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アイ・アム まきもと・・・・・評価額1650円
2022年10月05日 (水) | 編集 |
弔いは誰のためのもの?

東北の市役所で、孤独死した人の身寄りを探し、身辺整理し、葬儀を出す「おみおくり係」として働く孤独な男を描いた物語。
2013年に、ウベルト・パゾリーニが発表した「おみおくりの作法」の日本版リメイクで、パゾリーニ自身も原作とエグゼクティブ・プロデューサーとしてクレジットされている。
名バイプレイヤーのエディ・マーサンが演じた主人公を、こちらでは阿部サダヲが好演し、「謝罪の王様」の水田伸生監督と四度目となるタッグを組む。
基本的な流れはオリジナルのプロットに忠実だが、倉持裕の脚色は主人公のキャラクター造形をはじめ、細かアレンジとローカライズを効かせていて、オリジナルを観ていてもまた別の映画として楽しめる。
いやむしろ、ユーモアとペーソスがダイナミックな抑揚を作り出すこちらの方が、エンターテイメントしてよく出来ているかもしれない。
「川っぺりムコリッタ」に続いて、喪失と向き合う女性を演じた、満島ひかりが素晴らしい。

牧本壮(阿部サダヲ)は、孤独死した人の身寄りを探し、納骨までを担当する市役所の福祉課「おみおくり係」の職員。
亡くなった人の想いを尊重するあまり、関係者に迷惑をかけてしまうことも多々あり、苦労して親族を探し当てても、殆どの人は故人と縁を切っていて葬儀にすら来ない。
ある日、牧本の家の向かいに住む蕪木(宇崎竜童)という男が亡くなり、さっそく調査を始めるのだが、県庁からやって来た新任の上司の小野口(坪倉由幸)に、「おみおくり係」は非効率的だと廃止を宣告されてしまう。
最後の仕事となる蕪木の葬儀に、一人でも多くの人に出席してほしくて、牧本は数少ない手がかりを頼りに、故人の過去の知人や友人を訪ね歩く。
手がかりは、蕪木が大切に持っていたアルバムの写真の少女。
そしてついに、牧本は写真に写っていた蕪木の娘、津森塔子(満島ひかり)にたどり着くのだが・・・


主人公の向かいの家に住む男が亡くなり、同時にリストラを言い渡されたことで、男の身寄りを探すことに全力を尽くすのはオリジナルと同じ。
おみおくり係の喪の仕事を通して、なんでも効率優先の世知辛い価値観と、死者へ想いを馳せる精神文化の衝突、現在社会の抱える分断と孤独などが浮かび上がってくる。
しかも最後の対象者は、もしかしたら近所で顔を合わせていたかもしれない男。
今まで、赤の他人のおみおくりをしていた主人公は、はじめて自分の手の届く範囲の人の死に直面する。
死後二週間で発見されたのだが、向かいの家の灯りは毎日目に入るので、なんの気なしに眺めていた風景の中に、男の「死」は存在していた。
いや、生前は向こうもこちらの家を見ていたかも知れない。
だから主人公にとって、死んだ男はある意味自分の鏡像であり、今まで以上に感情移入せざるを得ないのである。

もちろん葬送文化も国の歴史も異なるイギリスと日本だから、細部はかなり変わっている。
まず大きなアレンジが、故人のバックグラウンドだ。
オリジナルで主人公が調査する、ウィリアム "ビリー" ストークの過去は、なんだか漫画の「マスター・キートン」にありそうな話で、ミートパイ工場、フィッシュ&チップスの店を経営する元恋人、疎遠だった娘という調査の流れは、やがてイギリス現代史の棘であるフォークランド紛争で故人が負った心の傷と、彼の心の奥底にあった正義へと行き着く。
ミートパイ工場は食肉工場へ、フィッシュ&チップス店は漁師町の食堂へと脚色。
しかし日本は70年以上も戦争をしていないので、フォークランド紛争をどうするのだろうと思っていたら、なるほど戦後高度成長期を支えた炭鉱での落盤事故を持ってきた。
ある程度、社会の共通体験として語られる痛みとして、これはありだろう。

