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2021年01月22日 (金) | 編集 |
“swallow”=“飲み下す、耐える”
ヘイリー・ベネット演じる主人公のハンターは、ブルーカラーの家庭の出身だが、大富豪の御曹司と結婚し、一見すると望むもの全てを手に入れている。
輝かしい将来を約束された優しい夫、親切で上品な義理の両親、モダンで豪華な新居。
しかし、彼女の心はどこか満たされない。
これが長編デビュー作となる、カーロ・ミラベラ=デイヴィス監督の空間演出が秀逸で、デザインが直線的で色がなく、体感温度の低そうな豪邸の中で、居場所なき主人公を浮き立たせる。
いかにも金持ちの家にありそうな、無駄に大きなダイニングセットに向かい合わせで座る夫婦の距離が、彼女の心を象徴する。
ところが、表面的には更なる幸せを約束する妊娠が分かると、彼女は突然ビー玉を飲み込みたいという、奇妙な欲求に突き動かされる。
喉を下ってゆく冷たいガラスの感覚に、官能的な喜びを感じたハンターは、やがて石や金属などの危険な異物を口にする衝動に抗えなくなるのだ。
いわゆる異食症という心の病で、彼女の奇行はすぐに発覚するのだが、今度はことの本質を見ない家族が、上から目線でいろいろな“対策”をとることで、ハンターをますます追い込んでゆく。
彼らにとっては、彼女の病の原因などには興味がなく、異常な行動を止めさせて、健康な後継ぎを生ませることがファーストプライオリティなのだ。
異食症の原因はなんなのか、なぜ妊娠した直後に発症したのか。
家族の無理解が症状を改善させるどころか悪化させてゆく中、カウンセラーとの何気ない会話がきっかけとなり、ハンターは自らの出生の根源にある、無意識に蓋をしていた心の傷に向き合わざるをえなくなる。
壊れかけたハンターの心に唯一シンパシーを感じ、助け舟を出すのが、家族ではなく彼女を監視するために雇われた、シリアからの戦争難民の看護師なのが皮肉。
肉体の傷と違って、心の傷は経験したものだけが共鳴できるという訳か。
ハンターの中に封印されてきた、残酷な性暴力がもたらした母娘二代にわたる忌まわしい記憶。
おそらくずっと彼女を苦しめていたのだろうが、社会の階層の違う相手との結婚がコンプレックスをかき立て、さらに妊娠によって自らの出自に対する無意識の嫌悪が、異食症という形で彼女自身を傷つけるようになったのだろう。
だが異食症はハンターだけでなく、愛していると思っていた相手の正体をも暴き出してしまう。
新妻の夢見た彩ある未来が咲き誇っているのは、もはや冷たい家の中で彼女が植えた花壇のみ。
内面からの強迫的な衝動によって、異物を飲み込んでいたハンターは、遂に自らの過去と対峙し傷の原因を排除する。
そして彼女は、最後に自らの自由意志で、ある決断をするのである。
それは”飲み込む”とは真逆の行為であり、ガチガチの宗教保守派の家庭で育った彼女の母親には、やりたくても出来なかったこと。
妊娠中絶が社会的葛藤のイシューであるアメリカで、主人公の行動は物議をかもしそうだが、生む生まないの判断を、個々の女性が持つべき権利として明確化したのだと捉えれば納得だ。
幸せな家族の崩壊を描くホラーテイストの心理劇であり、心の闇の根元を探すスリリングなミステリでもあり、何者でもなかった女性が生き方を見つける優れた人間ドラマでもある。
自らエグゼクティブ・プロデューサーを兼務し、ほぼ出ずっぱりで時に繊細に、時にパワフルに、ハンターの孤独な心を表現するヘイリー・ベネットが素晴らしい。
金髪というより銀色に近いショートカットが印象的な、まるでマネキンのような人工的なルックスも、ハンターの心の殻を表現したものだろう。
全てに蹴りをつけ殻を脱ぎ捨てたハンターが後にする、女性トイレを定点で描写したエンディングが秀逸。
入れ替わり立ち替わり、年齢も肌の色も違う女性たちがやってくるそこは、まさに男たちの知らない世界の半分の縮図である。
孤独な女性が悪夢から目覚める話である本作には「ナイトメア・オブ・レッド」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、カンパリ30ml、パイナップル・ジュース30ml、オレンジ・ビターズ2dashを氷で満たしたグラスに注ぎ、ステアする。
ドライ・ジンの清涼感とパイナップルのすっきりした甘さを、カンパリとビターズの苦みが演出する。
名前は恐ろしげだが、どちらかと言うと悪夢の夜よりも、その後の爽やかな朝をイメージさせるカクテルだ。
