2022年07月23日 (土) | 編集 |
あの頃、君を追いかけた。
1973年、ロサンゼルスに住む15歳の俳優の少年ゲイリーと、25歳のアラナの歳の差恋模様。
「リコリス・ピザ」というタイトルだが、別にピザは出てこない。
これは60年代から80年代にかけて、南カリフォルニアに実在したレコードチェーン店の名前らしい。
製作・監督・脚本・撮影を兼務するポール・トーマス・アンダーソンは、長編前作の「ファントム・スレッド」から一転して、肩の力が抜けた軽やかなフットワーク。
全体の印象として、彼のフィルモグラフィ中では、シャキッとした「インヒアレント・ヴァイス」と言う感じだ。
もっとも、歳の差の恋の話で、男性がほぼ一方的に一目惚れすることから始まる物語という点では、「ファントム・スレッド」の裏返しとも言える。
学校の写真撮影で、生徒とカメラマンのアシスタントとして出会った二人。
主人公のゲイリーを演じるのは、新人のクーパー・ホフマン。
この面影どこかで・・・と思ったら、PTAの映画の常連だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子だった。
撮影当時17歳ということだが、早くも父親譲りの貫禄がある。
彼の恋の相手のアラナ役は、姉妹バンドの「ハイム」のメンバーとして知られるアラナ・ハイムで、姉妹両親と共に家族で映画初出演。
共に演技ズレしていないこの二人が、自然体で実に初々しいのだ。
15歳と25歳、普通この年齢で10歳の差は決定的なんだが、ゲイリーは只者ではない。
子供の頃から芸能界で活動し、すでに家族を養っている。
それだけでなく異常な行動力を持ち、ちょっとでも流行りそうなものを見つけると、仲間たちを集めてガチのビジネスにしてしまうのだ。
70年代当時にはやったウォーターベッドの販売店を始めたからと思えば、オイルショックで石油製品のベッドが入ってこなくなると、ロサンゼルスで禁止されていたピンボールゲームが解禁される話を聞きつけて、ゲームセンターを開業。
いわゆる起業家気質で、見た目はちょっと恰幅の良い少年だが、中身は半分おっさんだ。
アラナのキャラクターが未成熟なこともあって、意外と対等の恋の駆け引きが見られるんだな。
もっとも現実の恋と同様に、物語は行き当たりばったり。
アラナも現状を打破しようと、ゲイリーに触発されて女優に挑戦したり、市長選挙のボランティアに志願したりするが、大きな事件は起こらない。
だが、それがいいのだ。
50年前にあったかもしれない、小さな恋のはじまりの物語を、ちょっと覗き見してるような感覚。
市長選挙やオイルショックなどの世相がバックグラウンドとなり、破天荒なキャラクターで知られる映画プロデューサーのジョン・ピーターズや、ウイリアム・ホールデンっぽい俳優、ゲイであることを隠して出馬する市長候補のジョエル・ワックスら、実在の人物が物語を彩る。
彼らを演じるブラッドリー・クーパーやショーン・ペンといった大物スターも、悪ノリギリギリで楽しそうだ。
ストーリーテリングのテンポも良く、134分の上映時間は心地よく過ぎてゆく。
たぶんPTAの作品の中で、一番観やすいのではないか。
ちょいキュンな、可愛らしい小品。
今回は、リコリス繋がりでフランスのリキュール「パスティス51」をチョイス。
リコリスはスペインカンゾウというハーブの一種で、これを抽出してお菓子にするとリコリスキャンディー、飲み物の味付けにするとルートビアになる。
元々ヨーロッパではニガヨモギを主成分とするアブサンが人気だったのだが、中毒症状を引き起こすとして20世紀初頭に使用が禁止される。
その後、2000年代になって使用量を限定して復活するも、アブサンが飲めなかった時代に生み出されたのがリコリスなどを使ったパスティスだ。
香草系のリキュール独特の強烈な風味。
ウィスキーを思わせるアンバー色だが、水で割ると白濁する。
好みは分かれるだろうが、ウゾなど香りの強い酒が好きな人にはオススメだ。
