2022年05月24日 (火) | 編集 |
きっと、誰かの心に刺さる。
アニメーション制作なんて地味な題材を、よくぞここまでダイナミックなお仕事エンターテイメントに仕上げたものだ。
吉岡里帆演じる新人監督と、彼女の憧れの人であるレジェンド監督の中村倫也が、土曜5時枠のTVシリーズで激突する。
主人公は初監督なので、強気を装ってるが自信も余裕も無い。
最初からキチキチなのに、イベントでレジェンドに「覇権をとります」とか言っちゃったものだから、余計に追い込まれてゆく。
中村倫也の側も、一度ヒット作を出した者だけが分かる、強烈なプレッシャーに晒されている。
原作は直木賞作家の辻村深月の同名小説で、TVドラマ「死役所」や「ミス・シャーロック/Miss Sherlock」の政池洋佑が脚色。
監督は、異色のオリジナル作品「水曜日が消えた」でデビューした吉野耕平が務め、長編二作目にして見事な傑作をモノにした。
吉野監督は「君の名は。」にも参加したCGアーティストで、二つの作品の競争を盛り上げる、凝ったビジュアルデザインも見もの。
公務員からアニメーション業界の老舗、トウケイ動画に転職した斎藤瞳(吉岡里帆)は、7年の下積みを経て、社運をかけたロボットアニメ「サウンドバック 奏の石」で念願の監督デビューを果たす。
しかし同じ時間枠で、カリスマ的な人気を誇る王子千春(中村倫也)の新作「運命戦線 リデルライト」と対決することになる。
王子は、7年前に瞳が転職を決意するきっかけとなった、「光のヨスガ」を作った憧れの人。
世間の下馬評は「リデルライト」の圧勝だが、イベントで千春と対談した瞳は「勝って、覇権を取ります」と宣言してしまう。
ただでさえ時間がないのに、少しでも初監督の瞳の露出を高めようとするプロデューサーの行城理(江本祐)の意向で、取材やタイアップに連れ回される瞳は、曲者揃いのスタッフの心を掴むのに必死。
一方の千春も、「ヒットして当たり前」というプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、孤独な闘いを続けていた。
やがて、全くタイプの違う、「サウンドバック」と「リデルライト」の初回放送の日がやって来るのだが・・・・・
モノづくりの厳しさと楽しさがギュッと詰まった、圧倒的熱量を持つ傑作だ。
主人公の新人監督、斎藤瞳を演じる吉岡里帆が素晴らしく良い。
生真面目で静かに情熱を燃やすキャラクターがピッタリとハマり、「見えない目撃者」を超えるキャリアベスト。
創作には脳に糖分が必要で、編集スタジオに置いてある、コージーコーナーのエクレアを食べたいのに、タイミングが悪くていつも空っぽで食べられない。
私も無性に食べたくなって、観終わってすぐにコージーコーナーに直行したのだが、直前に閉まってて絶望したよ。
不器用な彼女の気分を、リアルに味わった(笑
斎藤監督の「サウンドバック 奏の石」は、少年少女の音の記憶をもとに、不思議な石が毎回違った形態のロボットを作り出す、ジュブナイル色の強いロボットアクション。
対する王子千春監督の「運命戦線リデルライト」は、「AKIRA」のバイクチェイスに、魔法少女ものを掛け合わせた様なSFファンタジー。
対照的な両者の競い合いを成立させるために、視聴率と円盤という指標を持って来ているが、現在この業界はサブスク移行が進んでいるので、現実には映画ほどには一喜一憂されないだろう。
まあこの辺りは、原作の連載時期が2012年〜14年と、少し昔だったことで生まれたギャップだろうが、結果的に盛り上がったのでヨシ。
他にもちょっと「?」な設定や描写も散見されるものの、TVアニメ制作のプロセスが分かりやすく凝縮されていて、モノ作りの夢と狂気、誰にも止められない”好き”への情熱が余すところなく表現されている。
終始お疲れ顔の主人公は、真面目に国立大学を出て、公務員をしていたものの、7年前に王子監督の「光のヨスガ」と出会ったことで転職を決意。
その後の下積み時代はすっ飛ばされて、まさに監督デビュー作の制作中から本筋が始まる。
