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ショートレビュー「海辺のリア・・・・・評価額1650円」
2017年06月13日 (火) | 編集 |
それでも、生きている。


認知症を患った元スター俳優の桑畑兆吉が、介護施設を脱走する。
舞台や映画への出演だけでなく、俳優養成所を経営するほどの大御所だったが、台詞を覚えられなくなり20年前に引退。

やがて長女の由紀子と元弟子の行男夫婦にそそのかされ、財産を奪われて僻地の施設に追いやられていたのだ。

延々と能登の海岸を歩き続ける兆吉は、嘗て私生児を生んだとして勘当した、愛人との間にできた次女の伸子と出会い、束の間の旅を共に続ける。


タイトルの「リア」とは、シェイクスピアの「リア王」のこと。
ブリテンの王リアは、退位にあたって三人の娘に領地を分割しようとする。
長女と次女は、父にすり寄って歓心を買うが、三女のコーディリアだけは実直にものを言い、怒ったリアによてって勘当され、彼女をかばったケント伯も追放される。
しかし、リアが退位すると長女と次女は父を疎んじるようになり、行き場を失ったリアは荒野を彷徨い、狂気にとりつかれてしまう。
フランス王妃となったコーディリアは、フランス軍を率いドーヴァーに布陣。
父との再会を果たすも戦いに敗北し、リアと共に捕虜となってしまう。
コーディリアは処刑され、彼女の遺体を抱いたリアは哀しみに絶叫してこの世を去る。
実際にはリア親子の物語に、グロスター伯の二人の息子、エドガーとエドマンドの異母兄弟の陰謀劇がサブストーリーとして複雑に絡み合い、登場人物の大半が死んでしまう。
王の老いがもたらす心の弱さと孤独、誠実な者が必ずしも救われるとは限らないこの世の無情、因果応報の人間の業が、大いなる悲劇を引き起こす物語だ。


全てを忘れつつある兆吉が、それでもなお記憶している「リア王」の愛と狂気が、現実世界の彼の境遇とシンクロする仕掛け。

王は勿論仲代達矢で、黒木華演じる次女の伸子がコーディリアなのだが、彼女と兆吉を追い出した長女の関係にはエドガーとエドマンドも投影されている。

因みに、仲代達矢と長女を演じる原田美枝子の組み合わせは、黒澤明が「リア王」を翻案した「乱」とほぼ同じ。

「乱」は原作の娘を息子に変え、原田美枝子演じる長男の妻の楓の方が一族を滅ぼす魔性の女だったが、今回はオリジナルの戯曲どおり長女設定となっていて、この辺りはオマージュか。
兆吉の元弟子で良心の葛藤に揺れる阿部寛が、戯曲の長女の夫オルバニー公とケント伯を合わせた様な人物となっていて、小林薫が演じる由紀子の愛人がエドマンド的な役回り。

複雑な「リア王」の構成要素を集約し、映画の登場人物はわずか5人
しかも冒頭5分で、全員が姿を見せるというスピーディーな展開だ。
大半のシーンが能登の海岸で進行し、ほぼ全編にわたって、この映画の狂気の王たる仲代達矢をフィーチャーする。
シネマスコープ画面の背景になるのは、海や砂浜といった、いわゆる“ヌケのいい画”なのだが、被写界深度は浅く設定され、俳優の演技がクッキリと浮き立つ。

独特の台詞回しやカメラワークを含めて、全編ロケーションながら非常に演劇的なのが特徴で、その経歴も主人公とオーバーラップする、仲代達矢のキャリア集大成とも言える魂の演技は見ごたえたっぷりだ。

シェイクスピアの戯曲は壮大な悲劇で終わるが、21世紀の日本のリアははたしてどうなるのか。
父親への愛憎を抱えた伸子が、常に死を匂わせていて、小林政広監督だけに生温い結末にはしないだろうなと、終始ハラハラ。
本作のテーマが結実するラストショットは、本当に見事だった。


しかし、老いを描く日本映画は本当に増えた気がする。

今年だけでも、本作の他に「家族はつらいよ2」「八重子のハミング」といった作品が心に残る。

それだけ社会全体にとって、老いとどう向き合うかが切実なモチーフになりつつあるということか。

今回は舞台となる石川の酒、車多酒造の「天狗舞 古古酒純米大吟醸」をチョイス。
酒器に注いだ瞬間にふわりと立ち上がる優しい吟醸香、一口飲んで思わず「美味い!」と呟いてしまう、熟成されたまろやかな味わい。
全てが極めてハイレベルに仕上げられた、極上の日本酒である。
普段使いにはちょっとお高いが、何かの記念日などにはピッタリだ。

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桑畑兆吉は、舞台や映画に出演する役者として半世紀以上のキャリアを積み、さらに俳優養成所を主宰する大スターだった。 だが、今や認知症の疑いがあり、高級老人ホームへ送り込まれている。 施設を脱走し、海辺を歩き続ける兆吉の傍には、愛人に産ませた娘・伸子の姿があった。 その頃、兆吉の長女・由紀子は、夫で兆吉の弟子だった行男、そして自分と愛人関係にある運転手を前に、兆吉のことは見捨てろと言い放つ…。 ...
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