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酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
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哀れなるものたち・・・・・評価額1750円
2024年01月26日 (金) | 編集 |
彼女が見た世界とは。

ビクトリア朝時代のロンドンで、科学の力によって死から蘇った若い女性、ベラ・バクスターの冒険を描く異色のゴシックファンタジー。
メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」を換骨奪胎したアラスター・グレイの同名小説を、監督 ヨルゴス・ランティモス、脚本 トニー・マクナラマ、主演 エマ・ストーンの「女王陛下のお気に入り」チームが映画化した。
ベラを甦らせるマッドサイエンティストの“父”ゴドウィンにウィレム・デフォー、ベラの観察者となる医学生マックスにレミー・ユセフ、彼女を冒険の旅に連れ出す怪しい弁護士のダンカン・ウェダバーンをマーク・ラファロが演じる。
徹底的に作り込まれた華麗かつ奇妙な世界で、猥雑でエロチックなランティモス節が冴わたる。
赤ん坊から洗練された大人の女性までの変化を、2時間22分で表現し切ったエマ・ストーンに圧倒される。
※核心部分に触れています。

19世紀後半のロンドン。
外科医だった父親から実験体として育てられ、怪物のような容姿になってしまったゴドウィン・バクスター(ウィレム・デフォー)は、自らもまた生命の神秘に取り憑かれている。
ある日、テムズ川に身を投げた新鮮な妊婦の死体を手に入れたゴドウィンは、胎児の脳を母親の体に移植するという禁断の手法で蘇生を試みる。
大人の肉体と赤ん坊の脳を持ち、蘇った女性はベラ(エマ・ストーン)と名づけられる。
ゴドウィンから、ベラの観察者に指名された医学生のマックス・マッキャンドルス(レミー・ユセフ)は、やがて精神的に急速に成長するベラの美しさに惹かれてゆく。
ゴドウィンから婚約を許されたマックスだったが、ベラに魅せられた弁護士のダンカン・ウェダバーン(マーク・ラファロ)に横恋慕されてしまう。
世界を見せてやるというウェダバーンに連れられて、ベラはポルトガルのリスボンからはじまる、壮大な世界旅行へと旅立つのだが・・・・

原作は、著者のアラスター・グレイによる、モキュメンタリーのスタイルをとっている。
1880年代のグラスゴーで、医師のアーチーボルト・マッキャンドルスという人物が書き残した「スコットランド一の公衆衛生官の若き日を彩るいくつかの挿話」というタイトルの本に書かれているのが、本作に描かれたベラの物語。
そしてアーチーボルトの死後、彼の妻で医師のヴィクトリア・“ベラ”・マッキャンドルスが、自分の子孫に宛てた長い書簡で、本の内容の大半は事実ではなく夫のでっち上げだと反論している。
どちらも1970年代になって発見された郷土資料という設定で、それをグレイが妻の書簡にある「哀れなるものたち(Poor things)」というフレーズをタイトルに、一冊の本にまとめたという形式。
映画では、モキュメンタリー設定はなくなり、夫の本のプロットに妻の書簡の精神性を組み合わせることで、不思議な経緯で新たな生を得た一人の女性が、自らの人生を掴み取るまでの物語としたのが特徴だ。

マッドサイエンティストと、彼の創造した命という物語は、明らかにメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」の影響を受けている。
おそらくこの映画の作者たちが、原作を脚色するに当たって着目したのは、ハイファ・アル=マンスール監督、エル・ファニング主演で2018年に公開された「メアリーの総べて」だろう。
メアリー・シェリーが後に伝説となる小説を執筆する2年間を描いた伝記映画だが、フランケンシュタイン博士とその怪物に関して、ユニークな解釈をしている。
自らの理想を叶えるべく死体をつなぎ合わせて怪物を作り上げながら、そのおぞましい姿に絶望し、無責任に捨てるフランケンシュタイン博士は、女性に理想を押し付けて、自分は好き勝手に生きている夫のパーシーを始めとする男性たち。
創造主を追い続け、ついに彼の人生を破滅させる悲劇の怪物こそ、メアリー自身だと言う。
これはほぼ、本作の言わんとすることと同じだ。

父の実験の結果、自らが怪物のような風貌になってしまったゴドウィンが、自殺した女性の脳を取り出し、妊娠中だった胎児の脳を頭蓋骨に埋め込むことで蘇生したベラは、いわば鶏であると同時に卵でもある、ウロボロスの蛇のようなこの宇宙でも特異な存在だ。
大人の肉体を持ちながら、心は0歳児からやり直すベラの成長の段階で、彼女を支配しようとする男たちが入れ替わり立ち替わり現れる。
最初はもちろん、創造主ゴドウィンだ。
自作のキモカワ合成生物と共に、大きな屋敷に住むギークのゴドウィンは、純粋に科学的な興味でベラを甦らせると、父性を発揮し無垢なる彼女を守るために過保護な親となる。
次はゴドウィンから、ベラの成長観察を任されたマックス。
彼は次第に彼女に恋心を抱き、やがて婚約者となる。
ベラが旅立った後、性懲りもなくもう一人蘇りの被験者を作っているなど、倫理的に大きな問題を抱えているとは言え、二人の男たちの感情ベースにあるのは愛情だ

次いで、ある程度知恵のついたベラの前に現れるのが、超俗物のダンカン・ウェダバーン。
ベラの美しさに魅せられたダンカンは、彼女の知的好奇心につけ込み、自らの支配欲と性的欲望を満たすために世界旅行へと連れ出し、快楽に溺れる。
ダンカンとの旅はリスボンを皮切りに、豪華客船での地中海クルーズへと続き、ベラはエジプトのアレクサンドリアで、征服者に搾取される現地住民の悲劇を目の当たりにし世界の残酷さを知る。
そして幼さゆえの善意から一文無しとなり、パリの売春宿に雇われたベラは、同僚女性たちに導かれながら、この世界の裏側にある欲望や歪みを理解して急速に成長。
彼女にとって父である、ゴドウィンのような医師を目指すようになる。
幼女の心の段階のベラを支配しようとしたダンカンは、彼女に取ってはもはや用無しとなり、逆に未練たらたらのダンカンは心を病んでしまう。

