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ショートレビュー「カラミティ・・・・・評価額1700円」
2021年09月27日 (月) | 編集 |
大平原の風が、少女を呼ぶ。

西武開拓史にその名を残す傑物、カラミティ“疫病神”・ジェーンの少女時代を描く物語。
男の子と喧嘩ばかりしていた勝ち気な開拓民の少女マーサ・ジェーン・カナリーは、いかにしてフロンティアのレジェンドとなったのか。
輪郭線が存在せず、色の組み合わせで構成されるカラフルなアニメーションで、まだ何者でもない少女の冒険を描くというコンセプトは、レミ・シャイエ監督の前作「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」からそのまま地続き。
極北と荒野と舞台は真逆だが、共に時代は19世紀で物語の基本構造もよく似ている。
頼りになる犬と、友になる男の子がいるのも共通だ。

インディアン戦争の時代、プロの斥候として、また射撃の名手としても知られたカラミティだが、本作はリアルな人物を描写したものとはちょっと違う。
彼女の人生は謎が多く、自叙伝でも盛ってる部分が多くあると言われる。
カラミティやワイルド・ビル・ヒコック、バッファロー・ビルといった当時の著名な開拓者たちは、アメリカ最初の“アベンジャーズ”みたいなもので、自分の冒険をいろいろ脚色して語るセルフ吟遊詩人でもあった。
自らの語った物語や、後年作られたメディアによって人物像が作られていったのである。
カラミティも、晩年にバッファロー・ビルが主催したワイルドウエストショーに自ら出演し、後年には多くのエンターテイメントで描かれた。
セシル・B・デミル監督の「平原児」では、恋愛体質のカラミティをジーン・アーサーが艶っぽく演じ、ドリス・デイ主演のミュージカル「カラミティ・ジェーン」には、口が悪くて喧嘩っ早い陽気なカラミティが登場する。

史実のカラミティは、11歳だった1866年に家族と共にミズーリからモンタナ、最終的にはユタへと移り住み、このワイルドな旅の過程で、自然の中で生き抜き、後にプロの斥候というキャリアに繋がる多くのスキルを身につけたとされる。
映画は目的地をオレゴンに変更し、幌馬車隊の一員として旅するカラミティに何が起こったのかを、史実をベースに想像力を駆使して脚色してゆく。
幌馬車隊は保守的な旅団長のアブラハムに率いられ、性によって求められる役割と振る舞いが厳格に決められている。
女性は馬に乗ることや、家畜を扱うことはせず、炊事や洗濯、育児、薪拾いなどをこなす。
しかし自尊心が強く、なんでも自分でやってみたいカラミティは、そんな現状に満足せず、父のロバートが怪我をしたことを切っ掛けに、ズボンをはき馬に乗り、馬車を操るようになる。
当然、幌馬車隊では異端児で、アブラハムを筆頭によく思わない者も多い。

そして、ある事件をきっかけに、カラミティは一人で四ヶ月に及ぶ大冒険に旅立ち、危機また危機の連続を幸運な出会いと自分の才覚で乗り切ってゆくのである。
パイオニアとして道を切り開く、ワクワクするエピソードの数々は、82分しかないとは信じられないくらいてんこ盛り。
幌馬車の旅から始まる物語は、荒野から大森林、開拓者の街、金鉱の洞窟、騎兵隊駐屯地と次々に舞台を移し、西部劇へのオマージュたっぷりにコミカルなアクションを見せてくれる。
色の組み合わせによって表現される世界も、とても美しい。
アメリカを旅すると、本当に絵具をぶち撒けたんじゃないかというカラフルな風景を多く目にするのだが、アリゾナは赤、コロラドは白と、土地によってキーカラーが変わるのが面白いのだ。
本作の手法はこのランドスケープの表現にぴったりで、スコープサイズの画面は全てのカットが絵画のように決め込まれていて、動いていなくても十分に鑑賞に値する。

フロンティアウーマンとして、自らを成長させたカラミティに、周りの見方も変わってゆく。
ここが本作のキモで、理解のない頭カチカチのオヤジ共を強引にねじ伏せるのではなく、カラミティの成長を見た彼ら自身の意識が変化する、いや変化せざるを得ないのである。
男だとか女だとかという属性ではなく、大西部の過酷な自然を生き抜くために必要な、頼りになる斥候、仲間として彼らはカラミティを歓迎する。
カラミティもまた、自らのジェンダーを否定しない。
彼女がズボンをはくのは単に自然の中で動きやすく、馬に乗りやすいからで、実際大人になったカラミティがスカートをはいている写真も複数残されている。
女性解放を描く作品は、対立を軸に描きがちだが、主人公だけでなく皆が学んで変化してゆくという、この作品のスタンスはとても重要。
レミ・シャイエは、過去のどの作品とも違う、新たなカラミティ像を作り上げた。
自由で勇敢な少女との大冒険は、前作以上の楽しさに満ちている。

今回は、アメリカを代表するスピリット、バーボンウィスキーの「フォアローゼス プラチナ」をチョイス。
この映画の時代から少し後、1888年に創業した老舗銘柄。
クリーミーな舌触りと、芳醇な香りに複雑な風味、長く後を引く余韻はストレートかロックで楽しみたい。

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