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聖地には蜘蛛が巣を張る・・・・・評価額1650円
2023年04月21日 (金) | 編集 |
本当の闇はどこにあるのか。

イランの聖地マシュハドで、2000年~2001年に娼婦ばかり16人が殺された連続殺人事件をベースに、「ボーダー 二つの世界」で脚光を浴びた、イラン出身のアリ・アッバシ監督が描いたクライムスリラー。
事件の捜査も裁判もすでに終わっているので、犯人探しのミステリ映画ではない。
アヴァンタイトルで一件の殺人が描かれた後、 ザーラ・アミール・エブラヒミが演じる事件を追う女性ジャーナリストのラヒミと、メフディ・バジェスタニ演じる犯人のサイード、双方の視点が交互に描かれてゆく。
サイードのキャラクターは実際の事件を起こしたサイード・ハナエイに基づいているが、ジャーナリストのラヒミは架空のキャラクター。
アッバシは同じ事件をモチーフとしたドキュメンタリー映画「و عنکبوت آمد(そして蜘蛛が来た)」で、ハナエイにインタビューしたジャーナリストからラヒミのキャラクターを着想したという。
彼女の客観的な視点が入ることで、殺人事件そのものだけでなく、事件が起こった背景や事件に対する社会の反応など、複合的な要素から本当の闇が浮かび上がってくる。

ジャーナリストのラヒミ(ザーラ・アミール・エブラヒミ)は、娼婦ばかりを狙う連続殺人事件を取材するために宗教都市マシュハドにやって来る。
犯人はこの街に住む彼女の旧知ジャーナリスト、シャリフィ(アラシュ・アシュティアニ)に犯行声明の電話をかけていた。
ラヒミはシャリフィと共に警察を取材するが、被害者が娼婦だけで一部の市民は犯人を英雄視していることもあり、彼らの腰は重い。
“蜘蛛殺し“と呼ばれる連続殺人犯の正体は退役軍人のサイード(メフディ・バジェスタニ)で、妻と三人の子を持つ平凡な男。
だが、彼は英雄として死にたいという願望を隠せず、聖地を汚す娼婦をターゲットとした殺人を繰り返していた。
死体だけが増えてゆき、警察は一向に手掛かりは掴めない。
そんなある日、ラヒミが話を聞こうとした娼婦が殺され、彼女は犯人を突き止めるために、ある危険な作戦を考える・・・・

重苦しい映画である。
前作の「ボーダー 二つの世界」も、本来自分が属していない世界で生き方に葛藤を抱えた主人公の物語だったが、本作では聡明な女性ジャーナリスト、ラヒミが物語の入り口となり、私たちの知らないもう一つの世界が描かれる。
舞台となるのは、イラン北東部にある聖地マシュハド。
首都テヘランに次ぐイラン第二の大都市には、イスラム教シーア派のイマーム・レザーの聖廟があり、シーア派の巡礼地ともなっていて、その風土は極めて保守的。
だがそんな土地にも、貧困から体を売らなければ生きていけない女性たちがいる。
長編デビュー作の「マザーズ」、「ボーダー 二つの世界」に続いて、アッバシと三度目のタッグを組む撮影監督ナディーム・カールセンは、光と闇のコントラストでこの街を捉える。
眩い光に満ちた広場や住宅地があるかと思えば、荒れた路地に足を踏み入れれば、街灯すらほとんどない暗闇が広がっている。
売春は違法だが、客に気づいてもらえないと商売にならない。
だから多くの娼婦たちは目立つスカーフを着けて光と闇の境界に立っているが、暗闇には狡猾な蜘蛛が巣を張っていて、彼女らが闇に迷い込むのを待っている。

