2022年08月16日 (火) | 編集 |
絶対に、助け出す。
2018年の6月、タイ北部にあるタルアン洞窟が突然の豪雨によって水没。
地元の少年サッカーチームの選手12人とコーチ1人の計13人が、地底奥深くに閉じ込められ、出動要請を受けたタイ海軍のみならず、世界中から集まったダイバーやボランティア作業員たちによって、大規模な救出作戦が繰り広げられた。
これは世界が見守った救出劇の全貌を、現場に駆けつけた英国人ケーブダイバーを軸に描く群像劇だ。
ヴィゴ・モーテンセン、コリン・ファレル、ジョエル・エドガートンらの名優が、いぶし銀の演技でベテランケーブダイバーたちを好演。
グァダニーノ版「サスペリア」の撮影監督・サヨムプー・ムックディプロームが、どこまでも続く地底の迷宮を活写し、「グラディエーター」「レ・ミゼラブル」のウィリアム・ニコルソンの脚本を、ロン・ハワード監督がドラマチックにまとめ上げた。
リチャード・スタントン(ヴィゴ・モーテンセン)の自宅に、ケーブダイビング仲間のジョン・ヴォランセン(コリン・ファレル)から連絡が入る。
タイの洞窟に少年サッカーチームの13人が閉じ込められていて、救出に行こうと言うのだ。
現場には、すでにタイ海軍のネイビーシールズをはじめ、多くのボランティアが展開していたが、狭く曲がりくねった洞窟には雨水が流れ込み続けており、濁流に阻まれて捜索は遅々として進んでいない。
多くの洞窟事故を見てきたスタントンは、結果を悲観するが、せめて遺体だけでも回収しようと洞窟に入る。
しかし、少年たちが避難したと推測された「パタヤビーチ」には何もなく、海軍も進めていない奥へと進むと、小さな岩棚に少年たちが避難していた。
13人全員無事の一報に人々は沸き立つが、スタントンとヴォランセンは、ダイビング経験のない者を、潜水させて救い出すことの難しさを誰よりも知っていたので、表情はうかない。
しかし、洞窟内の酸素はあとわずか。
彼らは人類史上誰もやったことのない、前代未聞の計画を立てるのだが・・・・
記憶に新しいこの事件、発生からたった4年で早くも三度目の映画化だ。
それほどドラマチックで、いわゆる「映画みたいな話」だったということだろう。
本国タイで制作された「THE CAVE サッカー少年救出までの18日間」は観てないが、山岳ドキュメンタリーの傑作「MERU/メルー」「フリーソロ」のジミー・チンとエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ両監督が手掛けたドキュメンタリー映画、「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」は見事な仕上がりだった。
事件発生後、すぐに現場に駆けつけたのは、タイ海軍のネイビーシールズ。
しかし、彼らはダイビングのプロではあるものの、その活動のフィールドは広大な海で、視界がきかず障害物だらけケーブダイビングは専門外。
そこで、世界中から集まってくるのが、ベテランのケーブダイバーたちだ。
ずっと山岳ものを作ってきたチンとヴァサルヘリィが、ダイビングものを手掛けたのは意外だったのだが、ケーブダイバーのキャラクターを見て納得。
彼らは基本団体行動が苦手で、お一人時間が大好き。
悲観的なまでに慎重だが、時に大胆な行動を取る。
そして何よりも、自然に対し畏怖の念を持ち、物静かで優しい。
彼らのメンタリティはほぼクライマーのそれで、舞台が山から水中になっただけだったのだ。
ドキュメンタリー版はケーブダイバーの活動を主に描いていて、登場人物も本作とほぼ同じ。
同一の事件の展開を、ドキュメンタリーと劇映画の二つの視点で眺めるのも面白い。
本作は情報量が膨大で、登場人物の背景や内面などは必要最低限しか描かれないので、むしろドキュメンタリー版の方が個々のキャラクターは理解しやすい。
劇映画ならではの演出で秀逸なのが、冒頭で水の無い状態の洞窟内をきっちり描写していることだ。
