2021年09月09日 (木) | 編集 |
人生の新章に乾杯!
「偽りなき者」のトマス・ヴィンターベア監督が、同作に主演したマッツ・ミケルセンと再タッグを組み、本年度アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞した話題作。
ホントかウソか分からないが、人間の血中アルコール濃度は0.05パーセントがベストらしい。
仕事の効率は良くなり、プライベートも上手くいく。
それを知ったマッツ演じるマーティンら四人の冴えない中年教師たちが、飲み続けることで血中アルコール濃度を0.05に保つ“実験”を始める。
冒頭で彼らの生徒たちが、ビール1ケースを全て飲み干しながら、走って湖を一周するというとんでもないレースをやっている。
一見すると高校生なのだが、オフィシャルに酒飲んでるということは大学生?と戸惑ったが、デンマークでは16歳からお酒飲んでいいらしい。
寒い国でアルコールが欠かせないとは言っても、何という呑んべえ天国!
実験に参加する四人に共通するのは、いわゆるミドルエイジクライシスだ。
義務的に仕事をこなしているだけで、かつてのような情熱は失われている。
家庭でも家族が遠く感じ、会話が殆どない。
自分の人生が、どこへ向かおうとしているのか分からない。
歴史教師のマーティンは、何を教えたいのかも不明瞭だから授業が支離滅裂となり、生徒からもダメ出しされている。
そんな人生どん詰まりの状態が、何か変わるのではないか?というほのかな期待を抱いて、彼らは飲み始めるのだ。
血中アルコール濃度が0.05という状態は、いわゆるほろ酔い。
もちろん人によって差はあるだろうが、一般的に気が大きくなって饒舌になり、気分は高揚する。
酔っ払うプロセスで、一番楽しい時間だ。
授業を面白くするアイディアも湧き出てきて、やる気の無い不人気教師だったのが、0.05パワーで生徒たちに大ウケ。
夫婦仲も一時的に良くなり、家族の距離も縮まって感じられるようになる。
面白いのは生徒の飲酒に寛容なのに、学校は校内への酒の持ち込みには厳しくて、マーティンたちも決して飲酒運転はしないこと。
この辺りはやっぱり教育者だけあって、一線は引いてますということだろう。
しかし、0.05で効果があったのだから、今度は0.1パーセントにしたらどうだろう、やがては制限を無くしたらどうなるか・・・。
設定は完全に「ハングオーバー」系なんだけど、こちらの登場人物は人生に疲れ切ったおっさんたちだ。
ぶっ倒れるまで飲んでみても、若者と違って簡単には回復せず、ほろ酔い気分の時は良好だった家族仲にも再び亀裂が入ってしまう。
ずっと飲み続けている訳だから、アルコール中毒の症状も出て来る。
そして遂に、ある悲劇が起こってしまうのだ。
ユーモラスではあるが、どちらかと言うとミドルエイジクライシスからの、ほろ苦い人生の悲哀と小さな希望の物語。
お酒は基本的に楽しいものだけど、飲み方次第で毒にも薬にもなり、それ自体には人生を変える力はない。
映画の冒頭、デンマークの哲学者セーレン・キルケゴールの、「青春とは?夢である」「愛とは?夢の中のものである」という言葉が引用される。
この言葉の意味を反芻しながら映画を観ていると、終盤にもキルケゴールに言及がある。
冒頭と終盤の二回のキルケゴール、この間に何が変化したのかがこの作品の核心だ。
希望に満ちた青春も愛の熱情も、老いと共に失われてゆき、その先には絶望が横たわっている。
絶望を打ち消すには、己が弱さを認め、自分自身の問題から逃げずに向き合わねばならない。
序盤のうちは「この酔っ払いのおっさんたちの話がオスカー?」と思ったが、終わってみるとなかなかディープで納得の仕上がりだった。
アルコールの力をちょっと借りて、人生の新章に向かうマッツの、キレッキレのダンスがカッコ良すぎる。
色んな種類の酒が出てくる作品だが、ここはやっぱり祝祭のイメージでシャンパン。
モエ・エ・シャンドンの定番中の定番、「アンペリアル」をチョイス。
フルーティで爽やかな口当たりで、きめ細かな泡の余韻が長く残る。
辛口でバランスのいい一本だ。
記事が気に入ったらクリックしてね
「偽りなき者」のトマス・ヴィンターベア監督が、同作に主演したマッツ・ミケルセンと再タッグを組み、本年度アカデミー賞の国際長編映画賞を受賞した話題作。
ホントかウソか分からないが、人間の血中アルコール濃度は0.05パーセントがベストらしい。
仕事の効率は良くなり、プライベートも上手くいく。
それを知ったマッツ演じるマーティンら四人の冴えない中年教師たちが、飲み続けることで血中アルコール濃度を0.05に保つ“実験”を始める。
冒頭で彼らの生徒たちが、ビール1ケースを全て飲み干しながら、走って湖を一周するというとんでもないレースをやっている。
一見すると高校生なのだが、オフィシャルに酒飲んでるということは大学生?と戸惑ったが、デンマークでは16歳からお酒飲んでいいらしい。
寒い国でアルコールが欠かせないとは言っても、何という呑んべえ天国!
