■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
※エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。
■TITLE INDEX
※タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
※エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。
■TITLE INDEX
※タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
※noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
※noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
2020年10月01日 (木) | 編集 |
白鳥になれるのは、夜中だけ。
故郷を遠く離れ、東京のショークラブで働くトランスジェンダーの凪沙と、酒浸りのシングルマザーに捨てられた中学生の少女、一果。
生き辛さを抱えた二人が出会った時、彼女らの人生にドラマチックな化学反応が起こる。
真っ暗なトンネルに見えた小さな光は、一果が唯一打ち込んできたバレエ。
しかし彼女の才能を、真に開花させるには相当なお金がいる。
草彅剛が凄みを見せ、一果役の新人・服部樹咲がベテラン相手に互角の存在感。
監督・脚本は、過去にも社会の底辺で生きる人々の物語を紡いできた内田英治。
コロナ禍の中でも快作・傑作が続出する今年の邦画の中でも、批判を受けそうな部分を含めて、最大級のインパクトを放つ傑作だ。
※核心部分に触れています。
新宿のショークラブ「スイートピー」で働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)は、故郷の広島に暮らす家族には秘密のまま、性転換手術の準備を進めている。
そんなある日、母親から電話が入る。
凪沙のいとこにあたる早織(水川あさみ)が、酒に溺れて育児放棄状態となり、中学生の娘の一果(服部樹咲)をしばらく東京で預かって欲しいというのだ。
しぶしぶ受け入れたものの、てっきり従伯叔父だと思って訪ねてきた一果は、女性の姿の凪沙に戸惑う。
東京での生活が始まってしばらくした頃、バレエ教室の前を通りかかった一果は、教室の片平先生(真飛聖)に呼び止められ、体験レッスンに参加することになる。
しかし、一果には本格的に教室に通うお金はなく、同じバレエ教室に通うりん(上野鈴華)に誘われて怪しげなバイトをし、警察に補導される。
警察に呼び出されて、初めて一果がバレエを習いたがっていることを知った凪沙は、落ち込む一果に「うちらみたいなもんは、ずっと一人で生きていかなきゃいけんけえ、強うならないかんで」と優しく声をかけるのだが・・・・
これは凄い映画だ。
冒頭、ショークラブの楽屋で、濃い化粧をして白鳥の衣装を身に着ける主人公が映し出される。
この役は、様々な作品で無頼漢を演じてきた俳優・草彅剛の、集大成といっていい。
彼女が今までどんな困難な人生を歩んできたのか、表情が見えなくても、その背中が雄弁に語ってくる。
一方、一果を捉えたファーストショットは、広島のスナックで酔い潰れて寝込んでいる母親を迎えに行く後ろ姿。
このショットは、顔が映るまでは新宿を歩く凪沙の後ろ姿かと錯覚するように撮られているが、二人が同じように孤独を抱えた似た者同士であることを示唆する工夫。
映画は東京で出会った二人を軸に、閉塞した様々な人たちを描いてゆく。
男に騙され、とことんまで貢いでしまう凪沙の同僚、一果のライバルで怪我でバレエの道を断たれるりん、そして一果を捨てたシングルマザーの早織。
全員が這いつくばって、喘ぎながら歩んでいる。
