2022年08月20日 (土) | 編集 |
青春の「またね〜!」
個人的に、作中に出てくるご飯が食べたくなるほど美味しそうに見える映画は、名作率が高いと思ってる。
これもその一つで、観終わってすぐに思ったのだ「サバカン寿司食いてー!」だった(笑
元お笑い芸人という異色のキャリアを持つ金沢知樹監督は、故郷長崎を舞台に描くリリカルな青春映画で、鮮やかなデビューを飾った。
ストーリーテラーは、草彅剛演じる売れない小説家の久田孝明。
妻とは別居中(?)で、娘の養育費を払うためにも、新しい小説を書かなければならないのだが、ネタが浮かばない。
そんな時、サバの缶詰を見てふと思い出したのが、30年以上前の小学生の頃、夏休みに起こったこと。
1986年の長崎。
小学五年生の夏休みのある日、孝明はクラスメイトの竹本に誘われて、イルカを見るために住んでいた街から山を越えた先にある”ブーメラン島”を目指す冒険の旅に出る。
シングルマザーに育てられている竹本は、四人の妹たちとボロ屋に暮らし、服を二着しか持っていない。
貧乏人とからかわれ、クラスでも孤立気味の少年なのだが、彼の家を見たクラスメイトの中で、孝明だけが「笑わなかった」ので誘ったのだと言う。
「スタンド・バイ・ミー」的な、青春のイニシエーションとしてのロードムービー。
自転車でコケて壊しちゃったり、恐ろしげなヤンキーに絡まれたり、海で溺れそうになったり、散々な目に遭うもなんとか完走。
ちなみに二人が目指すブーメラン島は時津に実在するが、実際には海岸からすぐのところで、映画で使われているのは沖合にある二島という無人島らしい。
小さな冒険は達成したものの、物語はやっと折り返し地点。
旅をきっかけに仲良くなった二人は「ヒサちゃん」「タケちゃん」と呼び合うようになるのだが、成長のステージである彼らの夏休みには、ここから二転三転のさらなるドラマが待っている。
まあ竹本の家にだけ不幸が起こりすぎの気もするが、周りの大人たちが皆優しく、適度な距離感で子どもたちを見守っているのがいい。
尾野真千子と竹原ピストルが演じる孝明の両親も、母ちゃんはガミガミうるさいし、父ちゃんは放任主義で時には突き放すが、二人とも必要な時にはギューッと抱き締めてくれる。
不幸に見舞われた竹本の家の親戚たちも、わずかなシーンで「ああ、この人たちなら大丈夫だ」と思わせてくれる。
優しいのは人だけでなく、物語の行き着く先も同様だ。
バッドエンドの映画の観過ぎで、悲劇が起こった時点で、もうちょっと厳しい「現在」を予想していたのだが、映画の着地点は全ての登場人物にとって考えうる最良のものだった。
それにしても、草彅剛は本当にいい役者になった。
「任侠ヘルパー」の頃から独特のムードをかもしだしていたが、「ミッドナイトスワン」の躍進を経て、本作では冒頭と最後だけの出演で、物語の要石として十分な存在感を見せる。
草彅剛と金沢知樹監督は共に1974年生まれの同い年で、主人公の孝明とも年齢が被る。
二人は自分の子供時代を思い出しながら映画を作ったのだろうが、実際本作は主役が子供でも、いわゆる大人のノスタルジーをくすぐる作品で、昭和の終わりの夏休みへのしばしの癒しのタイムトラベル。
温暖化が進んだ今ほどクソ暑くなく、この夏が永遠に続くと思っていたあの頃が懐かしい。
夏休みの思い出を詰め込んだ、小さなタイムカプセルのような素敵な映画だ。
エンドクレジットの中ほどと最後にも映像があるので、席を立たないように。
ところで海で助けてくれたあのお姉さん、高校生みたいだったが、ワイルドにサザエ食ってたし、ハングルが読めたり、一体何者で海岸でいつも何してるんだろう。
今回は、舞台となった長崎の地酒、平戸にある福田酒造の「長崎美人 純米大吟醸」をチョイス。
長崎はどちらかといえば焼酎文化圏だが、水資源の豊富な地域らしく日本酒の酒蔵も十数軒ある。
大吟醸らしくフルーティな香りがフワリと広がり、梨系の甘味を感じる上品な味わい。
熱燗でも美味しく飲める酒だが、今の季節はキンキンに冷やして飲むのがベター。
