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コーダ あいのうた・・・・・評価額1700円
2022年01月25日 (火) | 編集 |
愛の歌が、家族をつなぐ。

聾唖の漁師一家に生まれた、ただ一人の健聴者の少女が、家族愛と歌手への夢の間で葛藤する。
タイトルの「コーダ(CODA)」とは「A child of deaf adult」の頭文字で、聴覚障害を持つ親によって育てられた子供のこと。
2014年に公開されたフランス映画「エール!」の米国リメイク版だが、オリジナルの持つ多くの欠点は完全に解消されていて、遥かに優れた作品へと昇華されている。
Netflixで公開された「タルーラ 彼女たちの事情」で注目されたシアン・ヘダーが、監督と脚色を務め、「ブリムストーン」でダコタ・ファニングの少女時代を演じたエミリア・ジョーンズ」が、歌の才能に恵まれた主人公のルビー・ロッシを好演。
「愛は静けさの中に」で史上最年少のアカデミー主演女優賞に輝いたマーリー・マトリンをはじめ、トロイ・コッツアー、ダニエル・デュラントの3人の聴覚障害を持つ俳優陣が、ロッシ家の家族を演じる。

マサチューセッツ州グロスター。
この街に住むルビー・ロッシ(エミリア・ジョーンズ)は、歌うことが大好きな高校生。
漁師をしている父のフランク(トロイ・コッツアー)に兄のレオ(ダニエル・デュラント)、母のジャッキー(マーリー・マトリン)の四人家族で、毎朝3時に起きて父と兄と共に船に乗り、漁をしながら歌い、帰港してから学校へ通うのがルーティン。
ある時、選択授業で合唱を選んだルビーは、音楽教師のミスターV(エウヘニオ・デルベス)から才能を認められ、ボストンのバークリー音楽大学への進学を進められる。
しかし、ロッシ家はルビー以外の全員が聾唖の聴覚障害者。
物心ついた頃から、ずっと家族の手話通訳をしてきた彼女は、自分がいなくなったら家族が困るのではないかと心配で、グロスターを離れることができない。
ひとまず、ミスターVの元でボーカルのレッスンを受けることになるのだが、ルビーが船に乗らなかったある朝、事件が起こる・・・・


本作の元になったフランス映画「エール!」は、本国で大ヒットしたが、各方面から強い批判も受けた。
オリジナルはコメディ色がより強く、メインプロットはシンプルなのに、色々賑やかしを入れたくなったのか、お父さんが市長に立候補したり、お母さんがエッチしすぎて膣炎だったり、弟はアナフィラキシーショックを起こしたり、はたまたクラスのカッコいい男子との初恋ネタやら、歌の先生の過去やら、本筋に絡まないサブのエピソードがやたらと多く、とっ散らかった印象になってしまってた。
対してこちらは、オリジナルの特徴だった下ネタを最低限キープしながらも、ファミリードラマとしての色彩を強め、全てのディテールがメインプロットを強化する王道の脚色。
両親が性的にアグレッシブな設定は、物静かで大人しいという聴覚障害者のステロタイプの打破につながる。
市長選の代わりに、フランクが搾取される漁師を代表して漁業組合を設立するエピソードも、障害があっても自立した生活を守るため、行動するリーダーとなり得る象徴的な描写。
一方で、オリジナルでは酪農家だった家業も、危険な海上でより聴覚が重要となる漁業となり、家族がルビーへ依存する理由も増している。

本作で特筆すべきは、ロッシ家の家族を演じた三人の聴覚障害を持つ俳優たちだ。
私は基本的に俳優の属性ではなく、「その役を適切に演じることが出来るか」でキャスティングされるべきだと考えるが、機会が限られるマイノリティの役の場合、まずはそのコミュニティで探し、見つからなければ範囲を広げるのがフェアだと思う。
しかしそれは、商業映画ではなかなか難しく、マイノリティの俳優が積極的にキャスティングされるケースは稀。
実際本作でも、家族役には客の呼べる健聴者の有名俳優をと、出資者サイドから強い圧力があったそうだが、最初にキャスティングされたマーリー・マトリンという“レジェンド”が盾となり、聾唖俳優のコミュニティに紹介して、俳優たちが選ばれていったという。
しかも聾唖劇のコミュニティは狭いので、三人は既に共演経験があり、決まった時点でチームワークはバッチリだったそう。
特にフランク役のトロイ・コッツアーの凄みのある存在感は、粘ったキャスティングの勝利だろう。

