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すばらしき世界・・・・・評価額1700円
2021年02月17日 (水) | 編集 |
この世界は、生きるに値するか。

2016年の「永い言い訳」以来5年ぶりの新作は、一貫してオリジナル作品を手掛けてきた西川美和監督にとって初の原作もの。
実在の人物をモデルに執筆された、佐木隆三の小説「身分帳」を映画化した作品だ。
「身分帳」とは聴き慣れない言葉だが、刑務所に収監した囚人の罪状から経歴、人となりまで全てを記載したノートのこと。
役所広司が演じる主人公・三上正夫は、殺人の罪で13年服役し、出所したばかりだが、それ以前の人生も大半を刑務所で過ごしてきた元極道。
これは「今度こそはカタギぞ」と誓った主人公が、令和の時代に浦島太郎状態で放り出され、生きて行ける場所を見つけるまでの物語だ。
初の原作ものと言っても、作家のカラーは一ミリもブレておらず、見事な仕上がり。
三上を取材しようとするTVディレクターを仲野太賀、馴染みとなるスーパーの店長を六角精児、役所の担当職員を北村有起哉、見元引受人となる弁護士夫婦を橋爪功と梶芽衣子が演じる。

極寒の旭川刑務所から、一人の男が刑期を終えて釈放された。
彼の名は三上正夫(役所広司)。
チンピラを刺殺し、殺人の罪で13年の刑に服していたが、児童養護施設を飛び出して以来、様々な犯罪を繰り返してきた元極道だ。
身元引き受け人の庄司弁護士(橋爪功)を訪ねた三上は、今度こそカタギとして生きることを決意し、東京のアパートに暮らしはじめるが、世間の風は反社に厳しい。
同じ頃、テレビの仕事を辞め小説家を志す津乃田(仲野太賀)のもとに、プロデューサーの吉澤(長澤まさみ)から三上を取材しないかと誘いが入る。
三上は身の上を記した「身分帳」を大量に吉澤に送りつけ、自分を取材する代わりに行方不明の母親を探して欲しいと依頼して来たのだ。
吉澤は、殺人という重罪を犯した男が心を入れ替えて社会復帰する、感動的なドキュメンタリー番組の制作を目論んでいた。
後日、三上と会った津乃田は、久しぶりのシャバで四苦八苦しながら、生きる道を探す彼の姿を取材しはじめるのだが・・・・


西川美和監督作品の主人公は、いつもどこかちょっと捻くれていて、世間一般の正道から微妙に外れている。
言ってみれば、全員“ちょい悪(ワル)”なのだ。
28歳で発表したデビュー作「蛇イチゴ」では言葉巧みなペテン師だったし、「ディア・ドクター」では偽医者、「夢売るふたり」では夫婦の結婚詐欺師。
近作の「永い言い訳」では、不倫相手との密会中に妻を亡くした最悪のダメ夫が主人公だった。
彼らは社会が規範とする正しいこと、善なることに沿って生きてる訳ではない。
むしろ本作の三上のように、正道から外れた自分たちの生き方を否定しない、懲りない人々の物語で、そのダメっぷりが実に人間くさいのである。

殺人の罪で刑務所に入っていた元極道が、出所してみたら世界がすっかり変わって、ヤクザ者の居場所は世間から無くなっていた・・・という話は、偶然だろうが、先日公開された藤井道人監督の「ヤクザと家族 The Family」と一緒。
刑期もこちらが13年であちらが14年とほぼ同じで、あちらでバリバリの極道だった北村有起哉が、こちらでは反社に厳しいことを言う公務員になっているのが可笑しい。
罪にとわれた主人公が刑務所に入っている間に、暴対条例がどんどん施行されて、更生したくても更生しにくい世の中になっている現状も、どちらの作品でも綿密に描かれている。
主人公が自分の罪に対して真摯に反省しておらず、心はカタギになろうとしていないのも同じだ。
ただ、モチーフは同じでもアプローチは真逆。
ヤクザを大きな疑似家族という括りで捉え、ジャンル映画へのレクイエムでもあったあの映画とは違い、西川美和はとことん三上という個人の不器用な生き様に拘る。
彼はもともと一匹狼で、一応昔のお仲間はいるものの、「ヤクザと家族 The Family」の綾野剛のように、特定の組織の一員だった訳ではないのだ。

