2022年12月10日 (土) | 編集 |
これは井上雄彦の「シン SLAM DUNK」だ!
90年代を代表するジャンプ漫画の傑作「SLAM DUNK」を、連載終了後四半世紀を経て原作者の井上雄彦自らが監督・脚本を担当し、新たに「THE FIRST SLAM DUNK」として蘇らせた作品。
公開まで作品内容がほとんど明かされず、さまざま憶測が飛び交っていたが、結果としてはやはりメインとなるのは伝説の山王工業戦。
全編がクライマックスにして全編がドラマチックな独特の作劇で、ラスト30分は本当に魂が震え、鳥肌が立つ。
以前のTV版からはヴォイスキャストも一新され、湘北高校バスケ部の面々は宮城リョータ役に仲村宗悟、桜木花道役に木村昴、三井寿役に笠間淳、流川楓役に神尾晋一郎、赤木剛憲役に三宅健太が起用された。
TV版も手がけた東映アニメーションと、ダンデライオンアニメーションスタジオがハイクオリティの映像制作を担当。
「トップガン マーヴェリック」が、今年のエンタメ映画の西の横綱ならば、こちらは東の横綱と呼ぶべき傑作だ。
※核心部分に触れています。
インターハイ二回戦、桜木花道(木村昴)ら湘北高校バスケ部が対戦するのは、高校バスケ界最強を誇る秋田県代表・山王工業高校。
圧倒的に格上の相手だが、2年のポイントガード、宮城リョータ(仲村宗悟)は特別な感慨を持って試合に挑んでいた。
沖縄で育ったリョータの兄のソータは、ミニバスケットボールの名選手で、いつかインターハイに出て常勝の山王を倒すことが目標だった。
しかしソータはその夢を叶えることなく、海の事故で亡くなってしまう。
リョータは常に優秀だった兄と比べられ、神奈川に引っ越した後は所属チームもなく、バスケから離れたこともあった。
そんな挫折を乗り越えて、ついに兄が立てなかった大舞台に上がったのだ。
試合は湘北の善戦もあり、一進一退の展開が続くが、山王に流れが傾き一気に20点も差をつけられてしまうのだが・・・・
線画で描かれるキャラクターに徐々に色がつき、湘北高校バスケ部のレギュラー五人が次々に現れ横並びになって歩いて来る。
ルックスも個性的でアウトロー然とした彼らを迎え撃つのは、いかにも強そうな王者・山王工業の面々。
このセンス・オブ・ワンダーの塊のようなキャラ紹介で、すでにテンション爆上がり。
しかし、ここから始まる物語は、こちらの予想を軽々と超えて来るのだ。
知ってる話のはずなのに、なんでこんなに未見性があって燃えるのか?
本作の勝因は、主人公を原作の桜木花道から宮城リョータに変更し、試合以外のストーリーを再構築したことだろう。
花道は下心からバスケ部に入り、ど素人のくせに才能を開花させ、たった四ヶ月でインターハイの舞台に立った天才肌。
脳みそが筋肉で出来てるような、典型的なジャンプ漫画の主人公だ。
しかしそれゆえにアクション=試合での存在感は抜群だが、人間ドラマの主人公としては弱い。
自作を知り尽くした井上雄彦は、そんなことは当然承知していただろう。
ここでは花道を試合を盛り上げる面白さ担当の狂言回し的ポジションに置き、物語をリードする主人公は、相対的に地味なキャラクターのリョータとした。
山王戦の熱闘と並行して、リョータがこの試合にたどり着くまでの過去が丁寧に描かれることで、試合そのものにも新しい意味が与えられている。
新たに描かれるのは、沖縄で生まれ育ったリョータとその家族の、喪失と再生の歴史。
リョータは9歳の時に、3歳年上で自分にバスケットボールの面白さを教えてくれた兄のソータを海の事故で失う。
その前に父も亡くなっていたので、リョータは9歳にして、一家でただ一人の男になってしまうのだ。
以降、リョータは常に優秀な選手だった亡き兄と比べられ、肩身の狭い思いをしてきた。
