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海辺の映画館 キネマの玉手箱・・・・・評価額1800円
2020年08月03日 (月) | 編集 |
いつかまた、キネマの天地で。

今年の4月10日に、肺癌のため82年の生涯を閉じた大林宣彦監督の遺作。
鬼才最後の作品は、いろいろな意味で渾身の仕上がりである。
尾道にある古い映画館が閉館の日を迎え、「日本の戦争映画」をテーマに、最後のオールナイト興業が開かれる。
映画を観に来ていた三人の若者たちは、いつの間にかスクリーンの世界に飛び込み、幕末の戊辰戦争から太平洋戦争まで、映画のヒロインたちが戦争の犠牲となるのを目撃する。
上映時間179分に及ぶ大長編も、怒涛の映像コラージュで一気呵成。
晩年の「この空の花-長岡花火物語」からはじまる「戦争三部作」を含め、作者の映画的記憶を内包しつつ、次の世代に伝えたいことを全て言い尽くした。
果たして、これほど完全な「遺言」を残した映画作家が過去にいただろうか。

広島県尾道市。
人々に愛されてきた海辺の小さな映画館「瀬戸内キネマ」が閉館の日を迎えた。
最後のプログラムである「日本の戦争映画」特集を観ていた馬場毬夫(厚木拓郎)、鳥鳳介(細山田隆人)、団茂(細田善彦)は、劇場を襲った稲妻の光と共に映画の世界へとトリップ。
戊辰戦争の白虎隊、婦女隊の悲劇から、日中戦争を経て、太平洋戦争の沖縄戦へ。
毬夫たちは、同じようにスクリーンの内側に取り込まれた希子(吉田玲)と映画のヒロインたちを助けようとするのだが、何度やっても彼女たちは悲劇から逃れられない。
そして彼らは広島の原爆に散った移動劇団「桜隊」と出会い、なんとか彼らを歴史の現実から救い出そうとするのだが・・・・


元々非常に自由な作風だったとは言え、10年代に入ると大林宣彦のイマジネーションは、映画のあらゆるお約束から解き放たれて加速してゆく。
東日本大震災の翌年に公開された「この空の花-長岡花火物語」は、鎮魂の花火として有名な長岡花火大会をモチーフに、都市の持つ遠大な記憶を描いた。
松雪泰子演じる長崎原爆の被爆二世の記者の役割は、時空を超えて届く死者たちの声を聞くこと。
戊辰戦争の荒廃後、「目先の金よりも未来を担う人材育成を」と説いた小林虎三郎の米百俵の故事から、太平洋戦争へ。
多くの犠牲者を出した長岡空襲から、平和への想いは遥か海を超えてパールハーバーへと広がってゆく。

この映画から始まる戦争の記憶の旅は、AKB48のPVとして作られた「So Long ! THE MOVIE」を第1.5章として間にはさみ、第二章として北海道の芦別を舞台とした「野のなななのか」へと引き継がれる。
ここでは、午後2時46分で止まった時計が、昭和20年の8月と2011年の3月を結び、忘れられた樺太の戦いの記憶が語られる。
そして「戦争三部作」の最終章となったのは、昭和16年の唐津を舞台とした青春群像劇「花筐/HANAGATAMI」だ。
土地の持つ記憶をフィーチャーした前二作とは異なり、この映画は戦争の時代を生きた若者たちの記憶を宿した個人史であり、彼らの抱いている「青春が戦争の消耗品だなんて、まっぴらだ!」という葛藤が現代の我々への問いかけとなっていた。

これら全ての作品は、大林宣彦という稀代の映画作家が創造した脳内ワンダーランド
既存の映画文法は意味を持たず、スクリーンの中では生者も死者も、過去も未来も、現実も虚構もシームレスにコラージュされごちゃ混ぜになっている。
「花筐/HANAGATAMI」が一番わかりやすいが、一本の映画の中にも商業映画デビュー作の「HOUSE / ハウス」やそれ以前の自主制作映画の記憶も封じ込められ、ある種のタイムカプセルともなっているのである。
本作では、高橋幸宏演じる語り部の「爺・ファンタ」として、また大林宣彦本人の姿までスクリーンに登場し、過去の全ての作品を内包する作家のシネマティック・ワンダーランドの集大成。