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個人的に、作中に出てくるご飯が食べたくなるほど美味しそうに見える映画は、名作率が高いと思ってる。
これもその一つで、観終わってすぐに思ったのだ「サバカン寿司食いてー!」だった(笑
元お笑い芸人という異色のキャリアを持つ金沢知樹監督は、故郷長崎を舞台に描くリリカルな青春映画で、鮮やかなデビューを飾った。
ストーリーテラーは、草彅剛演じる売れない小説家の久田孝明。
妻とは別居中(?)で、娘の養育費を払うためにも、新しい小説を書かなければならないのだが、ネタが浮かばない。
そんな時、サバの缶詰を見てふと思い出したのが、30年以上前の小学生の頃、夏休みに起こったこと。
1986年の長崎。
小学五年生の夏休みのある日、孝明はクラスメイトの竹本に誘われて、イルカを見るために住んでいた街から山を越えた先にある”ブーメラン島”を目指す冒険の旅に出る。
シングルマザーに育てられている竹本は、四人の妹たちとボロ屋に暮らし、服を二着しか持っていない。
貧乏人とからかわれ、クラスでも孤立気味の少年なのだが、彼の家を見たクラスメイトの中で、孝明だけが「笑わなかった」ので誘ったのだと言う。
「スタンド・バイ・ミー」的な、青春のイニシエーションとしてのロードムービー。
自転車でコケて壊しちゃったり、恐ろしげなヤンキーに絡まれたり、海で溺れそうになったり、散々な目に遭うもなんとか完走。
ちなみに二人が目指すブーメラン島は時津に実在するが、実際には海岸からすぐのところで、映画で使われているのは沖合にある二島という無人島らしい。
小さな冒険は達成したものの、物語はやっと折り返し地点。
旅をきっかけに仲良くなった二人は「ヒサちゃん」「タケちゃん」と呼び合うようになるのだが、成長のステージである彼らの夏休みには、ここから二転三転のさらなるドラマが待っている。
まあ竹本の家にだけ不幸が起こりすぎの気もするが、周りの大人たちが皆優しく、適度な距離感で子どもたちを見守っているのがいい。
尾野真千子と竹原ピストルが演じる孝明の両親も、母ちゃんはガミガミうるさいし、父ちゃんは放任主義で時には突き放すが、二人とも必要な時にはギューッと抱き締めてくれる。
不幸に見舞われた竹本の家の親戚たちも、わずかなシーンで「ああ、この人たちなら大丈夫だ」と思わせてくれる。
優しいのは人だけでなく、物語の行き着く先も同様だ。
バッドエンドの映画の観過ぎで、悲劇が起こった時点で、もうちょっと厳しい「現在」を予想していたのだが、映画の着地点は全ての登場人物にとって考えうる最良のものだった。
それにしても、草彅剛は本当にいい役者になった。
「任侠ヘルパー」の頃から独特のムードをかもしだしていたが、「ミッドナイトスワン」の躍進を経て、本作では冒頭と最後だけの出演で、物語の要石として十分な存在感を見せる。
草彅剛と金沢知樹監督は共に1974年生まれの同い年で、主人公の孝明とも年齢が被る。
二人は自分の子供時代を思い出しながら映画を作ったのだろうが、実際本作は主役が子供でも、いわゆる大人のノスタルジーをくすぐる作品で、昭和の終わりの夏休みへのしばしの癒しのタイムトラベル。
温暖化が進んだ今ほどクソ暑くなく、この夏が永遠に続くと思っていたあの頃が懐かしい。
夏休みの思い出を詰め込んだ、小さなタイムカプセルのような素敵な映画だ。
エンドクレジットの中ほどと最後にも映像があるので、席を立たないように。
ところで海で助けてくれたあのお姉さん、高校生みたいだったが、ワイルドにサザエ食ってたし、ハングルが読めたり、一体何者で海岸でいつも何してるんだろう。
今回は、舞台となった長崎の地酒、平戸にある福田酒造の「長崎美人 純米大吟醸」をチョイス。
長崎はどちらかといえば焼酎文化圏だが、水資源の豊富な地域らしく日本酒の酒蔵も十数軒ある。
大吟醸らしくフルーティな香りがフワリと広がり、梨系の甘味を感じる上品な味わい。
熱燗でも美味しく飲める酒だが、今の季節はキンキンに冷やして飲むのがベター。

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