全体のモチーフとなっているのが、一果が踊るバレエ「白鳥の湖」だ。
クラッシックの巨匠チャイコフスキーによって作曲され、誰もが知る名作中の名作。
ダーレン・アロノフスキーの「ブラック・スワン」のモチーフになったのも、記憶に新しい。
主人公は、悪魔ロットバルトの呪いによって白鳥の姿に変えられ、夜の間だけ人間に戻れるオデット。
呪いを解く唯一の方法は、誰も愛したことのない男性に、初めての愛を捧げてもらうこと。
オデットは湖で出会ったジークフリート王子に、舞踏会に誘われるのだが、ロットバルトはオデットに似せた少女オディールを送り込み、王子は彼女をオデットと勘違いし求婚してしまう。
悲しみのオデットを間違いに気づいた王子が追い、ロットバルトに戦いを挑み勝利するも、呪いは消えない。
失意の二人は湖に身を投げ、来世での幸せを誓うという悲劇的な物語だ。
この映画では、バレエとは逆に夜だけ白鳥の衣装を着て踊る凪沙が、呪いによって男性の体に閉じ込められたオデット。
彼女を希望へと誘う、ジークフリートの役割が一果。
二人の周りにいる閉塞した人々は、オデット同様に二つの自分に引き裂かれた、呪われた娘たちだ。
最初はお互いに戸惑いがあったものの、徐々にひかれ合ってゆく凪沙と一果。
それは一生誰からも愛されず、一人で生きていくと思っていた凪沙に、初めて擬似的な親として愛してくれる人ができたことを意味する。
そしてバレエの舞踏会にあたるのが、一果の初めてのコンクールだ。
凪沙はすっかり母親の気持ちで見にきているのだが、あろうことかその役割は一果を捨てたはずの早織によって取って代わられてしまう。
まるでジークフリート王子の心が、悪魔の命を受けたオディールによって盗まれた様に。
実の母親との一果の愛の争奪戦に敗れた凪沙は、追い立てられるように呪われた肉体を脱ぎ捨てることを急ぐのである。
ドラマの緩急が絶妙で、その描写は時としてやり過ぎ感が出るギリギリ。
相当ショッキングなシーンもある。
コンクールのステージに立つ一果と、夢破れたりんが踊る姿をシンクロする様にクロスカッティングで見せ、踊りのクライマックスでりんがビルの屋上からジャンプして、そのまま身を投げてしまう描写では、劇場で悲鳴が上がっていた。
一果が広島に帰った後、タイに渡った凪沙が生々しい性転換手術を受けるのは、一果=ジークフリートを巡る悪魔ロットバルトとの戦い。
しかし今まで女性の心を縛り付けてきた呪いを解いたと思っても、今度は予期せぬ別の呪いが肉体を痛めつける。
モチーフとなったバレエのプロットの流れを踏襲しているだけとも言えるが、悲劇的でセンセーショナルな描写は、賛否両論を生むだろう。
特に本作は性同一性障害や育児放棄、シングルマザーの貧困など、社会的にセンシティブな問題を扱っているから尚更だ。
本作のマイノリティの描き方に、嫌悪感を抱く人がいたとしても驚かない。
しかし、私は高尚さに背を向け、とことんまで俗っぽく、泥臭く人間を描いた本作を肯定したい。
草彅剛という人気者を擁し、ドラマチックな物語性に拘った結果、題材の重苦しさはそのまま残るものの、本作は非常に面白く間口の広いエンターテイメントとして成立している。
こういった題材を娯楽として消費することに、抵抗を感じる人もいるだろう。
だが劇中でも描かれている通り、いまだトランスジェンダーをはじめとする性的マイノリティが市民権を持ったとは言えない日本社会で、万人を楽しませつつ、題材に興味を持ってもらうための作品として、これ以上のアプローチがあるだろうか。
真夜中の公園で、凪沙が一果に踊りの教えをこうシーンは、とても美しく優しさに満ちていた。
これは現在の日本を舞台とした「白鳥の湖」で、ある意味「ライムライト」なのである。
映画のキーとなるバレエも全く手抜き無しで、説得力たっぷりに見せるのがいい。
演じる服部樹咲の踊りが、素人目にもとても演技で出来るレベルには見えなかったのだが、プロフィールを見るとガチで本物だった。