そして最後に彼女の前に姿を現すのが、ベラとして蘇る前の夫。
彼女の自殺の原因となった裕福な軍人、アルフィー・プレシントンなのである。
彼はベラを監禁し、扱いやすくするために陰核除去手術を受けさせようとする、サディストで傲慢な非常に分かりやすい抑圧的支配者
そんな彼との生活に耐えられず、元の彼女は死を選んだのだが、世界を巡る大旅行で様々な経験を積み、いつしかスマートな大人の女性となった現在の彼女に取っては、脳みそ筋肉のアルフィーなど、もはや一番救いようの無い「哀れなるもの」に過ぎないのである。

面白いのは、本作が昨年世界的な大ヒット作となった「バービー」と、極めて似た構造とテーマを持っていることだ。
どちらも物語の話型は「ピノキオの冒険」を踏襲した、純粋すぎる心の成長譚。
「バービー」では、理想化された人形の世界しか知らないバービーが、現実の人間の世界へと冒険することで様々な気付きを得て成長し、人間の女性として生きて行く決心をする。
一方で本作は、大人の体とまっさらな心を持つ女性が、世界を巡る冒険の旅に出て、大人の女性としての自立した人生を得る。
モダンで人工的なピンク一色の世界観と、不気味で有機的なゴシック小説の世界観と、テリングのスタイルは真逆と言っていいが、何者にも依存せず、支配されない女性の生き方を描く内容はかなり重なっている。

世界観で特筆すべきはホリー・ワディントンのゴージャスな衣装デザインと、ジェームズ・ブライスとショーナ・ヒースによる凝りに凝ったプロダクションデザインだ。
旅に出るまではモノクロ、旅立ってからはカラーで描かれるビジュアルは、例によってゴリゴリにクセが強く、一度見たら忘れられない不思議でゴージャスなイメージを作り上げている。
そしてやはりこの作品の白眉は、プロデューサーも兼務するエマ・ストーンだろう。
最初は本当に赤ちゃんの様に、やがてちょっと頭のネジの緩い少女の様に、遂には洗練された大人の女性へと変貌して行き、圧巻の存在感であった。

今回は、物語のターニングポイントとなるアレクサンドリアを創建した、古代マケドニアの王の名を持つ「アレキサンダー」をチョイス。
ブランデー30ml、クレーム・ド・カカオ・ブラウン15ml、生クリーム15mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
最後に、ナツメグを適量すりおろして完成。
カカオと生クリームのコンビネーションがまろやかでソフトな口当たりを演出し、ブランデーの香ばしさとコクが余韻を作る。
アレクサンドリアでの出来事は悲惨だったが、こちらは濃厚甘口のカクテルだ。

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雪山の絆・・・・・評価★★★★+0.6
2024年01月23日 (火) | 編集 |
彼らはなぜ生かされたのか。

1972年の10月に、ウルグアイのステラ・マリス大学のラグビーチームと、その家族や友人たち、乗員乗客45人を載せたウルグアイ空軍571便がアンデス山脈に墜落。
72日間のサバイバルの末に、16人が生還した実際の事故の顛末をJ・A・バヨナが描く。
過去に何度もドキュメンタリーや劇映画として映像化され、1993年にはフランク・マーシャル監督でハリウッド映画「生きてこそ」にもなった題材だが、今回はスペイン語劇。
原作は事故当事者たちと同世代で、ステラ・マリス大学出身の作家、パブロ・ビエルチが2009年に出版した同名ノンフィクション。
標高4千メートルを超える極限の環境に、忽然と生まれた「雪山の社会」で、彼らに何が起ったのか。
犠牲の意味、繋がれた命の意味を問い続けるサバイバル劇は、144分の長尺を感じさせない。
見応えたっぷりの秀作だ。
※核心部分に触れています。

1972年10月13日。
ラグビーチーム、オールド・クリスチャンズ・クラブの選手と家族、友人らを乗せたウルグアイ空軍所属のチャーター旅客機571便が、悪天候の中アンデス山脈の標高4200メートル地点で峰と接触、雪原に墜落する。
機体の後方部分は吹き飛んだが、前方部分は原型を留めていて、28人が生き残った。
凍てつく高山に放り出された乗客たちは、なんとか機体の穴にバリケードを作り、救出を待った。
しかし、待てど暮らせど助けは来ない。
10月21日に、彼らはラジオで、捜索が打ち切られたことを知る。
機内にあったわずかな食料は尽き、追い詰められた彼らは、遺体の肉を食べて生き延びる決断をし、雪の地獄から脱出する準備をはじめる。
ところがその矢先、突然雪崩が起こり、新たに8人が亡くなり、彼らは機体ごと雪深くに閉じ込められてしまう・・・・・

GPSの無かったこの時代、航空機の墜落位置を割り出すのは容易ではない。
85年に起こった日航機墜落事故でも、夜間だったため上空のヘリから見える墜落現場の座標がわからず、捜索隊が右往左往した。
狭い日本の山でも困難なのに、この事故の現場となったアンデス山脈は、長さ7500キロ、幅は広いところで750キロに及ぶ世界一の広さを誇る大山脈だ。
しかもウルグアイ空軍の機体は白く塗られていて、雪の中では迷彩色となってしまい、発見は困難極まる。
そもそもこの様な高山で起こった墜落事故では、生存者はまずいないと考えた当局を責めることは出来ないだろう。
不幸中の幸いだったのは、南半球のアンデス山脈では、ちょうど春から夏に向かう季節だったことで、結果的に二人の遠征隊が下山することが出来た。

かつて「インポッシブル」で、スマトラ沖地震の津波被害を凄まじいリアリティで描いたバヨナだけに、墜落シーンは圧巻だ。
機体が砕け、乗客が次々と雪原に落ち、壊れたパーツが人体を押し潰す。
映画でさまざまな墜落シーンを見てきたが、その瞬間の恐ろしさはピカイチだ。
そして一難去って、墜落地点の状況の描写でまた観客を絶望させる。
見渡す限りの雪原には植物も動物も姿はなく、一面雪に覆われたすり鉢のそこにポツンと佇む機体の残骸はあまりにもちっぽけだ。
しかもウルグアイは国土のほとんどが平原で、首都モンテビオから来た乗客のほとんどは雪を見たこともなく、山岳地で過ごした経験もない。
カメラは時として広角のハンディとなり、その臨場感は観客を当事者と自己同一視させる。
我々は生存者の一員となり、次々と襲って来る恐怖に耐え、あまりにも辛い決断をしなければならないのである。