実験に参加する四人に共通するのは、いわゆるミドルエイジクライシスだ。
義務的に仕事をこなしているだけで、かつてのような情熱は失われている。
家庭でも家族が遠く感じ、会話が殆どない。
自分の人生が、どこへ向かおうとしているのか分からない。
歴史教師のマーティンは、何を教えたいのかも不明瞭だから授業が支離滅裂となり、生徒からもダメ出しされている。
そんな人生どん詰まりの状態が、何か変わるのではないか?というほのかな期待を抱いて、彼らは飲み始めるのだ。
血中アルコール濃度が0.05という状態は、いわゆるほろ酔い。
もちろん人によって差はあるだろうが、一般的に気が大きくなって饒舌になり、気分は高揚する。
酔っ払うプロセスで、一番楽しい時間だ。
授業を面白くするアイディアも湧き出てきて、やる気の無い不人気教師だったのが、0.05パワーで生徒たちに大ウケ。
夫婦仲も一時的に良くなり、家族の距離も縮まって感じられるようになる。
面白いのは生徒の飲酒に寛容なのに、学校は校内への酒の持ち込みには厳しくて、マーティンたちも決して飲酒運転はしないこと。
この辺りはやっぱり教育者だけあって、一線は引いてますということだろう。
しかし、0.05で効果があったのだから、今度は0.1パーセントにしたらどうだろう、やがては制限を無くしたらどうなるか・・・。
設定は完全に「ハングオーバー」系なんだけど、こちらの登場人物は人生に疲れ切ったおっさんたちだ。
ぶっ倒れるまで飲んでみても、若者と違って簡単には回復せず、ほろ酔い気分の時は良好だった家族仲にも再び亀裂が入ってしまう。
ずっと飲み続けている訳だから、アルコール中毒の症状も出て来る。
そして遂に、ある悲劇が起こってしまうのだ。
ユーモラスではあるが、どちらかと言うとミドルエイジクライシスからの、ほろ苦い人生の悲哀と小さな希望の物語。
お酒は基本的に楽しいものだけど、飲み方次第で毒にも薬にもなり、それ自体には人生を変える力はない。
映画の冒頭、デンマークの哲学者セーレン・キルケゴールの、「青春とは?夢である」「愛とは?夢の中のものである」という言葉が引用される。
この言葉の意味を反芻しながら映画を観ていると、終盤にもキルケゴールに言及がある。
冒頭と終盤の二回のキルケゴール、この間に何が変化したのかがこの作品の核心だ。
希望に満ちた青春も愛の熱情も、老いと共に失われてゆき、その先には絶望が横たわっている。
絶望を打ち消すには、己が弱さを認め、自分自身の問題から逃げずに向き合わねばならない。
序盤のうちは「この酔っ払いのおっさんたちの話がオスカー?」と思ったが、終わってみるとなかなかディープで納得の仕上がりだった。
アルコールの力をちょっと借りて、人生の新章に向かうマッツの、キレッキレのダンスがカッコ良すぎる。
色んな種類の酒が出てくる作品だが、ここはやっぱり祝祭のイメージでシャンパン。
モエ・エ・シャンドンの定番中の定番、「アンペリアル」をチョイス。
フルーティで爽やかな口当たりで、きめ細かな泡の余韻が長く残る。
辛口でバランスのいい一本だ。

記事が気に入ったらクリックしてね
スポンサーサイト
| ホーム |