いや、むしろ演技の方が素人なのだが、この存在感は末恐ろしい。
今回は「ホワイト・スワン」をチョイス。
アマレットリキュール20ml、牛乳40mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
白というよりもピンクに近いが、甘さを抑えてアーモンドの香りを加えたイチゴミルクという風合いのデザートカクテル。
簡単に作れるし、ヘビーな映画の後に飲んでほっこりしたい。
記事が気に入ったらクリックしてね
故郷を遠く離れ、東京のショークラブで働くトランスジェンダーの凪沙と、酒浸りのシングルマザーに捨てられた中学生の少女、一果。
生き辛さを抱えた二人が出会った時、彼女らの人生にドラマチックな化学反応が起こる。
真っ暗なトンネルに見えた小さな光は、一果が唯一打ち込んできたバレエ。
しかし彼女の才能を、真に開花させるには相当なお金がいる。
草彅剛が凄みを見せ、一果役の新人・服部樹咲がベテラン相手に互角の存在感。
監督・脚本は、過去にも社会の底辺で生きる人々の物語を紡いできた内田英治。
コロナ禍の中でも快作・傑作が続出する今年の邦画の中でも、批判を受けそうな部分を含めて、最大級のインパクトを放つ傑作だ。
※核心部分に触れています。
新宿のショークラブ「スイートピー」で働くトランスジェンダーの凪沙(草彅剛)は、故郷の広島に暮らす家族には秘密のまま、性転換手術の準備を進めている。
そんなある日、母親から電話が入る。
凪沙のいとこにあたる早織(水川あさみ)が、酒に溺れて育児放棄状態となり、中学生の娘の一果(服部樹咲)をしばらく東京で預かって欲しいというのだ。
しぶしぶ受け入れたものの、てっきり従伯叔父だと思って訪ねてきた一果は、女性の姿の凪沙に戸惑う。
東京での生活が始まってしばらくした頃、バレエ教室の前を通りかかった一果は、教室の片平先生(真飛聖)に呼び止められ、体験レッスンに参加することになる。
しかし、一果には本格的に教室に通うお金はなく、同じバレエ教室に通うりん(上野鈴華)に誘われて怪しげなバイトをし、警察に補導される。
警察に呼び出されて、初めて一果がバレエを習いたがっていることを知った凪沙は、落ち込む一果に「うちらみたいなもんは、ずっと一人で生きていかなきゃいけんけえ、強うならないかんで」と優しく声をかけるのだが・・・・
これは凄い映画だ。
冒頭、ショークラブの楽屋で、濃い化粧をして白鳥の衣装を身に着ける主人公が映し出される。
この役は、様々な作品で無頼漢を演じてきた俳優・草彅剛の、集大成といっていい。
彼女が今までどんな困難な人生を歩んできたのか、表情が見えなくても、その背中が雄弁に語ってくる。
一方、一果を捉えたファーストショットは、広島のスナックで酔い潰れて寝込んでいる母親を迎えに行く後ろ姿。
このショットは、顔が映るまでは新宿を歩く凪沙の後ろ姿かと錯覚するように撮られているが、二人が同じように孤独を抱えた似た者同士であることを示唆する工夫。
映画は東京で出会った二人を軸に、閉塞した様々な人たちを描いてゆく。
男に騙され、とことんまで貢いでしまう凪沙の同僚、一果のライバルで怪我でバレエの道を断たれるりん、そして一果を捨てたシングルマザーの早織。
全員が這いつくばって、喘ぎながら歩んでいる。
全体のモチーフとなっているのが、一果が踊るバレエ「白鳥の湖」だ。
クラッシックの巨匠チャイコフスキーによって作曲され、誰もが知る名作中の名作。
ダーレン・アロノフスキーの「ブラック・スワン」のモチーフになったのも、記憶に新しい。
主人公は、悪魔ロットバルトの呪いによって白鳥の姿に変えられ、夜の間だけ人間に戻れるオデット。
呪いを解く唯一の方法は、誰も愛したことのない男性に、初めての愛を捧げてもらうこと。
オデットは湖で出会ったジークフリート王子に、舞踏会に誘われるのだが、ロットバルトはオデットに似せた少女オディールを送り込み、王子は彼女をオデットと勘違いし求婚してしまう。
