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ショートレビュー「光・・・・・評価額1650円」
2017年06月07日 (水) | 編集 |
降り注ぐ、光の中へ。

リュミエール兄弟が、パリのグラン・カフェでシネマトグラフ・リュミエールを披露して以来、映画とは暗闇の中の光の芸術である。
では、映画から光を封じた時、それでもなお、映画は映画たり得るのだろうか。
河瀬直美監督の「光」は、ハンセン病をモチーフにした「あん」に続いて、視覚障がいという社会的マイノリティを軸に、人生における光=希望への渇望を描きながら、同時に「映画とは何か」という、映画作家として根源の難問に挑む意欲作だ。

主人公は、視覚障がい者のための、映画の音声ガイドを作る尾崎美佐子と、光を失いつつあるカメラマンの中森雅哉。
音声ガイドとは、スクリーンに映しだされた台詞以外の視聴覚情報を、声に置き換えたものだ。
一見脚本のト書きの様だが、より詳細で、ガイドを聞くことで、映像が無くても頭の中に画が浮かばなければならない。
美佐子が担当している劇中映画の、途中段階でのモニター試写後のディスカッションで、二人は出会う。
「あなたのガイドは主観だ」と彼は言う。
どのようなガイドを作れば、光を失った人たちにも映画を楽しんでもらえるのか。
藤竜也演じる劇中映画の監督に会った美佐子は、ラストの解釈は決まっていないと言う監督に対し、「それでも、最後は希望を感じ欲しいんです」と言う。
美佐子は自分のフィルターを通して、ガイドを作ってしまっている事に気づいていない。

彼女がなぜ希望に拘るのか。
敏腕カメラマンだった中森が、少しずつ消えてゆく視野と共に、人生の希望を失ってゆくように、美佐子もまた心に大きな傷を負っている。
美佐子の父親が蒸発して、それを切っ掛けに母親が認知症になってしまった様なのだ。
今はまだ、周りの助けを借りて実家で暮らしているが、いずれそれも難しくなることも分かっている。
そして、彼女がガイドを作っている劇中映画もまた、妻が認知症になった男の想いを描いたものなのである。
もはや妻は記憶を失っているが、男は何もできずに、ただ彼女を見つめるしかない。
自分と母の記憶に繋がる映画に、美佐子は無意識のうちに自己を重ね、希望を見出そうとしているのだろう。

時にぶつかり合い、絆を強めてゆく二人の心の旅路が、極めて映像的な劇中映画のラストを、どう音声ガイドで表現するかという葛藤に、象徴的に集束するのは上手い。

おそらく綿密に取材を重ねたのだろうが、音声ガイド作りのために、なんども繰り返されるディスカッションのシーンが秀逸だ。
視覚障がいの程度も人によって異なり、必要とするインフォメーションも微妙に異なる。
だが、全盲の女性の「映画は見えないけど、その世界に入れる」という表現には、見えることで気づかない、映画という芸術の可能性を教えられた気がする。

中森と美佐子は共に喪失を抱え、未来を生きるためには、過去に区切りを付けなければならないことを知っているが、大切なものを捨てるのは簡単ではない。
しかし例え大切なものを失ったとしても、見ることが出来なかったとしても、“光”は必ずそこにあるのだ。
文字通り光に包まれる二人の衝動的なキス、そして失踪した母を夕日の中に見出す描写は、まさにこの映画を象徴する名シーン。
そして、物語を通して喪失に向き合い、目に見える現象だけでなく、映画という芸術の精神性を理解できるようになった美佐子が、難しいラストをどう表現したのか。
そっと目を閉じる。
樹木希林の読む音声ガイドに耳を傾けると、暗闇にふっと光が見える。
スクリーンの中と外、そして劇中映画が溶け合い、ジワリと余韻が広がる、とても印象深いラストだった。

以前の河瀬監督の作品は、むき出しの"ワタシ"が強すぎて、正直ちょっと苦手だったのだが、ここ二作は手持ちカメラや極端なアップなど、テリングのスタイルで独自性を貫きながらも、筋立ては良い意味で地に足をつけたフィクションになっていて、ずいぶんと入りやすくなった。
役者の生かし方も相変わらず上手く、永瀬正敏と水崎綾女も素晴らしいが、美佐子の上司と劇中映画のヒロインを演じる神野三鈴が強い印象を残す。

今回は、舞台となる奈良の地酒、油長酒造の「風の森 純米 露葉風 無濾過生原酒」をチョイス。
口にした瞬間、微発泡の感触と共に、フルーティな香りがフワリと広がり心地いい。
発泡はそれほど長くは続かないが、キレとコクも申し分なく、米の豊潤な旨味を楽しめる。
キリリと冷やしていただきたい。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
映画は総合芸術である。
その言葉を思い出すと、この音声ガイドもまた芸術の1つ。
観客の想像力に委ねる的確なガイドとは何か?

改めて映画の奥深さも感じる作品でしたよ。
2017/06/10(土) 23:28:51 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
音声ガイドでの映画鑑賞は以前一度自分の関係作品で体験したことがあるのですが、ラジオドラマとはまた違った不思議な感覚でした。
この映画の「見えないけど、入れる」という表現を聞いて、ああ確かにあの時入っていたんだなと思いました。
これもまた映画の一つの感じ方ですね。
2017/06/14(水) 22:33:44 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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映画「光」を鑑賞しました。
2017/06/07(水) 23:00:47 | FREE TIME
映画『光』のシンプルなタイトルは強いですね。よくこんなタイトルが手つかずで残って
2017/06/07(水) 23:11:51 | 大江戸時夫の東京温度
ディスクライバー(音声ガイド原稿制作者)の尾崎美佐子は、視覚障害者向けの映画音声ガイドの仕事に携わることになった。 そこで視力を失いつつある弱視の天才カメラマン中森雅哉と出会う。 表現に細かく注文を付ける雅哉に反発する美佐子だったが、彼が過去に撮影した写真を見て心を動かされる。 しかし音声ガイドの方は、何度書き直しても皆が納得するものができないのだった…。 ラブ・ストーリー。
2017/06/09(金) 09:36:50 | 象のロケット
第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門オープニング作品に選ばれた『あん』の河瀬直美監督と永瀬正敏が、再び組んだ人間ドラマ。永瀬演じる弱視のカメラマンと、視覚障害者向けに映画の音声ガイドを制作する女性が、それぞれに光を求めて葛藤しながら心を通わせていくさまを...
2017/06/10(土) 17:44:54 | パピとママ映画のblog
見つめる先。そこに光。 コミュニケーションとは何か。当たり前とは何か。思いやりとは何か。想像力とは何か。 前作『あん』と同様、健常者である我々にとっては別に知らなくても ...
2017/06/10(土) 23:30:26 | こねたみっくす
 『光』を新宿バルト9で見ました。 (1)河瀨直美監督の作品ということで、映画館に行ってきました。  本作(注1)の冒頭では、階段をゆっくりと降りていく男(中森:永瀬正敏)の後ろ姿が映し出されます。どこかの劇場でしょう、男は席に着くとイヤホンを耳に当てます...
2017/06/13(火) 18:18:28 | 映画的・絵画的・音楽的