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茜色に焼かれる・・・・・評価額1750円
2021年05月27日 (木) | 編集 |
絶望の中で、燃え盛る。

めっちゃヘビーで痛いけど、目が離せない。
中学生の息子の視点で描かれる、母さんの生き様の物語。
7年前に夫を交通事故で亡くしたシングルマザーに、ありとあらゆる理不尽が降りかかる。
そのどれもが、最近どこかで聞いたような話。
彼女はいわば、今の日本で苦しんでいる生活弱者の象徴みたいなキャラクターだ。
石井裕也監督作品では、2017年の「夜空はいつでも最高密度の青色だ 」に並ぶ、キャリアベストの仕上がりと言っていいだろう。
ほとんど出ずっぱりで主人公の田中良子を演じる、尾野真千子が素晴らしい。
間違いなく、彼女の代表作の一つとして記憶されるだろう。
語り部となる13歳の息子を、和田庵が演じる。
これは、コロナ禍の今の時代を映し出した、懸命に生きる庶民の物語だ。

元舞台女優の田中良子(尾野真千子)は、7年前にミュージシャンだった夫の陽一(オダギリジョー)を、高齢ドライバーのアクセルとブレーキの踏み間違え事故で亡くした。
加害者から謝罪がなかったことを理由に、賠償金の受け取りを拒否し、今は13歳になる息子の純平(和田庵)と共に、公営団地で暮らしている。
経営していた小さなカフェはコロナ禍でつぶれ、昼はホームセンターの生花コーナーで、夜は繁華街のピンサロで働いて日銭を得ているが、養父の介護施設費や、陽一が外で作った子供の養育費まで背負い込んでいるので家計は常に苦しい。
生きづらい世の中に翻弄されながらも、純平の前では決して怒りや悲しみを見せることなく、気丈に振る舞う毎日。
どんな苦しい時にも穏やかで「まあ頑張りましょう」が口癖の母の生き方が、純平にはもどかしく思えて仕方がない。
そんなある日、ピンサロの同僚のケイ(片山友希)と飲んだ良子は、珍しく隠していた本心を吐露し、酔い潰れてしまうのだが・・・・


本作は、石井裕也監督の前作「生きちゃった」の裏表の様な作品だ。
「生きちゃった」では、本音を言えない主人公の仲野太賀が、大島優子演じる幼馴染と結婚していて、5歳の娘を授かっている。
だが彼のささやかな幸せは、自分自身が知らないうちに壊れてしまう。
そして、一度歪んでしまった世界は、粉々に弾け飛ぶまで歪み続けるのだ。
妻の不倫からはじまる際限のない負の連鎖によって、平凡だと思っていた人生が、あっけなく壊れてしまう展開は、本作とも共通する。
重複するキャストも多く、例えば大島優子を絶望へと追い込むヤクザ者を演じている鶴見辰吾が、本作では主人公の人生をめちゃくちゃにした事故の加害者遺族だったり、キャラクターと配役にも意図を感じる。
仲野太賀は全てが壊れてしまった後、夫婦共通の幼馴染み役の若葉竜也に「(たとえ不幸にしてしまったとしても)出会っちゃったんだから」と本音の心情を吐露するが、この台詞が本作の「愛しちゃったんだから」に繋がるのは明らかだ。
しかし、2019年に公開された「生きちゃった」と本作が決定的に異なるのは、コロナ禍という現実を背景とした圧倒的なリアリティである。

