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燃ゆる女の肖像・・・・・評価額1700円
2020年12月14日 (月) | 編集 |
振り返って、わたしを見て。

まだ写真技術が無く、未婚女性の旅行が良しとされなかった時代、名家同士の遠隔お見合い成立の決め手は肖像画だった。
会ったこともない結婚相手を決めるのだから、肖像画はひと目見てその人となりを理解できるよう、モデルとなる人間の本質を捉えていなければならない。
とある島の館に住む美しい娘、エロイーズの肖像画を描くため、本土から画家のマリアンヌがやってくる。
ところがエロイーズは結婚を拒んでいて、誰にも肖像画を描かせない。
奇妙な出合い方をした画家とモデルは、やがて一生で一度だけの恋におちる。
監督は、「ぼくの名前はズッキーニ」の脚本で、セザール賞に輝いたセリーヌ・シアマ。
彼女の監督デビュー作、「水の中のつぼみ」にも出演したアデル・エネルがエロイーズを、ノエミ・メルランがマリアンヌを演じる。
昨年のカンヌ国際映画祭で、脚本賞とLGBTモチーフの作品に贈られるクィア・パルムの二冠を獲得した話題作だ。

18世紀末のフランス。
女性たちに絵画を教えているマリアンヌ(ノエミ・メルラン)のアトリアには、火の付いたドレスを着た女性を描いた、不思議な肖像画がある。
生徒に作品のタイトルを聞かれたマリアンヌは、「燃ゆる女の肖像」と答える。
数年前のこと、マリアンヌはブルターニュ半島の外れにある孤島を訪れた。
島の館に住むエロイーズ(アデル・エネル)の肖像を描くためだ。
自殺した姉のかわりにエロイーズを結婚させるため、母親がそれまで暮らしていた修道院から呼び戻したのだが、彼女は結婚を望んでいないため、肖像画のモデルになることを拒否していた。
マリアンヌは母親に雇われた散歩の相手を装い、散歩中に彼女の特徴を捉えては密かに作業する。
やがて肖像画は完成するが、そこで初めてマリアンヌが画家だということを知ったエロイーズは、絵は自分の本質を捉えておらず、全く似ていないと指摘し、描き直すならマリアンヌの前でポーズをとると申し出る。
母親が本土から戻るまで、二人の人生を変える運命の5日間がはじまる・・・・・


映画は三幕構造の第一幕に1時間近くを費やし、対照的な境遇にあるエロイーズとマリアンヌの島での日常を描いてゆく。
名家の令嬢であるエロイーズの人生には、自由が全くない。
はっきりとした理由は定かではないが、結婚を目前とした姉が「ゆるして」と言い残して自殺し、母親はエロイーズも姉と同じ道を選ぶのではと警戒し、マリアンヌとの散歩以外は外出も禁じられている。
結婚相手すら、遠くイタリアのミラノにいるらしいことしか知らされていない。
一方、父親の仕事を継いで、自らも画家として手に職を持つマリアンヌは、呼ばれればどこへでも仕事に行くし、誰からも結婚を強要されることはない。
同世代の若い女性という以外、二人には全く共通点がないのだ。
もっともこの時代にあって、自由か否かというのはあくまでも相対的なもの。
誰であっても、女性が生きづらい時代であることは変わらない。
物語の終盤で、マリアンヌが自作を父の名前で発表していることが明らかになるが、繊細な時代感覚の表現が見て取れる。

物語が一気に動き出すのが、一枚目の肖像画が完成した時。
散歩中に記憶した断片をパズルのように繋ぎ合わせたその絵は、美しくはあるが表層的にしかエロイーズを捉えられていない。
そのことを本人から指摘された時、マリアンヌは画家としてのプライドを傷つけられ、衝動的に肖像画の顔を拭い去ってしまう。
そしてエロイーズ自身が、それまで拒んでいたモデルになると告げた瞬間、二人の間にある全てが変わりはじめる。
描き直しのタイムリミットまでの5日間、本土に向かった母親は不在となり、館に残されたのはエロイーズ、マリアンヌ、メイドのソフィーの三人の若い女性だけ。
全ての女性にとって、自由が特別な権利だった時代に、彼女たちは抑圧された精神を解放し、エロイーズとマリアンヌは人生で最初で最後の真剣な恋に落ちてゆく。

全体のモチーフになっているのが、ギリシャ神話のオルフェウス伝説だ。
ある夜、三人はオルフェウスとエウリュディケの物語を読む。
毒蛇に噛まれて死んだ妻エウリュディケを取り戻すため、冥府の神ハデスを訪れたオルフェウスは、「冥府から出るまでの間、決して後ろを振り返ってはならない」という条件付きで、二人で地上に戻ることを許される。
しかし、地上まであとわずかとなった時、オルフェウスはなぜか妻を振り返ってしまい、エウリュディケは再び冥府に連れ戻される。
なぜオルフェウスは、失うと知っていながらエウリュディケを見てしまったのか。
「愛ゆえの衝動」と考えたエロイーズに対し、マリアンヌは「彼は振り返って思い出を見た」と言う。
二人の異なる答えが、この映画の核心だ。

この映画では、オルフェウスがマリアンヌであり、エロイーズはエウリュディケだ。
本作は視線のドラマであり、お互いを見つめ合う画家とモデル双方の眼差しの交錯によって感情が語られ、物語が進んでゆく。
画家は永遠に残る記憶としての肖像画を描くためにモデルを見るが、モデルは今そこにいて自分を描いている画家を見ている。
二枚目の肖像画を描いている途中、マリアンヌは何度も白いドレスを着たエロイーズの幻影を目撃する。
そして母親が帰還し、肖像画を完成させたマリアンヌが島を離れる時、エロイーズを振り返ると、そこには幻影と全く同じ純白のウェディングドレス姿のエロイーズが立っていたのである。
絵が完成したら終わる恋だと分かっていても、エロイーズは今この一瞬を懸命に愛したのに対し、マリアンヌは初めから思い出としての彼女を見ていたのだ。

物語の終盤で、二人が別れた後、マリアンヌには二度再会の機会があったことが明かされる。
初めは美術展で、数年後のエロイーズとその子供を描いた肖像画を見つける。
絵の中のエロイーズは、28ページ目を少し開いた本を持っているのだが、これは別れの前日にマリアンヌが自画像を描き込んだページ。
ここで描かれるのは、文字通りに思い出との邂逅である。
二度目はコンサート会場で、マリアンヌは自分の向かい側の席に座るエロイーズに気づく。
思い出の曲が鳴り響く中、マリアンヌはエロイーズから目を離せないが、彼女は涙を流しながらも決してマリアンヌと目を合わせようとはしない。
5日間の恋はエロイーズの中ではまだ生きていて、振り向いてしまえば、本当に思い出になってしまうからだ。
どこまでもメロウで繊細で、まるで格調高い少女漫画のような世界観。
これ萩尾望都か山岸涼子で、コミカライズしてくれないだろうか。
バンデシネよりも、むしろピッタリだと思うのだが。

本作の舞台となるブルターニュ地方は、寒冷な気候でワイン用葡萄の耕作に適さないため、かわってビールやシールドの醸造が盛ん。
今回は、レ・セリエ・アソシエ社のシールド「ヴァル・ド・ランス ビオロジック」をチョイス。
ブルターニュ産の有機リンゴを使った、ほどよく中辛口のシールド。
アルコール度数は4%と比較的低く、一番搾りのフレッシュで甘酸っぱい味わいは、食前酒にピッタリだ。

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