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あゝ、荒野 前編/後編・・・・・評価額1750円
2017年10月27日 (金) | 編集 |
人は皆、荒野で闘う。

なんという熱量だ!
寺山修司が1966年に発表した唯一の長編小説「あゝ、荒野」が、半世紀を経て映画化された。
猥雑な新宿の街で出会った、全てが対照的な二人のボクサー、バリカン健二と新宿新次の鮮烈な青春を描く。
昭和の時代に書かれた物語は、荒々しい時代性に満ちていたが、これをただ単に現在に移し替えても説得力は無い。
映画は、時代を2021年の東京オリンピック後に設定するという、大胆な奇策に出た。
昭和から平成を飛び越して、まだ見ぬ次の時代へ。
超濃密な物語は、前後篇合わせて5時間を超える長尺を全く感じさせない。
これは日本の過去を鏡として未来を俯瞰しながら、日々を必死に生きる人間たちを追った激アツの人生劇場
岸善幸は長編2作目にして、今年の日本映画を代表する一本を作り上げた。

2021年。
振り込め詐欺で少年院に入っていた新次(菅田将暉)が、新宿の街に帰ってきた。
嘗ての仲間たちはすでに足を洗い、居場所を失った新次の唯一の目標は、自分たちを裏切った裕二(山田裕貴)への復讐。
しかし、今はプロボクサーとなった裕二は、新次のかなう相手ではなくなっていた。
吃音に悩む理髪師の健二(ヤン・イクチュン)は、なんとかして自分を変えたいと願って、確執を抱える元自衛官の父・健夫(モロ師岡)と袂を分かち、街で声をかけてきたオーシャンボクシングジムの堀口(ユースケ・サンタマリア)の元に入門。
裕二と戦うために入門した新次とともに、プロライセンスを目指して懸命に過酷なトレーニングに挑む。
やがて、二人揃ってプロテストに合格し、それぞれ"新宿新次"と"バリカン健二"のリングネームでデビュー戦を迎えることになるのだが、順調に勝利を重ねる新次に対し、健二はどうしても相手と打ち合えない。
ボクサーとして致命的な優しさ故、健二は大きな壁に直面する。
そして遂に、新次の次戦の相手が裕二に決まるのだが・・・


もう十数年前になるが、寺山修司関係の出版イベントの映像編集を担当したことがあり、原作はその時に読んだ。
新宿を舞台に展開する、二人の若者と彼らを取り巻く人間たちの物語。
思えば原作が発表された1966年は、前回の東京オリンピックの後だった。
港岳彦の脚本は、二つのオリンピックを共通の転換点に、四年後の未来を予見するが、この地続き感が絶妙のさじ加減だ。
スポーツの祭典という壮大な打ち上げ花火の後には、不況が来るだろう。
少子高齢化社会で、公共機関の人手不足に悩む政府はソフトに徴兵制を推し進め、3.11の深刻な傷は未だ癒えず。
前回のオリンピック後に不況が訪れ、ベトナム反戦運動をはじめとするラジカルな学生運動が吹き荒れた史実を鏡としながら、2017年の現在の延長線上にある世界として十分な説得力。
自殺防止を訴える若者たちのエピソードが、ディストピア感を強烈に印象付け、見事に半世紀前の小説の精神性を、近未来に描き出している。

前編2021年から後編2022年にかけての新宿の街は、日本の縮図であり、物語のためのステージだ。
海外派兵のPTSDで元自衛官の父は自殺、母には捨てられ、若くして犯罪に手を染めると、今度は裕二への憎しみをエナジーとして、連戦連勝を重ねてゆく新次。
新次の父を自殺に追いやった元自衛隊将校を父に、韓国人を母に持ち、おそらくは父との確執が原因となっている吃音に苦しみ、一撃必殺のハードバンチャーながら、ボクサーとしては優しすぎる健二。
ボクシングのどつき合いで固い絆に結ばれた、不器用で孤独な二人
特に後編は前半が新次編、後半が健二編というような構成になっていて、ダブル主役のどちらにも同等のドラマがある。
二人のヴィヴィッドな生き様を軸に、多くの人々が絡み合い、出会いと別れを繰り返す。
時として、ご都合主義を感じさせるほど、登場人物たちの相関距離が近く、複雑に絡み合っているが、これもある種の演劇的な熱を作り出していて、決してマイナスではない。

