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ある人質 生還までの398日・・・・・評価額1700円
2021年03月02日 (火) | 編集 |
その地獄は、人間が作った。

心底恐ろしい映画だ。
内戦下のシリアでイスラム国(IS)系武装組織に拉致され、13ヶ月に渡り人質となったデンマーク人カメラマン、ダニエル・リューの奇跡の生還を描いた実話。
果てしない拷問、吊り上がる身代金、次々と殺されてゆく人質たち。
野蛮と絶望が支配する世界の中で、辛うじて生をつなぐダニエルと、彼の帰還のために必死の尽力を続ける家族たちの物語だ。
主人公のダニエルをエスベン・スメド、物語の後半で同じ施設に拘禁される、アメリカ人ジャーナリスのジェームズ・フォーリーをトビー・ケベルが演じる。
ダニエルの体験に基づき、プク・ダムスゴーが執筆したノンフィクション「ISの人質」を、アカデミー賞にノミネートされた「アフター・ウェディング」で知られる、アナス・トーマス・イェンセンが脚色。
監督は、オリジナル版「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」のニール・アルデン・オプレヴ。
人質交渉のプロ、アートゥア役で出演しているアナス・W・ベアテルセンが共同監督を務める。
主人公が生きて帰ったことは分かっていても、神経をとことんすり減らす、緊迫の138分だ。
※核心部分に触れています。

体操選手としてデンマーク代表に選ばれながら、怪我でキャリアを断たれたダニエル・リュー(エスベン・スメド)は、子供の頃からの夢だった写真家へと転身。
アシスタントとして渡ったソマリアで、戦争の中の日常を生きる人々の姿に魅了される。
彼が次の撮影地として選んだのが、当時アサド政権と反政府勢力との内戦が激化していたシリアだった。
自由シリア軍の許可を得て、問題のない取材のはずだったが現地の情勢が急変し、ダニエルは台頭しつつあったIS系武装組織によって拉致され、アレッポの施設に監禁されスパイと疑われて凄惨な拷問を受ける。
その頃、帰国予定の便にダニエルが乗っていないことを知った家族は、元軍人で戦地での誘拐交渉のプロ、アートゥア(アナス・W・ベアテルセン)にコンタクトをとる。
武装勢力との交渉の結果、要求された身代金は70万ドル。
それは、家族が用意できる金額を遥かに超えていた・・・・・


映画では最後に描かれているが、原作のノンフィクションは、生還したダニエルが、ジェームズ・フォーリーの葬儀のため、アメリカに向かうところから始まる。
私は本を読むまでダニエルのことは知らなかったが、フォーリーのことは覚えていた。
だから彼の名前が出てきた瞬間に、悪名高き英国出身のISの処刑人、ジハーディ・ジョンに喉を切り裂かれて殺される動画を思い出してしまった。
しかし、このフォーリーの存在こそが、ダニエルがこの世の地獄を生き抜くための、大きな力となるのである。

2011年にチェニジアで起きた“ジャスミン革命”から波及したアラブの春は、いくつかの国での体制変革につながった一方、別のいくつかの国では泥沼の内戦へと展開していった。
アサド大統領とバース党独裁政権が支配するシリアでは、いくつもの反政府勢力が政権に反旗を翻し、現在までに50万人近い犠牲者を出す内戦が勃発。
群雄割拠の状況の中で、2013年ごろから急速に勢力を拡大していったのが、いわゆるイスラム国(IS)である。
カリフ制国家建国を宣言し、中央アジアからアフリカまで、かつてのイスラム帝国の復活を目指した彼らの正体が、信じがたい残虐性を秘めた野蛮な集団だったのは、今では知らない者はいないだろう。
本作の主人公・ダニエルが、囚われの身になったのは、ちょうどISの拡大期の2013年5月。
彼がシリアに入ったのが、それまで国境の街を支配していた自由シリア軍が追い出され、ISと入れ替わった時期だったのは不運だった。

映画は、アレッポの牢獄で絶望の中を生きるダニエルと、故郷で彼の生還を信じ、身代金集めに奔走する家族、家族に雇われて解放交渉を担当するアートゥアの3トラック構成
アートゥアの交渉で、最初に要求された身代金は70万ドル。
デンマークはテロ組織と交渉しないという政策をとっているので、外務省は助言するだけ。
家族は自力で巨額の身代金を用意しなければならない。
なんとか25万ドルをかき集めるのだが、この金額で交渉しようとしたことが、事態を更に悪化させてしまう。
要求額よりもずっと低い金額を提示されたIS側は「侮辱された」として、金額を一気に200万ドルにまで引き上げてくるのだ。
もはや自力で何とかすることは出来ない額だが、身代金になることが分かっていて、募金を集めるのも違法。