シリアルキラーのサイードは、イラン・イラク戦争の帰還兵で、妻と息子、二人の娘と共に暮らす子煩悩な父親だ。
しかし信心深いサイードには強い英雄願望があり、本当は戦争で殉教者として死にたかったと思っている。
そして彼は神の兵士となり、聖地を汚す夜の街に立つ娼婦たちを殺し始めるのである。
最初の事件は2000年の8月7日で、殺された女性には幼い娘がいた。
これが映画の冒頭で描かれた殺人だろう。
それから5日の間に3人を殺害し、しばらく鳴りを潜めるものの、翌2001年の1月に殺人を再開し8月までに13人を殺している。
終盤に描かれる裁判のシークエンスでは、神が彼の仕事を認めたので、殺人は正義であり街の浄化だと主張する。
どこまで事実かは分からないが、本作のサイードはしばし幻覚を見ていて、現実と区別がついておらず、それゆえに自分の主張も心の底から信じているように描写されるので、もしかしたらPTSDを発症していたのかも知れない。

一方のラヒミは、自立した女性で、やり手のジャーナリスト。
宗教国家という特殊な権威主義体制にあっても、判事や警察といった体勢側に対して歯に絹を着せない追求をする。
そんな彼女にも、テヘランで上司にセクハラを受けていて、告発したら上司ではなく彼女がクビになったという過去がある。
ラヒミを演じて、イラン人女優として初のカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したザーラ・アミール・エブラヒミは、元恋人に悪意あるリベンジポルノを流失させられた事件でイラン芸能界を追放され、以降フランスでの亡命生活を余儀なくされている。
現在はBBCのプロデューサーとしても活躍するエブラヒミは、当初裏方として本作に参加していたが、最終的に自分がラヒミ役を演じることとなった。
映画の人物像に彼女の実際の経験を盛り込むことで、非常にリアリティのあるキャラクターとなっており、エブラヒミのキャスティングが本作の成功要因の一つなのは間違いないだろう。

イラン国外の観客にも感情移入しやすい、ラヒミの目を通して事件を追うことで、単なる殺人だけでなく事件を取り巻く社会全体の問題が明らかになってくるのである。
超保守的な街では娼婦の存在をよく思わない人たちも多く、市民たちはサイードが捕まった後も英雄視している。
裁判所の前にはサイード釈放を要求するデモ隊が押し寄せ、彼を死刑にしないために支援者たちが金を集め、殺された娼婦の遺族を説得する。
イランでは遺族が賠償金を受け入れると、死刑が減免されるという驚くべき制度があるのだ。
シリアルキラーを救うためのノイジーな活動を、社会のマジョリティが繰り広げる一方で、不浄なものとされた殺された娼婦の遺族たちの声は外には出てこない。
また女性が女性の味方とも限らない。
サイードの妻は、夫の行為を正しいこととして子供たちに伝えるし、街の“まとも“な女性たちも娼婦を蔑視しているのだろう。
各方面へのラヒミの取材で見えてくるものが、彼女自身の過去と組み合わせられ、イランに蔓延するミソジニーの問題、神権政治が支配する社会への疑念が浮かび上がってくる構造になっている。
裁判が終わり、マシュハドを離れるラヒミが、バスの中で再生するサイードの息子へのインタビュービデオが、この問題の根深さを雄弁に物語る。
これらの問題はイスラム世界独特の部分もあるが、マジョリティから見て異端の存在に対するヘイト、セックスワーカーに対する嫌悪と差別などは日本でもある話で、決して対岸の火事ではない。
異国を鏡に「では自分たちの社会は?」と問いかけてくるのである。

本作は非常に高い評価を得たが、製作国は全て欧州でロケ地もヨルダン。
イランでの撮影を試みたものの許可されず、完成した映画と関わったイラン人関係者に対してもイラン政府は脅迫的な非難声明を繰り返している。
今ではフランスの市民権を持つエブラヒミも、カンヌでの受賞以来200件もの脅迫を受けたというから、闇はとことん深い。
ただ同じ題材のイラン映画「Killer Spider」も存在しているので、この事件を取り上げるのがダメということではない様だ。
両作を観比べるとイラン政府的には何が気に入らないのか理解できるのかも知れない。

今回は、蜘蛛つながりで「グリーン・スパイダー」をチョイス。
ウォッカ45mlとクレーム・ドミント・グリーン15mlを氷と共にシェイクし、グラスに注ぐ。
エメラルドのような緑が美しいスイートなカクテルだが、アルコール度数は35°もあるので、いつの間にか蜘蛛の巣にかからない様に注意が必要。

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