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ショートレビュー「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ・・・・・評価額1650円」
2017年05月26日 (金) | 編集 |
そのオッサン、スーパーヒーロー。

1975年に放送された日本のTVアニメ、「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしたガブリエーレ・マイネッティ監督による、ユニークなイタリア製ヒーロー映画。

ひょんなことから、超常の力を手にした街のチンピラのエンツォが、クスリの取引の失敗で兄貴分を殺され、図らずも精神疾患のある彼の娘、アレッシアの世話をする羽目に。
彼女は「鋼鉄ジーグ」の熱烈なファンで、現実世界とアニメの世界を混同してる。
嫌々ながらも自分を助けてくれるエンツォを、妄想の中でアニメの主人公の司馬宙と同一視する様になるのだ。
そして、すっかり人生を諦めていた自己中なダメ男も、次第にアレッシアのことを愛する様になり、初めて誰かのために行動する喜びを知る。

ヒーローが行動する根源の原理は、いつだって"愛"だ。

全編に渡って、オリジナルのアニメへのリスペクトがにじみ出る。
イタリアでは1979年に放送され、絶大な人気を博したそうだが、リアルタイムで観ていた世代としては、スクリーンにドーンと日本語のタイトルが映し出される瞬間に、思わず胸アツ。
「鋼鉄ジーグ」は、サイボーグ化され、巨大ロボット鋼鉄ジーグと合体する青年・司馬宙と、現代に蘇った超古代国家・邪魔大王国との戦いを描いたSFアクションだ。
家族思いの宙は、知らないうちに実の父によって、自分がサイボーグ化されていたことにショックを受け、戦う理由に葛藤を抱えるも、次第に自らに課せられた使命を受け入れてゆく。
このヒーロー誕生のプロセスが、本作では愛を知らない孤独なチンピラが、アレッシアを守るために、善なる行動に目覚めてゆく過程に置き換えられている。

主人公がマッチョでもイケメンでもなく、見た目全然強そうに見えないメタボなオッサンで、登場人物全員が人生どん底の負け組なのがいい。
超人になったからといって、いきなり生活を変えるわけでもない。
何しろこの男、力を手に入れて最初にやったことがATM泥棒である。
食べるものはパック入りの安物のヨーグルトだけの偏食で、趣味はDVDでポルノ鑑賞というダメっぷり。
そんな男の心が、アレッシアとの出会いによって少しずつ変化してゆき、アニメのヒーローという虚構が、徐々にリアルな世界に引き寄せられるプロセスは説得力十分だ。
この二人の関係はアニメの宙と妹のまゆみにも似ているが、私はなんとなくフェデリコ・フェリーニの傑作「道」を思い出した。
粗野で暴力的な旅芸人・ザンパノと、頭は弱いが心優しいジェルソミーナの物語。
もしかするとマイネッティ監督は、日本のアニメにリスペクトを捧つつ、同じ国の大先輩への密かなオマージュを仕込んだのかも知れない。

ナポリのカモッラとローマの下っ端組織の抗争を絡めて、ヒーローと同根のヴィラン誕生を描くサブプロットも良く出来ていて、エンツォの宿敵となるジンガロのキャラクターも魅力的だ。
悪事のファーストプライオリティが、ネットで目立つことというアホらしさ。
とにかく悪いことして目立ちたい!というはっちゃけ具合は、知能を大幅に下げたプチジョーカーという感じだ。
本作の基本構造はほぼギャング映画のそれなのだが、ヒーローとヴィラン、それぞれのキャラクターが役割に目覚めると、しっかりとヒーローものとしてあるべき所に着地する。
全盛期を迎えているハリウッド製のアメコミヒーロー映画と比べたら、予算もスケールも小さな作品だが、本作にあって超大作が描かないもの、それはドラマの出発点としての、底辺に生きる人々の悲哀とリアリティ
手編みのマスクを被ったエンツォ改め鋼鉄ジーグは、スーパーマンの様な高潔さも、アイアンマンの様な権力も持っていないが、だからこそリアルなオッサンのカッコよさに痺れる。
主人公自ら歌う、「鋼鉄ジーグ」のイタリア語版バラード曲は泣ける仕上がり。

アメコミ超大作へのアンチテーゼと考えると、ある意味で「スプリット」と対になるような話になっていて、両方観るとかなり面白いと思う。

しかしこの良い意味でアンバランスで奇怪な映画が、イタリアのアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で、最多16部門にノミネートされ、演技賞4部門を独占した他、新人監督賞など最多7部門を受賞したそうな。
これって日本アカデミー賞で、「シン・ゴジラ」が作品賞とったのと同じくらい凄いことじゃないのだろうか。

今回は口当たりのいいイタリアのビール「モレッティ」をチョイス。
1859年に創業したイタリア最古のビールメーカー。
広く飲まれている大衆の酒らしく、クセがなくてどんな料理にも合う。
苦味が弱くフルーティかつライトで、とても飲みやすい。
ラベルのダンディなおじさまは、1942年に当時の社長がブランドイメージにぴったりだと見つけてきた人物で、以来銘柄の顔となっている。

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コメント
この記事へのコメント
こんにちは
この作品、底辺ヒーロー、ダークヒーローものとしては出色でした。
ジンガロについて、
>知能を大幅に下げたプチジョーカー
とは、言い得て笑えました。でも、彼の幼稚な目的はブレルことがなかったので、そこが素晴らしい!
理由なんてどんなバカバカしいものでもいいの。悪を貫くのには。ヒーローたる理由も同様ですが。
2017/05/30(火) 13:15:22 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
まあ知能は低いものの、突き抜け具合はジョーカーにも負けないものでした。
やはりヴィランが魅力的でないとヒーローは輝けませんもんね。
これはある意味ビギニングなんで、続編を期待しちゃいます。
2017/06/03(土) 23:10:38 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
観ていないですが、善と悪との違いは、知能ではなく、思想上の属性ではないですか。だから、高度な知能を持つ事が、必ずしも、まともな大人の条件とは限らず、ロクデナシもいると。知能や知識は、後から学ぶことができるが、素質は曲げられんでしょう。