もう一つの大きなアレンジが、主人公のキャラクター造形だ。
エディ・マーサンが演じたジョン・メイは、仕事以外で人付き合いをせず、日々のルーティンを重んじるなど、非常に神経質で発達障害っぽいキャラクターではあったが、作中で明言はされていなかったと思う。
しかし本作の牧本は、明らかに発達障害(たぶん自閉スペクトラム症?)で、周囲の人たちもそれを分かっている。
おみおくり係自体も、相手の立場に立って気持ちを推測ったり、場の空気を読むことが苦手で、グループの中にいると浮いてしまう、牧本の個性を尊重し福祉課の中に設立されたものだったのが示唆される。
彼は決して孤独な存在ではなく、職場の同僚や関係者たちから見守られていて、だからおみおくり係を廃止しようとする新任上司の宣告は単に無理解と効率優先だけでなく、優しさの欠如として観客に刺さるのである。
主人公のキャラクターが持つ世間とのズレを、リスペクトした上で笑いのソースとして使っているのも、コメディ畑の水田監督らしく、本作をオリジナルと大きく差別化している要因になっている。

かように、優れた基本骨格を維持しながら、日本社会ならではの肉付けをされた本作は、かなり成功したリメイクだと思うが、実は本作のポスターデザインは、オリジナルよりもティム・バートン監督の「ビッグ・フィッシュ」によく似ている。
おそらく、これは意図的なオマージュだろう。
この作品では、ユアン・マクレガー演じる息子が、壮大なホラ話ばかりしていた余命幾許もない父の足跡を訪ね歩き、疎遠だった父が家族を強く愛していたことを知る。
そして父の葬式の日に、それまでホラだと思っていた父の人生の物語の登場人物たちが、続々とやってくるのである。
おそらくオリジナル以上に本作に影響を与えている作品で、本作はいわば生真面目な作りの「お見送りの作法」と、ファンタジックな「ビッグ・フィッシュ」のハイブリッドのようなテイストで仕上げられている。
そして主役級が次々と登場した「ビッグ・フィッシュ」同様に、牧本が出会う蕪木の過去を知る知人、友人のキャスティングが豪華!
宮沢りえが孫のいる女性(「おばあちゃん」とは呼びたくない)を演じているのに、ちょっとショックを受けたが、綺羅星のごとき俳優陣の白眉はやはり満島ひかりだろう。
荻上直子の「川っぺりムコリッタ」では、夫を亡くし一人娘を育てる寡婦を演じて強い印象を残したが、本作では牧本が誰よりも弔ってもらいたかった蕪木の娘を好演。
同じように喪失に向き合う役でも、両作でのキャラクターの振り幅の広さも見事だ。
阿部サダヲと満島ひかりは、今年の賞レースに確実に絡んでくることだろう。

それにしても、オリジナルを観た時も思ったけど、独り身としては実に身につまされる話だった。
そもそも葬儀は死者のためのものなのか、遺族のためのものなのか。
合理主義で考えるなら、「遺族のためものであって、遺族が望まないならやる必要無し」って上司の言い分が正しいんだろうが、私は最後に出てくる牧本が過去に見送って来た死者たちにどっぷり感情移入して「そら手を合わせるよね」と思ってしまった。
劇中で語られる「孤独死するのは男性が多い。なぜなら女性はいくつになっても友達を作るが、男は一度孤独になったら孤独のまま」という話には、いやーなリアリティ。
なるべく人付き合いは、よくするようにしよう。

今回はロケ地となった山形の地酒、亀の井酒造の「くどき上手 辛口純米吟醸」をチョイス。
そう言えば山形は「おくりびと」の舞台でもあった。
純米吟醸としては、かなり辛口。
淡麗でキリリとした北国らしい酒で、とても飲みやすい。

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