2022年03月14日 (月) | 編集 |
孤児たちのバトルロワイヤル。
DCコミックのダークヒーロー、バットマンのリブート作。
ブルース・ウェインが、仮面のビジランテとなって犯罪都市ゴッサムシティに姿を現してから二年後、市長をはじめとする街の有力者を狙う連続殺人事件が発生。
”リドラー”と名乗る犯人に名指しされたバットマンが、事件の謎に挑み、やがてゴッサムの裏側に潜む、巨大な闇が浮かび上がってくる。
「猿の惑星:新世紀」「猿の惑星:聖戦記」で、見事に“シーザー三部作”を完結させた、マット・リーブスが監督・共同脚本を務める。
新たなブルース・ウェインを演じるのは、ロバート・パティンソン。
キャットウーマンことセリーナ・カイルをゾーイ・クラヴィッツ、ゴードン警部補を「007」シリーズのフェリックス役で知られるジェフリー・ライト、謎多きヴィランのリドラーをポール・ダノが演じる。
シリーズ最長となる175分の上映尺をはじめ、過去作とはだいぶ趣が違うが、切り口は新しい。
※核心部分に触れています。
ゴッサムシティの市長が、選挙戦の最中に何者かに殺される。
捜査の指揮をとるゴードン警部補(ジェフリー・ライト)は、仮面のビジランテ、バットマンとして活動するブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)を呼び寄せる。
リドラー(ポール・ダノ)と名乗る犯人が、現場にバットマンに宛てたカードを残していたからだ。
カードに書かれたなぞなぞは、事件のヒント。
ゴッサム裏社会のドン、ファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)の右腕、ペンギン(コリン・ファレル)が経営するクラブが事件と繋がると睨んだバットマンは、その店で働くセリーナ・カイル(ゾーイ・クラヴィッツ)と接触。
セリーナのガール・フレンドのアニカ・ホスロフ(ハナ・ハルジック)が行方不明になっていることもあり、彼女はバットマンに協力する。
やがて“ネズミ”と呼ばれる、警察が裏社会に送り込んだスパイの存在が浮かび上がってくるのだが・・・
いわゆるDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)には属さず、トッド・フィリップスの「ジョーカー」とも交わらない別の世界線。
リメイクやリブートで定評のあるマット・リーブスは、ここに新たなバットマンバースを作ろうとしている様だ。
バットマンといえば、ジョーカーやトゥーフェイス、ベインといったユニークなヴィランたちと抗争を繰り広げるのがお約束だが、本作の場合はアプローチがちょっと違う。
神出鬼没のリドラーとは何者なのか、何のために殺人を犯すのか不明のまま、バットマンと警察は手玉に取られる。
事件現場に残されたカードのなぞなぞをヒントに、まずはリドラーの目的と正体を探さねばならないのだ。
つまりリドラーとの戦いは、肉体的なアクションというよりも頭脳戦であり、結構ガッツリとした推理もの。
若きバットマン=ホームズと、ゴードン警部補=ワトソンが事件を追うという構図だ。
3時間近い尺が必要になったのも、小出しされるヒントを辿ってゆくという物語の構造によるものが大きい。
陰鬱でハードボイルドな世界観は、バットマンフランチャイズの作品中最も重苦しく、ゴッサムシティも全てが腐り切った最悪の犯罪都市として描かれる。
バートンやノーランの描いたゴッサムシティは、まだ文明的な部分が残っていたが、裏社会と表社会が一体化した本作のゴッサムシティには、絶対住みたくないと思わせる不穏さがある。
物語の展開で見せる作品だから、アクション活劇の要素はさほど多くないが、バイオレンス描写も実に生っぽい。
駅で一般人を襲ってたチンピラをバットマンがボコボコにするとシーンとか、「そんな殴ったら死んじゃう、やり過ぎちゃうん!」と思っちゃうくらい。
ゴッサムを少しでもマシにするために、バットマンはあえて自分が犯罪者にとっての恐怖の象徴になるように行動している。
字幕では「avenge」を「復讐」と訳しているが、厳密には「懲罰」の方が相応しいだろう。
バットマンは街の分かりやすい“悪”に懲罰を下すことで、裏社会にプレッシャーをかけ犯罪の抑止力になろうとしているが、もしも表社会の市長や警察、検察など普通は正義を遂行する人々まで、実は悪に染まっていたとしたら?
