2022年01月05日 (水) | 編集 |
これはアクション全部入りの、超豪華中華おせちや〜!
現代香港アクション映画を代表する、ベニー・チャン監督、ドニー・イェン、ニコラス・ツェーの揃い踏み。
思えば、2021年の映画はじめは、ドニー・イェン主演の「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」だった。
あれから12ヶ月、年の最後にこれほどの熱量を持つ傑作が巡ってくるとは!
ドニー・イエンが演じる、どんな不正も許せない正義の熱血刑事ボンが、ニコラス・ツェーのダークサイドに堕ちた元後輩刑事のンゴウと因縁の戦いを繰り広げる。
ボンと彼のチームは、長年追っていた麻薬組織の取引を押さえる直前、捜査を外されてしまう。
しかし、別の警察チームが現場に乗り込んだ時、謎の武装集団が襲撃。
彼らは圧倒的な火力で警察と麻薬組織双方を虐殺し、大量の麻薬を奪い去る。
※以下、核心部分に触れています。
ことの発端は、数年前に起こった誘拐事件。
副総監から早期の事件解決を厳命されたンゴウと部下たちは、一線を超えた強引な捜査を行い、結果事件は解決したものの、被疑者を死に至らしめてしまう。
だが命令を出した副総監は裁判では関与を否定し、決定的な瞬間を目撃したボンも、苦慮の末に偽証を拒否したため、ンゴウたちは刑務所送りになってしまうのだ。
元警官にとって、刑務所は地獄。
組織人として命令に従ったがゆえに、人生をめちゃめちゃにされたンゴウたちは、出所後警察への復讐をはじめるという構図。
銃撃戦からカーチェイス、肉弾戦に至るアクションのバラエティも凄いが、たたみかける様な展開の中で、特に悪役サイドのキャラクターたちの判断と行動が異常に早く、いい意味でドライなのが、ストーリーテリングのスピード感をグッと引き上げている。
また、全てお互いの中にある絶対譲れない一線をかけた情念の激突なので、戦いの密度が違うのである。
本作で物語のバックボーンになっているのが、権力に忖度する上警察層部への不信と怒りだ。
最初の誘拐事件で被害者となるのは、有力銀行の経営者。
副総監は捜査を指揮するンゴウに対し、「翌日の株式市場が開く前」の事件解決を強く求める。
つまりは、無茶をしてでも株取引で損をする権力者を救えという話。
ボンのチームが解決目前で現場を外されるのも、直前に権力者から強要された不正を拒否したからなのだ。
急速に中国化が進む今の香港で、私腹を肥やす富裕層や警察幹部と言えば、ほぼ確実に北京の息のかかったアンチ民主派。
2019年に起こった民主派デモを厳しく弾圧し、大量の参加者を逮捕した警察幹部は、実際に香港政府ナンバー2の政務官に出世している。
映画の中では、決して「この幹部は北京系だ」などという台詞は出てこないが、このくらいが今の香港映画が描ける限界なのだろう。
しかし、どんなに圧力があっても、忖度するかしないかは人次第。
出世欲の強いンゴウは、警察官の義務よりも上司の命令を優先し、ボンは圧力に逆らってでも公僕としての姿勢を全うする。
正義を貫くか、悪に墜ちるかは紙一重ではあるものの、結局プロフェッショナルとして、紙一枚分の矜持を持ち続けられるかどうかで運命が決まる。
アクションが注目されがちな作品だが、ダブル主演の二人の対照的なキャラクターが織りなす人間ドラマとしても観応えたっぷり。
またお互いの手の内を知り尽くした者同士の戦い故に、頭脳戦の部分でも魅せる。
法と証拠に縛られる刑事vs狡猾な犯罪者の構図は、そのまま彼らの生き方を反映し、怒涛のクライマックスに向けてテーマを導き出すのである。
ベニー・チャンの映画を全部観ている訳ではないが、鑑賞している範囲では「新少林寺/SHAOLIN」が一番面白かった。
あの映画もそれまでの価値観や道徳が失われてゆく激動期に、怪物の様に育つ我欲との戦いを描いていて、力だけが正義と信じる悪役をニコラス・ツェーが演じていた。
本作は「新少林寺/SHAOLIN」のテーマを受け継ぎ、今の時代の香港を写す、ベニー・チャン監督の遺作にして魂の傑作。
まだ58歳、本当に惜しい才能を失ったものだ。
新年の一発目なので「ハッピー・ニュー・イヤー」をチョイス。
ドキュメンタリー映画「シューマンズ バー ブック」の主人公にもなった、ドイツ出身の名バーテンダー、チャールズ・シューマンが考案したカクテル。
ルビー・ポート20ml、ブランデー10ml、オレンジ・ジュース 20mlを氷と共にシェイクし、シャンパングラスに注ぐ。
シャンパン40mlを足してグラスを満たす。
ドライなシャンパンに、他の素材が甘味やコク、酸味など様々な風味を足しているが、不思議ととっ散らかってはいない。
新年を祝うのにぴったりの、華やかなカクテルだ。
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現代香港アクション映画を代表する、ベニー・チャン監督、ドニー・イェン、ニコラス・ツェーの揃い踏み。
思えば、2021年の映画はじめは、ドニー・イェン主演の「燃えよデブゴン/TOKYO MISSION」だった。
あれから12ヶ月、年の最後にこれほどの熱量を持つ傑作が巡ってくるとは!