地球上のあらゆる国家が、血道をあげて優秀な人材を育て、送りだそうとするも、主人公となれるのはごく一握り。それが、阿呆な指導者を選ぶこともあるのだから、英雄とは、常に最前線に居て、活躍できる事が求められ、最前線に居られるのは、この複雑でボーダーレスの時代にあって、運としか言いようがないでしょう。一生、闇に生きる日陰の英雄もいると。

あと、エンターテイメント好きは低知能だと思いますよ。
2017/06/05(月) 17:40:36 | URL | 隆 #x/aBQqzQ[ 編集]
こんばんは
>隆さん
ちょっと何を仰っているのか理解できません。
そういう内容の映画ではありません。
2017/06/06(火) 00:27:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
全然、理解不能という事もないのではないですか。

善悪対決のヒーローものには関心がありますが、これは、グレーゾーンから出たヒーローであり、それを一般人と呼び、おっさんから出たヒーロー、という事なのでしょう。

こうしたグレーゾーンのヒーローは最近多いと思いますね。これも、マーベルという伝統ブランド外の作品の新たなトレンド、というやつでしょうかね。韓流でなくて良かった。
2017/06/06(火) 19:45:08 | URL | 隆 #x/aBQqzQ[ 編集]
こんばんは
>隆さん
ごめんなさい、やはり仰る意味が分かりません。
今時のヒーローものはDCやマーベルも含めて、単純な勧善懲悪は殆どありません。全部グレーです。
韓流でなくて良かったというのも、どういう文脈で出てきた言葉か分かりかねます。
差別的な意味でしたら、これ以上の書き込みはご遠慮ください。
2017/06/06(火) 22:12:18 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
韓流への批判は当てつけです。失礼しました。

マーベルのヒロイズムは、もっと強くあって欲しいと僕は思います。喧嘩が強いとかバカヤローでも、市民権を得られるのが、戦いの世界だと思います。だから、市民出身のグレーなヒーローは、何の為に、今ある平穏な生活を投げ出すようなギャンブルをするのか理解できないのです。

ヒーローになりたくない男がヒーローになる、というのは、笑いを招く皮肉だと思います。ヒーローだから、全てを手に入れているわけではない、その証拠に彼は普通の市民だった、という、ヒロイズムを勧めているのか、皮肉っているのかが分からないのです。合理主義よりも、リアリズムは幻滅をもたらす、というところですね。

あいや、長々と失礼しました。
2017/06/07(水) 17:05:38 | URL | 隆 #x/aBQqzQ[ 編集]
こんばんは
>隆さん
今の世界では喧嘩の強い馬鹿野郎は受け入れられません。
善悪二元論の時代は20世紀で終わりました。
今の世界の人類は世界はもっと複雑だと知っています。
スーパーマンやソーの様な宇宙人ですら、心に傷と葛藤を抱えています。
だから全てのヒーローはグレーで、それぞれに葛藤の要因は違えど、ヒーローであることに悩み、やがてそれぞれの戦いの意味を見出していき、そこに見応えあるドラマが生まれます。
戦うために戦う男性原理主義的な単純なヒーローは、もはや今の世に居場所はないのです。
2017/06/07(水) 18:12:24 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
ノラネコさん

面白いですね。20世紀は狂気の時代でしょう。共産主義は、パージのあったアメリカ然り国内にて成熟させるのであれば、権力に穏健である事を強いて圧力団体になる分だけで、危険思想では無いと思います。敵だと思っていただけ、という事と、国境を分けて対立すれば、如何なる思想も敵対になり得る、という事でしょう。だから、共産主義も自由主義も若かったのでしょう。

だから、国境を無くす事から、僕はグローバリズム支持なんです。少数派が生む文化も、資本主義と結託し、上手く行けば自立出来る。国家への依存は減らすべきだと思います。

いい加減ブログの筋から逸れるのでこれくらいにしておきます。地元ではやっていない映画ですので、レンタルで必ず観ます。
2017/06/07(水) 22:32:57 | URL | 隆 #fW5SIV52[ 編集]
ツイッターで
「皆に愛されたかった屑と一人に愛されたかった屑の話」というツイートが回ってきて、なるほどと思いました。
2017/06/11(日) 10:07:22 | URL | ふじき78 #rOBHfPzg[ 編集]
こんばんは
>ふじき78さん
なるほど、上手い!
クズたちの話だから、アメリカ映画にはない悲哀があるんでしょうねえ。ヒーロー映画というよりも、犯罪映画の作りに近いし。
2017/06/14(水) 22:35:24 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
観ました。確かにノラネコさんの言われるように、大きな物語ではなく、等身大の人間の物語でした。

結局、屑としての気質があったとしても、愛によって変わったヒーローではないでしょうかね。テロという極限状態に置かれた事によって、目覚めました。愛もまた、心をむき出しにされるという意味で、極限状態であり、それゆえに、エンツォは徐々に変わって行ったのだと思いました。
2018/03/05(月) 18:15:33 | URL | 隆 #S5/bRNrc[ 編集]
こんばんは
>隆さん
ん?以前もコメントいただいてますよね?
愛は感情で、テロは状況です。
二つ合わさって彼は変わったのだと思います。
2018/03/05(月) 22:55:20 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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