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2017年05月18日 (木) | 編集 |
ふたたび、海からはじまる。
心に染み入る、極上のヒューマンドラマ。
古都ボストンから北東へ30マイル。
マサチューセッツ湾を望むマンチェスター・バイ・ザ・シーは、風光明媚な港町だ。
兄ジョーの急死をきっかけに、この街に戻って来た弟のリーと、彼が後見人を務めることになる16歳の甥っ子パトリックの関係を軸に、大きな葛藤を抱えた人々の人生模様が描かれる。
なぜリーは美しい故郷を捨て、一人ボストンに出て便利屋をやっていたのか。
彼の名前を聞いた時に、街の人たちが腫れ物に触るように接するのはなぜか。
人の心に潜むミステリー。
故郷での日々は、リーの心に封印されていた記憶を、ランダムに差し挟まれる回想の形で少しずつ紐解いてゆく。
やがて見えて来る、数年前に起こった大きな悲劇。
妻と三人の子供に恵まれたリーの幸せな日々は、たった一度の過ちによって、彼の人生から永遠に奪い去られてしまったのである。
人は生きてゆく中で、色々大切なものを失うが、いつかは乗り越えてゆく。
喪失と再生はある意味で物語の永遠のテーマであり、今年だけでも「雨の日は会えない、晴れの日は君を想う」や「レゴバットマン ザ・ムービー」あるいは「メッセージ」など、ジャンル横断的に数々の作品が取り上げている。
だが、本作のリーの支払った代償、喪失の度合は大きすぎるのだ。
青春真っ只中のパトリックの場合、父の死は哀しみではあるものの、バンド活動やホッケーや二人の彼女とのちょっとゲスな関係など、楽しいこととのバランスの中で克服しようとしている。
しかしリーの場合は、今現在の問題に向き合うことで、悲劇の記憶と同時に悔恨と懊悩たる思いをも呼び起こしてしまうのである。
あまりに大きなものを失った時、人の心は完全に壊れてしまうこともある。
この物語は、そんな脆い人間にそっと寄り添う。
故郷で兄の喪の仕事をする中で、ずっと避けてきた人々と邂逅し、言葉を交わすことで解けてゆくわだかまりもあれば、逆に自分の中でますます強固になる後悔もある。
全てを無くしてしまった街から、一刻も早く逃れたいリーと、生まれてから人生の全てがこの街にあり、是が非でも残りたいパトリックの、未来を巡るせめぎ合いは、一歩前進しては二歩戻るの繰り返しだが、それでも二人は無意識に家族として支え合う。
物語には、ドラマチックな盛り上げも、意外性も無い。
ただ常に疼く心の傷に抗い、僅かでも前を向こうとして、何度も打ちのめされる人間がいるだけだ。
一度失った人生は、決して元には戻らない。
そのことを否定しない、この映画の厳しさと優しさが、私はとても好きだ。
ケネス・ロナーガン監督は、ケイシー・アフレックという素晴らしい演者をえて、至高のドラマを作り上げた。
本作の隠し味は地域性だろう。
マサチューセッツは非常に歴史の古い土地で、文化的風土は言わばアメリカの京都。
プロデューサーを務めたマット・デイモンと主演のケイシー・アフレックは、兄のベンを含めて地元民で、好んで故郷を舞台として映画を作るいわば“ボストン派”。
今回もエセックスの美しい風景と、都会過ぎず田舎過ぎない絶妙な距離感のコミュニティの存在が、ドラマの味わい深い背景となっている。
冬の厳しいマサチューセッツの、曇天のロケーションが、主人公の心象としても機能しており、兄の残したクラッシックな船などの、細部の描写も象徴性が高い。
凍てつく季節もやがて暖かな春になるように、人生の冬も永遠とは限らない。
冒頭とループする船の上でに魚釣りは、仄かな希望のサインだと信じたいものだ。
今回はマサチューセッツを代表する地ビール銘柄、サミュエル・アダムスから、ビールではなく「アングリー・オーチャード・ハード・サイダー」をチョイス。
酸味と甘みのバランスが絶妙な、白ワインを思わせるフルーティ&フレッシュなハード・サイダー。
元々この地に入植した初期の移民たちは、飲み水の衛生上の問題で林檎の醸造酒を日常的に飲んでいたという。
これもまた、この地の歴史に根ざした文化なのだ。
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心に染み入る、極上のヒューマンドラマ。
古都ボストンから北東へ30マイル。
マサチューセッツ湾を望むマンチェスター・バイ・ザ・シーは、風光明媚な港町だ。
兄ジョーの急死をきっかけに、この街に戻って来た弟のリーと、彼が後見人を務めることになる16歳の甥っ子パトリックの関係を軸に、大きな葛藤を抱えた人々の人生模様が描かれる。
なぜリーは美しい故郷を捨て、一人ボストンに出て便利屋をやっていたのか。
彼の名前を聞いた時に、街の人たちが腫れ物に触るように接するのはなぜか。
人の心に潜むミステリー。
故郷での日々は、リーの心に封印されていた記憶を、ランダムに差し挟まれる回想の形で少しずつ紐解いてゆく。
やがて見えて来る、数年前に起こった大きな悲劇。
妻と三人の子供に恵まれたリーの幸せな日々は、たった一度の過ちによって、彼の人生から永遠に奪い去られてしまったのである。
