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tick, tick... BOOM!: チック、チック...ブーン!・・・・・評価★★★★+0.7
2021年11月27日 (土) | 編集 |
青春の、タイムリミット。

12年以上に渡ってブロードウェイで連続上演され、96年のトニー賞では10部門を受賞し、クリス・コロンバス監督によって映画化もされた、90年代のミュージカルシーンを代表する名作「RENT」
これは「RENT」の生みの親であり、若くして亡くなった作曲家にして劇作家、ジョナサン・ラーソンの物語だ。
ラーソンが1992年に発表した自伝的作品、「tick, tick…BOOM!」をベースに、映画オリジナルの解釈を交えて描かれている。
舞台となるのは、「RENT」からさかのぼること6年、AIDSが猛威を振るう1990年のニューヨーク。
30歳の誕生日を目前に、青春の終わりにおびえながら、勝負を賭けた新作ミュージカルの生みの苦しみを味わっている、29歳のラーソンが主人公だ。
アンドリュー・ガーフィールドが、愛嬌たっぷりに苦悩する天才を好演。
今年映画化されたミュージカル「イン・ザ・ハイツ」の作者であり、ディズニー映画「モアナと伝説の海」では音楽を手掛けた、現在のブロードウェイを代表する才人、リン=マニュエル・ミランダが大先輩へのリスペクトを胸に、見事な長編映画監督デビューを飾った。

1990年のニューヨーク。
ブロードウェイでの成功を夢見るミュージカル作家の卵、ジョナサン・ラーソン(アンドリュー・ガーフィールド)は焦っていた。
間もなく30歳の誕生日なのに芽が出ず、ダイナーのバイトで食いつなぐ毎日。
俳優志望だった友人のマイケル(ロビン・デ・ヘス)は、自分の才能に見切りをつけ転職し、ガールフレンドのスーザン(アレクサンドラ・シップ)も、ダンサーの夢を諦めて指導者に転職しようとしている。
ラーソンには、迫りくる30歳の誕生日が、チック、チックと動く時限爆弾の秒針、才能を否定されるタイムリミットのように思えるのだ。
新作ミュージカル「Superbia」の、業界関係者を招いたワークショップが最後のチャンス。
もしワークショップが好評なら、ブロードウェイで本番の舞台をやってほしいというオファーが来るかもしれない。
だが、焦りすぎたラーソンは、スランプに陥ってしまい、どうしても新しい曲が書けなくなってしまう・・・・


青春の輝きと痛みを、鮮烈に描き出した傑作だ。
本作は、1990年の「Superbia」の制作中にスランプに苦しむラーソン、1992年に上演された「tick, tick…BOOM!」の舞台上からその時を振り返る後年のラーソン、そしてラーソンの死後に彼の思い出をガールフレンドのスーザンが振り返るという、三つの視点が混在する特異な構造になっている。
この三層構造が、「tick, tick…BOOM!」というタイトルにラーソンが元々込めた意味にプラスして、映画ならではの新しい解釈を与え、過去の過ぎ去った青春に対する切ないノスタルジーを掻き立てる。

何かのジャンルで成功を夢見る者は、無意識のうちにモデルケースを設定し、それに自分を当てはめようとする。
ラーソンの成功モデルは、27歳の若さで「ウェストサイド物語」の作詞を手掛け、その後もブロードウェイで数々の名作を生み出したスティーヴン・ソンドハイム。
本日、2021年11月27日に91歳での死去が伝えられた、20世紀ミュージカルの巨人だ。
あこがれのソンドハイムに、ラーソンは以前に参加したワークショップで曲を絶賛された過去があり、そのことがミュージカルの道を諦められない要因の一つとなっている。
そして多くの若者と同じく、ラーソンもまた成功者となるに相応しい年齢に囚われている。
ソンドハイムは27歳だったが、自分はもう29歳になるのに、ブロードウェイの舞台は遠いまま。
彼の頭の中には、チック、チックと時を刻む時限爆弾があって、30歳になったら「ブーン!」と爆発してしまうという強迫観念にとりつかれているのだ。
30歳は、青春の終わりで大人の始まり。

周りの仲間たちの動向も、彼の焦りを加速させる。
ブロードウェイの役者を目指し、ラーソンと共にニューヨークに出て来て、ルームシェアしていた同郷の幼馴染のマイケルは、夢を諦めて広告業界に就職、そこで才能を開花させる。
いまだ安アパートに暮らし、ダイナーのバイトに明け暮れているラーソンとは対照的に、アッパーイーストサイドの専属駐車係のいる高級コンドミニアムに暮らす高給取りになっている。
友人のリッチな暮らしを当たりにし、彼に臨時の仕事を世話してもらう自分との現実の格差に、ラーソンの中で「成功って?」という疑問がわいてくる。
またブロードウェイで一流のダンサーになることを目標にしていたガールフレンドのスーザンも、成功を目前にしてケガを負ってしまい、夢は儚く散る。
彼女はマサチューセッツ州バークシャーにある名門ダンス学校、ジェイコブズ・ピローから指導者になる誘いを受けていて、ラーソンにも一緒に行ってほしいと願っている。
バークシャーでも演劇活動はできるが、当然ブロードウェイは遠くなる。

