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劇場・・・・・評価額1750円
2020年07月23日 (木) | 編集 |
なぜ彼は、「一番安全な場所」から逃げたのか。

終盤、涙が止まらなくなった。
又吉直樹の同名原作は未読だが、これはまさしく「劇場」の映画だ。
小劇団を主宰する、売れない劇作家兼演出家の永田が、役者志望の学生・沙希と恋に落ちてから、およそ10年間の物語。
無情に過ぎてゆく時間に、懸命に抗う永田を演じる山崎賢人と、彼を支える沙希役の松岡茉優が素晴らしい。
行定勲監督は「リバーズ・エッジ」、オムニバス映画の「その瞬間、僕は泣きたくなった CINEMA FIGHTERS project」の一編「海風」に続いて、心揺さぶる鮮烈な傑作を放った。
本作は今年の4月に松竹配給で公開される予定だったが、コロナの影響で延期となり、結果的にユーロスペースをはじめとしたミニシアターでの劇場公開と、Amazonプライムによる配信開始が同時という異例のケースとなった。
ポストコロナの映画の新しいカタチとしても、一つの試金石となるだろう。

友人の野原(寛一郎)と共に、小劇団「おろか」を主宰する永田(山崎賢人)。
しかし永田のラジカルな作風は酷評されていて、客足も伸びない。
ついには団員たちにも見放され、劇団は半ば解散状態に。
そんなある日、永田は街で偶然自分と同じ靴を履いていた沙希(松岡茉優)を見かけ、声を掛ける。
服飾系の学校に通う彼女は、中学高校と演劇部に所属し、女優になる夢を抱いて上京していた。
やがて下北沢の沙希のアパートへ転がり込んだ永田は、新作のヒロインに彼女を起用し、舞台は初めて成功を収める。
しかしそれ以降、永田は彼女を役者として起用することはなく、ますます演劇に没頭してゆく。
沙希はそんな永田に自分の夢を重ね、懸命に支え続けるのだが、二人の間にある理想と現実の乖離は少しずつ溝を生んでいた。
二人が出会ってから10年近い歳月が過ぎた頃、沙希はある決意を口にする・・・・


この映画は、山崎賢人のダメ人間っぷりを愛でる作品だ。
まず最初の二人の出会いからして、ほとんど変質者。
イケメンであることは隠しようがないが、ボサボサ頭に無精髭で挙動不審。
振り返ったら奴がいた段階で、私だったら悲鳴あげて逃げるわ(笑
いつの間にか沙希の部屋に転がり込むのは、ある意味バンドマンと小劇団関係者のお約束。
なし崩し的に同棲することになって、最初こそ一緒に作った舞台が成功して良い感じなのだが、ここでケチな嫉妬心が顔を出す。
自分の脚本や演出よりも、沙希の演技が評価されるのが気に食わず、共同作業をやめてしまう。
結果、永田は役者志望だった沙希の夢と才能を潰してしまうのだ。

それでも彼女が何も言わずに支えてくれるものだから、この男はますます調子に乗る。
二人が同棲を始めてしばらく経った頃、永田のダメさを象徴するシーンがある。
沙希の実家から食べ物が送られて来て、彼女が何の気なしに母親が「送っても半分は知らない男に食べられると思うとイヤだ〜」と話していたと冗談めかして言うと、途端に不機嫌になり「オレ沙希ちゃんのオカン嫌いだわ」と真顔で言い放つのである。
売れない、認められない、コンプレックスの塊なのに、自意識過剰で自分大好き。
普通に考えればとんでもない彼氏なんだけど、いつまで経っても成長しない、この男に感情移入するのをどうしても止められない。

山崎賢人というと、漫画の実写映画の印象が強い。
「キングダム 」など良くできた作品も多いのだが、漫画原作はベースの絵がある分、どうしてもコスプレ感が先に立ち、俳優としては必ずしも十分な評価がされて来たとは言えなかったと思う。
だが本作では、理想と現実の間で足掻き続ける若者を説得力たっぷりに演じ、圧巻の名演だ。
間違いなくキャリアベストで、今年の演技賞には必ず絡んでくるだろう。

