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あのこは貴族・・・・・評価額1700円
2021年03月09日 (火) | 編集 |
一つの街、二つの階層。

門脇麦が演じる東京生まれの良家の令嬢・華子と、水原希子演じる富山から上京した庶民の娘・美紀。
同じ東京にいても、住む階層の違う二人の女性の数年間の物語。
「アズミ・ハルコは行方不明」の山内マリコの同名小説を、長編デビュー作の「グッド・ストライプス」で注目された岨手由貴子が映画化した作品。
日本映画ではあまり扱われることのない、“社会の階層”という切り口が面白い。
主人公となるのは華子で、彼女はひょんなことから美紀と知り合い、それまで知らなかった世界を垣間見て、少しずつ変化してゆく。
普段意識することのない、階層の違いを起点に、箱入り娘の気付きと成長を描いた秀作だ。

裕福な家庭に生まれ、結婚こそが女の幸せだと思っている28歳の榛原華子(門脇麦)は、恋人との仲が破談となり、焦ってお見合いを繰り返すもなかなか良縁には恵まれず。
やっと巡り合ったのが、大手弁護士事務所に勤める青木幸一郎(高良健吾)だった。
短い交際期間で結婚にこぎつけたものの、青木家は代々代議士を輩出するほどの名家で、華子にとっても初めての経験の連続。
一方、時岡美紀(水原希子)は富山の実家を出て進学のために上京するも、経済的な理由で中退を余儀なくされ、キャバクラで働くことでなんとか東京に踏みとどまる。
ある時、店に客として幸一郎が現れ、彼が大学の同級生だったことに気付いた美紀は声をかけ、一夜の関係を結ぶ。
幸一郎と美紀の仲は華子の知るところなり、二人の人生は交錯してゆく。
やがて幸一郎が一族の地盤を継いで、選挙に出馬することになるのだが・・・・


よく日本は「階級のない社会」と言われる。
確かにインドのカースト制度みたいな宗教的なものや、イギリスの様な誰が見ても分かるような社会階級はないかも知れない。
しかし「上級国民」なんて言葉が生まれる様に、見えにくいが経済力や家柄による階層の違いは明らかにあって、異なる階層の人間が触れ合うことはあまりない。
劇中、大学受験で慶應義塾に入学した美紀と友人が、内部進学組の学生にアフタヌーンティーに誘われ、ティーセットが4200円もすることにビックリ仰天。
こっそり「このこたちは貴族」と耳打ちする。
この街には「ちょっとお茶」に5000円近くかけられる“貴族”が存在していて、庶民とは異なる日常を生きている。
地方出身のごく普通の女の子が東京の洗礼を受け、おそらく人生で初めて階層の違いを意識する瞬間だ。

一方の華子は、渋谷の高級住宅地、松濤に住む裕福な開業医の娘で、庶民から見れば十分浮世離れした金持ちの階層。
映画は、華子が正月の家族の会食のため、タクシーでホテルに向かうとこからかはじまる。
この会食の描写が秀逸。
実は華子は結婚を約束していた恋人にフラれたばかりなのだが、それを知った家族は、彼女を気遣うのではなく、早速次のお見合いを勧めてくるのだ。
皆お金持ちだし、幸せそうでもあるんだが、この人たちは失恋で傷付いた華子の気持ちを癒すより、より良い条件の相手をあてがう方が優先なんだなと、ちょっとした違和感を感じさせる。
一方の華子も、勧められるままに見合いを繰り返すも、失敗の連続。
この辺りの描写はコミカルで、華子の焦る気持ちが伝わってくるので楽しいが、本人はすごく真剣。

やがて見えない天井によって隔てられた、二つの世界を繋ぐ者が現れる。
お見合いを重ねた華子が、ついに高良健吾演じる幸一郎を引き当てる。
慶應出身のエリート弁護士で、ゆくゆくは一族の地盤を継いで、政治家に転身することが決まっている、真の上級国民。
おそらく戦前ならば本当に貴族(華族)だったかもしれない、上流慣れした華子にとっても、未知の階層の人物だ。
そして幸一郎が、美紀の大学時代の同窓生で、ちょっとした関係があったことから、華子と美紀の奇妙な邂逅が始まるのである。
とは言っても、二人が仲良くなったり、敵対したりするわけではない。
物語を通して、直接会う描写もほんのわずか。
金に困らない内部進学組と違って、美紀は実家の経済的な理由で大学を中退すると、キャバクラに努めながら人脈を作り、自分の才覚で東京で社会人として生きていける地位を築き上げてきた。
それまで欲するもの全てが自動的に与えられる、自分の階層しか知らなかった美紀は、窮屈な結婚生活の閉塞の中で垣間見た、パワフルな庶民の生に動揺する。
その出会いは、華子にとっては初めて自分自身の生き方を考える、大きな機会となるのである。

華子には石橋静河が演じる逸子、美紀には山下リオ演じる里英という、同じ階層に属する気のおけない同級生がいる。
離れていても心に寄り添い、時に二人を導いてくれる彼女らとの関係性も、強い共感力があって素敵だ。
基本的に女性の生き方に関する作品で、どんな階層にあっても女性の方がより大きな生き辛さを抱えているあたりはよく描かれている。
一方で、登場人物の中で一番階層が上の幸一郎の、上級国民ゆえの閉塞や抱えているものの重みもきっちりと表現されていて、物語としてバランスがいい。
女も男も階層が上に行くほど、長年にわたる因習などに捉われ、個人よりも家の存在が前に出て人生の選択の機会が減り、金持ちだからと言って必ずしも幸せとは限らない。
家が優先の貴族的な階層にも、生きるのに必死な庶民の階層にも一長一短があり、誰もが生まれた階層から絶対に出られないという訳でもない。
生き方は結局、自分を知った上での行動の問題だということに気付いた華子は、それまでの彼女には考えられない選択をするのである。

本作で強く印象に残るのが、さまざまな葛藤のある人生を包み込む、東京という大都会の持つ包容力。
この映画に描かれる東京の情景は極めて有機的で、ある意味でもう一つの主役と言ってもいい。
この街で動く時、華子が車での移動が多い反面、美紀の足はママチャリ。
彼女が街を疾走する描写が強く印象に残り、特に里英との”2ケツ”シーンの躍動感は本作の白眉だ。
華子だけじゃなく、美紀をはじめ主要登場人物それぞれに、ちゃんとソリューションが用意されているのもいい。
観終わって「とりあえず庶民に生まれてよかった」と思えるのも、まだ日本が本当の意味での階級社会じゃないからなんだろうな。

今回は「レイディ・ビー・グッド」をチョイス。
ブランデー30ml、スイート・ベルモット15ml、クレーム・ド・ミント・ホワイト15mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
ブランデーのコク、三種類の異なる甘み、素材の個性がバランスし、さっぱりとした味わい。
大人の女性に似合うカクテルだ。

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