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我は神なり・・・・・評価額1750円
2017年10月24日 (火) | 編集 |
野獣VS狂信。

異才ヨン・サンホ監督の、長編アニメーション第二作。
2013年の作品だが、「新感染 ファイナル・エクスプレス」公開に合わせて、ようやく日本で劇場公開となった。
私は待ちくたびれて海外版の円盤を買ってしまったが、このアニメーション史に類を見ない異色の傑作を、スクリーンで観られるのは素直に喜ばしい。
舞台となるのは、ダム建設計画によって立ち退きを迫られている寒村。
支払われるはずの保証金を狙って、奇蹟を売り物にするエセ教会が、不安を抱える住人たちの心にスルリと入り込む。
教会の正体にただ一人気づいたのが、飲んだくれで粗暴な村の嫌われ者。
彼は人々を正気に戻すため、孤独な闘いを始める。
原題は“偽り”を意味する「サイビ(사이비)」
例によって、どこまでもダークなヨン・サンホの世界だが、リアリティのある登場人物たちが織り成す重厚な人間ドラマは圧巻。
偽りの向こうに見えてくる知りたくない真実に、観客はもはや驚愕するしかない。
※ラストに触れています。

ダムに沈むことが決まっているある村に、トラブルメーカーのミンチョル(ヤン・イクチュン)が久しぶりに帰ってくる。
ところが、彼の不在中に村には教会が建てられ、ミンチョルの妻も含めた村人は皆、奇蹟の力を持つというカリスマ牧師のソン・チョルウ(オ・ジョセ)を崇めていた。
街のバーでもめ事を起こしたミンチョルは、喧嘩の相手のギョンソク(クオン・ヘヒョ)が教会の実質的なリーダーで、しかも指名手配中の詐欺師であることに気づく。
ギョンソクは街でサクラを雇い、若いソンを祭り上げることで村人の信頼を得て、なけなしの財産を吸い上げようとしているのだ。
怒ったミンチョルは人々を説得して、教団の正体を暴こうと奮闘するが、村人はもちろん、警察までもがミンチョルの言葉に聞く耳を持たない。
父親に反発する一人娘ヨンソン(パク・ヒボン)も家出して、ギョンソクの斡旋する怪しげな店に出入りするようになる。
村人から“悪魔に憑かれた男”の烙印を押されて孤立してゆくミンチョルは、遂に実力行使を決意するのだが・・・・


韓国映画で宗教を扱った作品というと、巨匠イ・チャンドン監督の傑作「シークレット・サンシャイン」や、ナ・ホンジン監督のオカルトホラーの大怪作「哭声/コクソン」が記憶に新しい。
どちらもアプローチは全く異なるが、信仰の持つ多面性に着目し、モチーフを見つめる思いもよらない斬新な視点に、本作との共通点を見出せる。
宗教という生々しい題材をなぜアニメーションで?と疑問を呈する向きもあるようだが、アニメーションは本来非常に自由なもの。
本作の場合は、えぐ過ぎる内容を観やすくする意味もあるだろうし、実写よりも人物にカリカチュアが効く分、テーマを象徴的に際立たせ普遍性を持たせる効果もある。
実際のところ、本作は当初実写を想定して企画されたそうだが、後述する様にキャラクターの風刺的なデザインなども含め、結果的にアニメーションならではの作品になったと言えるだろう。

世相を鋭く切り取るヨン・サンホ作品らしく、本作も韓国の現実社会を反映している。
教会を実質的に率いる詐欺師ギョンソクの顔が、李明博元大統領に似せてデザインされていることからも、背景となるダム建設計画のモデルは、彼が推し進めた4大河川整備事業なのだろう。
これは韓国の主要な川を浚渫し、多数の堰を建設して川の貯水量を増やしつつ、環境にも配慮するという大事業で、2008年から2012年までに日本円にして実に2兆円以上が投じられた。
ところが実際には深刻な環境破壊を招いてしまい、大規模公共事業の失敗例として、今現在もその余波は続いている。
巨額の税金が投じられたこの事業の水面下に、有象無象様々な利権集団が蠢いていたのは想像に難くない。
李明博はまた、キリスト教至上主義的な言動でも知られ、在任時期が本作の制作期間と重なることを考えても、諸々の設定に影響を与えていそうだ。

