2023年01月07日 (土) | 編集 |
運命に、抗え。
バカンス客で混み合う、韓国仁川国際空港発ハワイ・ホノルル行きのボーイング777に、致死性のウィルスが撒かれる。
スケールの大きな航空パニック映画で、いわば懐かしの「エアポート・シリーズ」ミーツ「カサンドラ・クロス」だ。
イム・シワン演じる自殺願望の化学者が持ち込んだのは、感染すると皮膚に水疱ができ、やがて血管が破裂して死にいたるウィルス。
機内で感染が広がる中、正体不明のウィルスに汚染された旅客機には、どこからも着陸許可が降りないまま燃料は徐々に減ってゆき墜落の時が迫る。
韓国大統領選の陰で蠢く検事たちを描いた、「ザ・キング」のハン・ジェリムが監督とオリジナル脚本を手がけ、演じるは機上のイ・ビョンホン、事件の背景を追う刑事ソン・ガンホ、対策を統括する国交大臣チョン・ドヨンという重厚な布陣。
航空パニック映画と言っても、ハリウッド作品のように物理的な墜落の危機で盛り上げるのは最小限にとどめている。
もちろん、映像的なクオリティは極めて高い。
機長がウィルスで死亡しきりもみ状態になったり、成田に強行着陸しようとして自衛隊のF-2戦闘機のインターセプトを受けたりするシークエンスは、非常にスリリングで良くできているのだが、主眼はあくまでもリアリティたっぷりの人間ドラマだ。
軸となる三人のうち、トラウマを抱えた元パイロット役のイ・ビョンホンは、機内で今そこにある危機に対処しながら、自らの過去と向き合う。
妻が事件の起きた旅客機に搭乗しているソン・ガンホ刑事は、燃料が尽きるまでに正体不明のウィルスの出どころと治療法を探す役割。
そしてチョン・ドヨンが貫禄たっぷりに演じる国交大臣は、未曾有の事態に対応する全てをまとめ上げ、いざという時に責任を負う。
重量級のキャストによる、それぞれのポジションにいるからこそ出来る闘いが重層的に動き、誰もがリアルタイムで繋がる現代のネット環境が、機上の乗客たちに希望と絶望をもたらす。
韓国特有の激しいデモ文化や、航路にあたる日米両国の政治的反応なども、効果的な変数として上手くプロットに組み込まれている。
そして、未知のウィルスに汚染されているとしても、墜落の危機にある同胞を見捨てるのか否かという選択に、セウォル号の転覆事故の影響が見て取れるのが興味深い。
沈みゆく船から責任ある大人たちが先に脱出し、見捨てられた乗客の高校生ら299人もの死者を出した悲劇。
Netflixのドラマ「今、私たちの学校は」などでも、ゾンビパニックをセウォル号に見立てていたが、結果的に朴槿恵大統領の弾劾にまで繋がったあの事件は、韓国人の心に忘れえぬ傷を残したのだろう。
セウォル号が韓国人にとっての3.11であり9.11だと考えると、旅客機の着陸に反対と賛成の二つのデモ隊は、「シン・ゴジラ」で国会に押し寄せ「ゴジラを殺せ」と「ゴジラを守れ」と真逆のシュプレヒコールをあげるデモ隊と同じような意味なのかも知れない。
わずか十数時間にあらゆることが起こるので、冷静に考えると色々ツッコミどころも多いものの、社会性を背景に織り込みつつ、空と陸に別れた現場のシチュエーション変化で、グイグイ引っ張る骨太のエンターテインメント大作。
完全なハッピーエンドで落とさず、ある人物に取り返しのつかない大きな傷を残すのも、リアリティ重視を裏付ける。
この種のたっぷりお金のかかったスペクタクルな現代劇は、すっかり日本では作られなくなったけど、お隣では成立するのが素直に羨ましい。
本作のバジェットは260億ウォンだが、日本の実写映画ではお金のかかっている「キングダム」でも直接製作費は大体10億円だそうだから、だいぶ水を開けられてしまった。
ぶっちゃけ、企画力の差が大き過ぎるが、懐かしの大傑作「新幹線大爆破」みたいなの、また日本でも作れないものか。
ところで、旅客機がウィルスに汚染される設定の元祖であろう、「パニック・イン・SST /デス・フライト」という1977年に作られた知る人ぞ知るTV映画があるのだが、乗客が自分たちがどうするべきなのか決を採ったりする描写があり、本作もインスパイアされているのかも知れない。
今回は空を思わせるブルーのボトルでお馴染みの「スカイ・ウォッカ」をチョイス。
カリフォルニアはサンフランシスコのスカイスピリッツが製造するウォッカで、蒸留と濾過を繰り返し不純物をほとんど含まない。
カクテルベースとして使われるが、そのまま飲んでも美味しい。
私のおすすめは冷凍庫でシャーベット状になるまでキンキンに冷やし、水割りにすること。
まさしく、青空のようにクリアな味わいだ。
