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夜明け告げるルーのうた・・・・・評価額1700円
2017年05月22日 (月) | 編集 |
夜明け告げるうたは、少年に何をもたらしたのか。

先日、13年ぶりとなる劇場用長編「夜は短し歩けよ乙女」が公開されたばかりの、湯浅政明監督による、完全オリジナルの長編アニメーション。
年に二度もこの人の映画が公開されるだけでも驚きだが、「夜」の次が「夜明け」とは、なにか狙って作っている?
心を閉ざした少年と、人魚の少女との一夏の出会いと別れを描く。
共同脚本に「聲の形」の吉田玲子、キャラクターデザインに漫画家のねむようこ、音楽は「思い出のマーニー」の村松崇継と、スタッフも実力者揃い。
ポップな音楽に乗って、躍動感あふれるパワフルなアニメーションが疾走する!
※ラストと核心部分に触れています。

そびえ立つ巨大な岩によって太陽が遮られた港町、日無町(ひなしちょう)。
人魚伝説のあるこの街に暮らす、無気力な中学生男子・カイ(下田翔大)は、東京で生まれ育ったが、両親の離婚によって父の実家があるこの街に越してきた。
鬱屈した想いを抱えたカイは、学校生活にも馴染めず、唯一の趣味は打ち込みで作った曲をネットにアップすること。
ある時、カイの曲を聴いた同級生の遊歩(寿美菜子)と国夫(斉藤壮馬)から自分たちのバンド、“セイレーン”にはいらないかと誘われ、渋々ながら参加することになる。
岩の向こうにある無人の人魚島で練習していると、音楽好きの人魚の女の子・ルー(谷音花)が現れ、三人と友だちになりたいと言う。
天真爛漫なルーと過ごすうちに、少しずつ明るくなってゆくカイ。
だが日無町には、人魚は災いをもたらすという言い伝えがあった・・・・


テレビを含めた今までの湯浅作品が、変幻自在な変化球だとすれば、これはどストレート
冒頭に“貝の砂抜き”のエピソードがあるのだが、主人公のカイは名前の通り、貝のように心を閉ざし全てに後ろ向きな少年だ。
両親の離婚やUターン家庭に対する街の人の冷たい目、そして何よりも“別れ”への恐怖から、人とコミュニケーションして仲良くなることを諦めてしまっているのである。
そんなネガティブな中学生男子が、ルーや仲間たちとの冒険を通して少しずつ殻を開き、自分の人生を自分で切り開いてゆく王道の成長ストーリー
人魚伝説ベースのプロットは、比較的シンプルだ。
「E.T.」や「となりのトトロ」に代表される、人間の少年少女と超常の世界から来た異種の交流を描くファンタジーの典型的な話型で、人魚は災いをもたらすという古い言い伝えに踊らされた大人たちが、同調圧力をもってルーを排斥しようとするのもお約束。
とは言っても、登場人物の行動原理などはかなりエキセントリックで、この作家独特のリアリティラインを知らないと、しばし置いていかれそうになる。

まあ元々「クレしん」の人だと思えば、驚きはないだろうが。

しかし、話はオーソドックスだが、テリングは例によって唯一無二の独創のスタイル
独特のパース感覚で切り取られる、本作の世界観は極めて魅力的だ。
建物の一階は海に突き出した船のガレージで、二階に住居スペースがある変わった建物のモデルは、丹後半島の東にある伊根町の舟屋だろうか。
外洋と街の間に立つ巨大な岩の風景は、何となく山形の山寺を思わせ、アニメーション作品ならではの、リアリティを保ちながらも非日常感あふれる舞台が構築されている。
このどこか懐かしくもファンタジックな世界で、リズミカルな音楽に乗って動き続ける色と形の洪水は、まさに未見性のカタマリだ。
フラッシュの技法で制作された長編アニメーションは、ヨーロッパで作られた「TOUT EN HAUT DU MONDE(LONG WAY NORTH)」など他にもあるが、“流体”を描く本作とモーフィング機能のあるフラッシュとのマッチングの良さは予想以上で、より洗練された高度なアニメーション表現が楽しめる。

それにしても、昨年あたりから日本のアニメーション映画には、明らかに新しい波が来ているのではないかと思う。
スタジオジブリという国民的ブランドが消えて4年。
(また復活するみたいだが)巨人・宮崎駿の影に隠されていた(隠れていた、ではない)、アニメーション作家たちに、光が当たるようになったのは確かだろう。
去年旋風を巻き起こした「君の名は。」「聲の形」「この世界の片隅に」の三作は、それぞれに実験的なまでの強烈な作家性を持ち、テリングのスタイルは極めて独自性が高い。
しかもどの作品も、日本のアニメの保守本流からは離れた文脈で作られ、観客にもそのように受け取られたからこそ、大ヒットに繋がった。
これらはテレビにルーツを持つ“アニメ”ではなく、“アニメーション”なのである。
表現の自由さという意味では、最も実験アニメーションに近い、湯浅政明がここへ来て二本も撮ったということも、ようやく時代がアニメーションの多様性に目を向けたということなのかもしれない。

もっとも、新海誠が作家性を保ったまま大衆性を獲得した様に、おそらくはターゲットであるティーンの観客を意識した、本作の意外なまでのストレートさは、作家にとっては大きな変化だと思う。
それはストーリーの分かりやすさだけでなく、今までの湯浅作品ではあまり前面に出てこなかった、オマージュがにじみ出ていることにも感じられる。
本作は人魚という題材や絵面からも、「崖の上のポニョ」を連想させるが、ルーのパパのキャラクターなどは「トトロ」の大トトロ、あるいは「パンダコパンダ」のパパンダっぽい。
街が水没する終盤の展開も、視覚的イメージだけでなく、地上の生の世界に対し人魚の暮らす海の世界が常世であり、水没が再び生まれるための胎内回帰であるという、意味的な部分も符合する。
しかし、全てが無邪気に丸く収まる「ポニョ」に対して、本作では夜明けと共に現世と常世は太陽によって別たれ、二度と交わることはないのである。
少年の成長と共に変わってゆく世界と、変わらない想い。

「子ども映画」に対する「青春映画」として、相応しい決着のつけ方を含め、結構意識してると思うので、比較して観ても面白いと思う。

キャラクターでは猫派のジブリに対して、こちらでは犬ちゃんたちが大活躍。
人魚に噛まれると人魚になり、太陽に当たると燃えてしまうという、吸血鬼みたいな設定も物語の展開にうまく生かされていた。

今回は、ルーの不思議な髪の毛のようなグリーンのカクテル、「マーメイド」をチョイス。
メロン・リキュール20ml、ティフィン・ティー・リキュール10m、生クリーム30mlをシェイクし、氷を入れたシャンパングラスに注ぎ、最後にマラスキーノ・チェリーを添える。
かなり甘口で、生クリームが全体を優しくまとめている。
夏の夜に、海を見ながら飲みたい一杯だ。

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寂れた漁港の町・日無町(ひなしちょう)で、父と日傘職人の祖父と3人で暮らしている中学生の少年カイ。 ある日、クラスメイトの少年・国男と少女・遊歩から彼らのバンド「セイレーン」に入らないかと誘われたカイは、練習場所の人魚島で人魚の少女ルーと出会う。 ルーは楽しそうに歌い、無邪気に踊るのだった。 しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらす存在として恐れられていた…。 ファンタジーアニメ。
2017/05/25(木) 20:57:25 | 象のロケット
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2017/05/28(日) 21:23:47 | とりあえず、コメントです
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