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君の膵臓を食べたい・・・・・評価額1650円
2017年08月01日 (火) | 編集 |
君に本当に伝えたかったこと。

ラスト、このホラーなタイトルに涙した。
膵臓の病で余命僅かな少女と、他人に関心が持てない内向的な少年。
あることがきっかけで親しくなった二人は、やがて特別な絆で結ばれる。
ギョッとさせるタイトルは、昔の人は体を悪くすると、肝臓なら肝臓、膵臓なら膵臓と、患部と同じ部位の肉を食べたという話からで、決してカリバニズムの話ではない。
住野よるの同名小説を、「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」の吉田智子が脚色、「君と100回目の恋」の月川翔が監督を務める。
設定だけなら古典的な難病ものラブストーリーだが、これは自分ではどうすることも出来ない運命に葛藤し、恋の先にある生きることの意味を問う、なかなかに深い青春ドラマだ。
※核心部分に触れています。

母校の教師となった「僕」(小栗旬/北村匠海)は、解体される図書館の蔵書の整理を任される。
そこは12年前に、自分が図書委員として毎日を過ごしていた場所だった。
手伝ってくれる生徒たちと話しているうちに、「僕」は今はもういない山内桜良(浜辺美波)と過ごした数ヶ月の出来事を思い出す。
膵臓の病を患う彼女の日記帳、題して「共病文庫」を、「僕」がひょんなことから読んでしまったことから、二人は一緒に過ごすことが多くなる。
やがてお互いに、単なる友だち以上の感情を抱いてゆくが、彼女との日々はある日突然に終わりを告げる。
同じ頃、大人になった「僕」と同じように、桜良の親友だった恭子(北川景子/大友花恋)もまた、結婚を控えて彼女との日々を思い出していた。
そして、図書館の整理作業も大詰めとなったある日、「僕」は一枚の図書カードに目を留める。
それは、12前の桜良から届いた時を超えたメッセージだった・・・・・


作品世界を構成する全てが儚く、美しい。
映像表現として突出したイメージがある訳ではないが、丁寧に紡がれた一つ一つのエピソードが、ジワジワと心に染み込んでくるのである。
物語は終始主人公である「僕」こと志賀春樹の視点で語られ、基本的には内気で他人との関係を築けない孤独な春樹が、山内桜良との数ヶ月の体験を通して、殻を破り成長してゆくというものだ。
基本的には原作に極めて忠実な作りなのだけど、一点だけ大きな改変をしている。
原作は高校時代だけで完結しているのだが、映画では過去の高校時代とその12年後の現在が、並行して語られる二重構造になっているのだ。
元々「共病文庫」の巻末に書かれていた、春樹と恭子に当てた遺書は、図書館のある本の間に隠されていて、それが12年後に、図書カードに書かれたヒントから始まる"宝探し"によって発見されるという仕掛け。

この改変は構造上、若干のご都合主義を生じさせていると思う。
まず、引っかかったのが、小栗旬演じる現在の春樹が、嘗ての自分と似たところのある生徒に、高校時代の思い出を語るという設定だ。
いくら成り行きとは言え、自分の中でも消化しきれていない大切な思い出を、教師が自分から生徒に明かすだろうか。
例えば、生徒の側の話を聞いていて、そこから過去の思い出が導き出されるといった、もうワンステップの説得力が欲しかった。
あとはなぜ桜良は、こんなややこしい方法で遺書を残したのかという点。
「頑張って探した方が楽しいでしょ。宝探しみたいで」とは言っていたけど、結果そのせいで春樹も恭子も12年も引きずってしまった訳で、"大切な人たち"に対する最後の言葉の渡し方としていかがなものかと。
まあこれは、彼女の命が本人も予想だにしないことで、唐突に断ち切られてしまったから、と言うエクスキューズは出来るのだけど。

しかし、上記のような欠点があっても、原則的に私はこの脚色を支持する。
感傷的な経験は、時が過ぎれば過ぎるほど純化され、思い出の宝石として、心の中の一番大切な引き出しにしまわれる。
本作で描かれる高校時代は、現在の春樹を起点の視点に、現在から過去を俯瞰する構造とすることにより、圧倒的にリリカルで、ノスタルジックな世界観を獲得していて、本作の最大の魅力になっている。
特に原作には存在しない、後者の情感が生み出すエモーションに抗うのは、誰であれ難しいだろう。
もちろん第一義的には、興行力のあるスターを出したいという狙いだろうし、青春真っ只中では無いオトナ世代としては、こっちの方が入りやすいという理由もあるのだけど。

静かな熱情に突き動かされる、主人公二人のキャラクター造形も非常に良く出来ている。
奇妙なタイトルに惹かれて原作を読んだ時、「住野よる」という中性的なペンネームの作者は、多分男性なんだろうなあと思った。
全体に、語り部である春樹のキャラクターに非常にリアリティがあり、感情のディテールまで繊細に描きこまれている反面、桜良の方は人物関係も含めてやや類型的に思えたからだ。
だが、脚色によって、小説の男性作家目線に女性脚本家の視点が加わり、原作よりも登場人物の心理描写に深みが出た。
特に桜良に対する恭子の複雑な想いは、映画の方が説得力がある。

