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正欲・・・・・評価額1750円
2023年11月13日 (月) | 編集 |
普通ってなんだろう?

寺山修司原作の傑作「あゝ、荒野」の監督・岸善幸と脚本・港岳彦が再タッグを組み、朝井リョウの同名ベストセラー小説を映画化した作品。
頑なに常識に囚われた父親、不登校の小学生YouTuber、男性恐怖症の大学生、そして人には理解されない不思議な性的指向を抱えた三人の若者たち。
様々な“壁”によって分断されれた人々の物語は、一見無関係に展開し、やがてある事件をきっかけにして、一つのストーリーラインへと収束する。
激変してゆく世の中に、戸惑いを隠せない検事の寺井啓喜を稲垣吾郎が演じ、人には言えない性的指向を持つがゆえに、生き辛さを感じている地方在住の女性、桐生夏月を新垣結衣が演じる。
最近、なんだかおかしな方向で語られることの多い、“多様性”というモチーフを新たな切り口で描いた物語で、誰にとっても非常に示唆に富む作品となっている。
いわゆる、“時代に呼ばれた映画”だと思う。

検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)は不登校の小学生の息子・泰希(潤浩)がYouTuberになりたいと言うのを聞いて、戸惑いを隠せない。
反対はしたものの、泰希は妻の由美(山田真歩)の後押しやNPOの助けを借りて配信を初め、徐々に人気者になってゆく。
岡山に住む桐生夏月(新垣結衣)は、中学の頃の同級生だった佐々木佳道(磯村優斗)が帰郷したという噂を聞く。
夏月は「水」に対してしか性欲を覚えないが、このことを誰にも話せず、誰とも親密な関係を築けずに孤独な人生を送っている。
そんな彼女にとって、佳道は人生で唯一出会った同じ性的指向を持つ人物だったのだ。
大学生の神戸八重子(東野絢香)は、過去のトラウマから男性恐怖症となり、男性との接触を極力避けてきた。
だがある時、多様性をテーマとしたイベントの企画で、諸橋 (佐藤寛太)というダンサーの男性と知り合い、徐々に惹かれてゆく。
それぞれに葛藤を抱えた人々の日常が過ぎてゆき、ある事件が起こる・・・・


朝井リョウの原作は未読。
私たちが“多様性”という言葉を使う時、もしくは耳にする時、それは人種や宗教、年齢、肉体的・精神的な障害のあるなし、あるいは性的指向など、様々な意味を持つ。
だがしかし、現在語られている多様性は本当に多様なのだろうか?
見えやすい、もしくは自分の想像できる範囲内の多様性になってしまってはいないか。
多様性という言葉とは裏腹に、そこにはある種のマイノリティのステロタイプが出来上がっていて、そこに当てはまらない人たちがが抜け落ちてしまっているのでは?という危うさがある。
本作も予告編を観た時は「LGBTQモチーフか」と思ったが、全くアプローチが違った。
この作品が秀逸なのは、情報も多く、先入観を持つ人も少なくないメジャーなマイノリティ(と言うのも変な話だが)ではなく、ほとんどの人が判断基準すら持たない、マイノリティの中のマイノリティを俎上に上げることで、観客の意識を完全にニュートラルにしてしまったことだ。

人でないものや体の一部などに性的な興奮を覚えるという、フェティシズム自体は古くから知られている。
体の一部や動物などはまだ理解できるような気もするが、本作の夏月、佳道、大也が性欲を感じるのは「水」なのである。
人を愛せず、水を愛するというのは一体どう言うことなのだろうか?
登場人物の心の動きを想像すると未知の世界が開けるようで、失礼ながら宇宙人の心を覗いている感覚で、観てる間ずっとゾワゾウが止まらなかった。
これがもしもう少し具体的な形のある物だとすると、おそらく受け手の感覚も変わってくる。
例えば人形など人に近い形の物だと、嫌悪感から「変態」と言う言葉が頭をよぎる人もいるだろう。
形も色も無い水という性欲の対象が、あまりにも理解出来なさ過ぎて、ただ不思議だという感覚だけが残る。