一旦濁った水に浸ってしまうと、実際にその場所がどんな地形なのかは分からなくなってしまうが、この冒頭部分があることによって、無数の鍾乳石が垂れ下がり、極端に狭く曲がりくねった洞窟の構造が視覚的に理解出来るので、その後のレスキューミッションの困難さが一目で分かるのである。
おそらく洞窟の手強さを最初に思い知ったのは、ネイビーシールズだろう。
世間の期待とは裏腹に、ノウハウを持ってないので結果を出せない。
そんな時にやってきたケーブダイバーのおっさんたちは、彼らからしたら最初は信頼出来ないよそ者だ。
だが行き詰まった現場で、実際にケーブダイバーが結果を出してゆくと、バラバラだった人々の心にリスペクトと共にチームとしての一体感が生まれてくる。
まあこれが完全なフィクションだと、典型的ホワイトセイバー話型と批判されそうだが、紛れもなく事実なんだから仕方がない。
洞窟の入り口から4キロ、水の流れに逆らって到達するのに6時間以上、戻るにも最短で5時間。
しかもその大半を、水中に張られたたった一本のガイドラインを頼りに、潜水して泳がねばならない。
屈強なネイビーシールズにも死者が出てしまうほどの難路を通り、ダイビング経験など無いど素人の少年たちをどうやって救出するのか。
この実際のレスキューミッションの顛末は、ドキュメンタリー版で知っていたものの、ドラマとして再構成されると、ぶっちゃけ全員助かったのは本当に奇跡だと思える。
そりゃあ、その瞬間はマスコミを遠ざけたくなるわ。
トム・ベイマンが演じるケーブダイバーの一人が、ミッション中にガイドラインを離してしまい、位置を見失うシチュエーションなどは、ドキュメンタリーだと本人が淡々と語っているだけだが、こちらでは俳優の演技によって、本当にヤバい状態だったのだと実感する。
それゆえに、彼らの成し遂げたことの凄さが余計に際立つ。
一見冴えないおっさんたちが、これほど頼もしく見える映画もないだろう。
またケーブダイバーの話だけではドラマとしては単調に陥りそうだが、本作はいわばライバルであり同志でもあるネイビーシールズ、陣頭指揮にあたった知事、祈りを捧げにやって来る高僧、子供たちを待つ家族など、当時現場にいた様々な立場の人たちを少しずつ、しかし満遍なく描いてゆく。
洞窟内の水位を下げるため、地元の人たちが山から流れ込む水の方向を変え、田んぼを犠牲にして即席ダムを作ったエピソードなどは、当時ほとんど報道された記憶がないが、これだって大変なミッションだ。
これらの細かなサブプロットでメインプロットを肉付けしていった結果、世界から五千人もの人々が参加した大作戦の全貌が見えるようになっている。
事件のために集った軍やボランティアたちのために、洞窟の前にキャンプが作られているのだが、もはや一つの町と言っていい規模なのにも驚かされた。
まさに、「チーム人類」の成し遂げた偉業。
戦争やコロナで、ギスギスしがちな今の時代、このスピリットを忘れないようにしたいものだ。
しかしロン・ハワード監督の作品、素晴らしい仕上がりだった「ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-」に続いて配信スルー。
本作などは大作感もあり、暗闇で展開する内容的にも映画館向きで、何よりも娯楽映画として非常に面白いのに、ちょっと勿体無く思う。
シネコンなら、一番大きなスクリーンで鑑賞したくなる作品だ。
ディズニー+で配信中のドキュメンタリー版「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」と併せて鑑賞すると、より楽しめるだろう。
今回は、象がトレードマークのタイビール「チャーン クラッシック・ラガー」をチョイス。
タイ市場では、シンハーと並ぶ人気銘柄なのだが、南国ビールの例に漏れず、めっちゃライト。
一応、度数は5°と普通だが、酔うというよりも水分補給用で、キンキンに冷やして、なんなら氷も入れちゃって、スッキリすること間違いなし。
緊張感あふれるレスキューミッション明けには、これで祝杯を上げたくなる。
