し、今もどこかで私を見張っている」と言う疑念から逃れられない。
そんな時、彼女の周りで奇妙な出来事が続き、セシリアはエイドリアンが自らの技術を使って透明人間となり、彼女に復讐しようとしているという確信を持つ・・・・


H・G・ウェルズの「透明人間」は過去何度も映像化されて来た。
もっとも有名なのが1933年に作られたジェームズ・ホエール版と、2000年のポール・バーホーベン版「インビジブル」だろう。
日本でも戦後公職追放されていた円谷英二の復帰作として知られる「透明人間現る」や、ピンク映画の「透明人間 エロ博士」なんて珍品もあった。
ウェルズの小説を基にしているかどうかに関わらず、多くの作品の透明人間に共通するのは、基本的には天才科学者で、化学によって人間を透明にする方法を開発するも、元に戻れなくなり次第に狂気の怪物となる設定だ。

ところが、本作はこの基本法則を覆す。
エイドリアンが天才科学者なのは過去の作品と共通だが、彼が開発するのは化学的な手段ではなく、いわゆる光学迷彩。
本作の透明人間は、最新テクノロジーを駆使した、ステルス・スーツの産物なのだ。
このアイディアにより、透明化してご飯食べたらどうなる?とか、いつも全裸で寒くない?とか、移動する時はどうするの?とか、過去の透明人間モノではごまかされていたディテールが一気に解消。
不可逆的に肉体が透明化する訳ではなく、スーツを着ているだけなのだから、元に戻れなくなって絶望し、狂気に堕ちるわけでもない。
完全に正気なまま、妻を支配し追い詰めるためだけに透明人間となる、その邪悪さが強調される。
ちなみに透明化してない時のステルス・スーツはそこら中にカメラの穴が開いる気持ち悪いデザインで、ブツブツ恐怖症トライポフォビアの人は違う意味で失神しそう。

物語的には、クズ夫からの虐げられた妻の肉体と精神の解放を描いているのだけど、実際にセシリアが経験したことを一切描かず、彼女が受けた虐待をしっかりと観客に伝えているのが凄い。
彼女がどれほどエイドリアンを恐れているか、心の傷の原因がリアルにイメージできるのは、エリザベス・モスの狂気を感じさせるほどの熱演が大きい。
もちろん、姿の見えない暴力的なストーカーに、真綿で締め殺される様に24時間粘着される恐怖も含めて。
脚本家監督らしくディテールは非常に凝っていて、例えば登場人物のネーミングも一捻りある。
主人公の役名の「セシリア」はラテン語で「盲目」を意味し、同時に彼女は親しい人からあだ名で「シー」と呼ばれる。
「シー」は見るを意味する「see」と同じ発音で、彼女が「見えない」物を「見る」人物なのを表しているのである。
一方の「エイドリアン」はローマ皇帝ハドリアヌスに由来する名前で、「暗い」と言う意味もあり、飼い犬には全能の神「ゼウス」の名をつけていることからも、神をも支配しようとするダークサイドな男であることを示唆している。

ストーリーテリングにも工夫がいっぱいだ。
誰もが透明人間になれるステルス・スーツのアイディアを生かし、シーンによって透明化しているのがエイドリアンなのか、彼の支配を受けている兄のトムなのか分からない様にしているのも面白い。
何しろ中身は見えないのだから、あのシーンはエイドリアン?このシーンはトム?もしかすると、二人が同時にいたシーンもある?などと、観終わった後から考えることで色々パズルのピースがハマってくる様な、読解のカタルシスも味わえる。
シネスコ画面のフレーミングの巧みさも光る。
画面の余白を効果的に使い、いかにもそこに何かがいる様な不安感を盛り上げる。
さらにカメラワークを俳優の動きから微妙にずらずことで、それが誰の視点なのかと言う疑心暗鬼を作り出している。

透明人間というそのままでは古色蒼然としたキャラクターを使いながら、リー・ワネルは物語の視点を変えることで2020年ならではのモダンなスリラーを作り出した。
虐げられたセシリアは見えないストーカーと化したエイドリアンによって、精神的にも肉体的にも追い込まれてゆくが、やられっぱなしでは終わらない。
支配欲の塊の様な夫と対決するクライマックスでは、それまでの出来事全体を伏線とし、彼女の隠されたタフネスぶりを見せつけ、観客に溜飲を下げさせる。
透明人間といえば女性絡みなのはお約束だが、透明人間本人ではなく攻撃される女性側を主人公とし、抑圧からの解放をテーマとしたのは見事。
人間ドラマとして成立させつつ、テリングの工夫によって最後までドキドキするスリルを切らさない。
やり尽くされたジャンル映画も、新しい視点と問題点の修正でいくらでも面白くなるという良いお手本だ。
まあペンキかけられたのに、足跡は残らないの?とか姿は見えなくても、音はするんじゃない?とか突っ込める部分はあるが、それを言っちゃうのは野暮というものだろう。

今回は透明人間だけに、原作が書かれた少し前に、ウェルズの母国イギリスで誕生した透明なカクテル「ギムレット」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、フレッシュ・ライム・ジュース15mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
発案者は、海軍の軍医だったギムレット卿。
イギリス海軍では酒は嗜みとして許されていたのだが、彼は将校たちが支給されていたジンを飲み過ぎるのを憂慮し、ライム・ジュースで割ることを推奨したとされる。
チャンドラーの小説「長いお別れ」に登場したことで、世界的に有名になったカクテルだ。

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