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20センチュリー・ウーマン・・・・・評価額1700円
2017年06月08日 (木) | 編集 |
この素晴らしき、女たちよ。

「人生はビギナーズ」で脚光を浴びたマイク・ミルズ監督による、自身の少年時代をモチーフとしたのエッセイ的ヒューマンドラマ。
40歳の時に出産したシングルマザーのドロシアは、15歳になった息子ジェイミーの育て方に迷い、歳の近い20代の賃借人のアビーと、息子の部屋に入り浸っている17歳の幼馴染ジュリーに助けを求める。

ほぼ一つ屋根の下で暮らす、3人の女性+ヒッピー崩れのおじさんウィリアムと、ジェイミーの関係を通して、思春期の葛藤と成長、背景となる混迷の70年代と、強いアメリカへの回帰を掲げたレーガノミクスの80年代の狭間の時代が見えてくるというワケ。
邦題はカタカナ化しただけの「20センチュリー・ウーマン」だが、正しくは複数形の「Women(ウィメン)」だ。

1979年のサンタバーバラ。
55歳になったドロシア(アネット・べニング)は、15歳の息子ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)との関係に悩んでいる。
高齢出産で生み、女手一つで育ててきた。
今のとこは問題なく、母親思いの素直な良い子でいてくれる。
しかし、これ以上自分一人で息子を一人前の男に育て上げる自信が持てないのだ。
そこでドロシアは、家の一階の部屋を貸しているフォトグラファーのアビー(グレタ・ガーウィグ)と、近所に住むジェイミーの幼馴染のジュリー(エル・ファニング)に「複雑な時代を生きるのは難しい。助けてやって」とお願いする。
「男の子なんだから、男の方が良いのでは?」と戸惑う二人だが、ドロシアは「あの子には女性の方が良い気がする」と言う。
ジェイミーと3人の女性たちの、忘れられない日々が始まった・・・・


映画は、ドロシアの愛車である1960年に発売された2代目フォード・ギャラクシーが、突然の車両火災に見舞われるところから始まる。
この年はイラン革命による第二次オイルショックによって、アメリカの自動車産業は再びの激震に見舞われ、燃費の良い日本車のますますの躍進を許す。
11月にはテヘランのアメリカ大使館人質事件が起こり、ベトナム戦争の敗北とウォーターゲート事件によって、アメリカが自信を失った混迷の70年代は、古き良き時代を象徴するギャラクシーと共に、炎上したまま幕を閉じようとしているのである。


大恐慌から第二次世界大戦の激動期に青春を送り、戦争中にはパイロットを目指したというドロシアは、とにかくパワフルで物怖じしない。
技術職として男社会でバリバリ働き、家の使っていない部屋を、アビーとウイリアムに貸して副収入を得ているやり手の肝っ玉母さんだ。
当時としては高齢の40歳で出産し、息子ジェイミーとは世代の差を感じている(だからこそアビーとジュリーに助けを求める)。
ジェイミーを理解するためにクラブハウスに行ってみたり、パンクロックを聞いてみたり、新しい風にも比較的寛容だが、いずれ彼は"外での顔"を自分には見せなくなると考えている。
日々のエネルギー源は、メンソールの“体に良い”タバコだ。

賃借人のアビーは、ニューヨーク帰りのパンクなフォトグラファー。
50年代生まれの彼女は、胎内にいた時に母親が摂取した流産防止薬の副作用で、子宮頸がんになってしまい、地元サンタバーバラへ戻ってきた。
がんの再発に怯え、今を生き急ぐ彼女は、時代の波に敏感で、常に人生を模索している。
ドロシアにも「あなたの生き方を見せてあげて」と頼まれ、パンクロックやフェミニズムといった世界にジェイミーを誘う、人生のメンターとなる。
スポンジの様に"新し過ぎる価値観"を吸収してゆくジェイミーに、頼んではみたものの、ドロシアは戸惑いを隠せず、「あの子の外での顔を見られて羨ましいわ」とアビーに言う。
すると彼女は、ポラロイドで撮ったジェイミーの外でも変わらない笑顔の写真を渡すのだ。