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ヘイリー・ベネット演じる主人公のハンターは、ブルーカラーの家庭の出身だが、大富豪の御曹司と結婚し、一見すると望むもの全てを手に入れている。
輝かしい将来を約束された優しい夫、親切で上品な義理の両親、モダンで豪華な新居。
しかし、彼女の心はどこか満たされない。
これが長編デビュー作となる、カーロ・ミラベラ=デイヴィス監督の空間演出が秀逸で、デザインが直線的で色がなく、体感温度の低そうな豪邸の中で、居場所なき主人公を浮き立たせる。
いかにも金持ちの家にありそうな、無駄に大きなダイニングセットに向かい合わせで座る夫婦の距離が、彼女の心を象徴する。
ところが、表面的には更なる幸せを約束する妊娠が分かると、彼女は突然ビー玉を飲み込みたいという、奇妙な欲求に突き動かされる。
喉を下ってゆく冷たいガラスの感覚に、官能的な喜びを感じたハンターは、やがて石や金属などの危険な異物を口にする衝動に抗えなくなるのだ。
いわゆる異食症という心の病で、彼女の奇行はすぐに発覚するのだが、今度はことの本質を見ない家族が、上から目線でいろいろな“対策”をとることで、ハンターをますます追い込んでゆく。
彼らにとっては、彼女の病の原因などには興味がなく、異常な行動を止めさせて、健康な後継ぎを生ませることがファーストプライオリティなのだ。
異食症の原因はなんなのか、なぜ妊娠した直後に発症したのか。
家族の無理解が症状を改善させるどころか悪化させてゆく中、カウンセラーとの何気ない会話がきっかけとなり、ハンターは自らの出生の根源にある、無意識に蓋をしていた心の傷に向き合わざるをえなくなる。
壊れかけたハンターの心に唯一シンパシーを感じ、助け舟を出すのが、家族ではなく彼女を監視するために雇われた、シリアからの戦争難民の看護師なのが皮肉。
肉体の傷と違って、心の傷は経験したものだけが共鳴できるという訳か。
ハンターの中に封印されてきた、残酷な性暴力がもたらした母娘二代にわたる忌まわしい記憶。
おそらくずっと彼女を苦しめていたのだろうが、社会の階層の違う相手との結婚がコンプレックスをかき立て、さらに妊娠によって自らの出自に対する無意識の嫌悪が、異食症という形で彼女自身を傷つけるようになったのだろう。
だが異食症はハンターだけでなく、愛していると思っていた相手の正体をも暴き出してしまう。
新妻の夢見た彩ある未来が咲き誇っているのは、もはや冷たい家の中で彼女が植えた花壇のみ。
内面からの強迫的な衝動によって、異物を飲み込んでいたハンターは、遂に自らの過去と対峙し傷の原因を排除する。
そして彼女は、最後に自らの自由意志で、ある決断をするのである。
それは”飲み込む”とは真逆の行為であり、ガチガチの宗教保守派の家庭で育った彼女の母親には、やりたくても出来なかったこと。
妊娠中絶が社会的葛藤のイシューであるアメリカで、主人公の行動は物議をかもしそうだが、生む生まないの判断を、個々の女性が持つべき権利として明確化したのだと捉えれば納得だ。
幸せな家族の崩壊を描くホラーテイストの心理劇であり、心の闇の根元を探すスリリングなミステリでもあり、何者でもなかった女性が生き方を見つける優れた人間ドラマでもある。
自らエグゼクティブ・プロデューサーを兼務し、ほぼ出ずっぱりで時に繊細に、時にパワフルに、ハンターの孤独な心を表現するヘイリー・ベネットが素晴らしい。
金髪というより銀色に近いショートカットが印象的な、まるでマネキンのような人工的なルックスも、ハンターの心の殻を表現したものだろう。
全てに蹴りをつけ殻を脱ぎ捨てたハンターが後にする、女性トイレを定点で描写したエンディングが秀逸。
入れ替わり立ち替わり、年齢も肌の色も違う女性たちがやってくるそこは、まさに男たちの知らない世界の半分の縮図である。
孤独な女性が悪夢から目覚める話である本作には「ナイトメア・オブ・レッド」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、カンパリ30ml、パイナップル・ジュース30ml、オレンジ・ビターズ2dashを氷で満たしたグラスに注ぎ、ステアする。
ドライ・ジンの清涼感とパイナップルのすっきりした甘さを、カンパリとビターズの苦みが演出する。
名前は恐ろしげだが、どちらかと言うと悪夢の夜よりも、その後の爽やかな朝をイメージさせるカクテルだ。

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