対して、松岡茉優演じる沙希は、芸術系ダメ人間の目線ではもはや理想のミューズである。
映画の前半の沙希は、いつもニコニコして献身的にヒモ状態の永田を支え、どんなに彼が我儘で酷いことを言っても、すぐに許してくれる。
まさに永田にとっては「一番安全な場所」であり、自分を殺してでも相手の全てを受け入れちゃうので、ある意味絶対にダメ人間と組み合わせてはいけないタイプの人だ。
あえてだろう、前半は基本的に沙希の内面はほとんど描かれない。
永田に母親を貶された時など、たまに感情をあらわにすることはあるが、それも相当に押し殺した最低限の感情の発露。
ひたすら寛容に、文句ひとつ言わずに永田の夢を後押しする慈愛の塊の様な存在だ。

だが沙希との生活を続けることは、永田にとっては水から煮られて気づかないうちに死んでしまうカエルになることを意味する。
彼女といれば、基本的に何もしないでも生きていけるのだが、それでは創作者としては終わってしまう。
ダメ人間だが、自尊心は高い永田は、ぬるま湯の誘惑の危険性は本能的に理解しているのだ。
しかし永田が仕事場を借りて部屋を出ることは、沙希にとっては自分の夢と引き換えに作った、「一番安全な場所」すら否定されたことと同じ。
物語の終盤になって、それまで永田のやりたい放題の影に隠れていた彼女の内面がようやく前面に出てくる。
共依存の関係で、長年に渡って絡み合ってしまった感情はやるせなく、とても切ない。
同じ方向を向いると思っていた二人の間にはいつの間にか大きな溝ができていて、共に人生の岐路に立っているのだ。
本作がユニークなのは、若い二人の恋愛映画でありながら、描写としては徹底的にプラトニックで、キスシーンすらないこと。
これも二人の葛藤が、精神的なものだということを強調するためだろう。

もし劇団で沙希との共同作業を続けていたら。
もし仕事部屋を別に借りなかったら。
もし永田がもう少し彼女を思いやっていれば、現在は変わっていたかもしれない。
別れと同時に大いなる反省の時を迎えて、永田はようやく二人の葛藤を演劇として昇華する。
これは言わば演劇という虚構の現実を夢見た若者の、青春の始まりと終わりを描いた行定勲版の「ラ・ラ・ランド」だ。
異なるのは、あの映画がエマ・ストーンとライアン・ゴズリング双方の立場から描かれていたのに対し、こちらは基本的に男目線。
”IFの現実”に落とし込むのは同じでも、結局のところ彼女の青春を食い潰して、ようやく夢を叶えてゴメンなさいなのだから、調子の良い話ではある。
でも、映画は別に道徳の教本みたいに、“正しいこと”を描くものではない。
ダメ人間をダメ人間として描き、ダメ人間を愛してしまったが故の彼女の失敗もそのまま描いている本作の登場人物は、どこまでも人間的で切なく愛おしい。
この社会では、誰もが何かしらの後悔を抱え、明日の成功を夢見て、今日を懸命に生きている。
原作とは違うというラストの描写も、実に映画的で素晴らしかった。

ところで、本作はスクリーンで観てから配信という順で鑑賞した。
多くの観客と共に、ミニシアターのスクリーン越しに見る小劇場は、非常に感覚的な距離感が近い。
まるで劇場の中に、もう一つの劇場がある感じ。
一方で、明るいリビングのモニターに映し出される小劇場は、客観性が強調されて少し遠く感じるが、たった一人で永田に感情移入しながらの鑑賞もなかなか味わい深い。
鑑賞形態でどの様に印象が変わるのか、コロナの時代がもたらした“実験”としても興味深い映画体験だった。

今回は、下北沢を舞台にした青春ストーリーなので、下町の安い居酒屋でよく見かける「バイスサワー」をチョイス。
株式会社コダマ飲料の製造する、ピンク色のサワーの焼酎割。
甲種焼酎90mlを氷を入れたグラスに注ぎ、バイスサワー200mlで割るだけ。
甘酸っぱくほのかな紫蘇の香りがフレッシュで、クセもなく飲み飽きない。
長らく業務用にしか売られていなかったので、店でしか飲めない味だったが、今はネット通販のおかげで家飲みでも楽しめる様になった。

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