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エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス・・・・・評価額1800円
2023年03月11日 (土) | 編集 |
宇宙は可能性で満ちている。

冴えないコインランドリー経営者のミッシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンの移民夫婦が、突然マルチバースの戦いに巻き込まれるSFアクションコメディ。
何でもありのマルチバースという器に、あらゆる要素をぶちこんだシュール極まりない闇鍋映画だが、なぜか全世界で大ヒット。
あれよあれよという間にA24配給作品としては初の1億ドルの大台を突破し、アカデミー賞にもノミネートされてしまった。
オリジナル脚本からこの怪作を作り上げたのは、ダニエル・ラドクリフ演じる喋る死体がマルチに活躍する「スイス・アーミー・マン」で注目を集めた、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナート。
彼らダニエルズと共に、「アベンジャーズ/エンドゲーム」のアンソニーとジョーのルッソ兄弟がプロデュース参加している。
※核心部分に触れています。

エヴリン(ミシェル・ヨー)とウェイモンド(キー・ホイ・クワン)は20年前に駆け落ちし、アメリカにやって来た中国系移民の夫婦。
経営するコインランドリー店は赤字続きで、中国から来たボケた父親ゴン(ジェームズ・ホン)の扱いに悩み、“彼女”のいる娘ジョイ(ステファニー・スー)とは何かとぶつかり合い、ウェイモンドは優しいが頼りにならず。
国税庁からは監査を受けている最中で、厳しい調査官のディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)によって店は差押られる寸前。
そんなある日、領収書の束を抱えて国税庁を訪れた時、突然ウェイモンドが「私は別の宇宙、アルファバースから来た」と言い出す。
混乱するエヴリンに、「全宇宙を破壊しようとするジョブ・トゥパキ倒せるのは君だけだ」と告げ、平行宇宙に無数に存在する他の自分から、さまざまなスキルを習得する方法を教える。
訳の分からないままマルチバースの戦いに巻き込まれたエヴリンは、平行宇宙からカンフーマスターのスキルを手に入れるのだが、ジョブ・トゥパキとして姿を現したのはなんと娘のジョイだった・・・


明らかにアナル・プラグと思しき物体が、「仕事で表彰されたトロフィー」としてジェイミー・リー・カーティスの机に飾ってあった時点で嫌な予感がしていたが、まさかこんなことになるとは。
仕組みとしてはよく分からないけど、マルチバースを行き来するには、普段やらない様なすごく変なことしなければならない。
トロフィーをアナルに刺すとか(笑
すると、その行為がトリガーとなって平行宇宙の自分とリンクし、スキルなんかを使えちゃう。
どこからその発想が出てくる?というぶっ飛び具合は、ダニエルズの前作「スイス・アーミー・マン」同様。
あの映画では主人公のポール・ダノが、見つけた死体のオナラ噴射で遭難した孤島から脱出、迷い込んだ森で喋る死体を万能ツールにしてサバイバル。
ダニエル・ラドクリフ演じる死体は、水筒にも、斧にも、果てはライフル替わりにもなる万能っぷりで、スイス・アーミー・ナイフの人間、もとい死体版。
作品世界全てが主人公の比喩的心象世界なのは、容易に想像できるので、あとはラドクリフが怪演する死体を含め、作中で起こる奇怪な出来事に笑い、それが何を意味するかの読み解きの興味が全てだ。

主人公のエヴリンは、日常生活で様々な問題を抱えていて、それをリセットするために非日常の世界で自分と向き合うという構図は、今回も変わらない。
本作におけるマルチバースは、「スイス・アーミー・マン」の死体と同じく、彼女を非日常に誘う舞台装置
中国で駆け落ちして、アメリカにやって来てから20年。
仕事には行き詰まり、レズビアンの娘とは喧嘩ばかりで、夫のウェイモンドは離婚請求を準備している。
生活に追われて、自分以外のことに目を向ける余裕のないエヴリンは、唯一の拠り所である家族が崩壊寸前であることにも気付いていない。
そんな彼女が、突如としてマルチバースを駆け巡り、この宇宙の自分とは違った人生を送っている何人もの自分にアクセスしスキルを習得。
カンフーマスターのスキルをもらって格闘術の達人になると、迫り来る無数の刺客とも戦える。
しかも敵のボス、ジョブ・トゥパキは自分の娘のジョイなのである。
マルチバースの戦いの裏側にあるのは、アイデンティティの迷い、異文化に生きる移民としての苦難、夫婦のほろ苦い衝突、母娘の価値観のすれ違い。
このカオスが、エヴリン自身の混乱のメタファーであることは明らかだ。

