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犬王・・・・・評価額1700円
2022年06月01日 (水) | 編集 |
死者たちの声を聞け!

室町時代、将軍足利義満の庇護を受け、大衆に絶大な人気を誇りながら、詳しい記録がほとんど現存しない猿楽師・犬王。
謎めいた時代のスターと、彼のバディとなる琵琶法師の物語を軸に描かれる、忘れられた者たちの声を今に届ける狂乱のロック・ミュージカルだ。
山田尚子監督の「平家物語」と同じ、古川日出男の「平家物語 犬王の巻」を原作とし、監督に湯浅政明、脚本に「罪の声」の野木亜紀子、さらにキャラクター原案は松本大洋、音楽に大友良英という錚々たるオールスターズ。
犬王の声はロックバンド女王蜂のボーカリスト、アヴちゃんがパワフルに演じ、バディとなる琵琶法師の友魚を森山未來が好演する。
唯一無二、まさに湯浅政明にしか作れない、外連味たっぷりオンリーワンの音楽活劇だ。
※核心部分に触れています。

平家が滅びてから凡そ200年後。
壇ノ浦古戦場近くの漁村に住む友魚(森山未來)は、海底で探し当てた天叢雲剣に呪われ、父を失い自らは失明する。
平家の物語を語る琵琶法師に拾われた友魚は、彼らの仲間となり、友一の名をもらう。
同じ頃、猿楽の家元に生まれながら、極度の奇形のために名も付けられず、誰からも相手にされぬ異形の子(アヴちゃん)は、京の街で人を脅して憂さ晴らしをしていた。
ある夜、友一は異形の子と出会うが、見えないので怖がらず、なぜか意気投合。
異形の子は怨霊が見え、ある時彼が平家の怨霊の声を聴くと、体の奇形の一部が治る。
怨霊の声を伝えることが自らの使命と考えた二人は、協力して新たな平家の物語を語り始める。
友一は友有と改名し演奏、異形の子は犬王と名乗り舞う。
彼らの斬新なパフォーマンスは、たちまち京の人々の心を掴むのだが・・・・


私は不勉強でこの人物を知らなかったのだが、道阿弥の名でも知られる犬王は、現在にも伝わる観世座の祖、観阿弥・世阿弥に匹敵する人気があったらしい。
実際に世阿弥は彼のことを高く評価していたらしく、影響も受けているそうだ。
それなのに、なぜか犬王のことを記した資料はほとんど残っておらず、謎の人物なのだという。

物語の軸となるのは、犬王と彼とコンビを組むことになる友魚の絆
時は二つの朝廷が正当性を競っていた南北朝時代。
壇ノ浦近くの村に住んでいた友魚は、足利幕府の役人に依頼され、源平の合戦で海に沈んだ三種の神器の一つ、天叢雲剣を探し当てる。
しかし直接その刀身を見てしまったことで呪いを受け、父は即死し自らは失明してしまうのだ。
やがて厳島神社で琵琶法師の一団と出会った友魚は、盲目で生きる手段として彼らに入門し、しきたりに従って名を“友一”と変え、琵琶法師となる。
琵琶法師は、今では「平家物語」として伝えられる、平家滅亡の歴史を語り伝える者。

一方、犬王には当初名前がない
一流になり切れない猿楽師の父親の虚栄心の犠牲となり、胎児のうちに生贄として捧げられた彼は、人の形をしていない異形の子として生まれてくる。
一つの手は極端に長く、他の三本の手足は短く、顔は大きく歪み、背中には亀のような甲羅。
名も付けられなかった異形の子は、ある時京の都に今も彷徨う、平家の怨霊の声を聞く。
すると、短かった足がピンと伸びるのだ。
この設定で分かる通り、おそらくこのキャラクターは、手塚治虫の傑作「どろろ」の主人公・百鬼丸に強い影響を受けている。
体のパーツを奪われる代わりに、体を歪められ、妖怪を殺す代わりに、怨霊の声を聞いてその物語を語り成仏させると、一箇所ずつ奇形が治ってゆく。
異形の子は、成仏できぬ平家の怨霊の声を聞く者であり、友魚はそれを語り継ぐ者
ひょんなことから出会った二人は、それぞれ“犬王”と“友有”と名乗り、まだ誰にも語られていない平家の物語を大衆に伝えるため、“ロック”と“ミュージカル”を発明してしまうのだ。

