2017年11月10日 (金) | 編集 |
彼女の中で、蠢く獣。
ジワジワ締め付けられる、オトナの心理スリラーだ。
トム・フォード監督、演出だけかと思っていたら脚本も自分で書いているとは驚き!
本当に天から二物も三物も貰った人はいるのだなあ。
こんなにも完成度の高く、映像的にもパンチのあるスリラーを、二作目の異業種監督が撮ってしまうのだから凄い。
何しろファーストショットからインパクト抜群である。
ブクブクに太った裸の女たちが奇妙なダンスを踊る映像から、彼女たちが“オブジェ”として横たわる展覧会の会場へ。
あえて嫌悪感を抱かせる退廃的な世界観は、そのまま作品が描こうとするテーマを示唆する。
※以降、なるべく予備知識無しで観ることをお勧めします。
この展覧会の主催者であるエイミー・アダムス演じるスーザンは、アートディーラーとして成功し、ハンサムな夫とロサンゼルスの豪邸で暮らしていのだが、その実夫のビジネスは火の車で、夫婦関係にも秋風が吹いている。
そんなある日、突然スーザンの元に、19年前に別れた元夫のエドワードから一冊の小説が送られてくるのだ。
彼女との別れから着想を得たという小説のタイトルは、「ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)」で、これは結婚していた当時、エドワードが不眠症のスーザンに付けたあだ名。
しかし、小説の内容は結婚生活とは何の関係もなく、嘗て二人が暮らしたテキサスの田舎を舞台にした暴力的な犯罪ものなのである。
小説の主人公のトニーは、ある夜ハイウェイで交通トラブルに巻き込まれ、三人の男たちに妻と娘と誘拐され、自分は荒野に置き去りにされる。
やがて、妻と娘は無惨な遺体で見つかり、トニーはマイケル・シャノンがいぶし銀で演じる刑事のボビーと共に犯人を捜し始める。
この小説で“夜の獣”たちが指すのは、犯人の男たちだろう。
ならば何故、エドワードは元妻の呼び名を、凄惨な犯罪小説の悪役に使ったのか。
虚構と現実が、相似するビジュアルイメージによってシンクロするなど、全編に渡って画的なセンスが抜群にいい。
読み進めるうちに、えも言われぬ不安に襲われるスーザンの精神を、何時しか小説の物語が浸食し、徐々に彼女の中の過去の記憶が呼び起こされてゆく。
映画の中盤、彼女は巨大な文字で「REVENGE」と描かれた美術作品から目が離せなくなるが、実は自分で買い付けたことを忘れている。
この描写を含め、トム・フォードは過度な説明を避けつつ、秘められたスーザンの心の中を巧みに暗喩してゆく。
小説のパートでトニーを演じるジェイク・ギレンホールが、過去パートのエドワードと一人二役を演じているのがキーだ。
スーザンは無意識のうちに、小説の主人公がエドワードだと感じ取っているのである。
ならば小説で描かれる犯罪と復讐は、エドワードとスーザンの過去の比喩なのか。
俗っぽく刺激的な小説部分が映画をグイグイ引っ張り、現在と過去とのコントラストにより、スーザンの本当の内面が見えてくる。
この作品を端的に言えば、現在にも過去にも問題を抱えている主人公が、自分がいったい何者なのかを知る物語だ。
そしてそれは、彼女自身が決して認めたくない自分でもある。
作家志望のエドワードと付き合い始めた頃、保守的でブルジョワな母親から、先の分からない彼との結婚を反対されたスーザンは、「私は母さんとは違う」と反発するのだが、母親は嘲笑しながらこう言うのだ。
「みていなさい、娘はいずれ母親の様になるのよ」と。
その言葉通り、彼女はわずか1、2年の結婚生活でエドワードの才能に見切りをつけ、最も残酷な形で彼を裏切り、分かりやすい成功への道を選んだものの、その心は未だ満たされない。
小説「ノクターナル・アニマルズ」に、19年前には感じなかった非凡さを感じとったスーザンが、エドワードとの会食に出かける時、胸の空いたセクシーな服を選びながら、土壇場でリップをふき取るあたりに、彼に対する複雑な心境が感じ取れる。
だが、この時点で彼女はまだ、既にプライドの鎧を内側からはぎ取られていること、エドワードが小説に込めた真の意図に気付いていないのである。
限りなく完璧な映像設計と、名優たちの怪演に彩られた、最も恐ろしい復讐譚にして、純粋過ぎる愛の物語。
トム・フォード恐るべし、この才能はホンモノだ。
今回は、“夜の獣たち”に引っかけて「レッド・アイ」をチョイス。
夜通し飲み通した後の迎え酒として知られるビアカクテルで、そのまま寝不足の充血した目が名前の由来。
トマト・ジュースをタンブラーの四割ほどまで注ぎ、ビールを同分量注いで、軽くステアする。
ビール風味のトマト・ジュースという感覚で、トマトの味わいが強い。
持たれた胃には炭酸ののど越しと、トマトの酸味が効いてスッキリ飲める。
記事が気に入ったらクリックしてね
ジワジワ締め付けられる、オトナの心理スリラーだ。
トム・フォード監督、演出だけかと思っていたら脚本も自分で書いているとは驚き!