私は一応アニメーション業界のインサイダーなので、専門性の高い業界で、転職組の斎藤監督がこれまでどれだけ苦労して来たかは十分想像できる。
デビュー作を成功させなければ後がないというプレッシャーに加えて、人気、知名度で圧倒的な王子監督との対決は、彼女の肉体と精神をボディブローのように削ってゆく。
この仕事は、会社が違っても編集スタジオや録音スタジオは共通なことも多く、本作でも斎藤監督と王子監督はしばしば顔を合わせる。
彼は内心、自分の作品に憧れて業界入りしたと語った彼女のことを気にかけているようで、さりげなく助言を与えたりするのだが、その実過去にヒット作を出した者だけが分かる、強烈なプレッシャーに押し潰されそうになっていて、プロデューサーは作品が無事完成するのか気が気でない。
本作のユニークな点は、監督とプロデューサーのバディものにもなっていること。
青チーム「サウンドバック」と赤チーム「リデルライト」の、男女入れ替えの監督とプロデューサーコンビが、記憶に残る最高の作品を作ろうと奮闘する話でもある。
お仕事映画は数あれど、男女コンビのチーム戦は珍しい。
監督同士に共通点が多い反面、柄本佑と尾野真千子が演じる両作のプロデューサーは、仕事のスタイル、人心掌握術も一見すると対照的なタイプ。
作品への熱い情念をクールな仮面の下に秘めた柄本佑と、隠さずにぶつけることで壁を打破してゆく尾野真千子のプロデューサーズは、監督たちがピッチャーだとしたら絶対の信頼をおくキャッチャーだ。
だから両者の相性は、もの凄く大切なのである。
プロデューサーの仕事はあまりにも多岐にわたっているため、なかなか説明しずらいものだが、本作を見ると多少の簡略化はあれどイメージしやすいのではないか。
しかしプロデューサー、監督も含めて、夜に働いている描写がやたらと多く、倒れるほどの長時間労働、休みを取るにも何日も徹夜しなければならない下請の苦労、個人の才能に頼った結果の皺寄せなど、この業界のブラックさもきっちり描かれてるが、彼女らは今いる現場で精一杯あがくしかないのが現状。
王子監督はフリーだが、斎藤監督は社員なので、いくらヒットしてもインセンティブなど無い。
それでもディレクターシステムの日本では、たとえ思い通りに作れなかったとしても、作品がコケれば監督が責任を問われる。
「納得出来ないものを、世間に出した時点で負け」という一見傲慢にも思える王子監督の言葉は、決して誇張では無いのである。
物語の序盤は斎藤監督がテンパってて、他人を思いやる余裕もなく、非常にギスギスした雰囲気で、正直こんな現場はイヤだと思わされる。
第一話のラッシュ上映の時の彼女は、スタッフの列の最後から、心ここに有らずという表情でついてくるし、起用を反対したアイドル声優との関係は、自分では気づいてないけどパワハラギリギリだ(実際にはパワーなど無いのだけど)。
だが最初がどん底な分、成長もわかりやすい。
自分の作りたいものを信じ、スタッフやキャストとお互いに信頼できる関係になると、物語にもドライヴがかかってくる。
最終話のラッシュ上映では、すっかり戦闘モードの斎藤監督が、スタッフの先陣を切って歩いてくる、創造のカタルシス。
そしてチーム戦である以上、成長するのは彼女だけではない。
王子監督も、過去の栄光という壁を乗り越え、厨二病みたいな破滅願望の先にある未来へと辿り着き、二つの作品を成立させたプロデューサーズも、いや関係者全てが成長する。
業界あるあるの(半分くらいは斎藤監督と王子監督が自分で招いてる)ハプニングの連続に加えて、東映動画の名作群から「明日のジョー」、“超平和バスターズ”の秩父シリーズに「エヴァンゲリオン」まで、歴史を彩った様々な作品からの、わかる人には分かる引用も楽しい。
特筆すべきは劇中アニメの出来の良さだが、それもそのはず。
アニメーションパートは、プロダクションI.G.がガッツリ取り組み、「サウンドバック」はTVシリーズ版「若女将は小学生」の谷東監督、「リデルライト」は「ONE PIECE STAMPEDE」の大塚隆史家督が手がけている。