以前からSNSなどで言ってるが、私は誰もが自由に生きられる世界は、見方によっては誰もが不快な世界だと思う。
人は自分を中心に世界を見ているので、自分にとって分からないこと、理解出来ないことは避けるか拒絶する傾向にある。
同性愛者に対して、障害者に対して、特定の人種に対して、あるいは異性に対して、自分とは違うからと、嫌悪や忌避の感情を抱く人は沢山いる。
稲垣吾郎が演じる寺井啓喜の行動と思考がまさにこれで、成功者としての人生を歩み、自分の価値観が固まってしまっているので、そもそも息子の不登校が理解出来ない。
彼にとっては、学校とはたとえ嫌なことがあったとしても、我慢して行くべきところなのである。
自分の成長過程では存在しなかった、YouTuberはもっと分からない。
訳のわからない動画を配信して、いいねをもらうなど、そのうち消えてしまう虚業にしか思えず、息子は限られた人生を浪費しているようにしか思えないのだ。

映画は、社会のマジョリティを代表する啓喜と、認知されないマイノリティの夏月を天秤の双方の皿に配置し、二人の周りに様々な立場で生き辛さを感じている人たちを配している。
観客は夏月たちに感情移入しつつも、ある意味常識人である啓喜の言っていることも分かる立場で、物語を俯瞰する。
水を愛するという、今までの人生で全く接点のなかった人たちの苦悩を見て、何を感じるか。
とりあえず、夏月たちの性的指向は人畜無害であるが、特殊すぎて他人に打ち明けられず、結果孤独を抱えてしまうのも理解出来る。
私はこの映画を観て“52ヘルツの鯨”の話を思い出した。
海を回遊する鯨は、鳴き声で遠くの仲間ともコミュニケーションをとっているが、過去40年に渡って52ヘルツと言う極めて珍しい周波数の鳴き声をもつ個体が観測されている。
他の鯨とは周波数帯が違うので、この個体は他の誰ともコミュニケーションをとることができず、世界で一番孤独な鯨と呼ばれているのだそう。
人間はその内面にどんな秘密があったとしても、一人ぼっちでただ生きていくことは出来る。
でもそれは、本当に充実した人生と言えるのか。

本作の白眉と言えるのが、偽装結婚した夏月と佳道が、セックスを擬似体験するシーン。
ぎこちなく体位の真似事をした後、佳道が夏月に体重を預け、そっと抱き合う。
初めてお互いの体温を感じた二人は、性欲とは違った、存在を求め合う“正欲”の尊さを実感するのである。
誰にも言えず、孤独に生きて来て、偶然にも理解者を得ることが出来た幸運。
でもそんな人は多くは無く、世間の目は冷たいまま。
映画は、水を愛する人々をモチーフに、人はどこまで“得体の知れない人”を社会の一員として受け入れることができるか?と問う。
いろいろな考え方があるのは承知しているが、個人的には犯罪性があるかどうかと、自分の考え方を他者に押し付けるかどうかだと思う。
劇中でも水フェチだが小児性愛者でもある男(水フェチは子供に近づくための偽装かもしれない)と関わってしまったがために、佳道と大也が大変な目に遭うが、ここで事情聴取に呼ばれた夏月と担当検事の啓喜の対話がクライマックス。
淡々と語る夏月には、深く繋がっている佳道がいるのに対し、啓喜はその傲慢な振る舞いによって、家族に去られている。
彼は存在を認識していなかったマイノリティとの対話で、意識しないうちに自分の常識を周りに押し付けていたことを思い知らされるのである。

そしてこれ以上描くと、この映画が絶対避けるべき”断定”の要素が入ってきてしまう、ギリギリで物語を落とすラストショットのセンスの良さ。
かように、“普通”の定義とは難しく、“多様性”という言葉はとてつもなく奥が深い。
この記事でも、夏月たちを「性的指向」と「性的嗜好」のどちらで表現すべきか悩んだ。
彼女らの場合は、必ずしも性的興奮を伴うとは限らないようなので「性的指向」とした。
作品の世界観を象徴する複雑なキャラクターを、国民的に好感度の高い新垣結衣が演じている意味は、とても重いと思う。
ありそうでなかった視点で、新たな世界を見せてくれる傑作である。

今回は水を愛する人たちの物語なので、「上善如水(じょうぜんみずのごとし)純米吟醸」をチョイス。
新潟県越後湯沢にある白瀧酒造の代表的な銘柄で、「水は全ての存在を潤し、争いごとをせず、誰もが嫌がる低地へとたまる、最上の善である」という老子の言葉が由来。
名前の通り、フルーティーで強いクセがなく、すっきりとした水のように軽やかに飲めるので、つけ合わせる酒の肴を選ばない。
吟醸酒特有の香りも抑え目なので、日本酒を飲み慣れてない人のための入門酒としても適している。

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