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2018年の6月、タイ北部にあるタルアン洞窟が突然の豪雨によって水没。
地元の少年サッカーチームの選手12人とコーチ1人の計13人が、地底奥深くに閉じ込められ、出動要請を受けたタイ海軍のみならず、世界中から集まったダイバーやボランティア作業員たちによって、大規模な救出作戦が繰り広げられた。
これは世界が見守った救出劇の全貌を、現場に駆けつけた英国人ケーブダイバーを軸に描く群像劇だ。
ヴィゴ・モーテンセン、コリン・ファレル、ジョエル・エドガートンらの名優が、いぶし銀の演技でベテランケーブダイバーたちを好演。
グァダニーノ版「サスペリア」の撮影監督・サヨムプー・ムックディプロームが、どこまでも続く地底の迷宮を活写し、「グラディエーター」「レ・ミゼラブル」のウィリアム・ニコルソンの脚本を、ロン・ハワード監督がドラマチックにまとめ上げた。
リチャード・スタントン(ヴィゴ・モーテンセン)の自宅に、ケーブダイビング仲間のジョン・ヴォランセン(コリン・ファレル)から連絡が入る。
タイの洞窟に少年サッカーチームの13人が閉じ込められていて、救出に行こうと言うのだ。
現場には、すでにタイ海軍のネイビーシールズをはじめ、多くのボランティアが展開していたが、狭く曲がりくねった洞窟には雨水が流れ込み続けており、濁流に阻まれて捜索は遅々として進んでいない。
多くの洞窟事故を見てきたスタントンは、結果を悲観するが、せめて遺体だけでも回収しようと洞窟に入る。
しかし、少年たちが避難したと推測された「パタヤビーチ」には何もなく、海軍も進めていない奥へと進むと、小さな岩棚に少年たちが避難していた。
13人全員無事の一報に人々は沸き立つが、スタントンとヴォランセンは、ダイビング経験のない者を、潜水させて救い出すことの難しさを誰よりも知っていたので、表情はうかない。
しかし、洞窟内の酸素はあとわずか。
彼らは人類史上誰もやったことのない、前代未聞の計画を立てるのだが・・・・
記憶に新しいこの事件、発生からたった4年で早くも三度目の映画化だ。
それほどドラマチックで、いわゆる「映画みたいな話」だったということだろう。
本国タイで制作された「THE CAVE サッカー少年救出までの18日間」は観てないが、山岳ドキュメンタリーの傑作「MERU/メルー」「フリーソロ」のジミー・チンとエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィ両監督が手掛けたドキュメンタリー映画、「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」は見事な仕上がりだった。
事件発生後、すぐに現場に駆けつけたのは、タイ海軍のネイビーシールズ。
しかし、彼らはダイビングのプロではあるものの、その活動のフィールドは広大な海で、視界がきかず障害物だらけケーブダイビングは専門外。
そこで、世界中から集まってくるのが、ベテランのケーブダイバーたちだ。
ずっと山岳ものを作ってきたチンとヴァサルヘリィが、ダイビングものを手掛けたのは意外だったのだが、ケーブダイバーのキャラクターを見て納得。
彼らは基本団体行動が苦手で、お一人時間が大好き。
悲観的なまでに慎重だが、時に大胆な行動を取る。
そして何よりも、自然に対し畏怖の念を持ち、物静かで優しい。
彼らのメンタリティはほぼクライマーのそれで、舞台が山から水中になっただけだったのだ。
ドキュメンタリー版はケーブダイバーの活動を主に描いていて、登場人物も本作とほぼ同じ。
同一の事件の展開を、ドキュメンタリーと劇映画の二つの視点で眺めるのも面白い。
本作は情報量が膨大で、登場人物の背景や内面などは必要最低限しか描かれないので、むしろドキュメンタリー版の方が個々のキャラクターは理解しやすい。
劇映画ならではの演出で秀逸なのが、冒頭で水の無い状態の洞窟内をきっちり描写していることだ。