完全にガチ勢による力作で、ぶっちゃけ現在のTVアニメとしてはオーバークオリティなくらい。
企画性も、実際に放送されたら観たくなるレベルに仕上げている。
両作のイメージカラーの赤と青を上手く使って、世間の評価を得る競い合いがAR的に表現されるビジュアルデザインも、未見性があってあって面白い。
この映画に登場する全ての人のベースにあるのは、「自分はなぜこの仕事をしているのか」という自問自答。
荒んだ子供時代をおくった斎藤監督は、絵空事のフィクションを信じていなかった。
どんなアニメを見ても、そこに自分を投影することが出来なかったから。
ところが、王子監督の「光のヨスガ」と出会い、その世界に自分を見たことで救われたのだ。
力のあるフィクションは、受け取った人に刺さり、現実を生きる力になる。
そしてその中の何人かは、斎藤監督のように、今度は自分が他人に希望としてのフィクションを届けたいと思うようになるのだ。
子供時代の斎藤監督と、隣に住んでいる太陽くんという孤独な男の子の境遇を、リンクさせる仕掛けも良い。猫のざくろちゃんも可愛いし。
クリエイティブの仕事についている人、やり続けている人は、それぞれの「光のヨスガ」があるのだと思う。
観ているうちに、斎藤瞳という監督が本当にこの業界のどこかにいて、次なる作品に向かって鋭気を養っているような錯覚に陥る。
これは、間違いなく本物だ。
ところで、エンドクレジット後に粋なオマケがあるので、席を立たないよ~に。
今回は、夢を追う人々の映画なので、「ドリーム」をチョイス。
ブランデー40ml、オレンジキュラソー20ml、ペルノ1dashを氷と一緒にシェイクし、グラスに注ぐ。
ブランデーのコクと、オレンジキュラソーの甘味が作り出す味わいに、ベルノの香りが独特のアクセントを加える。
その名の通り、ナイトキャップとして知られる一杯なので、寝不足気味の斎藤監督にも飲んでほしい。
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アニメーション制作なんて地味な題材を、よくぞここまでダイナミックなお仕事エンターテイメントに仕上げたものだ。
吉岡里帆演じる新人監督と、彼女の憧れの人であるレジェンド監督の中村倫也が、土曜5時枠のTVシリーズで激突する。
主人公は初監督なので、強気を装ってるが自信も余裕も無い。
最初からキチキチなのに、イベントでレジェンドに「覇権をとります」とか言っちゃったものだから、余計に追い込まれてゆく。
中村倫也の側も、一度ヒット作を出した者だけが分かる、強烈なプレッシャーに晒されている。
原作は直木賞作家の辻村深月の同名小説で、TVドラマ「死役所」や「ミス・シャーロック/Miss Sherlock」の政池洋佑が脚色。
監督は、異色のオリジナル作品「水曜日が消えた」でデビューした吉野耕平が務め、長編二作目にして見事な傑作をモノにした。
吉野監督は「君の名は。」にも参加したCGアーティストで、二つの作品の競争を盛り上げる、凝ったビジュアルデザインも見もの。
公務員からアニメーション業界の老舗、トウケイ動画に転職した斎藤瞳(吉岡里帆)は、7年の下積みを経て、社運をかけたロボットアニメ「サウンドバック 奏の石」で念願の監督デビューを果たす。
しかし同じ時間枠で、カリスマ的な人気を誇る王子千春(中村倫也)の新作「運命戦線 リデルライト」と対決することになる。
王子は、7年前に瞳が転職を決意するきっかけとなった、「光のヨスガ」を作った憧れの人。
世間の下馬評は「リデルライト」の圧勝だが、イベントで千春と対談した瞳は「勝って、覇権を取ります」と宣言してしまう。
ただでさえ時間がないのに、少しでも初監督の瞳の露出を高めようとするプロデューサーの行城理(江本祐)の意向で、取材やタイアップに連れ回される瞳は、曲者揃いのスタッフの心を掴むのに必死。
一方の千春も、「ヒットして当たり前」というプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、孤独な闘いを続けていた。