ヨン・サンホ作品の例に漏れず、主人公のミンチョルは非共感キャラクターに造形されている。
久しぶりに家に帰ってきたと思ったら、娘のソンヨンが大学進学のためにコツコツ貯金していた通帳を持ち出して、ギャンブルと飲み代に使ってしまい、ソンヨンに追求されると暴力に訴える極悪非道っぷり。
外に飲みに出ても、怒りの感情をコントロールできず、ちょっとしたことでトラブルを起こす。
タフで腕っぷしは強いので、若い頃にヤンチャしていた男衆からは、ある程度のリスペクトを受けている様だが、基本的にはコミュニティの鼻つまみ者である。
事実を触れ回るが、悪魔の様に忌み嫌われる男と、嘘まみれだが、盲信的に信じられる牧師の言葉の間にある、不可思議な人間の心の正体こそが本作の核心だ。
ミンチョルとソンヨン親子、教会を実質率いる詐欺師ギョンソクと過去の罪に悩むソン牧師、それぞれ家族と教会の内側にも複雑な対立構造を抱え、一切の予定調和を拒否するプロットは、最後の最後まで先を読ませない。
とことんまで神に愛されない人間たちの織りなす愛憎のドラマは、人の心が信仰を求める意味を強烈に問いかける。

マーティン・スコセッシ監督が映画化したことでも知られる小説「沈黙」の作中、自身もキリスト教徒である遠藤周作は、棄教した神父フェレイラに「この国は(キリスト教にとって)沼地だ」と言わせている。
キリストの愛という苗を何度植えても、全て変質して腐ってしまう。
日本人の求める宗教は、現世と来世における利己的な救済であって、神の子イエスの尊い自己犠牲によって、全人類が救われたとするキリスト教の教義とは本来相容れない。
一見すると敬虔な信徒に見える日本人キリシタンたちも、実際は彼らなりに解釈したキリスト教とは似て非なる独自の宗教を信じているに過ぎないのだと、フェレイラは言う。
キリスト教がシャーマニズムと融合し、独自の進化を遂げることで普及した韓国も、土着性という意味では相当な底なし沼に見える。
本作でソン牧師を崇める村人たちが、世知辛い現世を捨て、天国に優先的に入りたいという自己利益のために信仰しているのは、「沈黙」の日本人キリシタンたちと共通するスタンスだ。

しかし、それが本来のキリスト教の形かどうかは、本作では大きな問題ではないし、宗教の偽善性を告発する映画でも無い。
そもそもミンチョルもギョンソクも、はたまた一見すると信仰に生きているかに見えるソン牧師も、実際には神の愛を信じられない不信心者であり、ポイントは彼らの言葉を信仰者がどう受け取るかだ。
やがて水に沈む、未来の無い終末の村で、人々は少なくとも自分の意思で信仰を選び、救いを求めている。
人間は信じたいことを信じるもので、村人たちは自分たちが崇めるものの正体が何者だとしても、少なくとも神の愛と幸せを感じているのは間違いない。
だからミンチョルがいくら正しいことを言っているとしても、それが人々が欲する事実でないとすれば、何の価値も無いのである。
彼は村で起こっている本当のことを知っていたが、ソンヨンを含む皆の心、なぜ神にすがるのかを理解しておらず、ましてや自分自身がその原因だとは全く考えていないのだ。
彼がようやく人間の心の複雑さ、自分のしたことの意味に気づくのは、全てを失った後。
結局沈むことの無かった村で、老いたミンチョル最後にとる謎めいた行動は、神に対する祈りなのか、呪詛なのか
容赦無い展開に打ちのめされるが、同時に満足感に満たされるのは、そこに至る納得の人間ドラマがあるからだ。
どんよりとした余韻が長く後を引き、観客を混沌の底なし沼に捕らえて離さない、独創の傑作である。

4大河川整備事業後の韓国の川はアオコが発生しやすくなり、季節と所によってはまるでお茶の川の様になってしまっているらしい。
という訳で、今回は韓国を代表するソジュ「真露 緑茶割り」をチョイス。
氷を入れたタンブラーに真露と濃いめの緑茶を3:7で注ぎ、軽くステアして完成。
ウルトラヘビーな映画の後味を、スッキリとした味わいで中和してくれる。

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ダム建設で水没することが決まった韓国の田舎の村。 トラブルメーカーの中年男ミンチョルは、久しぶりに村へ帰って来た。 ところが、彼の妻子も村人たちも、熱心に教会に通い若きカリスマ牧師ソンを神のように崇めている。 ミンチョルはソンの後ろ盾になっている長老ギョンソクがインチキ詐欺師だと見抜くが、ミンチョルの言うことなど誰も聞こうとしない…。 アニメーション。
2017/10/27(金) 12:15:31 | 象のロケット