人は生きてゆく中で、色々大切なものを失うが、いつかは乗り越えてゆく。
喪失と再生はある意味で物語の永遠のテーマであり、今年だけでも「雨の日は会えない、晴れの日は君を想う」や「レゴバットマン ザ・ムービー」あるいは「メッセージ」など、ジャンル横断的に数々の作品が取り上げている。
だが、本作のリーの支払った代償、喪失の度合は大きすぎるのだ。
青春真っ只中のパトリックの場合、父の死は哀しみではあるものの、バンド活動やホッケーや二人の彼女とのちょっとゲスな関係など、楽しいこととのバランスの中で克服しようとしている。
しかしリーの場合は、今現在の問題に向き合うことで、悲劇の記憶と同時に悔恨と懊悩たる思いをも呼び起こしてしまうのである。
あまりに大きなものを失った時、人の心は完全に壊れてしまうこともある。
この物語は、そんな脆い人間にそっと寄り添う。
故郷で兄の喪の仕事をする中で、ずっと避けてきた人々と邂逅し、言葉を交わすことで解けてゆくわだかまりもあれば、逆に自分の中でますます強固になる後悔もある。
全てを無くしてしまった街から、一刻も早く逃れたいリーと、生まれてから人生の全てがこの街にあり、是が非でも残りたいパトリックの、未来を巡るせめぎ合いは、一歩前進しては二歩戻るの繰り返しだが、それでも二人は無意識に家族として支え合う。
物語には、ドラマチックな盛り上げも、意外性も無い。
ただ常に疼く心の傷に抗い、僅かでも前を向こうとして、何度も打ちのめされる人間がいるだけだ。
一度失った人生は、決して元には戻らない。
そのことを否定しない、この映画の厳しさと優しさが、私はとても好きだ。
ケネス・ロナーガン監督は、ケイシー・アフレックという素晴らしい演者をえて、至高のドラマを作り上げた。
本作の隠し味は地域性だろう。
マサチューセッツは非常に歴史の古い土地で、文化的風土は言わばアメリカの京都。
プロデューサーを務めたマット・デイモンと主演のケイシー・アフレックは、兄のベンを含めて地元民で、好んで故郷を舞台として映画を作るいわば“ボストン派”。
今回もエセックスの美しい風景と、都会過ぎず田舎過ぎない絶妙な距離感のコミュニティの存在が、ドラマの味わい深い背景となっている。
冬の厳しいマサチューセッツの、曇天のロケーションが、主人公の心象としても機能しており、兄の残したクラッシックな船などの、細部の描写も象徴性が高い。
凍てつく季節もやがて暖かな春になるように、人生の冬も永遠とは限らない。
冒頭とループする船の上でに魚釣りは、仄かな希望のサインだと信じたいものだ。
今回はマサチューセッツを代表する地ビール銘柄、サミュエル・アダムスから、ビールではなく「アングリー・オーチャード・ハード・サイダー」をチョイス。
酸味と甘みのバランスが絶妙な、白ワインを思わせるフルーティ&フレッシュなハード・サイダー。
元々この地に入植した初期の移民たちは、飲み水の衛生上の問題で林檎の醸造酒を日常的に飲んでいたという。
これもまた、この地の歴史に根ざした文化なのだ。

![]() 【アメリカビール】サミエルアダムスアングリー・オーチャード・ハード・サイダー 355ml |
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この記事へのコメント
こんにちは。
正に正に!おっしゃっているように、
>一度失った人生は、決して元には戻らない。
そのことを否定しない、この映画の厳しさと優しさが、私はとても好きだ。
「厳しさと優しさ」なのですよね。わずかな再生の物語ではあるかもしれないけれど、完全には再生することはできないし、それはもう二度と不可能なことなのかもしれない、ということを表しているのが、それも決して絶望的にではなく表しているのが、誠実な作りの作品だと思いました。
正に正に!おっしゃっているように、
>一度失った人生は、決して元には戻らない。
そのことを否定しない、この映画の厳しさと優しさが、私はとても好きだ。
「厳しさと優しさ」なのですよね。わずかな再生の物語ではあるかもしれないけれど、完全には再生することはできないし、それはもう二度と不可能なことなのかもしれない、ということを表しているのが、それも決して絶望的にではなく表しているのが、誠実な作りの作品だと思いました。
>ここなつさん
映画では絶望より希望を描きたいから、どうしても何かを乗り越えることを是としがちですけど、それは無理ってケースだってあるはずですよね。
本作はあえて乗り越えないことを描いたのは印象的でした。
乗り越えられないことは厳しい現実だけど、それは決して絶望ではないんだよと、優しく語りかけるような作品でした。
映画では絶望より希望を描きたいから、どうしても何かを乗り越えることを是としがちですけど、それは無理ってケースだってあるはずですよね。
本作はあえて乗り越えないことを描いたのは印象的でした。
乗り越えられないことは厳しい現実だけど、それは決して絶望ではないんだよと、優しく語りかけるような作品でした。
見逃す寸前に観て来ました!