本当に天から二物も三物も貰った人はいるのだなあ。
こんなにも完成度の高く、映像的にもパンチのあるスリラーを、二作目の異業種監督が撮ってしまうのだから凄い。
何しろファーストショットからインパクト抜群である。
ブクブクに太った裸の女たちが奇妙なダンスを踊る映像から、彼女たちが“オブジェ”として横たわる展覧会の会場へ。
あえて嫌悪感を抱かせる退廃的な世界観は、そのまま作品が描こうとするテーマを示唆する。
※以降、なるべく予備知識無しで観ることをお勧めします。
この展覧会の主催者であるエイミー・アダムス演じるスーザンは、アートディーラーとして成功し、ハンサムな夫とロサンゼルスの豪邸で暮らしていのだが、その実夫のビジネスは火の車で、夫婦関係にも秋風が吹いている。
そんなある日、突然スーザンの元に、19年前に別れた元夫のエドワードから一冊の小説が送られてくるのだ。
彼女との別れから着想を得たという小説のタイトルは、「ノクターナル・アニマルズ(夜の獣たち)」で、これは結婚していた当時、エドワードが不眠症のスーザンに付けたあだ名。
しかし、小説の内容は結婚生活とは何の関係もなく、嘗て二人が暮らしたテキサスの田舎を舞台にした暴力的な犯罪ものなのである。
小説の主人公のトニーは、ある夜ハイウェイで交通トラブルに巻き込まれ、三人の男たちに妻と娘と誘拐され、自分は荒野に置き去りにされる。
やがて、妻と娘は無惨な遺体で見つかり、トニーはマイケル・シャノンがいぶし銀で演じる刑事のボビーと共に犯人を捜し始める。
この小説で“夜の獣”たちが指すのは、犯人の男たちだろう。
ならば何故、エドワードは元妻の呼び名を、凄惨な犯罪小説の悪役に使ったのか。
虚構と現実が、相似するビジュアルイメージによってシンクロするなど、全編に渡って画的なセンスが抜群にいい。
読み進めるうちに、えも言われぬ不安に襲われるスーザンの精神を、何時しか小説の物語が浸食し、徐々に彼女の中の過去の記憶が呼び起こされてゆく。
映画の中盤、彼女は巨大な文字で「REVENGE」と描かれた美術作品から目が離せなくなるが、実は自分で買い付けたことを忘れている。
この描写を含め、トム・フォードは過度な説明を避けつつ、秘められたスーザンの心の中を巧みに暗喩してゆく。
小説のパートでトニーを演じるジェイク・ギレンホールが、過去パートのエドワードと一人二役を演じているのがキーだ。
スーザンは無意識のうちに、小説の主人公がエドワードだと感じ取っているのである。
ならば小説で描かれる犯罪と復讐は、エドワードとスーザンの過去の比喩なのか。
俗っぽく刺激的な小説部分が映画をグイグイ引っ張り、現在と過去とのコントラストにより、スーザンの本当の内面が見えてくる。
この作品を端的に言えば、現在にも過去にも問題を抱えている主人公が、自分がいったい何者なのかを知る物語だ。
そしてそれは、彼女自身が決して認めたくない自分でもある。
作家志望のエドワードと付き合い始めた頃、保守的でブルジョワな母親から、先の分からない彼との結婚を反対されたスーザンは、「私は母さんとは違う」と反発するのだが、母親は嘲笑しながらこう言うのだ。
「みていなさい、娘はいずれ母親の様になるのよ」と。
その言葉通り、彼女はわずか1、2年の結婚生活でエドワードの才能に見切りをつけ、最も残酷な形で彼を裏切り、分かりやすい成功への道を選んだものの、その心は未だ満たされない。
小説「ノクターナル・アニマルズ」に、19年前には感じなかった非凡さを感じとったスーザンが、エドワードとの会食に出かける時、胸の空いたセクシーな服を選びながら、土壇場でリップをふき取るあたりに、彼に対する複雑な心境が感じ取れる。
だが、この時点で彼女はまだ、既にプライドの鎧を内側からはぎ取られていること、エドワードが小説に込めた真の意図に気付いていないのである。
限りなく完璧な映像設計と、名優たちの怪演に彩られた、最も恐ろしい復讐譚にして、純粋過ぎる愛の物語。
トム・フォード恐るべし、この才能はホンモノだ。
今回は、“夜の獣たち”に引っかけて「レッド・アイ」をチョイス。
夜通し飲み通した後の迎え酒として知られるビアカクテルで、そのまま寝不足の充血した目が名前の由来。
トマト・ジュースをタンブラーの四割ほどまで注ぎ、ビールを同分量注いで、軽くステアする。
ビール風味のトマト・ジュースという感覚で、トマトの味わいが強い。
持たれた胃には炭酸ののど越しと、トマトの酸味が効いてスッキリ飲める。

![]() 送料無料 バドワイザー330ml瓶×24本 1ケース ロングネックボトル Budweiserキリン ライセンス生産 キリン 海外ビール アメリカ 長S |
スポンサーサイト
この記事へのコメント
こんばんはー
後からどんどん面白さが理解できるというか、考えてるうちやっぱり面白いなぁと。