法の目をかい潜り、他の名目でお金を集めようにも、あまり公にすることは出来ない。
なぜなら、ISは有名人を殺すことで名を挙げようとするので、ダニエルの名が世間に知られると、処刑リストに上がりやすくなるのだ。
ここで、日本でも大きな議論となった自己責任論が、世界共通のジレンマであり、イシューとして浮かび上がる
ダニエルようなジャーナリストたちがいなければ、世界は戦地の悲惨な状況を知ることが出来ないので、世論も動かない。
しかし人質となった彼らを助けるため身代金を払えば、それはテロ組織を利することになるのではないか。
いわゆるトロッコ問題にも通じる話だが、結局絶対の正解は無く答えは一人ひとりが出すしかない。
ダニエルにとって幸運だったのは、彼には最後まで諦めない愛情深い家族がいたことだ。
いつまで経っても自立しない弟に、厳しい言葉を投げかけていた姉が、いざとなったら一番必死に行動するあたり、劇映画としてグッとくる。

一方で、アレッポの牢獄で何の情報もなく、自暴自棄になっていたダニエルの心の救いとなったのが、8ヶ月に渡って同房となったジェームズ・フォーリーの存在だ。
トビー・ケベルが好演するフォーリーは、2012年に拉致され、この映画の時点ですでに一年近くも拘禁されていた。
ダニエル以上に絶望していてもおかしくない状況にも関わらず、フォーリーは冷静沈着でISの兵士たち相手にも諂った態度をとらず、わずかな食べ物も彼がリーダーシップを取ることで均等に分け与えられたという。
交渉人のアートゥアだけでなく、アメリカ政府もフォーリーの行方を追っていたが、対テロ組織の交渉はデンマーク以上に禁忌とされ、当時は家族が身代金を集めることすらも厳格に禁止されていた。
しかもアメリカ人の人質は、見せしめに殺せば全世界が報道する。
だからフォーリーも、アメリカが本格的にシリアに介入する前に、軍によって救出される以外、自分が助かる道はないことを知っていたはず。
「テロリストとは交渉しない」のはどの国も同じだが、実際の対応は国によって異なり、早々に身代金が支払われて出ていく人もいる。
同じ人質でも、ここで命運が分かれてゆくのである。

本作で「うーん」と思わざるを得なかったのが、人質の中で家族がいない人は解放されないという話。
なにしろ、身代金を払ってくれる相手がいない。
戦場に赴くジャーナリストは、危険な職業ゆえにあえて家族を作らない人も多いというが、そんなお一人さまがテロリストの手に落ちた場合、こちら側の交渉相手となり得るのは組織だろう。
だが、大手の通信社ほど、使用者責任があるので本当に危険な地域には自社の記者を送らない。
結果的に、本当になんのバックアップもないフリーランス中でも、家族のいない者が誰も助ける者がいないという一番最悪な状況に追い込まれる。
本作にも、家族がいないので(身代金交渉のための)生存確認すらされないというジャーナリストが出てくるが、こんなとこまでお一人さまに厳しい世の中を見せつけられると、自己責任論以前の問題として、独り者としてはちょっとショックだ。

2021年になっても、シリア内戦は続いている。
さすがにISはあまりの残虐性に、全ての内戦当事者から敵とされ、急速にその規模は縮小していったが、人質のほとんどは殺されたか行方不明。
フォーリーを殺したジハーディ・ジョンが、一年後の2015年には日本人会社経営者の湯川遥菜とジャーナリストの後藤健二を殺害したのはいまだ記憶に新しい。
そのジハーディ・ジョンも、今度は米軍の空爆で死んだ。
復讐の連鎖は変わらず続いていて、トロッコ問題は今も世界中で人々を悩ませている。
人間は、どこまで残虐になれるのだろう。
 
あまりにも緊張して喉が渇く映画だったので、観終わってビールが無性に飲みたくなった。
今回はデンマークビールの代表的銘柄「カールスバーグ」をチョイス。
風味豊かな辛口のピルスナー・ラガー。
日本人好みの味で、国内ではサントリーがライセンス生産しているので、手ごろな価格で飲めるのも嬉しい。
いつでも美味しいものを自由に食べたり飲んだりできる、平和に感謝を感じる作品であった。

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