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竜とそばかすの姫・・・・・評価額1750円
2021年07月18日 (日) | 編集 |
あなたは、いったい誰?

驚くべき未見性を持った傑作だ。
米国アカデミー賞にノミネートされた「未来のミライ」など、家族をモチーフとした作品を作り続けてきた細田守監督の最新作は、世界50億の人々が利用する仮想世界「U」と、高知県の田舎町という二重世界を舞台とした物語。
母を亡くした孤独な少女すずが、ひょんなことから「U」の世界を魅了する歌姫「ベル」となり、人々に忌み嫌われる謎めいた存在である「竜」の正体を探し、魂を救おうとする。
原作・監督・脚本はもちろん細田守。
音楽が重要な要素となっている本作で、主人公のすずを演じるのはシンガーソングライターの中村佳穂。
「U」の世界のキャラクターデザインに、「アナと雪の女王」「ベイマックス」などのディズニー作品のJIn Kim、プロダクションデザインに架空都市の設計で知られる英国人建築家のEric Wongが起用されるなど、海外アーティストとの異色のコラボレーションも見ものだ。
※核心部分に触れています。

緑豊かな高知県の田舎に住む内藤すず(中村佳穂)は、17歳の高校生。
幼い頃から母と共に歌うことが大好きだったが、6歳の時に母が事故で亡くなったショックで人前で歌うことが出来なくなってしまった。
誰に聞かせるでもなく、一人で曲を作ることだけが楽しみだったある日、友人のヒロちゃん(幾田りら)に誘われて、世界50億の人々が利用する巨大な仮想世界「U」に参加することに。
自動生成される「As」と呼ばれるアバターに、「ベル」というハンドルネームをつけたすずは、仮想世界でなら自然に歌うことが出来た。
謎のディーバの歌声は瞬く間に「U」の世界を席巻し、スターとなったベルは数億人が集まるライブを開催することになる。
だが、会場には「竜」(佐藤健)と呼ばれる謎の存在が現れ、彼を追う者たちとの戦闘でライブはメチャクチャになってしまう。
竜の正体は何者なのか。
世界中で噂が飛び交う中、興味を持ったすずも、ヒロちゃんと共に彼の正体を探り始めるのだが・・・


仮想世界「U」のインフォメーションから始まるオープニングのビジュアルイメージは、12年前のヒット作「サマーウォーズ」とそっくりだ。
実際「U」の世界は「サマーウォーズ」の「OZ」とよく似ているが、ハンドルネームとパスワードでログインしていた「OZ」に対して、「U」はイヤホン型のディバイスを装着することによって、生体情報を読み取り仮想世界に体感的にログイン出来るという違いがある。
また「As」と呼ばれるアバターも、本人の容姿や関心事などを元に自動生成される仕組み。
もしかすると、「OZ」が進化して「U」となった設定なのかも知れない。
クジラも相変わらず飛んでるし。
もっとも「サマーウォーズ」の原点たる「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」から数えると、細田監督がインターネットをモチーフとするのは今回が三回目。
本作の予告編を初めて観た時、あまりにも「サマーウォーズ」ライクな世界観に、「ネタ切れか?」と心配になったのだが、実際には仮想世界と現実世界を行き来する以上の共通点はなく、物語としては全くの別物だった。

今回の主人公は、全てに自信がない17歳の高校生のすず。
すずが6歳の時に、彼女の母は増水した川に取り残された少女を救おうとして事故死。
歌うことが大好きだったすずは、このことに大きなショックを受けて、以来人前で歌うことが出来なくなってしまう。
最愛の母の喪失以来、大好きだったものと距離を置いてしまうのは、つい最近公開された「いとみち」とも共通する。
殻を作って閉じこもるすずは、幼なじみで初恋の人のしのぶくんとも素直に話せなくなってしまっているのだが、唯一の友だちと言える毒舌ギークなヒロちゃんの勧めで、「U」の世界に足を踏み入れる。
リアルだけど、現実とは違うもう一つの世界で、彼女は「ベル」というAsを作る。
なぜかすずが憧れる学園一の美女ルカちゃんとよく似ていて、すずのトレードマークであるそばかすのあるベルは、その透きとおった歌声によって一躍「U」の世界のディーバとなるのだ。
この辺りは、「U」の様な仮想世界ではなくても、SNS初のヒット曲が数多く生まれている現実からも、リアリティは十分。

現実でも仮想でも、すずの感じている世界は円形で、どちらも中心になる人物がいる。
高校での中心は華やかなルカちゃんで、冴えない自分がいるのは円の端っこ。
ところが「U」の世界では、ルカちゃんに似た自分が中心となってしまうのだ。
少しの罪悪感と場違い感に苛まれながらも、すずは仮想世界のベルとして自分を開放してゆく。
しかし、スターとなったベルがライブを行おうとしていた時、「龍」と呼ばれる謎のAsが現れ、「U」の秩序を守る自称正義の自警団と戦いライブをめちゃくちゃにしてしまう。
ここからがこの映画の本題だ。
日本語では龍と呼ばれいてるが、文字表記は「Beast」
ベルとビースト、そうこの映画はディズニーアニメーション版の「美女と野獣」に、熱烈なオマージュを捧げた作品であり、Jin Kimの起用もこのためだろう。
ベルと竜のキャラクターと音楽劇というだけでなく、屋敷の召使にあたるキャラクターや、仮想世界の正義を語るガストンっぽい奴もいる。
また二人が出会ってからの基本プロットに、伝説的なボールルームでのダンスシーンまで踏襲しているのだから、これはガチだ。
実は数年前に「美女と野獣」がTV放送された時、細田監督が猛烈な勢いで絶賛ツイートを連発していて、よっぽど好きなんだなあと思った記憶があるのだが、当時すでにこの映画を構想していたのかも知れない。