もちろん殺しちゃうのか、痛めつけるに止めるのかの違いはあるが、市長を皮切りに表社会の隠れた悪を殺すリドラーと裏社会専門のバットマンは、お仕置きする相手が違うだけで、 本質的には同じことをしているのでは?というのが本作の骨子だ。
この辺りの設定は、「ハンガー・ゲーム FINAL」二部作などを手がけた、共同脚本のピーター・クレイグのテイストを感じさせる。
また本作の主要な三人の登場人物、バットマン、リドラー、キャットウーマンは全員が孤児である。
それぞれが孤児となった経緯は異なるが、この三人はそれぞれが鏡像になる形で、物語上配置されていて、生まれた環境に加えて、選んだ道、選ばなかった道で、ビジランテ、テロリスト、泥棒と、それぞれの運命が決まっている。
特にリドラーは最初からバットマンの中に自分を見ているのだが、バットマンは事件を捜査するうちに徐々に自分の中のリドラーに気づく仕組み。
街の中央にそびえ立つ豪華なタワーに住み、金に任せてハイテク兵器で武装し、天空から地に蠢く悪を俯瞰するバットマンの懲罰では、チンピラは倒せてもゴッサムシティの本質的な部分は変えられない。
ではどうするのか?
ノーランの「ダークナイト」では、バットマン自らが堕ちた偶像となることで、市民一人ひとりを奮起させる。
対して本作では、改革派が選挙で勝利し、バットマンやリドラーの思惑とは関係なく、人々は正義を実現する力を秘めていることが明らかになる。
全てを破壊し、一から街を作り直そうとするリドラーの歪んだ野望を阻止するため、庶民を見下す天上人だったバットマンは、文字通りにカオスの海に降り、モーゼの様に人々を守り救い出すのだ。
ここに描かれるブルース・ウェインの成長と苦悩は、「猿の惑星」におけるシーザーの葛藤にも通じるものがある。
リーブスはノーランとは異なったアプローチで、バットマンの体現する正義とは?というテーマに答えを出している。
曇り空にぼんやりと映し出されたバットシグナルが象徴する様に、バットマンは恐怖の懲罰者ではなく、人々を守護することによって光となるのである。
とてもよく出来た作品だと思うが、いくつか気になる点もある。
殺人が起こり現場でカードが見つかる度に、少しずつ物語が展開する構造上、やむを得ない部分もあるのだが、同じ様なシチュエーションとロケーションが繰り返されるのは、もう一工夫できたのでは。
予算の関係かもしれないが、場所のバリエーションはもう少し増やした方が、全体のメリハリにつながるだろう。
またモノローグが多用されるのは作品のスタイルだとしても、説明的な描写が「いかにも説明です」なのはちょっと引っかかる。
それまでにわかった事件の事実関係を、ホワイトボードに提示して分かりやすく見せる、日本のサスペンスドラマでお馴染みの描写を、ブルースが広い床一面に書くシーンがあるのだが、さすがにデカすぎて笑ってしまった。
アイディアを整理するだけに労力かけすぎだし、かえって見え難いだろう。
本作は、二本の続編が作られて三部作となる予定で、配信用のスピンオフも用意されているという。
アーカム・アサイラムで、リドラーの隣の房にいる新たな“友達”は何者なのか?
キャットウーマンが向かうと言っていた、ブルードヘイブンで何が起こるのか?