よく知られている通り、この事件では絶望的な状況の中、生存者が仲間の遺体を食べて命を繋いだという衝撃的な事実がある。
過去の映画化でも重要な葛藤として描かれてきた決断だが、本作ではこの行為の意味を掘り下げるためにユニークな工夫をしている。
本作は多数の登場人物による群像劇だが、物語の語り部をエンゾ・ボグリンシク演じるヌマ・トゥルカッテイに設定しているのである。
ヌマはラグビーチームの選手ではなく、親友のパンチョ・デルガドから誘われて旅行に参加した法学部の学生で、当初は人の肉を食べることに法律的、倫理的な忌避感から抵抗する。
しかし足に怪我を負い、自分の命が長くないと悟ると、自分が死んだら体を使って欲しいと言い残してこの事故の最後の犠牲者として亡くなる。
それは遠征隊が出発する前日、12月11日のことだった。
つまり彼は、物語の中で生者であり死者でもあり、極めてニュートラルな存在なのである。

人肉食シーンも逃げずに直接的に描いている。
それゆえに、かなりショッキングではあるのだが、前述の通りヌマを語り部としたことで、生存者と犠牲者双方を同じ比重で描き、レクイエムを捧げる内容になっている。
高山で活動するには、平地の何倍ものカロリーが必要だが、手持ちの食料はわずか。
彼らが生き延びるのには遺体に手をつけるしかないのだが、それは大切な家族であり、友人の体である。
遺体を食べるという行為には、精神的なエクスキューズが必要だろうが、ほぼ全員がカソリック教徒である彼らは、人肉食を「聖餐」に例えることで心の許しとした。
聖書では、弟子たちとの最後の晩餐の時にキリストはパンを手に取り「これは私の体である」と言い、ワインを手に取り「これは私の血である」と言って弟子たちに分け与えたという。

本作では描かれていないが、生存者の人肉食が明らかになった時は、当然ながら非難する世論もあったそうだ。
だが当事者たちが会見を開き、人肉食が不可避の状況であったこと、彼らがそれを「聖餐」と同一視していたことを伝えると、非難する世論は治ったというからキリスト教徒には説得力のある言説だったのだろう。
人間の肉体はただのモノだが、食べるという行為によって死んだ誰かの血と肉は、救われた誰かの中でずっと生き続ける。
実際に16人の生存者たちが揃う本作のラストショットは、明らかにダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を模した構図になっており、本作の犠牲と繋がれた命の意味を象徴する。
J・A・バヨナの演出は、登場人物の心情に寄り添いながら、現実に起こった喪失の意味について、可能な限り扇情性を排して真摯に語るというスタンス。
広大なアンデス山脈の荘厳な自然と、ちっぽけで弱いが生きるために懸命に抗う人間のコントラストもドラマ性を高めている。
50年前に、隔絶した雪山の小さな社会で起こった犠牲と希望の物語を、神学的なアプローチで描き、高い寓話性を持つ秀作となった。

今回は「キリストの血」に例えられる赤ワイン、ボデガ・ガルソンの「ガルソ タナ」をチョイス。
温暖な気候のウルグアイはワインどころで、CPが高いこともあって、近年はチリ産などと並んで日本でも広まりつつある。
ワインスペクテーター誌で世界のトップ100ワインにも選出されたこちらは、葡萄品種のタナの味わいを生かし、しっかりとしたボディを持ちながら、マイルドであと味スッキリ。
ベリー系の香りもフレッシュで、強いクセも無く飲みやすい。
ウルグアイと言えばお肉の国だが、デカい塊肉を炭や薪で焼く名物料理のアサードと合わせると、ジューシーな肉の味を引き立ててくれて相性抜群だ。

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ショートレビュー「カラオケ行こ!・・・・・評価額1650円」
2024年01月22日 (月) | 編集 |
カラオケは、青春のビジョンクエスト。

野木亜紀子+山下敦弘。
なんとも不思議な味わいの作品だ。
中学生の前に、突然スーツ姿の大人が現れて「カラオケ行こ」と誘うところから映画は始まる。
綾野剛演じるヤクザの狂児が、組長主催のカラオケ大会で最下位になると屈辱的な刺青を彫られるという運命から逃れるべく、中学校の合唱部部長の岡聡実くんに弟子入りするのだ。
しかも勝負曲は、超高音が特徴のX JAPANの「紅」という無茶さ。
暴対法とコンプライアンス的にも、あり得ない設定だけで分かるように、原作は和山やまによる漫画である。
リアリティラインが低いだけでなく、いろいろ緩い。
物語の軸となるのは、聡実と狂児の奇妙な師弟関係で、そこに聡実の中学生活の問題が絡みながら、合唱コンクールとカラオケ大会というクライマックスに向かって行く構図。

いい人すぎるヤクザの狂児が、魅力的なキャラクターなのは間違いないが、彼自身のことは狂児というイカれた名前の由来以外はほとんど描かれない。
変な刺青を彫られたくないという以外、ドラマを持っていないのだ。
だから凹凸コンビのバディモノというよりも、基本狂児は聡実の成長のための装置にしかなってない。
必然的に主人公は聡実ということになるのだが、彼の抱えている声変わりでソプラノの高音が出ないことや、それに伴う部活動のモチベーション低下、生真面目な後輩・和田との確執といった問題は、狂児との話にはほとんど関係ない。
要は、噛み合っていないままの中途半端な要素が多いのだ。

にも関わらず、本作はすごく面白いのである。
キモはやはり聡実と狂児の関係性で、この二人の化学反応がすごくエモい。
生き方も価値観も違う者同士が、徐々に心を通じ合う展開は、野木亜紀子の十八番。
狂児が連れてきたコワモテのヤクザたち一人ひとりの歌唱に、聡実は痛烈なダメ出しをする。
側から見て「そこまで言わなくても」と思うくらい(笑
聡実にとっては、大人を通り越してヤクザの世界という非日常経験が触媒となって、中学生ならではの問題なんてどうでもいいことに思えてくる。
一方の狂児にとっては、まだ何者でもない聡実との時間は、健全なる回春薬だ。