冒頭、陽一の事故の様子が、ニュース番組の再現CG画面を交えて描かれる。
この事故は明らかに2019年に起こった池袋暴走事故をモチーフにしており、これは攻めた映画だぞ、と端的に感じさせる秀逸なオープニング。
ちなみにオダギリジョーは、このシーンのみ出演という贅沢さだ。
理不尽な事故によって夫を亡くしたにもかかわらず、良子は加害者が一言も謝罪しなかったために賠償金の受け取りを拒否。
純平を育てるためにカフェを経営するも、コロナ禍によって閉店を余儀なくされる
家賃の安い公営団地に暮らし、昼はホームセンターのパート、夜はピンサロで働き、爪に火をともすようにして生きている。
しかも、陽一が亡くなって7年も経っているのに、養父が入所している介護施設費に、夫の愛人の娘に養育費まで払い続けているのだ。
彼女が収入を得たり、何かにお金を使うたびに、その金額が生々しい数字として表示される。
収入は「ピンサロ時給:3200円」「パート時給:930円」で、支出は「家賃:27000円」「養育費:70000円」「介護施設費:100000円(良子の負担分)」その他諸々だから、普通に考えたら足りるわけがない。

そんなどん詰まりの状況でも、良子の口癖は「まあ、頑張りましょう。」
本作の語り部でもある純平は、母の気持ちが理解できない。
もっと本音を言えばいいのに、嫌なことにはもっと怒ればいいのにと思っている。
色々問題のある陽一を「愛しちゃった」代償に、全ての理不尽を正面から受け止めながら、元舞台女優の良子はずっと演技をしている
演技しすぎて、本当の自分が分からなくなるくらい。
そして彼女を崖っぷちに追いやるのは、卑屈な薄ら笑いを浮かべる男たち。
事故の加害者の弁護士、良子をリストラするホームセンターの上司、侮蔑的な言葉を投げかけるピンサロの客、そして彼女の恋心を弄ぶ同窓生。
どいつもこいつも、上から目線で良子を蔑み、彼女の心を削ってくる。
しかし彼女は知っている。
この男たちも、所詮は誰かの手のひらで転がされている、良子よりもほんの少しだけマシな立場の弱者に過ぎないことを。
中盤、ピンサロの同僚で、良子以上に過酷な人生を送っているケイが、彼女を飲みに誘う。
酒の勢いも借りながら、良子が隠していた本心を吐露するシーンは本作の白眉だ。

「まあ、頑張りましょう」は、自分自身と周りに向けた、心を落ち着かせる呪文であるのと同時に、諦めの言葉
気丈に見える美子も、深く傷つき、ギリギリの心の状態でなんとか暮らしている。
しかしどんなに生き辛くても、「愛しちゃった」結果としての最愛の息子がいる限り、彼女は人生への希望を失わない。
てんこ盛りの理不尽が燃料となり、痛んで廃棄されてもなお咲き誇る生花のように、傷付きながらも茜色の夕空のように燃え盛るのだ。
燃え尽きてはいけない。燃え続けなければならない。
母なる者、女なる者の情念の塊のような尾野真千子が、圧巻の存在感。
ここに描かれるのは、社会正義が蔑ろにされ、強者が弱者を、弱者がさらなる弱者を搾取する現在の日本の縮図だ。
いつからこうなってしまったのか、それは分からないが、コロナ禍によってハッキリと顕在化された世知辛い社会。
国民の誰もが理不尽を感じた2019年の事故から始まり、2021年の緊急事態宣言下でオリンピック開幕準備に突き進む、まことに滑稽なるこの国で、踏みつけられたままの人たちが無数にいる。
良子と純平の激しい生命力、薄幸なケイの絶望、そして永瀬正敏が演じるピンサロ店の店長の達観が体現するのは、そんな世界に抗う我々庶民の生き様であり、死に様だ。
もがき苦しみながらも、誇りだけは失わず前を向いて歩んでゆく、コロナの時代の鮮烈な日本人のドラマは、大いなる問題提起を伴っている。

今回は、タイトルつながりで長野県の土屋酒造の「茜さす 純米大吟醸」をチョイス。
佐久酒の会が手がける、農薬無散布栽培の酒米・美山錦の一番最良な部分のみで醸される純米大吟醸。
雑味はなく、滑らかな絹のようなきめの細かい舌触りと、豊かな吟醸香。
米の持つ上品な甘味、旨味が楽しめ、最後は辛味が残る上質な日本酒だ。

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