始まったばかりの新しいバットマンバース、この先への興味は尽きない。
今回は、ダークなムードに合わせて漆黒のカクテル、「ブラック・レイン」をチョイス。
オーストラリアのホテルのバーで、リドリー・スコット監督の同名映画にちなんで作られたカクテルで、その名の通り美しい漆黒。
フルート型グラスにスパークリングワインまたはシャンパンを80ml注ぎ、ブラック・サンブーカを20ml静かに加えてごく軽くステアする。
サンブーカは香りが強いので、それなりにクセがある。
香草系カクテルが好みかどうかで、好き嫌いが別れるだろう。
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DCコミックのダークヒーロー、バットマンのリブート作。
ブルース・ウェインが、仮面のビジランテとなって犯罪都市ゴッサムシティに姿を現してから二年後、市長をはじめとする街の有力者を狙う連続殺人事件が発生。
”リドラー”と名乗る犯人に名指しされたバットマンが、事件の謎に挑み、やがてゴッサムの裏側に潜む、巨大な闇が浮かび上がってくる。
「猿の惑星:新世紀」「猿の惑星:聖戦記」で、見事に“シーザー三部作”を完結させた、マット・リーブスが監督・共同脚本を務める。
新たなブルース・ウェインを演じるのは、ロバート・パティンソン。
キャットウーマンことセリーナ・カイルをゾーイ・クラヴィッツ、ゴードン警部補を「007」シリーズのフェリックス役で知られるジェフリー・ライト、謎多きヴィランのリドラーをポール・ダノが演じる。
シリーズ最長となる175分の上映尺をはじめ、過去作とはだいぶ趣が違うが、切り口は新しい。
※核心部分に触れています。
ゴッサムシティの市長が、選挙戦の最中に何者かに殺される。
捜査の指揮をとるゴードン警部補(ジェフリー・ライト)は、仮面のビジランテ、バットマンとして活動するブルース・ウェイン(ロバート・パティンソン)を呼び寄せる。
リドラー(ポール・ダノ)と名乗る犯人が、現場にバットマンに宛てたカードを残していたからだ。
カードに書かれたなぞなぞは、事件のヒント。
ゴッサム裏社会のドン、ファルコーネ(ジョン・タトゥーロ)の右腕、ペンギン(コリン・ファレル)が経営するクラブが事件と繋がると睨んだバットマンは、その店で働くセリーナ・カイル(ゾーイ・クラヴィッツ)と接触。
セリーナのガール・フレンドのアニカ・ホスロフ(ハナ・ハルジック)が行方不明になっていることもあり、彼女はバットマンに協力する。
やがて“ネズミ”と呼ばれる、警察が裏社会に送り込んだスパイの存在が浮かび上がってくるのだが・・・
いわゆるDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)には属さず、トッド・フィリップスの「ジョーカー」とも交わらない別の世界線。
リメイクやリブートで定評のあるマット・リーブスは、ここに新たなバットマンバースを作ろうとしている様だ。
バットマンといえば、ジョーカーやトゥーフェイス、ベインといったユニークなヴィランたちと抗争を繰り広げるのがお約束だが、本作の場合はアプローチがちょっと違う。
神出鬼没のリドラーとは何者なのか、何のために殺人を犯すのか不明のまま、バットマンと警察は手玉に取られる。
事件現場に残されたカードのなぞなぞをヒントに、まずはリドラーの目的と正体を探さねばならないのだ。
つまりリドラーとの戦いは、肉体的なアクションというよりも頭脳戦であり、結構ガッツリとした推理もの。
若きバットマン=ホームズと、ゴードン警部補=ワトソンが事件を追うという構図だ。
3時間近い尺が必要になったのも、小出しされるヒントを辿ってゆくという物語の構造によるものが大きい。
陰鬱でハードボイルドな世界観は、バットマンフランチャイズの作品中最も重苦しく、ゴッサムシティも全てが腐り切った最悪の犯罪都市として描かれる。
バートンやノーランの描いたゴッサムシティは、まだ文明的な部分が残っていたが、裏社会と表社会が一体化した本作のゴッサムシティには、絶対住みたくないと思わせる不穏さがある。
物語の展開で見せる作品だから、アクション活劇の要素はさほど多くないが、バイオレンス描写も実に生っぽい。
駅で一般人を襲ってたチンピラをバットマンがボコボコにするとシーンとか、「そんな殴ったら死んじゃう、やり過ぎちゃうん!」と思っちゃうくらい。
ゴッサムを少しでもマシにするために、バットマンはあえて自分が犯罪者にとっての恐怖の象徴になるように行動している。
字幕では「avenge」を「復讐」と訳しているが、厳密には「懲罰」の方が相応しいだろう。
バットマンは街の分かりやすい“悪”に懲罰を下すことで、裏社会にプレッシャーをかけ犯罪の抑止力になろうとしているが、もしも表社会の市長や警察、検察など普通は正義を遂行する人々まで、実は悪に染まっていたとしたら?