演者にそのコミュニティ出身者がいるどうかで、描写の正確性も変わってくる。
出演者に聴覚障害者がいなかったオリジナルは、この部分でも物議を醸した。
「奇跡のひと マリーとマルグリット」で知られる聾の俳優、アリアーナ・リボワールは「聾唖の描き方が嘘だらけ」と厳しく批判していたし、フランス国内でも障害の描写に対して抗議する声が大きかったという。
制作チームは、シナリオから作品制作のスタンスに至るまで詳細に検証した上で、コンサートシーンのフランク主観の表現など、オリジナルの良い部分を生かしながら、「発想はいいけど掘り下げられおらず、あちこち詰めが甘い」という欠点を徹底的に潰し、結果的に単なる英語版ではなく独自性も高くなるという、リメイクのお手本のような仕上がりとなっている。

もちろん主人公のルビーを演じるエミリア・ジョーンズの伸びやかな演技と歌声も素晴らしい。
美少女っぷりが鮮烈だった「ブリムストーン」や、パスカル・ロジェの「ゴーストランドの惨劇」など、なぜかホラー色の強い作品が多かったが、これは等身大のティーン役。
観る前は田舎娘にしては綺麗過ぎじゃない?と思ってたが、ちょい体重も増やしたのか、衣装のセンスを含めて、可愛いけどイモっぽく見えるような絶妙な役作り。
彼女の歌も、上手すぎないのがポイント。
才能はあるがまだまだ発展途上で、今よりも未来の伸びしろを感じさせるいい塩梅だ。
もうちょっと振り切っちゃうと、「セッション」のJ・K・シモンズになりそうな、エキセントリックなキャラクターの、ミスターVことベルナド・ヴィラロボス先生との掛け合いも楽しい。
演じるエウヘニオ・デルベスはメキシコの大スターで、アメリカ映画にもしばしば顔を出しているが、ディズニーやドリームワークスのアニメーション作品の、スペイン語吹替で声優としてお馴染みの人だから、アメリカ在住のスペイン語話者には嬉しいキャスティングだろう。

そして、もう一つの主役と言うべきなのが、風光明媚なニューイングランドの情景だ。
マサチューセッツ州ケンブリッジ出身だというだというシアン・ヘダーは、勝手知ったる地元を実に魅力的に描写する。
この辺りは大都市のボストンを一歩出ると、歴史豊かな小さな魚村が点在している地域。
中でもグロスターは昔から多くの映画が撮影されてきた美しい土地だが、その隣町を舞台&タイトルとした、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケネス・ロナーガン監督からは、多くの情報を共有されているそう。
こうした作家同士のパーソナルな繋がりも、インディーズ映画ならではの手作り感。
ほっこりした家族の愛の物語というだけでなく、アメリカの漁師たちが抱える経済的、制度的な問題などの社会性もしっかり物語の背景として取り込まれ、作品世界を奥深いものとしている。
音楽映画としてもミュージカル以上に聴き応えがあり、クライマックスに歌われるジョニ・ミッチェルの名曲「青春の光と影」が味わい深く全体のテーマをまとめ上げている。
多くの優れたインディーズ作品に、スポットを当ててきたサンダンス映画祭四冠は、やはり伊達ではない。
ブレない芯を華やかな音楽で彩り、お互いを思いやる愛が、ほっこりと温かい気持ちにさせてくれる、花束のような美しい小品だ。

今回は舞台となるニューイングランドの名を持つ「ブリュードッグ ニューイングランドIPA」をチョイス。
ニューイングランドIPAとは、ここ5年ばかりの間に急速に広まってきたスタイルのことで、強いホップ感があるのと同時に、あまり苦味が強くなく、フルーティでマイルドな口当たりが特徴。
飲みやすさから人気となり、名前の元となったニューイングランド各州はじめ、世界中のクラフトビールの銘柄が作り始めている。
こちらのブリュードッグはスコットランドの会社で、一般的なニューイングランドIPAと比べると、複雑なフルーティさが特徴か。
同社はパブも経営していて、日本の六本木にも同名のパブを開いている。

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