全体を通して見ると、前編が新宿という舞台への集いのドラマで、後編は作り上げた世界が壊れてゆくドラマ。
その過程で、それぞれの登場人物の抱える葛藤もだんだんと変わってゆく。
俳優がきちんと体を作っていて、相当にボリュームあるボクシングのシークエンスは迫力満点の仕上がりで、物語の進行とともにそのボルテージもアップ。
後編のミッドポイントに当たる"新次VS裕二"、クライマックスとなる"新次VS健二"の試合は凄まじく、まさに映画史に残る魂の死闘だ。
ボクシングを通してしか人と繋がることができない健二と、敵を憎み拒絶することで強くなってきた新次の激突は、それまでの登場人物全て、いや観客をもその場の臨場に巻き込み、熱狂として昇華される。
木村多江の最後の絶叫は、誰もが忘れられないだろう。
そして、ある世代にとっては、心の奥底に記憶している懐かしい感覚。
2020年代に展開する昭和の熱く刹那的ボクシングドラマ、これは現在に生まれ変わった、もう一つの「あしたのジョー」だ。

二人の主人公を演じる菅田将暉とヤン・イクチュンは、ともにキャリアベストと言っていい大熱演。
ヤン・イクチュンは、前回取り上げた「我は神なり」のボイスキャストとしても素晴らしかったが、本当に多才な人だ。
彼らだけでなく、本作はキャストが皆当て書きしたのかと思うほどの奇跡的なハマりっぷり。
ヒロインの芳子役の木下あかり、片目の堀口を演じるユースケ・サンタマリア、ちょっと情けないジムのスポンサー役の高橋和也らは、主役に負けず劣らずの強い印象を残す。

だが、前後篇で描かれた多くの登場人物のエピソードは、寺山修司の原作に極めて忠実なラストで断ち切られ、放ったらかしで終わっているものが多い。
だがこの映画はこれで良いと思うし、新次と健二の物語として、これ以外の落とし方はありえない。
BRAHMANの「今夜」が余韻たっぷりに流れる中、ある人生は物語とともに終わり、ある人生は続いてゆく。
映画館の灯りがついても、リアリティたっぷりに作り込まれた世界観の余白の中で、彼らは観た人の心に確かに生き続けているのだから。

昭和の香り漂う本作には、ホッピーを使った庶民のカクテル「ホッピー割り」をチョイス。
戦後の1948年に発売されたホッピーは、元々ビールの代用として広まったものだが、今となってはこれはこれで独特の味わいだ。
発売元のホッピービバレッジは、ビアジョッキと甲種焼酎、ホッピーをキンキンに冷やし、ジョッキに焼酎1に対してホッピーを5の割合で注ぎいれる“三冷”を推奨している。

しかし、本作がここまでエネルギッシュな映画になり得たのは、やはりU-NEXTの配信用として作られたことが大きのだろう。
しがらみの無い政治ならぬ、しがらみの無い、あるいは縛りの少ない映画。
ネットフリックスやアマゾン作品を含めて、ネット配信系から自由を感じさせる作品が続々出て来てるのは考えさせられる。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
あっという間の157分の前篇。
目を逸らさないと自分に言い聞かせながら見入る147分の後篇。
まさに2017年を語るうえでは絶対に外せない映画でした。
あぁ、この生命力溢れる映画こそがこの時代に最も必要とされているのではないかとも思えましたよ。
2017/10/29(日) 23:29:36 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
まさに2017年に作る意味のある映画でした。
ネット配信、DVDも同時発売の新しい形の作品が、実は古典的風格を持つ最も映画らしい映画なのが面白いですね。
画面からほとばしる熱気にあてられて、心地よく疲れました。
2017/11/01(水) 22:03:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
女性は疎外感
ノラネコさん☆
女性にとっては女性の登場人物同様の疎外感を感じるほどに、リングの二人の体当たりの「愛情表現」にはもの凄いものがありました!
2017/11/03(金) 22:20:51 | URL | ノルウェーまだ~む #RQgqNaj.[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
確かに今時珍しい昭和テイストの漢の映画でした。
まあこの世界に没入するきっかけがあれば、性別関係なく入れるとは思いますけどね。
木村多江も「殺せー」って叫んでたし。
殴り合うことでしか見えない世界を垣間見た5時間でした。
2017/11/04(土) 20:30:56 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
原作越え
どうするんだと思っていたら予想を上回る出来でした。
二人が闘う+色々な薀蓄だけの原作をうまくふくらませた傑作だと思います。3人の女優の体当たり演技も柔な邦画に活を入れるに十分な熱演でした。
2017/11/09(木) 13:00:30 | URL | まっつぁんこ #L1vigvx6[ 編集]
こんばんは
>まっつぁんこさん
これは半世紀前の小説を現在と結びつけたシナリオのアイディア勝ちですね。
形態だけでなく、内容的にもフリーダムで、これからの映画の可能性を感じさせてくれました。
2017/11/13(月) 20:57:16 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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