もちろん殺しちゃうのか、痛めつけるに止めるのかの違いはあるが、市長を皮切りに表社会の隠れた悪を殺すリドラーと裏社会専門のバットマンは、お仕置きする相手が違うだけで、 本質的には同じことをしているのでは?というのが本作の骨子だ。
この辺りの設定は、「ハンガー・ゲーム FINAL」二部作などを手がけた、共同脚本のピーター・クレイグのテイストを感じさせる。
また本作の主要な三人の登場人物、バットマン、リドラー、キャットウーマンは全員が孤児である。
それぞれが孤児となった経緯は異なるが、この三人はそれぞれが鏡像になる形で、物語上配置されていて、生まれた環境に加えて、選んだ道、選ばなかった道で、ビジランテ、テロリスト、泥棒と、それぞれの運命が決まっている。
特にリドラーは最初からバットマンの中に自分を見ているのだが、バットマンは事件を捜査するうちに徐々に自分の中のリドラーに気づく仕組み。
街の中央にそびえ立つ豪華なタワーに住み、金に任せてハイテク兵器で武装し、天空から地に蠢く悪を俯瞰するバットマンの懲罰では、チンピラは倒せてもゴッサムシティの本質的な部分は変えられない。
ではどうするのか?
ノーランの「ダークナイト」では、バットマン自らが堕ちた偶像となることで、市民一人ひとりを奮起させる。
対して本作では、改革派が選挙で勝利し、バットマンやリドラーの思惑とは関係なく、人々は正義を実現する力を秘めていることが明らかになる。
全てを破壊し、一から街を作り直そうとするリドラーの歪んだ野望を阻止するため、庶民を見下す天上人だったバットマンは、文字通りにカオスの海に降り、モーゼの様に人々を守り救い出すのだ。
ここに描かれるブルース・ウェインの成長と苦悩は、「猿の惑星」におけるシーザーの葛藤にも通じるものがある。
リーブスはノーランとは異なったアプローチで、バットマンの体現する正義とは?というテーマに答えを出している。
曇り空にぼんやりと映し出されたバットシグナルが象徴する様に、バットマンは恐怖の懲罰者ではなく、人々を守護することによって光となるのである。
とてもよく出来た作品だと思うが、いくつか気になる点もある。
殺人が起こり現場でカードが見つかる度に、少しずつ物語が展開する構造上、やむを得ない部分もあるのだが、同じ様なシチュエーションとロケーションが繰り返されるのは、もう一工夫できたのでは。
予算の関係かもしれないが、場所のバリエーションはもう少し増やした方が、全体のメリハリにつながるだろう。
またモノローグが多用されるのは作品のスタイルだとしても、説明的な描写が「いかにも説明です」なのはちょっと引っかかる。
それまでにわかった事件の事実関係を、ホワイトボードに提示して分かりやすく見せる、日本のサスペンスドラマでお馴染みの描写を、ブルースが広い床一面に書くシーンがあるのだが、さすがにデカすぎて笑ってしまった。
アイディアを整理するだけに労力かけすぎだし、かえって見え難いだろう。
本作は、二本の続編が作られて三部作となる予定で、配信用のスピンオフも用意されているという。
アーカム・アサイラムで、リドラーの隣の房にいる新たな“友達”は何者なのか?
キャットウーマンが向かうと言っていた、ブルードヘイブンで何が起こるのか?
始まったばかりの新しいバットマンバース、この先への興味は尽きない。
今回は、ダークなムードに合わせて漆黒のカクテル、「ブラック・レイン」をチョイス。
オーストラリアのホテルのバーで、リドリー・スコット監督の同名映画にちなんで作られたカクテルで、その名の通り美しい漆黒。
フルート型グラスにスパークリングワインまたはシャンパンを80ml注ぎ、ブラック・サンブーカを20ml静かに加えてごく軽くステアする。
サンブーカは香りが強いので、それなりにクセがある。
香草系カクテルが好みかどうかで、好き嫌いが別れるだろう。

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