終盤の意表を突く展開から、クライマックスの聡実の熱唱を聴いていると、なんとも言えない熱いパトスが湧き上がってくる。
聡実の抱えていた問題、特に後輩の和田との関係は、アレで解決したの?となってしまってるが、まあ10代の頃の葛藤ってそんなものだったような気もする。
X JAPANの「紅」は、ちゃんと聴いたこと無かったけど、この文脈で見るとなかなか良い曲だな。
キーが高過ぎて、自分ではまず歌えないけど。
綾野剛のヤクザ役は「ヤクザと家族 The Family」が記憶に新しいが、役の造形としては半分被って半分ずらして未見性のあるキャラクターにしている。
やはり綾野剛は、こういうトリッキーな役でこそ生きる。
昭和ヤクザのパロディみたいな世界観も手伝って、あの映画の主人公の別の世界線に見えてくるのも狙いだろうか。
聡実にとって、憩いの場所である「映画を見る部」のシーンがいいアクセント。
とりあえず、観終わると誰かとカラオケ行きたくなる。

今回は紅のカクテル「ルビー・カシス」をチョイス。
クレーム・ド・カシスとドライ・ベルモットを30mlと20mlタンブラーに注ぎ、トニックウォーターで満たしてステアする。
胃もたれする位の熱唱の後は、スッキリ優しい味わいのカクテルが相応しい。

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ゴールデンカムイ・・・・・評価額1700円
2024年01月20日 (土) | 編集 |
絶対に手に入れる。

明治時代後期の北海道を舞台に、消えたアイヌの埋蔵金を巡って争奪戦が繰り広げられる。
参戦するのは不死身と噂される元軍人の杉元佐一と、彼のバディとなるアイヌの少女アシㇼパ、戊辰戦争で戦死したはずの新選組副長・土方歳三、そして帝国陸軍最強を誇る第七師団の怪人・鶴見篤四郎中尉ら濃すぎる面々。
週刊ヤングジャンプで連載された野田サトルの同名漫画を、「キングダム」シリーズの黒岩勉が脚色し、「HiGH&LOW」シリーズで知られる久保茂昭がメガホンを取った。
主人公の杉元は漫画実写化ならお任せの山崎賢人が演じ、アシㇼパには山田杏奈、宿敵鶴見中尉を玉木宏、土方歳三を舘ひろしが演じる。
冒頭の二百三高地の戦いから、物語は怒涛の勢いで進行する。
欲望に取り憑かれた人間たちの知恵と筋肉が激突し、血湧き肉躍る日本映画離れした傑作冒険活劇である。
※核心部分に触れています。

1907年。
日露戦争の戦場で、あまりの勇猛さから“不死身の杉元”と恐れられた杉元佐一(山崎賢人)は、戦死した幼馴染の妻・梅子(高畑充希)の目の病を治すため、北海道の原野で砂金を採っていた。
ある日、山中で出会った後藤(牧田スポーツ)から、アイヌを殺して彼らの埋蔵金を奪った男と、その隠し場所を示す24人の脱獄囚の体に彫られた刺青の話を聞く。
後藤自身が脱獄囚の一人だと知った杉元は、ヒグマに襲われたところをアシㇼパ(山田杏奈)と名乗るアイヌの少女に救われる。
実はアシㇼパの父は殺されたアイヌの一人で、利害関係が一致した二人はバディを組むことになる。
囚人たちが街に潜伏していると睨んだ二人は小樽に向かうが、彼らの行方を追っているのは杉元たちだけでは無かった。
脱獄囚のリーダーで、元新撰組副長・土方歳三(舘ひろし)の一派と、陸軍最強を誇る第七師団の鶴見中尉(玉木宏)が率いる部隊も、それぞれの思惑から埋蔵金を狙っている。
北海道を舞台に、三つ巴の争奪戦が始まろうとしていた・・・・


観るまで仕上がり疑ってて、ごめんなさい。
原作はまさに荒唐無稽を絵に描いたような“ザ・漫画”な作品で、リアリティラインの問題が多く、説得力のある映像にするには相当に困難が付きまとう。
実写化が成功する確率は低いと思っていたのだが、むっちゃ面白かった。
美術からVFXに至るまで、テリングのあらゆる要素に力が入りまくっていて、スクリーンの中に架空の明治時代の北海道という世界が完成している。
近年のアクション漫画の映画化で、成功作と言えるのは同じ山崎賢人主演、黒岩勉脚本の「キングダム」や「るろうに剣心」が思い浮かぶが、古代中国や幕末に比べて、20世紀初頭の北海道ははるかに現在に近い。
一般に、現在と過去が入り混じった時代の再現は難しい。
私は以前仕事で、江戸から明治期のアイヌの風俗をかなり詳しく調べたことがあるのだが、本作の美術チームはアイヌコタンの再現も含めてとてもいい仕事をしている。

この世界の中で躍動する、キャラクターの再現度も凄い。
原作でも一番漫画チックなヴィラン、鶴見中尉はどこからどう見ても鶴見だし、なぜか額が四角い牛山も牛山にしか見えない。
特筆すべきは、これほど漫画そっくりにしているのに、コスプレ感が一切無いということだ。
世界観の妥協無き作り込みゆえ、どのキャラクターも、「ゴールデンカムイ」の世界で生きていると感じられるのだ。
主人公の杉元を演じる山崎賢人は、最初聞いた時は線が細いかなと思ったが、なかなかどうして堂々たる肉体を披露する。
思うに彼の個性は、漫画原作の作品にピッタリなのだだろう。
イケメンで主人公顔だけどニュートラルでクセがなく、どんなに個性的なキャラクターでも受け止めてしまう“主人公の器”としての資質がある。
キャストが発表された時には、散々文句を言われていた山田杏奈のアシㇼパも、蓋を開けてみたらパッと見いくつなんだか分からない年齢不詳の童顔がピタリ。
アシㇼパの味である変顔も、ちゃんと再現されていた。
ちなみのこの作品のアイヌのキャラクターに、アイヌ民族の俳優がキャスティングされるべきか?がSNSで議論になったが、アシㇼパの大叔父の役で出演している秋辺デボは、実際のアイヌの方だ。

