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ショートレビュー「空白・・・・・評価額1750円」
2021年10月01日 (金) | 編集 |
心の空白、時間の空白。

これはパワフルな寓話であり、悲喜劇だ。
スーパーで万引きを疑われ、店長に追いかけられた少女が車にはねられて事故死。
突然娘を奪われた父親の怒りの矛先は、事故のきっかけを作ったスーパーの店長へ向かう。
「ヒメアノ〜ル」「BLUE ブルー」など、野心的な秀作を連発する吉田恵輔監督の最新作は、どこにも持っていきようのない、人間たちの鬱屈した感情の爆発を、鮮烈に描写した傑作だ。
軸となるのは古田新太が怪演する父親と、松坂桃李演じるスーパーの店長の対立。
漁船の船長で、粗野で喧嘩っ早い強面の父親と、地元スーパーの物腰柔らかな二代目ボンボン店長が、分かりやすいコントラストを形作る。
父親は娘が万引きしたことを信じておらず、店長が性的な暴行目的で娘を事務所に連れ込んだと思い込んでいる。
だが、何の証拠もない。
娘が本当に万引きをしたのか、あるいは店長の性癖の犠牲となったのか。
当事者の娘が死んでしまった今、捕まってから逃げ出して死ぬまでのわずか数分が“真実の空白”となって、残された者が喪失に向き合うことを阻むのである。

この作品のポイントは、目に見える範囲では「誰も悪くない」こと。
実際に少女が万引きをする描写はなく、店長は自分の仕事をしただけだし、少女をはねたドライバーも不可抗力。
最初の車に跳ね飛ばされた後、致命傷を負わせたダンプカーのドライバーは前方不注意っぽかったが、なぜか父親の怒りはそちらに向かない。
確実なことは、店長が追いかけたことで、一つの命が失われた。
理不尽な死に直面した父親は、「誰も悪くない」では納得がいかず、誰かのせいにしないと気がすまない。
この辺りの父親の暴走は、マーティン・マクドナー監督の「スリー・ビルボード」を彷彿とさせる。
あの映画では娘を何者かに殺されたフランシス・マクドーマンドの母親が、遅々として進まない捜査に苛立ちを募らせ、警察署長を批判する巨大な看板広告を出す。
二つの映画の怒れる親の動機も、共通する部分がある。
マクドーマンドは、事件の直前に娘と喧嘩しており、それが事件の遠因になっている。
対してこちらの父親は、娘との間に会話が殆ど無く、喪ってしまった今になって、娘のことを全く知らないことを思い知らされている。
どちらのケースも、誰かに責任を追わせないと、結局認めたくない自分の罪と向き合うことになってしまうのである。

怒りに突き動かされる父親と、防戦一方の店長。
彼らの周りにも、それぞれに寄り添おうとしてくれている人はいるが、当事者にとっては部外者のお節介にしか思えない。
そこに更に興味本位のマスコミや、保身を図る学校関係者など無責任な人々が追い討ちをかけ、状況を悪化させてゆく。
しかし、どんどん閉塞してゆくドラマに、痛ましい転機が訪れる。
父親が一方的にだけ店長を責め続け、他の事故関係者には無関心を貫いていたある日、贖罪の機会を失っていたある人物が、突然命を絶ってしまうのだ。
それまで被害者だった父親は、一転して精神的な加害者の立場となるのである。
出口のない迷路に迷った父親に、気付きを与える片岡礼子のキャラクターが素晴らしい。
葬儀に出向いた父親に語りかける彼女の言葉こそ、本作の白眉だ。

この映画を観ながら、誰もが考えるだろう。
もし自分が父親だったら?店長だったら?
どちらの立場でも、正直どうしたらいいのか分からない。
誰のせいでもない予期せぬ喪失と、人は一体どう向き合ったら、心穏やかになれるのか。
とことん絶望を描きながら、吉田恵輔はそれだけでは終わらせない。
憎しみあっても、いつかは全面的に許し合える、というような綺麗事ではない、魂のせめぎ合いの末のギリギリの落としどころ。
大嵐の果ての凪の予感に、作者の描きたい世界の優しさが垣間見える。

今回は映画のロケ地となった愛知県の地酒、萬乗醸造の「醸し人 九平次 純米大吟醸 山田錦」をチョイス。
フルーティな吟醸香がフワリと広がり、酸味と米の甘味のバランスもいい。
純米大吟醸らしい、まろやかな旨みたっぷり。
この豊かな風味に負けないような、チーズたっぷりのお肉のカルパッチョでも作って、酒の肴にしたい。

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