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酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
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窓辺にて・・・・・評価額1800円
2022年11月09日 (水) | 編集 |
愛って、なんだっけ?

なんと美しい映画だろう。
味わい深い、会話劇の傑作だ。
過去に様々な男女の心の機微を描いてきた、今泉力哉のキャリアベストと言っていい。
妻に浮気されても、なぜか怒りの感情が湧いてこない、稲垣吾郎演じるフリーライターの主人公が、玉城ティナの高校生作家に気に入られて振り回される。
やがて、人が人を好きになると言う感情の根源が、人生における重要な決断とセットになって、あらわになってくる構造。
143分に及ぶ上映時間のうち、おそらく90%以上が会話で占められていると思うが、長さは全く感じさせない。
それどころか、心地よいリズムの言葉のやりとりに魅せられ、ずっと見ていたくなるのだ。
「窓辺にて」というタイトルの通り、多くのシーンが様々な“窓辺”で展開するが、撮影の四宮秀俊と照明の秋山恵二郎による端正なフレーミング、窓から差し込む光と影の画面構成が素晴らしい。
中村ゆりが主人公の妻、若葉竜也と志田未来がこちらも訳ありの友人夫婦を演じる。

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、妻で編集者の紗衣(中村ゆり)と担当している人気作家の荒川円(佐々木詩音)が不倫関係にあることを知ってしまう。
しかし、不思議と怒りを感じない自分に戸惑っていた。
友人でプロスポーツ選手の有坂正嗣(若葉竜也)と妻のゆきの(志田未来)に相談してみるも、答えは出ず、自分が妻を本当に愛しているのかも分からなくなった。
ある日、「吉田十三賞」を受賞した高校生作家の久保留亜(玉城ティナ)の記者会見に出席した茂巳は、受賞作の「ラ・フランス」に関して留亜と突っ込んだやりとりをする。
茂巳は過去に「STANDARDS」という小説を出版したことがあり、そのことを知った留亜は彼に興味を抱き、連絡を取り合う様になる。
全てを捨てようとする「ラ・フランス」の主人公に興味を惹かれた茂巳は、モデルはいるのか?と留亜にたずねる。
すると留亜は、茂巳に二人の人物を紹介するのだが・・・


一つの到達点だった、「街の上で」以来となるオリジナル脚本。
物語上の繋がりはないが同質の世界観にあって、今泉力哉はさらに進化する。
ファーストカットの優しく柔らかな空気感と、そこに自然にフィットしている稲垣吾郎の姿が、すでに傑作の予感。
主人公の茂巳は、“感じられない人”だ。
もともとあまり喜怒哀楽を顔に出す人物ではないのだろうが、好きで結婚したはずの妻が、人気作家と浮気していることを知っても、なぜか心が動かない。
そして、そんな自分に驚き戸惑い「自分はなぜ怒れないのか?」と、思考の迷宮に彷徨ってしまっているのだ。
劇中、茂巳がランニングマシンで走り込む描写がある。
走ることで無の境地に入り、悩みを忘れられるかと思ったら、かえって考え過ぎてしまうというパラドックス。
ある意味で冷めきった茂巳の目を通すことで、彼自身のケースも含め周りの人物たちの様々な愛の形がカリカチュアされて見えてくるというワケ。

映画は、茂巳が答えを得るために、いくつかの対称性を形作る。
だが半分だけ対称で、違いも大きいのがポイント。
一つ目の対称性は、主人公の茂巳と高校生作家の留亜だ。
二人とも物書きだが、茂巳は過去に一冊だけ小説を出しているものの、現在はフリーライター。
対して「留亜はずっと書き続けるだろう」と、茂巳は言う。
生活そのものが創作となる人と、それだけ書ければいいという人の違いだ。
たぶん、一年に何作も作れる今泉監督は留亜タイプなのだろう。
留亜は周りの人物を客観的に観察して、小説のキャラクターを作り上げていることが示唆されるが、茂巳の作品は、自分から去った元カノとの思い出と向き合うために書き上げた私小説と、その成り立ちも異なる。
茂巳は、人を理解するのが怖いという。
「理解なんてしない方がいいんだよ。理解して裏切られるから」という茂巳は、自分の心すら分からなくなってしまっているアイロニー。