物語的には、本作で描かれるのは全31巻ある原作のうち、第3巻の途中(一部4巻の内容を含む)まで。
遠大な話の導入部ゆえに、ある程度の端折りはあるものの、極めて忠実に脚色されている。
その分、構成も連載漫画のスタイルのままで、大きな三幕構造はあるものの、全体としては事件・葛藤・解決の小さな三幕を繰り返すような構造だ。
そのため、ドラマ的なダイナミズムは普通の映画ほど味わえないが、それも作品の指向する連続活劇的ではあるので、決定的な欠点とは言えないだろう。
ある程度「終わった感」のあるところで綺麗に幕を閉じているし、これ単体でも満足度は非常に高い。
ペースがこのまま進むとすれば、完結には10本必要になる計算だが、ここまでで三つ巴の構図が示された後、原作のプロットはどんどん複雑化し、各勢力が入り乱れての戦いが続くので、逆に取捨選択はやりやすくなるだろう。
おそらく大筋は変えないままでも、五部作、いや頑張れば四部作くらいで終わりまで持っていけるのではないかと思う。
唯一心配なのは製作にWOWOWが入っていることで「続きはWOWOWで」となってしまうことだが、これはやはり大スクリーンで観てなんぼな作品ゆえに、それは無いと信じたい。

実際、アクション活劇としてのビジュアルの完成度と迫力は、ある意味原作もテレビアニメーション版も超えている。
俳優の体を張ったアクションも見事なものだが、驚かされたのは動物の表現だ。
私は一応映像技術の人間なので、実写化が発表された時に、一番ネックになるのは大量に出てきて、しかも物語上重要な役割を果たす動物の描写だと考えた。
しかし実際に完成したものを見ると、「もののけ姫」の山犬を思わせる巨大な白狼のレタㇻには、わずかに違和感のある表現が残るも、ヒグマに関してはハリウッド映画にもさして遜色ないレベルに仕上がっている。
このクオリティなら、今後出てくるであろう樺太のクズリとの肉弾戦も大丈夫だろう。
また原作は北海道の食材をふんだんに利用したアイヌ料理の数々も見もので、ある種のグルメ漫画の側面も持っていたが、映画版でもご飯の描写は変わらず大事にされているのも原作ファンとしては嬉しいポイント。
物語的にはまだまだ序盤ではあるものの、現時点では20年代最初のアクション漫画映画化の大成功作と言っていいだろう。
エンドクレジット中と後に2段階オマケありだが、まさかネットミーム化したアシㇼパの“あのセリフ”で落とすとは思わなかったよ(笑

今回は北海道を代表するビール銘柄「サッポロ生ビール 黒ラベル」をチョイス。
1876年に設立された、開拓使麦酒醸造所をルーツに持つ、日本の大手ビールメーカーの中では一番の老舗である。
生ビールらしいコクと爽やかな喉越し、クリーミーな泡の感触を楽しめる、「とりあえず生」の定番中の定番。
冬の時期にはカニや生牡蠣、ウニなどの海の幸との組み合わせが抜群の相性。
ヒンナ、ヒンナ。

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ビヨンド・ユートピア 脱北・・・・・評価額1750円
2024年01月18日 (木) | 編集 |
ただ生きるために、国を捨てる。

金氏独裁王朝が三代続き、世界一巨大な刑務所と化した北朝鮮からの脱北を目指す人々を描く、迫真のドキュメンタリー。
登場人物は、2000年以来千人以上の脱北を支援して来た”地下鉄道“の主催者であるキム・ソンウン牧師と、中国国境からの脱出を目指す五人家族のロ一家、北朝鮮に残して来た息子を呼び寄せようとする脱北者で活動家の母親リ・ソヨン。
さらに過去に脱北した人々が、思いの丈を語る。
監督を務めたのは「ルース・エドガー」などの編集者として知られ、長年の内戦で荒廃したコンゴ民主共和国を変えるべく、前を向く女性たちを描いた「シティ・オブ・ジョイ 世界を変える真実の声」で注目を集めたマドレーヌ・ギャビン。
23年度のサンダンス映画祭で、ドキュメンタリー・コンペティション部門の観客賞を受賞した話題作だ。

全体の軸となるのは、北朝鮮に近い中国国境からタイを目指すロ一家の、移動距離実に1万2千キロに及ぶ長い旅だ。
ロ夫婦と幼い女児二人、それに80歳の祖母の移動に関わるブローカーは50人以上。
北朝鮮の後ろ盾である中国はもちろん、中継地のベトナム、ラオスも共産主義政権で北朝鮮とは関係の深い危険地帯。
タイにたどり着くには、逮捕に怯えながら各地に用意された隠れ家の間を少しずつ移動。
深いジャングルを強行突破する過酷な行程もあり、老人、子供にとっては体力的にも限界に挑まねばならない。
警察だけでなく、脱北者をネギを背負ってくるカモとしか見ないブローカーも信じられない。
若い女性なら人身売買の対象になるが、幸い一家は売り物としては価値がない。
この様な場合、十分なお金を持っていない脱北者の命を繋ぐのが、キム牧師のような地下鉄道の存在だ。
彼らが何万ドルもかかるであろう旅の資金を肩代わりし、ブローカーと交渉することで、ようやく脱出計画が動き出す。
地獄の沙汰も金次第というが、ある種のビジネスとして脱北マーケットが成立しているのである。

明らかな困難が待ち受けているにも関わらず、ロ一家が脱北を決めたのは、過去に妻の兄が脱北したことで当局に目を付けられ、集落を追放されることが決まったから。
追放と言っても、それは極寒の山中に着の身着のまま放り出されることで、生きる術のない事実上の死刑宣告。
彼らは一か八かに賭けて警備の薄くなる時期に鴨緑江をわたり、偶然にも親切な中国の農民に出会ったことで、韓国にいる兄に連絡が取れ、兄がキム牧師の地下鉄道へ助けを求めた。
一部の描写に岩﨑宏俊が手がけたアニメーションが象徴的に使われているが、他は全て実際の行程を記録したもので、観ていて「え?これ写しちゃっていいの?次からヤバくない?」という描写が多数。
まさに事実は小説よりも奇なりで、スパイ映画さながらのスリリングな旅は、瞬く間に時間が過ぎてゆく。

脱北者を救い出す、キム牧師のキャラクターが濃い。
中国東北部で宣教活動をしていた時に、初めて北朝鮮の悲惨な状況を知る。
そして北朝鮮出身の軍人女性と恋に落ち、まずは彼女を脱北させる。
そこから延々と20数年、時には肉体に深刻な傷を負い、家族の悲劇に見舞われながらも、千人以上の脱北者を救い出してきた。
資金源に関しては語られないが、おそらく信者の寄付だろう。
彼の行動のベースには、自らの信仰から来る信念があるのだろうが、信仰の自由の無い北朝鮮では金王朝を神格化するために、聖書のエピソードをパクりまくっている。
嘘がバレないために当然聖書は禁書で、北朝鮮の人々は国外に出て初めて事実を知ってビックリするというのは、なんともアイロニカルだ。