シャバに戻り、新たな人生を歩み出したアウトローは、言わば日常に投げ込まれた異物だ。
三上は、今までのヤクザ的な生き方と、カタギの真面目な生き方の間で揺れ動くが、罪は犯したものの、自分の生き方が間違っていたとは思っていない。
チンピラを殺したのも正当防衛だと信じているし、十数回も滅多刺しにしたのも、生きるか死ぬかの局面では仕方がなかったと考えている。
もともと竹を割った様に真っ直ぐな性格で、困っている人がいれば助け、親切にされれば恩を返そうとする。
ただ一つの問題は、彼が一番得意で生き生きするのは、暴力を振るう時だということなのだ。
現在のカタギの社会では、暴力はイコール悪であり、問題解決の手段として暴力を使った瞬間、どんな正義も説得力を失う。

それでは明らかに理不尽なことが起こっていても、耐え忍ぶことが常に正しいことをなのか。
喧嘩屋を自認する三上には、“正当な暴力”というものが認められない社会が、どうしても窮屈で受け入れられないのである。
異物である三上の存在そのものが現状へのアンチテーゼとなり、周りの人間、特にことなかれ主義者の津乃田の価値観を揺さぶってゆく。
彼はいわば、この社会を波風立てずに生きているごく普通の一般人の代表で、三上のような生き方を否定しつつも、どこか現状にモヤモヤとした葛藤を抱えている。
津乃田と三上は凹凸のような関係となり、やがて三上の影響を受けた津乃田、即ち観客の私たちの中でジンテーゼが生まれるという物語の仕組み。

無頼漢の三上は生活保護を申請することにプライドを傷付けられ、自動車免許の再取得に四苦八苦し、昔の仲間を頼ろうにも、既に組織は暴対法により死に体となっていることを知る。
初老ヤクザの再出発はヘビーなシチュエーションの連続だが、西川作品らしいユーモアがちょうどいい箸休め。
津乃田が三上によって変化していくように、三上自身も周りの影響を受けて変わってゆく。
暴対条例が元極道を締め上げてゆく一方で、身元引き受け人の弁護士夫婦をはじめ、町内会長でもあるスーパーの店長や、三上のために免許取得に補助金を出せないか掛け合う公務員など、身近な人々の善意が、今までその筋の人脈しか知らなかった三上に、人間同士の繋がりを実感させてゆく。
とにかく喧嘩っ早く、口より先に手が出ていた三上が、自分のために尽くしてくれた人々を思い出し、グッと拳を握りしめる描写は役所広司の名演もあって本作の白眉だ。
今まま自分だけのことを考えて生きて来た男は、ついに他人を裏切りたくないという境地まで行き着くのである。

映画は、不器用な男の葛藤に観客を感情移入させつつ、彼の周りにある厳しくて残酷だが、同時に優しく暖かい世界を対比する。
コロナ禍で人と人との繋がりが一層クローズアップされる今、非常にタイムリーな作品だと思う。
とても面白く、好きな作品なのだが、最後だけはちょっと残念だった。
まあ物語の帰結する先としては、一番収まりがいいのだろうが、この世知辛い社会で少しだけ改心したアウトローがどんな風に生きていくのか、少なくとも想像の余地は残しておいて欲しかったな。

今回は、三上が服役していた旭川の地酒、髙高砂酒造の「國士無双 純米酒」をチョイス。
前身の小檜山酒造から数えると、創業120年をこえる北海道屈指の老舗酒蔵。
國士無双は同社が1975年に発売し、日本酒業界に辛口ブームを巻き起こしたとされる銘柄で、ライバルの男山と共に、旭川を代表する地酒だ。
純米酒は比較的リーズナブルで、フルーティでスッキリした辛口はいかにも北国の酒。
北海道の山海の幸と共にいただきたい。

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