ディズニー版「美女と野獣」の最大の特徴が、それ以前の版とはキャラクターの役割が逆なこと。
見た目の印象だけで野獣を怖がるベルを、知的で親切な野獣が啓蒙するのではなく、魔女の呪いで野獣に姿を変えられ、すっかりひねくれてしまった王子を、聡明で地に足をつけたベルが救い出す物語となっている。
本作もまた、竜の正体に興味を持ったすずが、傷付いた彼を救おうと奮闘する。
ただ、この動機の部分はちょっと弱く、なぜすずが自分のライブを壊してしまった竜にこだわるのか?という疑問は最後まで残る。
本作は細田監督が自分で脚本を担当して三作目にあたるが、いまだに構成は不得手と見えて、娯楽映画としての観やすさ、流れのスムーズさは、やはりかつてコンビを組んでいた奥寺佐渡子には及ばない。
一方で、映画作家として描きたいことはより純化されていて、いわば夏休み娯楽大作の仮面をつけたゴリゴリの作家映画となっている。
当然アンバランスな部分もあるので、この作品の作家性に共鳴できるかどうかが、評価の分かれ目になるだろう。

私は、細田守は基本的に私小説作家だと思っている。
結婚し家族が増えたら、大家族の物語である「サマーウォーズ」を、子供が欲しいと思ったら「おおかみこどもの雨と雪」を、実際に子育てが始まると「バケモノの子」を、二番目の子供が出来たら「未来のミライ」を。
完全に自分の人生をベースとして、リンクする形で物語を作っている。
そして「未来のミライ」で、家族のクロニクルという究極系をやった後になる本作では、一度喪失という形で家族を解体し、その上で見つめ直しているのである。
だから軸足はあくまでも現実。
竜の正体を探すすずの挑戦は、やがて過酷な現実を生きる子供たちに行き着く。
支え合う大家族の物語だった「サマーウォーズ」では、主たる合戦が行われるのは仮想世界。
対してこの作品では仮想世界は、現実を救うための助けにはなるが、あくまでも副次的な装置に過ぎない。
AIのラブマシーンを倒すのは、仮想世界でなければ出来ないが、本当はDVに苦しむ子供である竜を救うのは現実でしかあり得ない。

そのために、現実世界の竜の居場所を探すすずは、彼の信頼を得るために華麗に着飾ったベルの仮面を脱ぎ捨て、本当の自分の姿を「U」の世界に晒すのである。
ディズニーが連発する「ありのままで」に対するアンサーとも思えるすずの行動は、彼女がずっと理解できなかった母の行動ともシンクロする様に描かれている。
自分の子供を不幸にしてまで、自らの命をかけて他人の子を救った母の様に、すずもまた勇気を振り絞って50億人の前にコンプレックスだらけの自分をさらけ出し、素顔のまま大好きな歌を歌い、現実では自分よりずっと強い大人の男と対決して子供たちを救うのだ。
本作には日本の政財界にも影響力を持つ様な大家族は出てこないが、朴訥な父だけでなく、亡き母の合唱団の友人たちも、親戚のおばちゃんのノリですずを見守っているし、幼なじみのしのぶくんもずっとすずのことを気にかけている。
この拡張家族とも言うべき共同体、たぶんこれがこれが今の細田監督にとっての、家族のあるべき姿なんだと思う。
そして、文字通りに卵の殻を破ったすずの成長は、世界観の変化をももたらす。
円の中心にいるはずだったルカちゃんも、ごく普通の悩みを抱えた同世代で、すずの世界は閉じられた円から、どこにも中心のない”可能性”という名の無限のフィールドと変化するのである。

もちろんアニメーション作家細田守は、感情移入を誘う物語だけでなく、作り上げるデザイン性抜群の世界でも魅せる。
現実のアナログ、「U」のデジタルのミックスビジュアルは圧巻で、技術的には今日の日本で作り得る、最高レベルの作品と言っていいだろう。
また本作は「美女と野獣」を受け継ぐ音楽映画でもあり、音楽性は極めて高く、中村佳穂の歌う楽曲の数々は心を打つ。
声優は初挑戦だそうで、演技としては上手いとは言えないが、朴訥な不器用さがすずのキャラクターにぴったり。
「龍」を演じるのは佐藤健だが、この大きな傷を抱えたキャラクターへのキャスティングは、やはり「るろうに剣心」での好演があってのことではなかろうか。
物語を通して、すずは理想の自分と現実の自分の折り合いをつけ、母に近づく大人の階段を一歩上がる。
そして傷ついた「竜」もまた、彼女に力強く背中を押されて、運命に抗う決意をする。
物語の中で全てに決着がつくわけではないが、現在進行形の青春の物語はこれで良かったと思う。
「おおかみこどもの雨と雪」でも印象的だった、雨上がりの空に立ち上がる、積乱雲の瑞々しさと言ったらもう。
梅雨明けの日に観るのに、これほど相応しい作品があるだろうか。

今回は、舞台となる高知の地酒「酔鯨 純米吟醸 吟麗」をチョイス。
「U」でもクジラ飛んでことだし。
やや辛口のスッキリしたキレ重視。
酸味や苦味など「味の五味」を引き出し、味わいの幅を広げることを目標としたと言う。
純米吟醸としては香りは控えめだが、重くなく非常に飲みやすい。
高知の美味い肴と一緒に、グイグイといきたくなる。

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