やがて、全くタイプの違う、「サウンドバック」と「リデルライト」の初回放送の日がやって来るのだが・・・・・
モノづくりの厳しさと楽しさがギュッと詰まった、圧倒的熱量を持つ傑作だ。
主人公の新人監督、斎藤瞳を演じる吉岡里帆が素晴らしく良い。
生真面目で静かに情熱を燃やすキャラクターがピッタリとハマり、「見えない目撃者」を超えるキャリアベスト。
創作には脳に糖分が必要で、編集スタジオに置いてある、コージーコーナーのエクレアを食べたいのに、タイミングが悪くていつも空っぽで食べられない。
私も無性に食べたくなって、観終わってすぐにコージーコーナーに直行したのだが、直前に閉まってて絶望したよ。
不器用な彼女の気分を、リアルに味わった(笑
斎藤監督の「サウンドバック 奏の石」は、少年少女の音の記憶をもとに、不思議な石が毎回違った形態のロボットを作り出す、ジュブナイル色の強いロボットアクション。
対する王子千春監督の「運命戦線リデルライト」は、「AKIRA」のバイクチェイスに、魔法少女ものを掛け合わせた様なSFファンタジー。
対照的な両者の競い合いを成立させるために、視聴率と円盤という指標を持って来ているが、現在この業界はサブスク移行が進んでいるので、現実には映画ほどには一喜一憂されないだろう。
まあこの辺りは、原作の連載時期が2012年〜14年と、少し昔だったことで生まれたギャップだろうが、結果的に盛り上がったのでヨシ。
他にもちょっと「?」な設定や描写も散見されるものの、TVアニメ制作のプロセスが分かりやすく凝縮されていて、モノ作りの夢と狂気、誰にも止められない”好き”への情熱が余すところなく表現されている。
終始お疲れ顔の主人公は、真面目に国立大学を出て、公務員をしていたものの、7年前に王子監督の「光のヨスガ」と出会ったことで転職を決意。
その後の下積み時代はすっ飛ばされて、まさに監督デビュー作の制作中から本筋が始まる。
私は一応アニメーション業界のインサイダーなので、専門性の高い業界で、転職組の斎藤監督がこれまでどれだけ苦労して来たかは十分想像できる。
デビュー作を成功させなければ後がないというプレッシャーに加えて、人気、知名度で圧倒的な王子監督との対決は、彼女の肉体と精神をボディブローのように削ってゆく。
この仕事は、会社が違っても編集スタジオや録音スタジオは共通なことも多く、本作でも斎藤監督と王子監督はしばしば顔を合わせる。
彼は内心、自分の作品に憧れて業界入りしたと語った彼女のことを気にかけているようで、さりげなく助言を与えたりするのだが、その実過去にヒット作を出した者だけが分かる、強烈なプレッシャーに押し潰されそうになっていて、プロデューサーは作品が無事完成するのか気が気でない。
本作のユニークな点は、監督とプロデューサーのバディものにもなっていること。
青チーム「サウンドバック」と赤チーム「リデルライト」の、男女入れ替えの監督とプロデューサーコンビが、記憶に残る最高の作品を作ろうと奮闘する話でもある。
お仕事映画は数あれど、男女コンビのチーム戦は珍しい。
監督同士に共通点が多い反面、柄本佑と尾野真千子が演じる両作のプロデューサーは、仕事のスタイル、人心掌握術も一見すると対照的なタイプ。
作品への熱い情念をクールな仮面の下に秘めた柄本佑と、隠さずにぶつけることで壁を打破してゆく尾野真千子のプロデューサーズは、監督たちがピッチャーだとしたら絶対の信頼をおくキャッチャーだ。
だから両者の相性は、もの凄く大切なのである。
プロデューサーの仕事はあまりにも多岐にわたっているため、なかなか説明しずらいものだが、本作を見ると多少の簡略化はあれどイメージしやすいのではないか。
しかしプロデューサー、監督も含めて、夜に働いている描写がやたらと多く、倒れるほどの長時間労働、休みを取るにも何日も徹夜しなければならない下請の苦労、個人の才能に頼った結果の皺寄せなど、この業界のブラックさもきっちり描かれてるが、彼女らは今いる現場で精一杯あがくしかないのが現状。