悲しみのオデットを間違いに気づいた王子が追い、ロットバルトに戦いを挑み勝利するも、呪いは消えない。
失意の二人は湖に身を投げ、来世での幸せを誓うという悲劇的な物語だ。
この映画では、バレエとは逆に夜だけ白鳥の衣装を着て踊る凪沙が、呪いによって男性の体に閉じ込められたオデット。
彼女を希望へと誘う、ジークフリートの役割が一果。
二人の周りにいる閉塞した人々は、オデット同様に二つの自分に引き裂かれた、呪われた娘たちだ。
最初はお互いに戸惑いがあったものの、徐々にひかれ合ってゆく凪沙と一果。
それは一生誰からも愛されず、一人で生きていくと思っていた凪沙に、初めて擬似的な親として愛してくれる人ができたことを意味する。
そしてバレエの舞踏会にあたるのが、一果の初めてのコンクールだ。
凪沙はすっかり母親の気持ちで見にきているのだが、あろうことかその役割は一果を捨てたはずの早織によって取って代わられてしまう。
まるでジークフリート王子の心が、悪魔の命を受けたオディールによって盗まれた様に。
実の母親との一果の愛の争奪戦に敗れた凪沙は、追い立てられるように呪われた肉体を脱ぎ捨てることを急ぐのである。
ドラマの緩急が絶妙で、その描写は時としてやり過ぎ感が出るギリギリ。
相当ショッキングなシーンもある。
コンクールのステージに立つ一果と、夢破れたりんが踊る姿をシンクロする様にクロスカッティングで見せ、踊りのクライマックスでりんがビルの屋上からジャンプして、そのまま身を投げてしまう描写では、劇場で悲鳴が上がっていた。
一果が広島に帰った後、タイに渡った凪沙が生々しい性転換手術を受けるのは、一果=ジークフリートを巡る悪魔ロットバルトとの戦い。
しかし今まで女性の心を縛り付けてきた呪いを解いたと思っても、今度は予期せぬ別の呪いが肉体を痛めつける。
モチーフとなったバレエのプロットの流れを踏襲しているだけとも言えるが、悲劇的でセンセーショナルな描写は、賛否両論を生むだろう。
特に本作は性同一性障害や育児放棄、シングルマザーの貧困など、社会的にセンシティブな問題を扱っているから尚更だ。
本作のマイノリティの描き方に、嫌悪感を抱く人がいたとしても驚かない。
しかし、私は高尚さに背を向け、とことんまで俗っぽく、泥臭く人間を描いた本作を肯定したい。
草彅剛という人気者を擁し、ドラマチックな物語性に拘った結果、題材の重苦しさはそのまま残るものの、本作は非常に面白く間口の広いエンターテイメントとして成立している。
こういった題材を娯楽として消費することに、抵抗を感じる人もいるだろう。
だが劇中でも描かれている通り、いまだトランスジェンダーをはじめとする性的マイノリティが市民権を持ったとは言えない日本社会で、万人を楽しませつつ、題材に興味を持ってもらうための作品として、これ以上のアプローチがあるだろうか。
真夜中の公園で、凪沙が一果に踊りの教えをこうシーンは、とても美しく優しさに満ちていた。
これは現在の日本を舞台とした「白鳥の湖」で、ある意味「ライムライト」なのである。
映画のキーとなるバレエも全く手抜き無しで、説得力たっぷりに見せるのがいい。
演じる服部樹咲の踊りが、素人目にもとても演技で出来るレベルには見えなかったのだが、プロフィールを見るとガチで本物だった。
いや、むしろ演技の方が素人なのだが、この存在感は末恐ろしい。
今回は「ホワイト・スワン」をチョイス。
アマレットリキュール20ml、牛乳40mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
白というよりもピンクに近いが、甘さを抑えてアーモンドの香りを加えたイチゴミルクという風合いのデザートカクテル。
簡単に作れるし、ヘビーな映画の後に飲んでほっこりしたい。

記事が気に入ったらクリックしてね
スポンサーサイト
| ホーム |