ここからはもう、湯浅政明の独断場でイマジネーションが洪水のように押し寄せてくる。
ちゃんと測った訳ではないが、二人が犬王と友有になってからは、体感的には上映時間の半分くらいは二人のパフォーマンスで占められている。
当時の猿楽は、現在の能楽に比べると、遥かにテンポが早かったらしいのだが、それでもエレキギター鳴り響いちゃってるし、舞台装置はほとんどシルクドソレイユだし、踊りの振り付けバレエだし、まさに時代を超えた狂乱のステージ。
観衆も手拍子を打ち鳴らし熱狂し、ほぼ“フェス”である。
特に壇ノ浦を舞台とした、「鯨」のパフォーマンスは圧巻で、こんな破天荒なアニメーション映画は観たことがない。
悩ましいのが、サウンドが激しくなればなるほど、歌詞が聞き取りにくくなり、肝心の語られていない平家の物語が不明瞭になってしまうこと。
ビジュアル的にはちょいダサだが、歌詞字幕が有っても良かったかも知れない。

面白いのが、名前に対する拘りだ。
犬王には最初名がない。
名がないということは友魚と出会うまで、彼のことを呼ぶ人が誰もいなかったということだ。
家族からも見捨てられ、世間からは見えない存在だった彼は、ある意味で死してなお、誰にも知られぬままこの世を漂う怨霊に近い存在だ。
その異形の子が、犬王という名を自ら名乗り、怨霊の持つ記憶を人々に届ける。
もともと漁村の少年だった友魚は、視力を失ったことで琵琶法師となるが、彼らの仲間となるために自らの属性を一部奪われ、友一となる。
琵琶法師は元々平家の物語を語る役割だが、犬王との出会いによって、彼はまだ知られていない物語が無数に存在することを知り、今ここに有る物語を語る“友有”と名を改める。
これは虐げられた者たちが、忘れられた者たちの声を聞き、後の世に届けることでアイデンティティを確立する物語なのである。

しかし、そんな彼らの語る物語は、権力者の都合によってあっさりと封じられてしまう。
「平家物語」には「定本」が定められ、そこに納められている言葉を以外を語ることは禁じられ、逆らえばお上に楯突いた犯罪者として処罰される。
規制を受け入れ、権力にへつらうことを選ぶか、それともあくまでも声なき者たちに寄り添う道を選ぶのか。
それまで言論の自由を謳歌していた犬王と友魚の運命は、ここで分かれるのである。
これは歴史上、世界のあらゆるところで繰り返されてきたイシューで、本作が物語の入り口を現在に設定したこともこれが理由だろう。
本作の二人のように、究極の選択を強いられている人は今もいるし、私たちだってそうならないとは限らないのだ。
文字通りに口を封じられた友有はもちろん、語るべき物語を失った犬王もまた歴史の記憶から消えてゆく。

本作と同じく、サイエンスSARUで制作され、古川日出男訳を原作とする山田尚子版「平家物語」とは、ストーリーそのものは全く繋がらないが、相互補完する様な関係で、両方観るとよりディープに楽しめる。
こちらの特徴は、ひょんなことから平家の有力者、平重盛の屋敷に住むことになった少女“びわ”を主人公に、彼女の視点で全てを描いたこと。
びわには未来を見る特殊な能力があるのだが、彼女は平家滅亡までのおよそ15年間、姿が全く変化しない。
つまりびわは、この世の時間軸から切り離された存在で、15年の間に親しい人たちは病気や戦乱によって次々と死んでゆく。
彼女はこの儚い世界で、時間の縛りをこえ、生と死をつなぐ存在である自分が、人々のために何ができるのだろうとずっと考えている。
重盛や彼の妹で聡明な徳子、幼馴染となる重盛の三人の息子たち、それぞれの生き方に心動かされ、滅びゆく彼らのために祈り、物語として語り継ぐことを決意する。
すると、平家の滅亡と共に、彼女の目の光は失われ、盲目の琵琶法師となるのである。

死んでいった者たちの物語を語り継ぎ、声を届けるのは本作と共通だが、「平家物語」のびわは、平家の頂点の歴史を見てきたインサイダーであって、彼女の語る物語はいわば定本。
平家は巨大な一族だったので、抜け落ちている物語もたくさんあり、200年後にそれを拾ったのが犬王だったら?という発想は非常に面白い。
「平家物語」はNetflixをはじめ、各配信サービスで観ることができるので、是非本作と併せて鑑賞することをお勧めする。
湯浅政明と山田尚子、現在の日本のアニメーションシーンを牽引する二人の天才の仕事は、どちらも作家性が強く、観応えも十分だ。

今回は京丹後の地酒、木下酒造の「玉川 山廃純米無濾過生原酒 白ラベル」をチョイス。
こちらは日本で唯一、英国人のフィリップ・パーカー氏が杜氏を務める蔵で、映画「カンパイ!世界が恋する日本酒」にも登場した。
濃厚豊潤な味わいで、20度のアルコール度数は純米酒としては異例の高さだが、マイルドで飲みやすい。
普通に飲んでも旨いが、ぬる燗にしたり、度数を生かしてオンザロックにしたり、さまざまな味わい方を試してみたくなる懐の深い酒だ。

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