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ショートレビュー「ナラタージュ・・・・・評価額1650円」
2017年10月11日 (水) | 編集 |
追想のファーストラブストーリー。

タイトルの「ナラタージュ」とは、回想で過去を描くことを意味する。
東京の映画配給会社に勤めている主人公の泉の現在から、記憶の中の大学二年生の夏へ、更に高校三年生の過去へ。
有村架純と松本潤が演じる泉と葉山は、高校の演劇部で出会った、顧問の教師と生徒。
そして、お互いに距離を縮めつつ、一旦は泉の卒業によって別離を迎えるのだが、1年後の夏に彼女が演劇部に客演して再開を果たすと急接近。
二人は共に他人には言えない深刻な心の傷を抱え、お互いを必要としていて、いわば無意識の共依存の関係にある。
だが一方の感情は幼くも真剣な恋で、一方は必ずしもそうでなかったことから、とてもややこしい、抜き差しならない関係に陥るのである。

現在の東京、豪雨の夜を起点に、映画はミステリアスに、少しずつ全貌を見せる。
行定勲監督作品では、幻想の魔都・上海を舞台に双子姉妹の入れ替わりを描いた異色のミステリ「真夜中の五分前」に近い印象。
全編の描写が、泉をはじめとする登場人物の心象風景として機能するのは、いかにもこの人らしい。
泉が葉山にもらった懐中時計を手に見る、悲しみの雨、浄化の雨。
別居中の妻と問題を抱えている葉山が、演劇部で上演するのはシェイクスピアの「真夏の夜の夢」。
これは真夏の夜の森に集まった、恋の問題を抱えた人間と妖精たちが、トリックスターの妖精パックの媚薬の魔法にかかり、相手を入れ替えたりすれ違ったり大騒動を繰り広げる元祖ラブコメ。
こんがらがった現実の人間関係を反映しているのは、言わずもがなだ。
また二人は映画好き設定で、「隣の女」「エル・スール」「浮雲」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」などもメタファーとなり、内容を知っていると本作とのシンクロに思わずニヤリ。

効果的に使われるのが、主人公の裸足のアップショット。
何度も出てくるのだけど、それが何時、誰といる時か、どのようなシチュエーションの描写なのかによって、その都度裸足であることの意味が異なる。
泉はただ目の前で起こることに、素直に真摯に向き合っているだけなのだが、彼女の真っ直ぐさが葉山と、坂口健太郎演じる小野の心を狂わせる。
全体を俯瞰すると、ラブストーリーと言い切ることすら躊躇する心理劇。
有村架純も松本潤も地味キャラに徹し淡々と展開するが、丁寧に組み立てたられた心の物語を読み解く面白さがある。

快活なイメージを封印した有村架純がいい。
自分自身が何者で、何を求めているのかに戸惑い、断ち切れない想いを引きずり、追い詰められてゆく演技は説得力がある。
基本彼女の回想形式で進むので、葉山のキャラクターは表層にとどまるが、ある意味ひどくズルくて、優柔不断の塊みたいなダメ男だけど、常に妙な色気を醸し出す松本潤にはちょっと驚かされた。
惜しむらくは文化祭で「真夏の夜の夢」を上演した後、演劇部に起こるあるショッキングな事件が印象的ではあるものの、全体の流れから今ひとつ浮いて感じられること。
もちろんこれは泉と葉山にとっては、過去の記憶に向き合うひとつのきっかけにはなっているのだけど。

本作は濃密な空気を纏ったディープな心理ドラマであり、よく言えば分かりやすく、悪く言えば幼い邦画ラブストーリーのトレンドからは明確に背を向ける。
賛否両論?上等じゃないか。
行定勲や是枝裕和といった実績あるベテランが、本作や「三度目の殺人」の様な、観客とサシで勝負するスタイルの作品を作ってくれるのは大歓迎だ。

今回は舞台なる富山の地酒、清都酒造場の「勝駒 純米」をチョイス。
やわらく上品な中にしっかりとした骨があり、やや辛口でスッキリとした喉越し、適度な酸味のバランスが素晴らしい。
いわばお米の味のフルボディ。
蔵の規模が非常に小さいこともある、名声が高まる近年ではだんだん入手困難になりつつある。
綿密なドラマに負けない、力のある酒だ。

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