彼らの転身と、その先にある経済的成功が、ラーソンにますますプレッシャーをかける。
長年打ち込んでいた企画が、ブロードウェイに行けるかどうかを決めるワークショップが始まると言うのに、スランプに陥って曲が書けない。
しかも、よせばいいのに題材はミュージカルとしては異色のSF。
この企画、ラーソンは当初ジョージ・オーウェルの「1984」をロック・ミュージカル化しようとしていたらしく、オーウェルの版権管理事務所から許可がおりなかったため、オリジナルを作りはじめたという経緯がある。
ワークショップの開催にたどり着くまで、かかった時間は実に8年!
いやーさすがに時間かけすぎじゃないの?と思うが、これで失敗したらもう後がないという焦りは理解できる。
23歳から29歳まで、ダイナーでバイトしながら、青春の大半を費やした、彼にとっては勝負を賭けた超大作なのである。
このワークショップというのは、舞台装置などはなく、最小限のバンドと役者だけで、作品を披露するリハーサルのようなもの。
ここで認められれば、プロデューサーがついて、舞台化へと動き出す。
しかし、「Superbia」は絶賛されたものの、題材の特殊性もあって声はかからず。

また何年も、先の見えない挑戦を余儀なくされるのかと思ったラーソンは、ミュージカルの道を諦めようとするのだが、その時にまた引き留めるのが、ソンドハイムなのである。
「Superbia」のワークショップを見たソンドハイムは、ラーソンの仕事を絶賛する。
そして長年ブロードウェイの仕事をしてきたエージェントの助言を受け入れ、“自分の知っていること”を描いた新作を発表する。
それが、この「tick, tick…BOOM!」という訳だが、この時期ラーソンは妄想ではなく現実にタイムリミットを抱えた人たち、生きたくても生きられない人たちが他にいることを知るのである。
HIVウィルスが引き起こすAIDSは、当時は死の病だった。
この翌年の1991年に、NBAのスーパースターだったマジック・ジョンソンがHIVポジティブを発表したことから、人々の意識が大きく変わってゆくのだが、初期の患者にはドラッグ中毒者と同性愛者が多かったことから、不道徳者の病とも言われ、罹患した者が差別されるなど偏見が大きかった。
ごく近しい人々がAIDSに倒れてゆくことで、ラーソンの意識も変わってゆく。
映画は、AIDSの時代を舞台に、ラーソンが自分にタイムリミットなど無いと気付くまでを、テンポ良く描いてゆく。
「RENT」の最大の特徴である多様性は、この時期のラーソンの経験から導き出されたものだろう。

くしくも1996年1月25日、「RENT」のオフ・ブロードウェイ・プレビュー公演初日の未明に、ジョナサン・ラーソンは大動脈解離で亡くなった。
ラーソンは死後にトニー賞、ピューリッツァー賞に輝いたほか、商業的にも大成功を収めることになるが、彼自身はその光景を見ることができなかった。
でも彼は、努力し続けてたから、ギリギリ間に合ったとも言えるだろう。
本作で披露される素晴らしい楽曲の数々を見ても、本当に天才だったのだと思う。
30年前のちょっと痛いラーソンの葛藤を、誰にも予測できない本当のタイムリミットがあったことを知っている現在から俯瞰することで、切なくも輝かしい一つの青春の物語が浮かび上がる。
本作を監督したリン=マニュエル・ミランダは、1980年ニューヨーク生まれ。
彼もラーソンと同様、戯曲も書けば作詞作曲に演出もこなし、自分で出演もしちゃうミュージカルの申し子だが、プエルトリコ系のミランダにとって、多感な10代の時期に初演された「RENT」が、クリエイティビティに大きな影響を与えていることは想像に難くない。
彼の代表作の一つの「イン・ザ・ハイツ」などは、まさに現在の「RENT」的な多様性の視点に満ちている。
ソンドハイムの作品が、ラーソンに影響を与え、今度はミランダが受け継いでゆく。
創作が連鎖するごとに、豊かになってゆくことを実感できる、本当に幸福な映画である。

ブロードウェイが舞台の本作には、ウォッカベースのカクテル「ビッグ・アップル」をチョイス。
氷で満たしたタンブラーに、ウォッカ45ml、アップル・ジュース適量を加え、軽くステアする。
カットしたリンゴを飾って完成。
非常にシンプルな味わいゆえに、万人に愛されるカクテルは、世界中の人を惹きつけるニューヨークに相応しい。

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