一旦濁った水に浸ってしまうと、実際にその場所がどんな地形なのかは分からなくなってしまうが、この冒頭部分があることによって、無数の鍾乳石が垂れ下がり、極端に狭く曲がりくねった洞窟の構造が視覚的に理解出来るので、その後のレスキューミッションの困難さが一目で分かるのである。
おそらく洞窟の手強さを最初に思い知ったのは、ネイビーシールズだろう。
世間の期待とは裏腹に、ノウハウを持ってないので結果を出せない。
そんな時にやってきたケーブダイバーのおっさんたちは、彼らからしたら最初は信頼出来ないよそ者だ。
だが行き詰まった現場で、実際にケーブダイバーが結果を出してゆくと、バラバラだった人々の心にリスペクトと共にチームとしての一体感が生まれてくる。
まあこれが完全なフィクションだと、典型的ホワイトセイバー話型と批判されそうだが、紛れもなく事実なんだから仕方がない。
洞窟の入り口から4キロ、水の流れに逆らって到達するのに6時間以上、戻るにも最短で5時間。
しかもその大半を、水中に張られたたった一本のガイドラインを頼りに、潜水して泳がねばならない。
屈強なネイビーシールズにも死者が出てしまうほどの難路を通り、ダイビング経験など無いど素人の少年たちをどうやって救出するのか。
この実際のレスキューミッションの顛末は、ドキュメンタリー版で知っていたものの、ドラマとして再構成されると、ぶっちゃけ全員助かったのは本当に奇跡だと思える。
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トム・ベイマンが演じるケーブダイバーの一人が、ミッション中にガイドラインを離してしまい、位置を見失うシチュエーションなどは、ドキュメンタリーだと本人が淡々と語っているだけだが、こちらでは俳優の演技によって、本当にヤバい状態だったのだと実感する。
それゆえに、彼らの成し遂げたことの凄さが余計に際立つ。
一見冴えないおっさんたちが、これほど頼もしく見える映画もないだろう。
またケーブダイバーの話だけではドラマとしては単調に陥りそうだが、本作はいわばライバルであり同志でもあるネイビーシールズ、陣頭指揮にあたった知事、祈りを捧げにやって来る高僧、子供たちを待つ家族など、当時現場にいた様々な立場の人たちを少しずつ、しかし満遍なく描いてゆく。
洞窟内の水位を下げるため、地元の人たちが山から流れ込む水の方向を変え、田んぼを犠牲にして即席ダムを作ったエピソードなどは、当時ほとんど報道された記憶がないが、これだって大変なミッションだ。
これらの細かなサブプロットでメインプロットを肉付けしていった結果、世界から五千人もの人々が参加した大作戦の全貌が見えるようになっている。
事件のために集った軍やボランティアたちのために、洞窟の前にキャンプが作られているのだが、もはや一つの町と言っていい規模なのにも驚かされた。
まさに、「チーム人類」の成し遂げた偉業。
戦争やコロナで、ギスギスしがちな今の時代、このスピリットを忘れないようにしたいものだ。
しかしロン・ハワード監督の作品、素晴らしい仕上がりだった「ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-」に続いて配信スルー。
本作などは大作感もあり、暗闇で展開する内容的にも映画館向きで、何よりも娯楽映画として非常に面白いのに、ちょっと勿体無く思う。
シネコンなら、一番大きなスクリーンで鑑賞したくなる作品だ。
ディズニー+で配信中のドキュメンタリー版「THE RESCUE 奇跡を起こした者たち」と併せて鑑賞すると、より楽しめるだろう。
今回は、象がトレードマークのタイビール「チャーン クラッシック・ラガー」をチョイス。
タイ市場では、シンハーと並ぶ人気銘柄なのだが、南国ビールの例に漏れず、めっちゃライト。
一応、度数は5°と普通だが、酔うというよりも水分補給用で、キンキンに冷やして、なんなら氷も入れちゃって、スッキリすること間違いなし。
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