もう一つの対称性が、茂巳と紗衣の夫婦と友人の正嗣とゆきの夫婦。
茂巳は紗衣に浮気されているが、正嗣は茂巳に相談されながらも、自分はモデルと不倫中。
夫婦関係も、前者は子供もなく、互いの“好き”が何か分からなくなっているが、後者は少なくとも妻のゆきのは、たとえ打算でも別れたくないと思っている。
いわばお互いの中に自分を見る構造なのだが、半分だけの対称がズレとなり、ズレを認識することで、自分の中で言語化できていなかった気持ちが見えてくるというわけ。
茂巳と留亜で言えば、半分くらいは似た者同士だが、年齢も性別も性格も、小説家としてのタイプも異なるがゆえ、お互が歳の離れたメンターとなり得る。
また二組の夫婦は、結婚や不倫に対するスタンスの違いが、抱えている問題の本質をあぶり出す。

劇中のほとんどのシーンが、二人または三人のキャラクターの会話で占められているが、タイトル通りに“窓”が象徴的に使われている。
相互メンターである茂巳と留亜との会話シーンの多くは、タイトル通り窓辺で明るい光が差し込んでいる。
「ラ・フランス」のキャラクターのモデルだと言う、留亜のヤンキーの彼氏と元テレビマンのおじさんと会うシーンはアウトドア。
対して、生活感のない自宅での、妻との心の内を隠した閉塞した会話シーンには窓がない。
正嗣やゆきのに相談するシーンも、窓はあるのだろうけど映らない。
留亜が執筆に使っているという、知り合いのラブホテルの部屋でのシーンは、最初窓がない様に見えるが、朝になると大きな窓が隠されていたことが分かる。

交わされる会話で特徴的なのが、相手の言葉に「え?」と聞き返す描写の多さ。
これはつまり、意外なことを言われたからで、会話することによって気付きを与えられているということなのだろう。
会話シーンは、それぞれのキャラクターに合わせた言葉の選択が絶妙で基本軽妙。
だが、突然ドキッとする様な核心を突く言葉が飛び出してくる。
おそらく茂巳は、元カノに去られたことが、心のどこかでトラウマになっていたのだと思う。
彼女に対する気持ちは、小説化することで“過去”にすることが出来たが、妻の浮気という新たな事態に直面し、過去の恋を乗り越えた先に手にした、夫婦という幸せのカタチを手放すことを躊躇している。
彼は143分の物語と会話を通して、“好き”という感情の意味を問い、時には手放すこともお互いが前に進むために必要だということを、徐々に受け入れてゆくのである。

主要な登場人物の多くは、演者をイメージした当て書きだろう。
一見ぼーっとしてるんだけど、実は何かを深く考えてそうな主人公は、飄々とした稲垣吾郎以外考えられない。
理知的な表情でやり取りしていたと思ったら、裏に回るとそれなりにポンコツなところのある玉城ティナの留亜も同様だ。
今泉作品の例に漏れず、役者は皆素晴らしいが、留亜のヤンキー彼氏役の倉悠貴が物語を閉じる役割を果たし、強い印象を残す。
これは観終わったら、すぐに脚本を読んでみたくなる映画だ。
そう言えば、「新しい地図」の三人は、今年は揃ってそれぞれの持ち味を生かした役柄で映画に出たんだな。

本作では茂巳と留亜がパフェを食べるシーンが印象的だったが、劇中にもあった様にパフェの語源は「完璧」を意味するフランス語の「パルフェ(Parfait)」。
今回は「完璧な愛」を意味するフランスのリキュール「パルフェ・タムール(Parfait Amour)」を楽しむためのカクテル、「ヴァイオレット・フィズ」をチョイス。
ジン30ml、パルフェ・タムール20ml、レモン・ジュース15ml、シュガー・シロップ10mlをシェイクし、グラスに注ぎ、キンキンに冷やした炭酸水で満たして完成。
パルフェ・タムールとレモンの風味が調和し、スッキリしてとても飲みやすいカクテルだ。

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