ロ一家の旅と平行に描写されるのが、リ・ソヨンの17歳の息子ハン・ジョンチョンの行方。
ある事情から脱北し、現在は韓国に暮らすソヨンは、絵の才能のある息子を自由な世界へと迎えようと、自らブローカーを雇いジョンチョンの脱北を計画。
ところが幸運に恵まれたロ一家とは対照的に、計画は失敗しジョンチョンは中国から北朝鮮に送還されてしまうのだ。
彼を待ち受ける運命がどれほど過酷なものかは、ソヨン自身が身に染みて知っている。
しかも、どこまで事実かは分からないが、ジョンチョンはただ母親と再会したかっただけで、脱北自体には乗り気でなかったという話が伝わってくる。
良かれと思って計画を進め、息子や北に残る母親を死地に追いやってしまった母ソヨンの、悲しみと後悔の表情が忘れられない。
無事にソウルに辿りつたロ一家の穏やかな笑顔と、あまりにも対照的だ。

本作は、出来ればNetflixにあるアニメーション映画「トゥルーノース」と合わせて観て欲しい。
清水ハン栄治監督が、多くの脱北者からの聞き取り調査した内容をもとに構成された、北朝鮮の政治犯強制収容所の実態を赤裸々に描いた作品だ。
なぜ危険を冒してまで脱北するのか、脱北の背景にあるもの、脱北に失敗した者の辿る運命を、両作品を観ることでよりディープに実感出来るだろう。
本作でも描かれた通り、ロ一家の逃避行の数ヶ月後にはコロナ禍が世界を覆い、北朝鮮が完全に国境を閉ざしたことで脱北者は激減したが、23年に入り再び急増し、昨年9月までに139人が韓国に入った。
驚くべきは、中国が北朝鮮に送還した人々の数で、昨年だけで2600人以上が地獄へと送られたという。
そもそも中国は脱北者を難民として認めず、単なる不法入国者だとしているが、実態を偽っているのは明らかだ。
もちろん、故郷も友人も全てを捨ててまで人々を脱北に駆り立てる、第一義的な責任者は歴代の金氏独裁王朝、現在は金正恩である。
ロ一家の小さな子供が、思い出しただけで涙を流すほどの恐怖による洗脳。
こんなことをする政権に正当性は全く無く、存在が許されていいはずがない。
嘘と暴力で固めた独裁者の権力を維持するためだけに、リアルタイムで進行中の最悪の人権侵害を描く、今観るべき映画だ。
文字通りに身を削って脱北支援する、キム牧師をはじめとした活動家には、ホントに頭が下がる。

ジリジリとした緊張が続く本作には、韓国の代表的なビール銘柄「ハイト プライムドラフト」をチョイス。
喉越し軽い典型的な韓国ビールだが、本作のヘビーすぎる余韻の後には、これくらいライトな味わいが丁度良い。
韓国料理を肴にチビチビやりながら、自由の味をしっかりと噛みしめたい。

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笑いのカイブツ・・・・・評価額1700円
2024年01月14日 (日) | 編集 |
カイブツゆえに居場所がない。

10代の頃からテレビやラジオの番組に大喜利を投稿し「伝説のハガキ職人」と呼ばれた、ツチヤタカユキの自伝的私小説を映画化した作品。
寝ても覚めてもお笑いのことしか考えず、勤務中でも仕事そっちのけでネタを書き続けるので、どこも長続きしない。
やがて憧れの芸人に実力を認められ、上京し構成作家を志すも、極度のコミュ障ゆえにトラブルを起こしまくり。
いわば笑いに取り憑かれた変人を、岡山天音が魂の熱演。
変人ツチヤの数少ない理解者を、菅田将暉、仲野太賀、松本穂香、片岡礼子という実力者たちが演じる。
監督は井筒和幸、中島哲也、西川美和らの作品で助監督を務め、数々のテレビドラマを演出してきた滝本憲吾。
ユニーク過ぎるカイブツを描き、見事な長編劇映画デビューを飾った。

ツチヤタカユキ(岡山天音)は、テレビの大喜利番組への投稿を何年間も続け、ついにレジェンドの称号を獲得。
やがて自作のネタ帳が認められ、大阪のお笑い劇場で作家見習いとなる。
繁華街を根城にするチンピラのピンク(菅田将暉)、ハンバーガー店でバイトするミカコ(松本穂香)ら、ツチヤを応援してくれる友人はできたものの、あまりにもストイックな性格が周囲と軋轢を生み、劇場にいられなくなる。
その後、ラジオ番組へ投稿で「伝説のハガキ職人」として知られる様になり、番組出演者の人気お笑い芸人ベーコンズの西寺(仲野太賀)の知遇を得る。
西寺から「東京へ来ないか?」と誘われたツチヤは、彼のチームで再び構成作家を目指すものの、またしても人付き合いが苦手な性格が邪魔をする。
プロデューサーや先輩作家と衝突したツチヤは、「人間関係不得意」のメッセージを残し関西へUターンしてしまうのだが・・・・・


大喜利(おおぎり)とは、司会者から何かお題を出され、それに対する回答者の返しの面白さを競うお笑いジャンル。
日本テレビの「笑点」が有名だが、ツチヤタカユキは15歳の頃からラジオやテレビの番組への投稿を開始。
本作の劇中でも、彼の作った大喜利の数々が、物語のターニングポイントで効果的に使われている。
やがてツチヤはNHKの「着信御礼!ケータイ大喜利」という生放送番組で、実際に最高位の“レジェンド”となる。
ドコモのiモードの大ヒットによって、携帯でのインターネット利用が普及したことから生まれた番組だが、即興性が必要になるので、面白い返しをするには笑いのセンスだけでなく、頭の回転の速さも問われる。
本作で描かれるツチヤの人生は、投稿番組で有名になり、プロの作家を志すも人間関係で挫折し、また投稿職人に逆戻りの繰り返しだ。

