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ショートレビュー「WAVES/ウェイブス・・・・・評価額1700円」
2020年07月16日 (木) | 編集 |
愛が全てを包みこむ。

フロリダの高校のレスリング部のエースで、文武両道に優れたエリートとして将来を嘱望されている兄タイラーと、その影に隠れている地味キャラの妹エミリーの、破滅と再生の物語
全てが順風満帆だった学園のヒーローの人生は、たった一つのきっかけからはじまった負の連鎖により、みるみる崩れてゆく。
長年の競技生活で無理をし過ぎたことで、選手生命を脅かす肩の故障が発覚し、大学の奨学金が危うくなる。
追い討ちをかける様に、恋人のアレクシスが妊娠。
事態を受け入れられないタイラーは徐々に自分を見失い、ブレーキを失った車の様に坂道を転げ落ちてゆく。
そして遂にある夜、彼と周りの人々の人生全てを狂わせる、悲劇的な事件が起こってしまう。

物語そのものは、めちゃくちゃヘビーではあるものの特に新鮮味はない。
これはスタイリッシュな映像と、エモーショナルな音楽という二つのウェイブによる、ストーリーテリングの未見性を味わう映画だ。
前半はタイラーが、後半は妹のエミリーが主人公のポジションとなり、決まりすぎなくらいピッタリな31の楽曲がそれぞれの心象を描いてゆく。
”プレイリストムービー“なんてチャラいキャッチコピーからは想像もつかない、厳しい現実を描く映画だが、さすが「イット ・カムズ・アット・ナイト」でも、家族をモチーフに鋭い寓話性を見せたトレイ・エドワード・シュルツ。
物語と映像と音楽が三位一体となる、なかなかの力作だ。

135分という結構な長尺のうち、基本的に前半は「ルース・エドガー」の好演も記憶に新しいケルヴィン・ハリソン・Jrが演じるタイラーの破滅編、後半はテイラー・ラッセル演じるエミリーによる再生編として綺麗な二部構成となっている。
現在、世界中で黒人差別に反対する「Black lives matter」の嵐が吹き荒れているが、本作のタイラーとエミリーはかなり裕福で恵まれた家庭に育っている。
しかし両親、特に父親は自分たちが基本的には被差別階層であることを意識していて、だからこそタイラーを厳しく育てる。
父息子の厳格な子弟的な関係性と「強く、完璧であれ」という暗黙のプレッシャーによって、タイラーは自分の問題を抱え込み、誰にも相談できなくなってしまうのだ。
いくら輝いていても、彼はまだ十代の少年である。
短期間のうちに変わってしまった世界に対応しきれず、壊れてゆく姿が痛々しい。

そして悲劇的な事件の結果、前半でタイラーが退場すると、こんどは残された家族の再生劇
ここでは、それまでほとんど存在感のなかった地味目な妹のエミリーが前面に出て来て、映画のトーンが大きく変わる。
期せずして“犯罪者の家族”となってしまい、学校でも目立たないように過ごし、誰にも心を開けないでいるエミリーは、ルーカス・ヘッジズが演じる心優しい好青年ルークと恋に落ちる。
彼自身も疎遠な父親との問題を抱えているのだが、エミリーの後押しによって葛藤を解消し、その経験がこんどはエミリーの人生にも新しい道筋をつけてゆく。
面白いのが画面のアスペクト比が“ビスタ→額縁のシネスコ→さらに上下が狭くなる→スタンダード→額縁のシネスコ→ビスタ”と変化すること。
グザヴィエ・ドランの作品みたいに、キャラクターの心象にピッタリ紐付けている訳ではないが、冒頭の焼けつくような太陽の下、フロリダのハイウェイを疾走するタイラーとアレクシスの描写が、終盤のエミリーとルークと対になるように、中盤の事件を折り返し点に、前半後半の展開をミラーイメージとして強化する工夫だ。

才能豊かな少年は、愛する人がいたために最悪の罪を犯す。
その傷跡を引きずる少女は、新たな愛に出会って癒されてゆく。
愛は時に心に痛く突き刺さり、時に暖かく包み込む。
どんなに厳しい時間を過ごしていても若者たちは愛を感じ、絶望の中に希望を見出して生きてゆく。
エミリーとルークはもちろん、いつの日かタイラーにも救いが訪れると信じたい。
暗闇の中で映像と音楽、二つのウェイブの間にたゆたうような心地よさ。
これは映画館で鑑賞すべき作品だ。

今回は揺れ動く光と色からイメージして「オーロラ」をチョイス。
ウォッカ30ml、クレーム・ド・カシス10ml、グレープフルーツ・ジュース5ml、レモン・ジュース5ml、グレナデンシロップ10mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
サントリー・カクテル・コンペティションのスピリッツ部門の優勝作品で、作者は大塚陽人。
ルビー色をした美しいカクテルで、ほんのり甘くさっぱりとした味わいの一杯だ。

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