そして、ジェイミーの2歳年上の幼馴染ジュリーは、初恋の相手であり、誰よりも近しい関係。
セラピストの母親にグループセラピーへの参加を強いられ、人間のネガティヴな面を見て育った彼女は、継父や脳性麻痺の妹とも馴染めなくて、ほとんど家に寄り付かずにジェイミーの部屋に入り浸っている。
ほぼセックスを通じてしか他人との関係を深められず、17歳にして男性経験は豊富だが、一番大切で心のよりどころであるジェイミーとはセックス厳禁
しかし、好きな子が毎日の様に自分のベッドで寝ていて、しかも何も出来ないなんて、ティーンの男の子にとっては拷問以外のなにものでもない。
当然ジェイミーとしては、友達以上恋人未満の状態を打破したいのだが、いわゆる腐れ縁になってしまって進展せず。
ドロシアが見るのはジェイミーの内での顔、アビーは外での顔、ジュリーは秘めたる顔を知っている。

マイク・ミルズの前作「人生はビギナーズ」は、彼と父親が亡くなる前の5年間の出来事に基づいた作品だったが、今回フィーチャーされるのは少年時代の母親との関係
ドロシアとアビーは、ミルズの母と姉がモデルだそうで、それぞれ物語の中での役割に合わせ、ある種のステロタイプに造形されながら、深みのある人間性とリアリティを失わない。
もう一人の賃借人のウィリアムを含め、登場人物の誰もがちょっとずつ拗らせちゃっている人たちなのだが、狭間の時代にあって彼らが皆とても活き活きと描かれている。
迷走する政治、パンクロックの台頭、ヒッピー文化の残滓、ウーマンリブによるフェミニズムの浸透といった時代を象徴するシンボルが、物語の中に満遍なく配置されており、 21世紀の未来から俯瞰する過去は、トーキング・ヘッズをはじめとする当時のヒットナンバーにのって、アナログTVの様な滲むRGBと共にリリカルに疾走する。
時代感を浮き立たせる、写真や映像のコラージュ的な使い方も巧みで、伝説のカルト・ドキュメンタリー「コヤニスカッツィ」が引用されていたのには驚いた。
もっともこの映画は1982年公開なので、少しズレているのだけど、セリフを排した上で、スローモーションやタイムラプス映像を駆使し描かれるのが、"平衡を失った世界"なのは、なるほど本作に通じるものがある。
物語の視線は、ある種の自分史ということもあってか、近過ぎず遠過ぎず適度な距離感を保ち続けていて、それが観客の心にちょっとビターだけど、二度と戻らない思春期のノスタルジーを呼び起こすのだ。

ミルズは、私小説的なエピソードをドラマとして再構成し、強烈な時代性と普遍性を併せ持つ、詩情あふれる秀作を作り上げた。
アネット・べニング、グレタ・ガーウィグ、エル・ファニング、世代の違う3人の女優たちが素晴らしく魅力的で、それぞれからキャリアベストと言える好演を引き出している。
今は大人になった一人の少年と、彼女たちの思い出を通して見る、幻想のアメリカの20センチュリー・クロニクルはセンス・オブ・ワンダーの塊の様な至福の時間なのである。

本作の舞台となるサンタバーバラは全米有数のワインどころ。
という訳で、スター・レーン ヴィンヤードの「カベルネ・ソーヴィニヨン ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ」の2012をチョイス。
ベリー系にハーブ系が混じり合う複雑なアロマ。
複雑な味わいが、しっかりとした骨格に支えられる、ドロシアの様なフルボディのパワフルな赤。
これがファーストヴィンテージながら、高い評価を受けた一本だ。
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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
とにかく3人の女性たちが魅力的で、しかもどこにでもいそうな女性なので、ジェイミーの育っている環境が羨ましかったですよ。
そして忘れてはならないのはウィリアム。本当にいい意味でちょうどいい薄さの存在感でした。
2017/06/12(月) 23:45:38 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
永遠に生殺しのエルちゃんはちょっとヤダけど、アビーみたいな姉さんは欲しかったですねえ。
ウイリアムみたいなおじさんは、割と近所にもいた気がします。
車いじりが好きで、なんか幸薄そうな感じでw
2017/06/14(水) 22:37:44 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
わかりにくい邦題
分かりにくい邦題(しかもwomenだし)なので損しているかも?
ドロシアのような懐の深い母親に育てられると「いい男」になるのでしょうか?それにしても皺だらけのアネット・ベニングが何と魅力的なのでしょう!
2017/06/18(日) 20:05:55 | URL | karinn #NCwpgG6A[ 編集]
こんにちは
>karinnさん
まあ観たら納得のタイトルなんですけどね。
エルちゃんはともかく、あのママとアビーに育てられると、リベラルでフェミニストないい男に育ちそう。
世代の違う三人の女優たちが最高に素敵でした。
2017/06/21(水) 16:23:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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