深い作品でしたよね。こういう余韻の残る作品、大好物です。そろそろベストも決めないとか、、、
(早い)
後からどんどん面白さが理解できるというか、考えてるうちやっぱり面白いなぁと。
深い作品でしたよね。こういう余韻の残る作品、大好物です。そろそろベストも決めないとか、、、
(早い)
>migさん
画で魅了し、きっちりと頭を使わせる。
こういう映画はいいですね。
本当に才能に恵まれた人というのはいるものなのですね。
画で魅了し、きっちりと頭を使わせる。
こういう映画はいいですね。
本当に才能に恵まれた人というのはいるものなのですね。
2017/11/15(水) 22:46:16 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは。いやいや…この作品にはすっかりノックアウトされた私です。
ラストが素晴らし過ぎる。そう、こうでなければ。
決して陳腐にならずに、人間関係の襞を描いていて、すごい監督だな、と思いました。
ラストが素晴らし過ぎる。そう、こうでなければ。
決して陳腐にならずに、人間関係の襞を描いていて、すごい監督だな、と思いました。
>ここなつさん
このラストは唸りましたねえ。
エドワードの最後の罠に「うわ〜」となりますが、彼の想いを想像するとこれもまた切なくて。
センス・オブ・ワンダーに溢れた作品でした。
このラストは唸りましたねえ。
エドワードの最後の罠に「うわ〜」となりますが、彼の想いを想像するとこれもまた切なくて。
センス・オブ・ワンダーに溢れた作品でした。
2017/12/13(水) 00:30:00 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
夫ハットンと暮らすアートギャラリーのオーナー、スーザンは、物質的には恵まれながらも心満たされない毎日を送っていた。 週末、20年前に離婚した元夫エドワードから、彼が彼女に捧げて書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が届く。 その小説を読むうちに、二人が育んだ愛と苦い別れが思い出されてゆく…。 ミステリー・ロマンス。
2017/11/11(土) 13:08:50 | 象のロケット
☆☆☆☆- (10段階評価で 8)
11月9日(木) シネ・リーブル神戸 アネックス(旧:朝日ホール)にて、12:15の回を鑑賞。
2017/11/17(金) 10:41:39 | みはいる・BのB
エイミー・アダムスさんを観にいったわけだが。
2017/11/19(日) 09:25:20 | 或る日の出来事
復讐? 公式サイト http://www.nocturnalanimals.jp 原作: ノクターナル・アニマルズ (オースティン・ライト著/ハヤカワ文庫)監督・脚本: トム・フォード 「シングルマ
2017/11/21(火) 15:14:32 | 風に吹かれて
ファッションデザイナー兼映画監督!?
トム・フォード監督最新作!
『ノクターナル・アニマルズ』
~あらすじ~
アートギャラリーの経営者スーザン(エイミー・アダムス)は、夫ハットン(アーミー・ハマー)と裕福な生活をしていたが、心は空っぽだった。ある日彼女のもとに、20年前に離婚した元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から、彼が書いた「夜の獣たち(ノクターナル・アニマ...
2017/11/26(日) 22:58:52 | シネマ・ジャンプストリート 映画のブログ
映画『ノクターナル・アニマルズ』は、かのトム・フォードの監督作品第2弾。1作目の
2017/11/29(水) 23:42:41 | 大江戸時夫の東京温度
予告編で勝手に思っていたのとは全然違う構成だった。そしてこの構成でこの展開だとなると、口さがない言い方をすれば、所詮金持ちの芸術家気取りの中年の女(夫持ち)が、別れた元夫から上梓された初版本を読んで、心の隙間が埋められるのではないか、と錯覚する物語。に過ぎない。なのだけれど…。いや…、本作にはかなり、いや完全にノックアウトさせられた。弱いのは誰の心なのか?別れた夫?毎夜眠れない孤独な女?一本...
2017/12/04(月) 17:03:00 | ここなつ映画レビュー
『シングルマン』で監督デビューしたファッションデザイナー、トム・フォードがメガホンを取って放つサスペンスドラマ。オースティン・ライトの小説「ミステリ原稿」を基に、リッチな生活を送る主人公と彼女の元夫が書いた過激な小説の世界がリンクしていく様子を描く。『アメリカン・ハッスル』などのエイミー・アダムスが主人公を演じる。共演は『ナイトクローラー』などのジェイク・ギレンホールや『ドリーム ホーム 9...
2018/01/16(火) 16:12:46 | 映画に夢中
| ホーム |