やがて母と妹と本土に引っ越すも、周囲になかなか馴染めず、やっとできた居場所が湘北のバスケ部だったのである。
生前のソータの目標が、いつかインターハイに出て山王を倒すことだったので、リョータはソータの死後8年目にして、兄が立つはずだった舞台にまで這い上がってきたのだ。
そもそも原作に、本作で描かれたようなリョータの過去のエピソードなんてあったっけ?と思ったが、これは原作の連載終了後に掲載された、「ピアス」という読み切り作品の設定を膨らませたものらしい。
残念ながら単行本にはなっていないようだが、リョータのトレードマークであるピアスにまつわる物語と共に、兄を亡くしたエピソードが語られているそうだ。
映画では、ソータの死後、お互いを想うがゆえにわだかまりを抱えていた、リョータと母との関係が重点的に描かれていて、インターハイへの旅立ち前に母に送った手紙の内容が、彼の変化への大きな契機となる。
物語の軸となるのはリョータだが、彼以外の湘北のレギュラー陣、それに対戦相手の山王の主力選手にも、試合でのテーマが与えられ、必要最小限だがそれぞれのキャラクターが抱える問題が描かれている。
そして両校の試合展開に、各人の「問題・葛藤・解決」の三幕の心情変化が効率的に組み込まれており、彼らの「解決」がドラマチックな試合の転機となる仕組み。
リョータと花道以外にも、湘北のレギュラー全員にカッコいい見せ場がある、ニクイ構造になっている。
一部で物議を醸したそうだが、CGで試合を描いたのも正解だと思う。
無音、スローモーションなどのテクニックを駆使したクライマックスは、まさに映像・音響設計のお手本のような仕上がり。
これ全部手描きでやったら、バジェットがとんでもないことになっただろうし、きちっとCGであることを生かした映像になっている。
原作者が映画化まで手がけた作品で、ここまでのインパクトを残したのって、もしかすると「AKIRA」以来ではないだろうか。
以前、ベテランのアニメーション監督と話した時、漫画家が映像化まで手がける時の問題点が、頭の中にあるイメージが止め画なので、絵コンテのカメラワークが現実的でないのと、秒数を正確に出せないことだと聞いた。
彼は何人かの漫画家と組んだことがあるそうだが、ほとんどのケースで絵コンテ作り直しになったそうだ。
しかし本作の場合は、作者の頭の中に秒以下まで計算された完璧な映像があるのが明らかだ。
井上雄彦、まことに恐るべき才能である。
そしてタイトルに「FIRST」が入ってる意味も、終わってみると完璧に理解できる。
公開前はこれが「FIRST」なら、原作に描かれなかった続編があるのか?などと言われていたが、そういう意味ではなかった。
本作は宮城リョータが喪失に向き合い、心の穴を埋めるまでの物語で、さらにその先の一歩「SECOND STEP」を踏み出す物語でもあることが、物語の最後で明らかになるのである。
ラストカットまで、めちゃくちゃカッコいいぞ。
本作は、「友情・努力・勝利」というジャンプ漫画の方程式をきっちり守りながら、その奥にあるディープな人間ドラマを描ききったことで生まれた傑作だ。
2022年を代表する一本になるのは、間違いなかろう。
エンドクレジット後にも映像あり。
ちなみに、原作もTV版も知っていた方が深く楽しめるのは確かだろうが、親切な作りなので全く知らなくても問題は無いと思う。
今回は、本作の舞台のモデルとなった湘南の地ビール、茅ヶ崎の熊沢酒造の「湘南ビール ピルスナー」をチョイス。
定番の下面発酵ビールは、豊かなホップ感と爽やかな香り、モルトの甘みが楽しめる。
喉越し爽快で飲みやすく、バランスの良いビールだ。
こちらの蔵元では、季節商品をはじめユニークなビールをたくさん作っている。
ラベルも個性的で、湘南の海を見ながらラッパ飲みしたくなる。
