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騙し絵の牙・・・・・評価額1700円
2021年03月29日 (月) | 編集 |
本当に勝ったのは、誰だ?

「罪の声」が記憶に新しい、塩田武士の同名小説の映画化。
不況にあえぐ出版業界を舞台にした、とある老舗雑誌のリニューアル劇。
しかしそこには、会社の主導権争いの権謀術数が絡み合う。
21世紀の日本の青春映画のマスターピースとなった、「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督が、「天空の鉢」の楠野一郎と組んで脚色。
大泉洋が演じる怪しげな編集長は、いわば狂言回し的トリックスターで、物語的な主人公は松岡茉優演じる、文学と本をこよなく愛する若手編集者。
彼女を含め、佐藤浩一や佐野史郎、國村隼といった豪華な名優たちが、トリックスターの仕掛けた罠に翻弄される。
ネット社会の浸透で、激変しつつある「本」に関わる人たちによる、生き馬の目を抜く熾烈な騙し合いバトルは、全く先を読ませない。
※核心部分に触れています。

大手出版社・薫風社の創業家出身の社長が急死し、後継者争いが勃発。
出版不況の中、改革を進めたい専務の東松(佐藤浩市)は、前社長の息子・伊庭惟高(中村倫也)をアメリカへと追いやり、自らが社長に昇格する。
東松にとって目の上のたん瘤が、金食い虫の「小説薫風」と、後ろ盾になっている保守派常務の宮藤(佐野史郎)だった。
その頃、老舗雑誌「トリニティ」のリニューアルを進めていた切れ者編集長の速水輝(大泉洋)は、小説薫風の若手編集者の高野恵(松岡茉優)をスカウト。
速水は、小説薫風の人気作家・二階堂大作(國村隼)を引き抜き、高野が目をつけていた新人作家の矢代聖(宮沢氷魚)にも声をかける。
この動きは、全て小説薫風と宮藤に対する東松の揺さぶりだった。
それぞれ腹に一物を持つ、重役、編集長、編集者、作家たちの生き残りをかけた暗闘が始まる・・・


原作は未読。
聞くところによると、けっこう変わってるらしいが、非常に面白い。
トリニティ、つまりは「三位一体」という意味深な名前の雑誌のリニューアルのため、大泉洋演じる速水がいろいろ仕掛けるのだが、彼の真意が計り知れないこともあり、中盤くらいまでは物語がどこへ向かってゆくのかがなかなか見えない。
こういう作劇は、下手をすると観客の興味を失わせてしまう危険をはらむが、本作の場合はキャラクターの掛け合いの面白さと、一つの展開が次の展開を生むテンポが心地良く、飽きさせない。
全体的には、トリニティ編集部内の雑誌の方向性を巡る対立が中心となり、その外側を小説薫風とトリニティの対立、さらにその外側に薫風社の経営方針を決める会社上層部の対立が包んでいるという、俯瞰で見ると同心円状に広がる、蜘蛛の巣のような構造が見て取れる。
それぞれの対立構造の裏側から、トリックスターの速水が糸を引き、物語終盤になって「騙し絵」の全体像がようやく姿を現す。

トリニティの内部の対立は、「面白ければ何でもいい」という速水が、どんどん小説色を強めようとすることへの反発。
それも、ただ高野をスカウトして小説家を連れてくるのではなく、例えば名作小説の漫画化だとか、池田エライザ演じる隠れて同人誌を書いてる銃器マニアのモデルに声をかけたり、宮沢氷魚のイケメン新人小説家をモデルのように扱って売り込んだり、常に話題作りとリンクしている。
そんな速水の邪道な戦略は、当然ながら伝統的な小説雑誌である小説薫風と対立することになるのだが、これは初めから仕組まれていたこと。
全ては小説薫風の後ろ盾である、保守派の宮藤を追い落とすための東松の作戦なのである。
では東松が何をやろうとしているかというと、出版取次を廃止して、出版社が本を直販するシステムの構築だ。