当然、才能はある。
人一倍というか、常人には不可能なレベルで努力もしているから、ネタを書く能力は一流。
なにしろショッピングモールのフードコートに陣取って、キッチンタイマーで時間を測りながら「5秒に1本ネタを書くこと」を、追い出されるまでずーっとやっているのである。
人生を賭けるほどお笑いが好きで、情熱もお湯が沸騰しそうなくらいある。
でも、社会性はゼロに等しく、とことん人間関係不得意なんだな。
この人、言われないと普通に挨拶ができないレベルのコミュ障で、なおかつ作家と演者がいればお笑いは成立すると思っている。
たしかに路上で話芸を披露するレベルではそうかも知れないが、劇場やテレビ、ラジオでのプログラム作りとなると、様々な人が関わるチームプレイ。
自分の考えたネタを使う先輩作家がなぜ必要とされるのか分からず、自分よりも彼の方が重用されるのが理解できない。
ちょっと発達障害の気もあるのかも知れないが、場の空気や他人の気持ちを読むことが苦手。
チームプレイでは、人間関係を円滑に回すため、潤滑剤の役割をする性格の柔らかな人がリーダーシップを取る場合もあることが分からないのだ。

むっちゃ生きづらい人生だろう。
ツチヤほど極端ではないが、私も決して人付き合いが得意な方じゃないから、すごく共感する。
このタイプは、人たらしが羨ましいんだよなぁ。
凡人たちの世間とは違って、お笑いの世界はとんがった才能だけあれば生きていけると信じたのに、実際にインサイダーになってみると、そこは平凡な世間そのものだったというアイロニー。
好きで選んだ道で、自分の能力と情熱だけではどうにもならない残酷な現実に跳ね飛ばされ、飲めない酒に溺れて地べたを這い回る地獄。
大阪の母ちゃん然とした片岡礼子のオカンをはじめ、怪しいチンピラのピンクや、ちょっと恋心を抱いていたらしいミカコ、そしてベーコンズの西寺など、ツチヤを後押ししようとする人たちもいるのに、結局自分の抱える内的な問題が原因で応えられないのがますます辛い。

どちらかというとバイプレイヤーの印象の強い岡山天音が、狂気すら感じさせる笑いのカイブツを怪演。
彼が今まで演じてきた役柄は、独特の風貌も相まってちょっと斜に構えていたり、気が弱くて一歩下がっていたりするキャラクターが多かった。
その延長線上にあって、目に静かな情念の炎を燃やしたエキセントリックな若者は、間違いなく彼の代表作となるだろう。
菅田将暉と松本穂香という上手い演者を、ピンポイントでツチヤの人生に絡ませるのも効果的。
二人のキャラクターは、ツチヤにとっては理解者であるのと同時に、時として追い込んでくる存在でもあり、物語にメリハリを加える。
仲野太賀が演じた西寺に当たるのは、実際にはお笑いコンビのオードリーのツッコミ、若林正恭だったそう。
もっとも、彼を含めてサブキャラクターに関しては、私小説といってもある程度変えたり創作したりしているだろうから、どこまで事実に即しているのかは分からないが。

物語の中でツチヤは何度も挫折する。
しかし、お笑いがダメなら普通の生活に戻れるくらいの人なら初めから苦労しない。
映画のコピーにもなっている「やるだけやって、燃え尽きたらそれまでじゃ」というツチヤの台詞がある。
東京で心が折れ、大阪に戻って吐露する言葉だが、何かのカイブツになるような人には、その何かしか出来ない。
もう無理だ、やめようと思っても、体が拒否する。
一言でお笑いと言っても範囲が広いので、結局全力で走りながら試行錯誤して自分の居場所を見つけるしかないのである。
何者かになりたいけどなれない、そんな想いを抱えた、あるいは抱えていた全ての人々はあまりにも不器用な笑いのカイブツに深く感情移入し、応援したくなるだろう。
スクリーンから目が離せない、パワフルな力作である。

今回は、何気に劇中の重要アイテム、「タカラ 缶チューハイ」をチョイス。
缶入りチューハイの元祖として、今年で40年の歴史をもつ。
フレーバーは色々あるが、すっきりしたレモンは定番中の定番だろう。
まあツチヤみたいに、地べたに這いつくばっては飲みたくはないけど。

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ショートレビュー「コンクリート・ユートピア・・・・・評価額1650円」
2024年01月09日 (火) | 編集 |
あなたならどうする?

未曾有の天変地異に見舞われ瓦礫の山と化したソウルで、ただ一棟倒壊を免れたマンション。
生き残った住人と外部から避難してくる人々のトラブルが多発し、住民たちはマンションを運営する“政府“を組織する。
マンション住人のリーダーとして選ばれたイ・ビョンホン演じるヨンタクは、やがて利己の行動原理で貫かれた、歪な王国を作り上げるのだ。
監督と共同脚本を「隠された時間」のオム・テファが務め、物語の視点となる若い夫婦、ミンソンとミョンファをパク・ソジュンとパク・ボヨンが演じる。

なるほど、これは大人版「漂流教室」だ。
楳図かずおの名作漫画では小学校の校舎が、人類滅亡後の遥か未来へとタイムスリップ。
子どもたちが、様々な困難を乗り越えサバイバルを余儀なくされる。
対してこちらでは真冬のソウルを天変地異が襲い、奇跡的に残った一棟のマンションをのぞいて建物という建物が倒壊してしまい、生き残った人々が寒さを凌ぐためにマンションに助けを求める。
ちなみに天変地異が具体的にどういうものなのか、なぜ起こったのかは劇中で一歳説明がなく、外の世界がどうなっているのかも描写がない。
ただこの場合の天変地異は、文明崩壊後の世界という寓話劇の舞台装置を作るきっかけに過ぎないので、そこはツッコミ無用だ。

突然極限の状態に追い込まれた時、人間はどう行動するのか?
この設定だけ見たら、ヨンタクが恐怖政治を断行してプチ金正恩みたいな方向に行くのかと思いきや、彼はヤバい秘密を持っているものの、あくまでも普通の人。
だんだん調子に乗ってくるものの、どちらかと言えば利己と利他の間で揺れ動く、住民たちの中にある潜在的なダークサイドに乗っかるだけ。
本来ならば大災害の被災者は皆平等に扱われるべきだろうが、本作の場合は一棟だけが無傷で残ったことで、マンションの内と外で格差が生まれる。
限られたリソースをコミュニティ内だけのために使うのか、それとも外の人々と共有するのか。
そして、住民たちは自ら分断を選択する、
ヨンタクは、この構造を強化するだけなのだ。
彼はマンションを「選ばれた場所」で「外の者たちはゴキブリだ」と語り、住民の中に芽生えた選民思想を後押しするのである。