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90年代を代表するジャンプ漫画の傑作「SLAM DUNK」を、連載終了後四半世紀を経て原作者の井上雄彦自らが監督・脚本を担当し、新たに「THE FIRST SLAM DUNK」として蘇らせた作品。
公開まで作品内容がほとんど明かされず、さまざま憶測が飛び交っていたが、結果としてはやはりメインとなるのは伝説の山王工業戦。
全編がクライマックスにして全編がドラマチックな独特の作劇で、ラスト30分は本当に魂が震え、鳥肌が立つ。
以前のTV版からはヴォイスキャストも一新され、湘北高校バスケ部の面々は宮城リョータ役に仲村宗悟、桜木花道役に木村昴、三井寿役に笠間淳、流川楓役に神尾晋一郎、赤木剛憲役に三宅健太が起用された。
TV版も手がけた東映アニメーションと、ダンデライオンアニメーションスタジオがハイクオリティの映像制作を担当。
「トップガン マーヴェリック」が、今年のエンタメ映画の西の横綱ならば、こちらは東の横綱と呼ぶべき傑作だ。
※核心部分に触れています。
インターハイ二回戦、桜木花道(木村昴)ら湘北高校バスケ部が対戦するのは、高校バスケ界最強を誇る秋田県代表・山王工業高校。
圧倒的に格上の相手だが、2年のポイントガード、宮城リョータ(仲村宗悟)は特別な感慨を持って試合に挑んでいた。
沖縄で育ったリョータの兄のソータは、ミニバスケットボールの名選手で、いつかインターハイに出て常勝の山王を倒すことが目標だった。
しかしソータはその夢を叶えることなく、海の事故で亡くなってしまう。
リョータは常に優秀だった兄と比べられ、神奈川に引っ越した後は所属チームもなく、バスケから離れたこともあった。
そんな挫折を乗り越えて、ついに兄が立てなかった大舞台に上がったのだ。
試合は湘北の善戦もあり、一進一退の展開が続くが、山王に流れが傾き一気に20点も差をつけられてしまうのだが・・・・
線画で描かれるキャラクターに徐々に色がつき、湘北高校バスケ部のレギュラー五人が次々に現れ横並びになって歩いて来る。
ルックスも個性的でアウトロー然とした彼らを迎え撃つのは、いかにも強そうな王者・山王工業の面々。
このセンス・オブ・ワンダーの塊のようなキャラ紹介で、すでにテンション爆上がり。
しかし、ここから始まる物語は、こちらの予想を軽々と超えて来るのだ。
知ってる話のはずなのに、なんでこんなに未見性があって燃えるのか?
本作の勝因は、主人公を原作の桜木花道から宮城リョータに変更し、試合以外のストーリーを再構築したことだろう。
花道は下心からバスケ部に入り、ど素人のくせに才能を開花させ、たった四ヶ月でインターハイの舞台に立った天才肌。
脳みそが筋肉で出来てるような、典型的なジャンプ漫画の主人公だ。
しかしそれゆえにアクション=試合での存在感は抜群だが、人間ドラマの主人公としては弱い。
自作を知り尽くした井上雄彦は、そんなことは当然承知していただろう。
ここでは花道を試合を盛り上げる面白さ担当の狂言回し的ポジションに置き、物語をリードする主人公は、相対的に地味なキャラクターのリョータとした。
山王戦の熱闘と並行して、リョータがこの試合にたどり着くまでの過去が丁寧に描かれることで、試合そのものにも新しい意味が与えられている。
新たに描かれるのは、沖縄で生まれ育ったリョータとその家族の、喪失と再生の歴史。
リョータは9歳の時に、3歳年上で自分にバスケットボールの面白さを教えてくれた兄のソータを海の事故で失う。
その前に父も亡くなっていたので、リョータは9歳にして、一家でただ一人の男になってしまうのだ。
以降、リョータは常に優秀な選手だった亡き兄と比べられ、肩身の狭い思いをしてきた。
やがて母と妹と本土に引っ越すも、周囲になかなか馴染めず、やっとできた居場所が湘北のバスケ部だったのである。