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1973年、ロサンゼルスに住む15歳の俳優の少年ゲイリーと、25歳のアラナの歳の差恋模様。
「リコリス・ピザ」というタイトルだが、別にピザは出てこない。
これは60年代から80年代にかけて、南カリフォルニアに実在したレコードチェーン店の名前らしい。
製作・監督・脚本・撮影を兼務するポール・トーマス・アンダーソンは、長編前作の「ファントム・スレッド」から一転して、肩の力が抜けた軽やかなフットワーク。
全体の印象として、彼のフィルモグラフィ中では、シャキッとした「インヒアレント・ヴァイス」と言う感じだ。
もっとも、歳の差の恋の話で、男性がほぼ一方的に一目惚れすることから始まる物語という点では、「ファントム・スレッド」の裏返しとも言える。
学校の写真撮影で、生徒とカメラマンのアシスタントとして出会った二人。
主人公のゲイリーを演じるのは、新人のクーパー・ホフマン。
この面影どこかで・・・と思ったら、PTAの映画の常連だった故フィリップ・シーモア・ホフマンの息子だった。
撮影当時17歳ということだが、早くも父親譲りの貫禄がある。
彼の恋の相手のアラナ役は、姉妹バンドの「ハイム」のメンバーとして知られるアラナ・ハイムで、姉妹両親と共に家族で映画初出演。
共に演技ズレしていないこの二人が、自然体で実に初々しいのだ。
15歳と25歳、普通この年齢で10歳の差は決定的なんだが、ゲイリーは只者ではない。
子供の頃から芸能界で活動し、すでに家族を養っている。
それだけでなく異常な行動力を持ち、ちょっとでも流行りそうなものを見つけると、仲間たちを集めてガチのビジネスにしてしまうのだ。
70年代当時にはやったウォーターベッドの販売店を始めたからと思えば、オイルショックで石油製品のベッドが入ってこなくなると、ロサンゼルスで禁止されていたピンボールゲームが解禁される話を聞きつけて、ゲームセンターを開業。
いわゆる起業家気質で、見た目はちょっと恰幅の良い少年だが、中身は半分おっさんだ。
アラナのキャラクターが未成熟なこともあって、意外と対等の恋の駆け引きが見られるんだな。
もっとも現実の恋と同様に、物語は行き当たりばったり。
アラナも現状を打破しようと、ゲイリーに触発されて女優に挑戦したり、市長選挙のボランティアに志願したりするが、大きな事件は起こらない。
だが、それがいいのだ。
50年前にあったかもしれない、小さな恋のはじまりの物語を、ちょっと覗き見してるような感覚。
市長選挙やオイルショックなどの世相がバックグラウンドとなり、破天荒なキャラクターで知られる映画プロデューサーのジョン・ピーターズや、ウイリアム・ホールデンっぽい俳優、ゲイであることを隠して出馬する市長候補のジョエル・ワックスら、実在の人物が物語を彩る。
彼らを演じるブラッドリー・クーパーやショーン・ペンといった大物スターも、悪ノリギリギリで楽しそうだ。
ストーリーテリングのテンポも良く、134分の上映時間は心地よく過ぎてゆく。
たぶんPTAの作品の中で、一番観やすいのではないか。
ちょいキュンな、可愛らしい小品。
今回は、リコリス繋がりでフランスのリキュール「パスティス51」をチョイス。
リコリスはスペインカンゾウというハーブの一種で、これを抽出してお菓子にするとリコリスキャンディー、飲み物の味付けにするとルートビアになる。
元々ヨーロッパではニガヨモギを主成分とするアブサンが人気だったのだが、中毒症状を引き起こすとして20世紀初頭に使用が禁止される。
その後、2000年代になって使用量を限定して復活するも、アブサンが飲めなかった時代に生み出されたのがリコリスなどを使ったパスティスだ。
香草系のリキュール独特の強烈な風味。
ウィスキーを思わせるアンバー色だが、水で割ると白濁する。
好みは分かれるだろうが、ウゾなど香りの強い酒が好きな人にはオススメだ。

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