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バカンス客で混み合う、韓国仁川国際空港発ハワイ・ホノルル行きのボーイング777に、致死性のウィルスが撒かれる。
スケールの大きな航空パニック映画で、いわば懐かしの「エアポート・シリーズ」ミーツ「カサンドラ・クロス」だ。
イム・シワン演じる自殺願望の化学者が持ち込んだのは、感染すると皮膚に水疱ができ、やがて血管が破裂して死にいたるウィルス。
機内で感染が広がる中、正体不明のウィルスに汚染された旅客機には、どこからも着陸許可が降りないまま燃料は徐々に減ってゆき墜落の時が迫る。
韓国大統領選の陰で蠢く検事たちを描いた、「ザ・キング」のハン・ジェリムが監督とオリジナル脚本を手がけ、演じるは機上のイ・ビョンホン、事件の背景を追う刑事ソン・ガンホ、対策を統括する国交大臣チョン・ドヨンという重厚な布陣。
航空パニック映画と言っても、ハリウッド作品のように物理的な墜落の危機で盛り上げるのは最小限にとどめている。
もちろん、映像的なクオリティは極めて高い。
機長がウィルスで死亡しきりもみ状態になったり、成田に強行着陸しようとして自衛隊のF-2戦闘機のインターセプトを受けたりするシークエンスは、非常にスリリングで良くできているのだが、主眼はあくまでもリアリティたっぷりの人間ドラマだ。
軸となる三人のうち、トラウマを抱えた元パイロット役のイ・ビョンホンは、機内で今そこにある危機に対処しながら、自らの過去と向き合う。
妻が事件の起きた旅客機に搭乗しているソン・ガンホ刑事は、燃料が尽きるまでに正体不明のウィルスの出どころと治療法を探す役割。
そしてチョン・ドヨンが貫禄たっぷりに演じる国交大臣は、未曾有の事態に対応する全てをまとめ上げ、いざという時に責任を負う。
重量級のキャストによる、それぞれのポジションにいるからこそ出来る闘いが重層的に動き、誰もがリアルタイムで繋がる現代のネット環境が、機上の乗客たちに希望と絶望をもたらす。
韓国特有の激しいデモ文化や、航路にあたる日米両国の政治的反応なども、効果的な変数として上手くプロットに組み込まれている。
そして、未知のウィルスに汚染されているとしても、墜落の危機にある同胞を見捨てるのか否かという選択に、セウォル号の転覆事故の影響が見て取れるのが興味深い。
沈みゆく船から責任ある大人たちが先に脱出し、見捨てられた乗客の高校生ら299人もの死者を出した悲劇。
Netflixのドラマ「今、私たちの学校は」などでも、ゾンビパニックをセウォル号に見立てていたが、結果的に朴槿恵大統領の弾劾にまで繋がったあの事件は、韓国人の心に忘れえぬ傷を残したのだろう。
セウォル号が韓国人にとっての3.11であり9.11だと考えると、旅客機の着陸に反対と賛成の二つのデモ隊は、「シン・ゴジラ」で国会に押し寄せ「ゴジラを殺せ」と「ゴジラを守れ」と真逆のシュプレヒコールをあげるデモ隊と同じような意味なのかも知れない。
わずか十数時間にあらゆることが起こるので、冷静に考えると色々ツッコミどころも多いものの、社会性を背景に織り込みつつ、空と陸に別れた現場のシチュエーション変化で、グイグイ引っ張る骨太のエンターテインメント大作。
完全なハッピーエンドで落とさず、ある人物に取り返しのつかない大きな傷を残すのも、リアリティ重視を裏付ける。
この種のたっぷりお金のかかったスペクタクルな現代劇は、すっかり日本では作られなくなったけど、お隣では成立するのが素直に羨ましい。
本作のバジェットは260億ウォンだが、日本の実写映画ではお金のかかっている「キングダム」でも直接製作費は大体10億円だそうだから、だいぶ水を開けられてしまった。
ぶっちゃけ、企画力の差が大き過ぎるが、懐かしの大傑作「新幹線大爆破」みたいなの、また日本でも作れないものか。
ところで、旅客機がウィルスに汚染される設定の元祖であろう、「パニック・イン・SST /デス・フライト」という1977年に作られた知る人ぞ知るTV映画があるのだが、乗客が自分たちがどうするべきなのか決を採ったりする描写があり、本作もインスパイアされているのかも知れない。
今回は空を思わせるブルーのボトルでお馴染みの「スカイ・ウォッカ」をチョイス。
カリフォルニアはサンフランシスコのスカイスピリッツが製造するウォッカで、蒸留と濾過を繰り返し不純物をほとんど含まない。
カクテルベースとして使われるが、そのまま飲んでも美味しい。
私のおすすめは冷凍庫でシャーベット状になるまでキンキンに冷やし、水割りにすること。
まさしく、青空のようにクリアな味わいだ。

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