王子監督はフリーだが、斎藤監督は社員なので、いくらヒットしてもインセンティブなど無い。
それでもディレクターシステムの日本では、たとえ思い通りに作れなかったとしても、作品がコケれば監督が責任を問われる。
「納得出来ないものを、世間に出した時点で負け」という一見傲慢にも思える王子監督の言葉は、決して誇張では無いのである。
物語の序盤は斎藤監督がテンパってて、他人を思いやる余裕もなく、非常にギスギスした雰囲気で、正直こんな現場はイヤだと思わされる。
第一話のラッシュ上映の時の彼女は、スタッフの列の最後から、心ここに有らずという表情でついてくるし、起用を反対したアイドル声優との関係は、自分では気づいてないけどパワハラギリギリだ(実際にはパワーなど無いのだけど)。
だが最初がどん底な分、成長もわかりやすい。
自分の作りたいものを信じ、スタッフやキャストとお互いに信頼できる関係になると、物語にもドライヴがかかってくる。
最終話のラッシュ上映では、すっかり戦闘モードの斎藤監督が、スタッフの先陣を切って歩いてくる、創造のカタルシス。
そしてチーム戦である以上、成長するのは彼女だけではない。
王子監督も、過去の栄光という壁を乗り越え、厨二病みたいな破滅願望の先にある未来へと辿り着き、二つの作品を成立させたプロデューサーズも、いや関係者全てが成長する。
業界あるあるの(半分くらいは斎藤監督と王子監督が自分で招いてる)ハプニングの連続に加えて、東映動画の名作群から「明日のジョー」、“超平和バスターズ”の秩父シリーズに「エヴァンゲリオン」まで、歴史を彩った様々な作品からの、わかる人には分かる引用も楽しい。
特筆すべきは劇中アニメの出来の良さだが、それもそのはず。
アニメーションパートは、プロダクションI.G.がガッツリ取り組み、「サウンドバック」はTVシリーズ版「若女将は小学生」の谷東監督、「リデルライト」は「ONE PIECE STAMPEDE」の大塚隆史家督が手がけている。
完全にガチ勢による力作で、ぶっちゃけ現在のTVアニメとしてはオーバークオリティなくらい。
企画性も、実際に放送されたら観たくなるレベルに仕上げている。
両作のイメージカラーの赤と青を上手く使って、世間の評価を得る競い合いがAR的に表現されるビジュアルデザインも、未見性があってあって面白い。
この映画に登場する全ての人のベースにあるのは、「自分はなぜこの仕事をしているのか」という自問自答。
荒んだ子供時代をおくった斎藤監督は、絵空事のフィクションを信じていなかった。
どんなアニメを見ても、そこに自分を投影することが出来なかったから。
ところが、王子監督の「光のヨスガ」と出会い、その世界に自分を見たことで救われたのだ。
力のあるフィクションは、受け取った人に刺さり、現実を生きる力になる。
そしてその中の何人かは、斎藤監督のように、今度は自分が他人に希望としてのフィクションを届けたいと思うようになるのだ。
子供時代の斎藤監督と、隣に住んでいる太陽くんという孤独な男の子の境遇を、リンクさせる仕掛けも良い。猫のざくろちゃんも可愛いし。
クリエイティブの仕事についている人、やり続けている人は、それぞれの「光のヨスガ」があるのだと思う。
観ているうちに、斎藤瞳という監督が本当にこの業界のどこかにいて、次なる作品に向かって鋭気を養っているような錯覚に陥る。
これは、間違いなく本物だ。
ところで、エンドクレジット後に粋なオマケがあるので、席を立たないよ~に。
今回は、夢を追う人々の映画なので、「ドリーム」をチョイス。
ブランデー40ml、オレンジキュラソー20ml、ペルノ1dashを氷と一緒にシェイクし、グラスに注ぐ。
ブランデーのコクと、オレンジキュラソーの甘味が作り出す味わいに、ベルノの香りが独特のアクセントを加える。
その名の通り、ナイトキャップとして知られる一杯なので、寝不足気味の斎藤監督にも飲んでほしい。

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