私たちは芸術作品と接する時、ある程度自分の記憶なり経験値と照らし合わせて鑑賞している。
だから「映画ってこんなもの」という常識が一切通用しない本作は、普通の映画しか知らない人が観たら、たぶんものすごく入り難い
ストーリーにもテリングにも、法則性がほぼ無いので、何が起こっているのかも分からないかも知れない。
しかしそれでも、次第に溢れんばかりのエモーションの嵐に巻き込まれ、心が激しく揺さぶられるだろう。

瀬戸内キネマのスクリーンの内で、時空を巡りながら展開する“日本の戦争”。
主人公の毬夫たちは、「この空の花-長岡花火物語」で猪俣南が演じた一輪車の少女と同じく、死者の声を届ける役割である少女・希子に導かれ、常盤貴子、成海璃子、山崎紘菜が演じる映画のヒロインたちと時に恋に落ち、時に夫婦となり、いくつもの戦争を経験する。
戊辰戦争では、新政府軍と戦った武家の女性たちによる婦女隊の悲劇。
薙刀の名手だった中野竹子は、敵弾を受けて倒れ、妹に介錯され自害する。
日中戦争では日本軍に捕まった中国人の少女を守って逃走するが、結局彼女は殺されてしまう。
沖縄戦では徴兵されて軍隊に駆り出され、残された妻は日本軍の士官の慰み者にされる。
ちなみに三人の若者の役名、馬場鞠夫はマリオ・バーバ、鳥鳳介はフランソワ・トリュフォー、団茂はドン・シーゲルから取られているらしい。
反対に女性陣は全員が尾道三部作のヒロインの役名で、この辺りも大林宣彦の映画的な記憶としての本作の世界観がよく現れている。

映画の中で戦争の暴力がもたらす真実を知った若者たちは、最後に巡り合った桜隊をなんとか救おうとする。
新藤兼人監督のドキュメンタリードラマ映画「さくら隊散る」でも描かれた移動劇団桜隊は、昭和20年8月6日に、滞在先の広島で原爆に遭遇。
彼らの宿舎があった場所は、爆心地からわずか700メートル。
「ピカ」を見て即死した者五名、「ドン」まで聞いたものの、原爆症で苦しみながら亡くなったもの四名。
日本映画史に燦然と輝く傑作、阪妻版「無法松の一生」でヒロインを演じた名女優・園井恵子も、「ドン」で命を落とした一人だ。
虚構の向こうにあるのは、現実の生と死の記憶。
歴史的な事実を描いた映画は、その悲劇からは逃れられない。

まあ中には史実を描きかえてヒットラーを殺しちゃう、タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」みたいな映画もあるが、所詮は虚構によって別の虚構を作り出しているに過ぎない。
本作の虚構=映画に対するスタンスは違う。
終始貫かれるのは徹底的な映画への愛、というか信頼。
大林宣彦は映画という虚構は現実ではないが、未来の現実を動かせると信じている。
毬夫たちのように、映画によって激しく感情を動かされた人たちが、戦争の無い未来、ヒロインたちが死なない未来を作ると信じているのだ。
それは映画人の楽天的な夢かも知れない。
だが本作は集大成の集大成、誰よりも虚構の力を知る元祖映像の魔術師が、文字通りに命を削って作り上げた今を生きる人々への最後のメッセージ
パワフルな映画体験に圧倒され、その想いの強さに最後には涙が止まらなくなった。
大林監督、本当にありがとうございました。お疲れ様でした。

今回は20年ぶりに大林映画の舞台となった尾道のお隣、三島市の醉心山根本店の「醉心 純米吟醸」をチョイス。
戊辰戦争前の幕末1860年に創業し、日本画の横山大観の愛飲酒としても有名な銘柄。
こちらはやや辛口で純米吟醸らしく芳潤。
強いクセはなく落ち着いた味わい。
出来れば瀬戸内の地のものと合わせたいが、特に魚介類とのマッチングが抜群だ。

しかしコロナの影響で一旦公開延期になり、本来の公開初日の4月10日に大林宣彦が死去したのも運命的だが、キナ臭さを増す戦後75年目の夏に公開されるのもまた意義深い。
どこまでも映画の神に愛された人だったんだなあ。

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