文章の人物像に肉体を与えた、浜辺美波と北村匠海も素晴らしい。
とりあえず、本作の浜辺美波は可愛すぎるだろう。
この人はドラマ版「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」のめんま役や、「妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!」のカナミ役など、ちょっと影のあるキャラクターで生きる。
本作もそうだが、ぱっと見快活そうなルックスと、内面のギャップが魅惑的なキャラクターを生み出しているのだ。
高校生の春樹を演じる北村匠海の、ネガティヴな非リア充っぷりとも良いコントラスト。
彼は日本版「怪しい彼女」の、多部未華子の孫役が印象に残っているが、本当ティーンエイジャーはちょっと見ない間に肉体も技術も凄く成長する。

春樹が「共病文庫」を読み、桜良の秘密を知ったことから始まる共犯関係は、ごく短い期間に二人の見ている世界を変えてゆく。
自分たちが出会ったのは偶然じゃないと、桜良は言う。
病院で春樹が共病文庫を拾ったのも、読んだのも選択だし、その後二人が親しくなったのも選択であって、人生は無意識の選択で出来ているのだと。
他人と関係を持てない春樹は、誰とでも仲良くなれ、心の内に秘密を抱える桜良に興味を持ち、逆に常に他人との関係の中で自分を位置付けている桜良は、単独で自我を確立させている春樹にほのかな憧れを抱く。
対照的な二人が、磁石のS極とN極の様に惹かれ合うのは必然だ。

ところが結局、物語の中で二人は恋人同士にはならない
何度かドキドキする瞬間はあるけど、キスすらしないのだ。
でも二人の間にあったのは、やはり大きな意味での愛で、これは二人が結ばれないからこそ、最も切ないラブストーリーになったのだと思う。
失われることが分かっているから、お互いを恋人という存在にするのは怖い。
逆その距離感が、二人を単純な恋人関係を超えた、魂の次元で結びつかせ、ソウルメイトにまで昇華させてしまうのである。
喪失を超える愛という心の有り様は、ちょっと「メッセージ」を思い出した。
これは、普通でない出会い方をした二人が、お互いとの関わりを通してただ一人の自分を見出す、優れた青春心理ドラマ。
一生に一度だけの、心を震わせるファーストラブストーリーだ。

今回は、桜良つながりで、富士桜高原麦酒の白ビール「ヴァイツェン」をチョイス。
フルーティな香りが爽やか、苦味も少ないスッキリタイプなので、ジメジメした夏にぴったり。
クセのない味わいは、ビアカクテルのベースとしてもオススメだ。
ピーチ、オレンジなどのフルーツジュースを、5:1の割合でそっとビールに流し込むと、ビールが苦手な人でも楽しめる美味しいビアカクテルが出来上がる。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
基本的にはいいお話なんですけど、『世界の中心で、愛を叫ぶ』と同じく大人になったシーンがどうしても足を引っ張っている感じが否めませんでしたね。
特に「僕」が教師を辞めるべくか悩む意味が分からんとです…。
2017/08/02(水) 00:13:10 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
私は逆に大人の部分があったので入りやすかったです。
確かに学校を辞めようとしてる理由はよくわからないですね。
大人の部分が入った大きな弊害は、僕と恭子が12年引きずってしまっている設定だと思います。
2017/08/04(金) 22:53:40 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
お友達になってください・・・まで12年かかっちゃうというね。(;^_^A
図書カードというと岩井俊二の「LoveLetter」思い出しました。

教師になりなよって桜良に言われたからなった・・・みたいな
主体性のなさと、ホンマに向いてるんやろかっていう迷い、
それが桜良のことを思い出す形で振り返ったときに
吹っ切れた・・・んじゃないですかね。
「自分で選んだんだ」って。
2017/08/05(土) 01:01:24 | URL | Ageha #BNF5UjbU[ 編集]
こんばんは
>Agehaさん
「love letter」懐かしい、あれも図書カードでしたっけ。
なるほど、自分で決めて教師になったわけじゃないからなあ・・・という迷いが、彼女との思い出の中の「全て選択している」という会話で思い直したのかもしれませんね。
さすがに12年は悩みすぎだろと思いますがw
2017/08/09(水) 22:50:49 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
いつも拝見しています。相変わらず文章が上手くて憧れます。
さてメッチャクチャ遅ればせながら本作を見ました。
主人公は「いつか自分の前から消えてしまうなら最初から関わらない方がいい」とか思っている人間ですが、高校教師ってどれだけ生徒と向き合っても、その生徒は3年も経てば自分の前から消えてしまうわけで、そのせいで深く関わることを拒んでるのかなぁ、と思いました。
見終わってから上手な設定だな、と一人感心してました。
2020/12/20(日) 14:51:10 | URL | かも #4twcnBcQ[ 編集]
こんばんは
>かもさん
なるほど、確かにそうですね。
私も教育に携わってますが、10年前の教え子が同僚として戻ってきたこともありますから、一概に消えちゃうとは言えないですけど。
象徴としてなかなか納得できる設定ですね。
2020/12/24(木) 20:04:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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