凍り付いた心を思わせる街の風景や音楽(とくにアルビノーニのアダージォ)が心に沁みました。
一貫して重荷を背負った表情のケイシー・アフレックの演技にアカデミー主演男優賞受賞も納得です。
凍り付いた心を思わせる街の風景や音楽(とくにアルビノーニのアダージォ)が心に沁みました。
一貫して重荷を背負った表情のケイシー・アフレックの演技にアカデミー主演男優賞受賞も納得です。
2017/07/06(木) 08:48:33 | URL | karinn #NCwpgG6A[ 編集]
>karinnさん
これは心にしみる物語ですよね。
パトリックみたいにイケイケの青春時代には分からなくても、人生の酸いも甘いも噛み分けられるようになると、リーの心情にはどっぷり感情移入できちゃう。
ケイシー・アフレックは本当に素晴らしかったです。
これは心にしみる物語ですよね。
パトリックみたいにイケイケの青春時代には分からなくても、人生の酸いも甘いも噛み分けられるようになると、リーの心情にはどっぷり感情移入できちゃう。
ケイシー・アフレックは本当に素晴らしかったです。
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ボストン郊外で便利屋をしている男リー・チャンドラーの元に、兄ジョーが倒れたという知らせが入る。 故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーへ戻ると既に兄は死亡しており、リーは一人になった16歳の甥パトリックの後見人に指名されていた。 パトリックは父の家で暮らすことを望むが、過去の悲劇から立ち直れないでいるリーは、パトリックをボストンへ連れていくつもりだった…。 ≪心も涙も、美しかった思い出も。 すべ...
2017/05/20(土) 08:35:18 | 象のロケット
ありきたりな表現が許されるなら、傑作である。ただただ、傑作である。ネタバレ含みますので未見の方はご注意下さい。マンチェスター・バイ・ザ・シーの穏やかな海の風景。ヨットで海に出て釣りをする家族の描写。父と子と、子の叔父と。冬の過酷な寒さのボストンの「今」の風景と交差して展開される。父はジョー(カイル・チャンドラー)、息子はパトリック、叔父はリー(ケイシー・アフレック)。ヨットの光景はパトリック...
2017/05/20(土) 14:06:49 | ここなつ映画レビュー
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2017/05/20(土) 17:49:29 | パピとママ映画のblog
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5月16日(火) シネ・リーブル神戸 スクリーン3にて 12:50の回を鑑賞。
2017/05/21(日) 11:45:48 | みはいる・BのB
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リ...
2017/05/24(水) 18:24:46 | 心のままに映画の風景
アカデミーで、主演男優賞、脚本賞の2冠。
確かに主演のケイシー・アフレック、いつもいいが今回は更に存在感バツグン。
そして脚本も劇シブい。
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日記:2017年5月某日 映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を見る. 2016年.監督:ケネス・ロナーガン. 出演:ケイシー・アフレック(リー・チャンドラー),ミシェル・ウィリアムズ(ランディ),
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2017/06/06(火) 16:01:45 | 風に吹かれて
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2017/06/12(月) 22:31:32 | 大江戸時夫の東京温度
叔父と甥の会話(言い合い)が、なかなか笑える。ユーモアがあっていい。
2017/07/07(金) 07:16:44 | 或る日の出来事
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