科学者だったアルファバースのエヴリンが、図らずも生み出してしまったジョブ・トゥパキは、マルチバースの全てを行き来でき、あらゆる物質に変更を加えらえる超越的な存在。
文字通り全知全能となった彼女は、ブラックホールのような特異点「エブリシング・ベーグル」を作り、全ての宇宙を破壊しようとしている。
理由は「何もかもどうでもいい」から。
全ての可能性を一身で経験できる彼女にとっては、もはやそれ以上は存在せず、マルチバースは完全な虚無の世界
ちなみにエブリシング・ベーグルというメニューはアメリカのベーグル屋に実際にあり、普通はその店にある全てのトッピングを一つのベーグルに詰め込んだもの。
好きな人もいるのだろうが、当然ながら色んな味が混じり合った、なんとも形容し難いものがほとんど。
「これ、別々に食べた方が美味しくない?」というエブリシング・ベーグルを、いわばマルチバースのメルティングポットに見立てたのが面白い。

ジョブ・トゥパキの計画を阻止するために、並行宇宙の自分にアクセスしたエヴリンも、他の人生を生きている自分を断片的に経験する。
まるでミシェル・ヨー自身の様に、カンフー映画のスターとして成功している人生では、ウオン・カーウァイの「花様年華」のパロディみたいな話が語られる。
またシェフとして生きている別の人生では、ピクサー映画の「レミーのおいしいレストラン」の様に、アライグマとの二人羽織で成功しているライバルシェフとの関係が描かれる。
これら作者の映画的記憶と結び付いた遊び心あるマルチバースは、すべてエヴリンの選択の結果生まれた宇宙。
彼女が諦めてきたこと、通らなかった道も、全ては一つの選択として多様性の宇宙を形作っているという世界観で、ジョブ・トゥパキの虚無の宇宙とは真逆である。

闇堕ちした娘との戦いを通して、エヴリンにとって今生きているたった一つの宇宙の価値はますます強固になり、彼女はジョブ・トゥパキの虚無からジョイを奪還することを決意する。
地球に生命が発現せず、自分たちが石ころになっている世界でも、彼女は諦めずどこまでも娘を追ってゆく。
そして遂に「あなた以外は、何もかもどうでもいい」と言って、エヴリンはジョイを抱きしめるのだ。
全宇宙を救うはずのマクロな話が、主人公と娘のミクロな関係に収束するのだが、一切尻すぼみ感がないのが素晴らしい。
ある意味、マルチバースの扱いに迷いまくっているマーベルスタジオに対する模範回答。
なんでコレとコレをくっ付けた?が2時間続く、目眩く謎映画は未見性の塊だし、そろそろMCUにも新しい血が必要な気もするので、ダニエルズがマーベルに呼ばれる選択の宇宙がもあってもいいかも。

また本作がミシェル・ヨーの集大成であることは間違いないが、もう一人の象徴的な人物がウェイモンドを演じたキー・ホイ・クァンだ。
クァンといえば80年代に「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」や「グーニーズ」で子役として人気を博したが、当時はアジア系俳優にはチャンスも少なく、表舞台から遠ざかり裏方の仕事をしていた。
しかし2021年に俳優復帰、本作でいきなりゴールデングローブ賞を掻っさらい、オスカー候補になってしまった。
もし、彼が復帰の道を選択しなかったら?と考えるとここにももう一つの並行宇宙が見えてくるではないか。
しかしこんなガチャガチャした映画なのに、「アカデミー賞最有力」が嘘じゃないのが凄いな。
実現したら本当に映画の歴史を変えてしまうではないか。
この長ーいタイトルのまま公開したのも、相当に攻めている。
普通は邦題つけたくなるよなあ・・・。
フリーダムな内容同様、画面のアスペクト比も自由自在に変化するが、必然的に一部シーンは額縁上映になるので、大きめのスクリーンでかかっているうちに鑑賞するのがオススメだ。

今回は、アジア系の話なので「ドラゴン・レディ」をチョイス。
ドラゴン・レディとは、元々神秘的な魅力のあるアジア人女性を指す言葉で、ミシェル・ヨー姐さんにピッタリ。
ホワイト・ラム45ml、オレンジ・ジュース60ml、グレナデン・シロップ10ml、キュラソー適量をステアしてグラスに注ぎ、スライスしたオレンジを添える。
名前はむっちゃ強そうだが、実際には甘口で飲みやすいカクテルだ。

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