物語の視点はヨンタクではなく、公務員のミンソクと看護師のミョンファの夫婦に置かれている。
優しさを失ってゆく住民たちに戸惑いながらも、保身から流されてしまう夫と、最後まで人間性を保とうとする妻がコントラストを形作るのだが、状況へのスタンスに違いはあるものの、二人とも感情移入キャラクターとして上手く造形されていて、観客はこの二人を通し「あなたならどうする?」と常に問われ続ける構造になっている。
ヨンタクがあるトラブルで家族の信頼を失った後、天変地異で天涯孤独になっていたり、ミンソクがソウル崩壊の時点で目の前の女性を救えず、罪悪感を抱えていたり、キャラクターはなかなか作り込まれている。
住民の中にもヨンタクを熱烈に支持する層がいる反面、外の人々を密かに匿っている人もいたり、決して一枚岩ではない。
危うい均衡の上にあるミニ王国の土台には、いつの間にか無数の亀裂が入っているのだ。

たぶんオム・テファ監督的には、もう少し全体をブラックコメディ寄りにやりたかったのだろうと思う。
テリングのスタイルには、笑いにつなげたいのか、シリアスにやりたいのか迷いが見られるが、現状の生真面目て硬質な仕上がりも決して悪く無い。
複雑な葛藤を抱えたキャラクターを演じるイ・ビョンホンが素晴らしいのは当然だが、ちょい井上真央っぽいミョンファ役パク・ボヨンが強い印象を残す。
尺的にはごく短いものの、文字通りに天地がひっくり返るディザスター描写のVFXも出来がいい。
壊れた街に一棟だけ無事なマンションという文明崩壊後の世界観は、ちょっとNetflixのドラマ「Sweet Home -俺と世界の絶望-」の影響があるのかも知れないが、美術もいい仕事をしている。
エンタメ性とテーマ性が巧みにミックスされ、映像テクノロジーと見事に結びついた良作だ。

今回は「キングダム・カム」をチョイス。
ドライ・ジン 20ml、ドライ・ベルモット 45ml、グレープフルーツ・ジュース 15ml、ホワイト・ペパーミント・リキュール 1tspをシェイクし、氷を入れたオールドファッショングラスに注ぐ。
スッキリとしたドライな味わいで、飲みやすい。
ちなみにこの場合の「キングダム」は神の王国のことで、「キングダム・カム」は終末の到来、あるいはあの世のこと。
天国行きか、地獄行きかは現世での行い次第。

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ショートレビュー「Winter boy・・・・・評価額1600円」
2024年01月05日 (金) | 編集 |
父の残像がくれたもの。

瑞々しい映画だ。
ある年の冬、突然の交通事故で父を亡くした17歳の少年リュカの物語。
「愛のあしあと」のクリストフ・オノレ監督の半自伝的な物語だそうで、彼自身も父親の役で出演している。
実際の父親は映画よりももう少し早く、彼が15歳の時に亡くなったそうだ。
主人公のリュカをポール・キルシェ、パリに住む兄のカンタンをバンサン・ラコスト、母イザベルをジュリエット・ビノシュ、キーパーソンとなるリリオをエルバン・ケポア・ファレが演じる。

本作をごく端的に言えば、未熟な少年が初めての喪失の衝撃の大きさに戸惑い、色々はっちゃけてみたものの逆効果で、一度は完全に壊れるも、やがて愛によって人生を取り戻す話だ。
父はうだつの上らない田舎の歯科技工士で、彼自身も自分の人生に対しても少なくとも成功者とは思っていない。
突然、車線を外れて対向車と衝突したのも、実は自殺だったのではとリュカは疑っている。
しかし、そんな平凡極まりない父がいなくなってしまうと、リュカの心の真ん中にポッカリと穴が空いてしまうのだ。
まだ何者でもないティーンの少年は、生前はただ空気のようにそこにいた父が、自分にとっていかに重要な存在だったかを、失って初めて知るのである。

人間は学んでゆく動物なので、経験したことのない状況に陥ると、どう行動していいのか分からなくなってしまう。
穴を埋めるために、リュカは色々な方法で足掻く
同性愛者なので、とりあえず幼馴染のセックスフレンドと寝てみるが、愛がないので肉体の快感に溺れても心は満たされない。
パリに暮らす芸術家の兄カンタンの家を訪ねて、気分転換に観光してみるが、何も変わらない。
カンタンのルームメイトのリリオが同性愛者だと知ると、ちょっかいを出してみるも親友の弟だからと相手にされない。
喪失の悲しみはリュカを引き摺り込もうとするが、彼は自らの感情がどういったものなのか理解することが出来ず、向き合い方も分からないのだ。
とりあえず色々試してみるのだが、それは地図を持たずに冬の嵐をゆく様なもの。

人生初の未体験の感情は、リュカの日常を破壊し、17年の人生を過去へと追いやる。
ついに臨界点を超えたリュカは自傷行為をして病院に入院させられ、一切言葉を話さなくなる。
しかし冬の凍てつく日々が永遠ではないように、彼にとって入院生活はある意味春を迎えるための冬眠のように作用する。
それまでとは異なる環境で、リュカは喪失の悲しみという説明のできない感情に徐々に向き合う。
そして彼は自分にとって父とは何者だったのか、家族や友人の存在する意味と、肉欲ではない本当の愛を知る。
四人の主要キャラクターを演じたキャストが皆素晴らしい。
特にリュカ役ポール・キルシェは、言語化できない、どこにも持っていきようのない未知の感情に溺れそうになる若者を味わい深く演じた。
ビノシュとラコスト、そしてファレは、異なる立場でリュカを見守り、なんとか大人の階段を自然に上らせるよう導く役で、それぞれ抑制された演技で魅せる。
じんわりと余韻が広がる、いい作品だった。

青春の痛みと成長を描いた作品には軽やかなシャンパン、モエ・エ・シャンドンの定番「アンペリアル」をチョイス。
軽やかな口当たりの辛口の一杯で、フルーティーな香りときめ細かな泡が作り出す爽やかな喉越しが印象的。
食前酒としても食中酒としても、バランスのいい一本だ。

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