ドニー・イエンが演じる、どんな不正も許せない正義の熱血刑事ボンが、ニコラス・ツェーのダークサイドに堕ちた元後輩刑事のンゴウと因縁の戦いを繰り広げる。
ボンと彼のチームは、長年追っていた麻薬組織の取引を押さえる直前、捜査を外されてしまう。
しかし、別の警察チームが現場に乗り込んだ時、謎の武装集団が襲撃。
彼らは圧倒的な火力で警察と麻薬組織双方を虐殺し、大量の麻薬を奪い去る。
※以下、核心部分に触れています。
ことの発端は、数年前に起こった誘拐事件。
副総監から早期の事件解決を厳命されたンゴウと部下たちは、一線を超えた強引な捜査を行い、結果事件は解決したものの、被疑者を死に至らしめてしまう。
だが命令を出した副総監は裁判では関与を否定し、決定的な瞬間を目撃したボンも、苦慮の末に偽証を拒否したため、ンゴウたちは刑務所送りになってしまうのだ。
元警官にとって、刑務所は地獄。
組織人として命令に従ったがゆえに、人生をめちゃめちゃにされたンゴウたちは、出所後警察への復讐をはじめるという構図。
銃撃戦からカーチェイス、肉弾戦に至るアクションのバラエティも凄いが、たたみかける様な展開の中で、特に悪役サイドのキャラクターたちの判断と行動が異常に早く、いい意味でドライなのが、ストーリーテリングのスピード感をグッと引き上げている。
また、全てお互いの中にある絶対譲れない一線をかけた情念の激突なので、戦いの密度が違うのである。
本作で物語のバックボーンになっているのが、権力に忖度する上警察層部への不信と怒りだ。
最初の誘拐事件で被害者となるのは、有力銀行の経営者。
副総監は捜査を指揮するンゴウに対し、「翌日の株式市場が開く前」の事件解決を強く求める。
つまりは、無茶をしてでも株取引で損をする権力者を救えという話。
ボンのチームが解決目前で現場を外されるのも、直前に権力者から強要された不正を拒否したからなのだ。
急速に中国化が進む今の香港で、私腹を肥やす富裕層や警察幹部と言えば、ほぼ確実に北京の息のかかったアンチ民主派。
2019年に起こった民主派デモを厳しく弾圧し、大量の参加者を逮捕した警察幹部は、実際に香港政府ナンバー2の政務官に出世している。
映画の中では、決して「この幹部は北京系だ」などという台詞は出てこないが、このくらいが今の香港映画が描ける限界なのだろう。
しかし、どんなに圧力があっても、忖度するかしないかは人次第。
出世欲の強いンゴウは、警察官の義務よりも上司の命令を優先し、ボンは圧力に逆らってでも公僕としての姿勢を全うする。
正義を貫くか、悪に墜ちるかは紙一重ではあるものの、結局プロフェッショナルとして、紙一枚分の矜持を持ち続けられるかどうかで運命が決まる。
アクションが注目されがちな作品だが、ダブル主演の二人の対照的なキャラクターが織りなす人間ドラマとしても観応えたっぷり。
またお互いの手の内を知り尽くした者同士の戦い故に、頭脳戦の部分でも魅せる。
法と証拠に縛られる刑事vs狡猾な犯罪者の構図は、そのまま彼らの生き方を反映し、怒涛のクライマックスに向けてテーマを導き出すのである。
ベニー・チャンの映画を全部観ている訳ではないが、鑑賞している範囲では「新少林寺/SHAOLIN」が一番面白かった。
あの映画もそれまでの価値観や道徳が失われてゆく激動期に、怪物の様に育つ我欲との戦いを描いていて、力だけが正義と信じる悪役をニコラス・ツェーが演じていた。
本作は「新少林寺/SHAOLIN」のテーマを受け継ぎ、今の時代の香港を写す、ベニー・チャン監督の遺作にして魂の傑作。
まだ58歳、本当に惜しい才能を失ったものだ。
新年の一発目なので「ハッピー・ニュー・イヤー」をチョイス。
ドキュメンタリー映画「シューマンズ バー ブック」の主人公にもなった、ドイツ出身の名バーテンダー、チャールズ・シューマンが考案したカクテル。
ルビー・ポート20ml、ブランデー10ml、オレンジ・ジュース 20mlを氷と共にシェイクし、シャンパングラスに注ぐ。
シャンパン40mlを足してグラスを満たす。
ドライなシャンパンに、他の素材が甘味やコク、酸味など様々な風味を足しているが、不思議ととっ散らかってはいない。
新年を祝うのにぴったりの、華やかなカクテルだ。

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