生前のソータの目標が、いつかインターハイに出て山王を倒すことだったので、リョータはソータの死後8年目にして、兄が立つはずだった舞台にまで這い上がってきたのだ。
そもそも原作に、本作で描かれたようなリョータの過去のエピソードなんてあったっけ?と思ったが、これは原作の連載終了後に掲載された、「ピアス」という読み切り作品の設定を膨らませたものらしい。
残念ながら単行本にはなっていないようだが、リョータのトレードマークであるピアスにまつわる物語と共に、兄を亡くしたエピソードが語られているそうだ。
映画では、ソータの死後、お互いを想うがゆえにわだかまりを抱えていた、リョータと母との関係が重点的に描かれていて、インターハイへの旅立ち前に母に送った手紙の内容が、彼の変化への大きな契機となる。
物語の軸となるのはリョータだが、彼以外の湘北のレギュラー陣、それに対戦相手の山王の主力選手にも、試合でのテーマが与えられ、必要最小限だがそれぞれのキャラクターが抱える問題が描かれている。
そして両校の試合展開に、各人の「問題・葛藤・解決」の三幕の心情変化が効率的に組み込まれており、彼らの「解決」がドラマチックな試合の転機となる仕組み。
リョータと花道以外にも、湘北のレギュラー全員にカッコいい見せ場がある、ニクイ構造になっている。
一部で物議を醸したそうだが、CGで試合を描いたのも正解だと思う。
無音、スローモーションなどのテクニックを駆使したクライマックスは、まさに映像・音響設計のお手本のような仕上がり。
これ全部手描きでやったら、バジェットがとんでもないことになっただろうし、きちっとCGであることを生かした映像になっている。
原作者が映画化まで手がけた作品で、ここまでのインパクトを残したのって、もしかすると「AKIRA」以来ではないだろうか。
以前、ベテランのアニメーション監督と話した時、漫画家が映像化まで手がける時の問題点が、頭の中にあるイメージが止め画なので、絵コンテのカメラワークが現実的でないのと、秒数を正確に出せないことだと聞いた。
彼は何人かの漫画家と組んだことがあるそうだが、ほとんどのケースで絵コンテ作り直しになったそうだ。
しかし本作の場合は、作者の頭の中に秒以下まで計算された完璧な映像があるのが明らかだ。
井上雄彦、まことに恐るべき才能である。
そしてタイトルに「FIRST」が入ってる意味も、終わってみると完璧に理解できる。
公開前はこれが「FIRST」なら、原作に描かれなかった続編があるのか?などと言われていたが、そういう意味ではなかった。
本作は宮城リョータが喪失に向き合い、心の穴を埋めるまでの物語で、さらにその先の一歩「SECOND STEP」を踏み出す物語でもあることが、物語の最後で明らかになるのである。
ラストカットまで、めちゃくちゃカッコいいぞ。
本作は、「友情・努力・勝利」というジャンプ漫画の方程式をきっちり守りながら、その奥にあるディープな人間ドラマを描ききったことで生まれた傑作だ。
2022年を代表する一本になるのは、間違いなかろう。
エンドクレジット後にも映像あり。
ちなみに、原作もTV版も知っていた方が深く楽しめるのは確かだろうが、親切な作りなので全く知らなくても問題は無いと思う。
今回は、本作の舞台のモデルとなった湘南の地ビール、茅ヶ崎の熊沢酒造の「湘南ビール ピルスナー」をチョイス。
定番の下面発酵ビールは、豊かなホップ感と爽やかな香り、モルトの甘みが楽しめる。
喉越し爽快で飲みやすく、バランスの良いビールだ。
こちらの蔵元では、季節商品をはじめユニークなビールをたくさん作っている。
ラベルも個性的で、湘南の海を見ながらラッパ飲みしたくなる。

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