日本の出版業界では出版社と書店の取引に、出版取次と呼ばれる問屋が介在し、出版業界の「三位一体」を形作る。
書店は出版社ではなく、取次に本を注文することで、本が卸される。
他の多くの商品と違って、本は売れなければ返品されるが、これも取次の仕事。
取次は本の出荷と返品処理を、一手に引き受けてくれる便利な存在なのだ。
また、出版される膨大な数の本全てを、書店側が把握していることはあり得ないから、委託配本制度というものがあり、書店が注文していない本も卸されてくる。
これも担当している書店でどんな本が売れているのか、どのくらいのキャパシティがあるのか、取次の持つデータとノウハウが問われる。
本作の劇中で、小さな書店を経営している高野の父が、顧客の誕生日の注文に間に合わせるために、大型書店に本を買いに行く描写があるが、これも取次を介しての注文だと、どうしても日数がかかってしまうからなのだ。
まあ色々とメリットも大きいのだが、当然ながら中間マージンを取られる訳で、東松はコスト削減のために大規模な流通センターを作って本の直販に乗り出そうとしていて、それに反対しているのが伝統主義の宮藤という構図。

しかし、ここまでなら構図は複雑でもごく普通のお仕事映画。
この作品の面白さは、自分が実際に何をしているのか、多くの登場人物は理解していないということにある。
本作の冒頭、犬を散歩させている老人が映し出される。
犬は次第にペースを早め、リードを握っている老人は無理な速度で引っ張られて、遂には亡くなってしまうのだ。
実はこの人が、薫風社の社長。
この描写が象徴する様に、誰もが自分がリードを握っているつもりでも、実際には他の誰かに走らされている
単純な地位の優劣ではなく、組織や業界の中で、誰がグランドデザインの主導権を持っているのかが重要。
薫風社を舞台とした権謀術数は、速水が全ての糸を引く。
走らされていたのは、社長となった東松も例外ではないのだ。

吉田大八は、「桐島、部活やめるってよ」で、桐島という軸を失ったことで、解体されてゆく学園という社会を、静かな熱情と共に描いた。
対してこの作品では、先代社長を失い解体されてゆく組織を、速水となかなか表に出てこないある人物が、人知れずまとめ上げ、グランドデザインのもとに再生してゆく
組織の中にあっても“フリー”であることを標榜する速水は、最初は何を考えているのかわからないが、終盤にきて本気で出版の未来を考えて、「面白いもの」を作ろうとしていることが明確になる。
しかし彼とて、すでにあるシステムの中にいて、真に自由ではないのだ。
速水とある人物は、日本の出版業界の形を変える、大きな「騙し絵」を完成させるのだが、ではその絵を描かせたのは誰か。
そこには、薫風社をも包み込む、作中の世界観を超える対立構造が存在しているのである。

では、今の社会で誰かに走らされない生き方は出来ないのか。
この問いに対する答えが、速水に翻弄され続けた高野の最後の選択だ。
世界的に消滅しつつある、街の書店の娘である彼女は、驚くべきスタートアップを立ち上げる。
指一つで世界中の本が注文できる時代にあって、彼女が作ったのは出版もする本屋。
つまりどんなに欲しい本でも、その店に行かないと手に入らない、既存の出版業界のシステムから完全にスタンドアローンの状態で存在する本屋。
確かに目新しいアイディアで、劇中でも話題になっていたし、一見希望的に見えるけど、彼女が出版した第一号の本の値段を聞いてぶっ飛んだ。
一冊、なんと35000円なり。
これは要するに、現在のような流通システムが整備される前の出版業界への先祖返りだ。
彼女の会社はなんとか生き残っていけるかもしれないが、35000円の本を手に出来るのはぶっちゃけ富裕層だけで、文学を真に愛するほとんどの読者には届かないだろう。
高野にとってこれは、ハッピーエンドなのか、それともバッドエンドなのか
もしかすると、作り手の意図とは違う解釈かも知れないが、私はこの結末に深く考え込んでしまった。
現在の資本主義社会では、大切な何かとトレードオフしなければ、自由に生きることはできないのだろうか。
むしろ、しがらみで雁字搦め中でも、最後の最後までひたすら「面白いもの」を追求する、速水の反骨精神が印象的だった。

今回は、大泉洋のイメージで「エル・ディアブロ」をチョイス。
テキーラ45ml、クレーム・ド・カシス15ml、レモン・ジュース10ml、ジンジャーエール適量を氷を入れたタンブラーに注ぎ入れ、軽く混ぜる。
最後にスライス・レモンを飾って完成。
ディアブロとは悪魔のこと。
ルビー色の魅惑的なカクテルで、本作のキャタクター同様に、刺激的ではあるが酸味が効いてスッキリした味わいが特徴。
飲みやすいが、かなり強いので、飲み慣れない人だと高野みたいに酔い潰れちゃいそう。

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