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花筐/ HANAGATAMI・・・・・評価額1750円
2017年12月09日 (土) | 編集 |
あゝ、幻想の青春、幻想の時代よ。

大林宣彦監督による、遺言的"古里三部作"にして"戦争三部作"の最終章。

新潟県長岡、北海道芦部に続いて舞台となるのは、玄界灘を望む佐賀県の唐津。
太平洋戦争開戦直前の時代、若者たちの群像劇が繰り広げられる。

本作が「この空の花 長岡花火物語」「野のなななのか」の延長線上にあるのは明らかだが、昭和の文豪・檀一雄の短編小説から脚色された物語は、幻想青春映画としてのカラーが強い。

例によってここでは生と死も、過去も現在も、男も女も作家の脳内シネマティック・ワンダーランドで混沌と溶け合い、一つの宇宙を形作る。
癌に冒され余命宣告を受けた作者が、死と向き合いながら完成させた本作は、2017年に生まれるべくして生まれた、まさに執念の塊としての映画。

疾風怒濤のテリングに圧倒され、一度観ただけではとてもじゃないが咀嚼し切れず、映画の全体像を掴めるのは二度目の鑑賞からだろう。

1941年春。
17歳の榊山俊彦(窪塚俊介)は、アムステルダムに暮らす両親のもとを離れ、戦争未亡人の唐津の叔母(常盤貴子)の元に身を寄せる。
大学予備校での新学期は、アポロンのように逞しい肉体を持つ鵜飼(満島真之介)、虚無僧のような佇まいの吉良(長塚圭史)、お調子者の阿蘇(柄本時生)ら学友と賑やかな日々。
肺病を患ういとこの美那(矢作穂花)に想いを寄せ、女友達のあきね(山崎紘菜)と千歳(門脇麦)らも巻き込んで、青春を謳歌する。
しかし、美那の病状は少しずつ悪化し、世の中は戦争の巨大な渦に吸い込まれてゆく。
「青春が戦争の消耗品だなんて、まっぴらだ!」
自らの心に火をつける若者たちだが、運命の12月8日がやってくる。
その夜、皆は叔母の屋敷に集い、晩餐会を開くのだが・・・・


CMディレクター、自主制作映画作家として活躍していた大林宣彦監督が、長編商業映画第一作として1977年に発表したのが、サイケデリックなホラーファンタジー映画「HOUSE / ハウス」だ。
現在では日本のみならず、米国でもカルトシネマ化して人気を博している作品だが、実は本作の初稿は「HOUSE / ハウス」以前に書かれており、本来ならば40年前に「花かたみ」として映画化されているはずだった。
なぜそうならなかったかについて、作者自身は「時代」だと語っている。
戦後30年が経過した70年代には、日本人は戦争の時代を積極的に振り返らなくなっていた、忘れたがっていた。
だからその時代の、刹那的青春を描く幻のデビュー作は実現しなかった。
それから40年の歳月が流れ、戦争の記憶は更に遠くなり、忘却の彼方に消え去りそうな今、本作を含む戦争三部作が作られたのは、やはり時代の求めと作家の強烈な創作欲求が合致したと言うことなのだろう。

とはいえ、基本現在に物語の起点を置き、その土地の持つ遠大な記憶を取り込んで、時空を巡る壮大な映像クロニクルとした前二作と本作は、映画の構造もテリングのスタイルもだいぶ異なったものとなった。
唐津くんちの祭やキリシタンの歴史など、土地の特色は効果的に取り込まれているが、何よりも本作には窪塚俊介演じる俊彦=檀一雄=大林宣彦という明確な主人公がいて、終始彼の視点で物語は語られる。
檀一雄の小説では、物語の冒頭に「その町はまず架空の町であってもよい」と書かれていて、これは前二作の様に舞台となる土地の記憶ではなく、その時唐津にいた若者たちの記憶を宿した主人公の個人史であり、彼の抱いた葛藤は最終的には映画を見ている私たち自身への問いかけとなるのである。

この極めてパーソナルでありながら、無限の広がりを持つ作品世界は、1938年生まれの最後の軍国少年世代である作者の人生に、深く根ざしていることは明らかだ。
大林家は代々続く医師の家系で、当時研究医であった大林少年の父は、彼が1歳の時に軍医として出征し、終戦までの6年間一度も帰還することなく戦地で過ごしている。
本作のテーマを象徴する「青春が戦争の消耗品だなんて、まっぴらだ!」という印象的な台詞は、撮影台本では「戦争が青春だなんて、まっぴらだ!」で、現場で作者自身によって書き換えられたもの。
本来映像で語るスタイルの作者が、あえて台詞をより分かりやすくしてまで言いたいことを強調したのは、研究者として一番大切な時間を戦争に奪われた、若かりし頃の父や当時の若者たちの気持ちを明確にしたかったからだろう。
ここに浮かび上がるのは、戦争という圧倒的な力による死に抗い、切実に自由を求め刹那的に突き進む若者たちの生と性。
自らの生殺与奪の権を権力に握られ、理不尽な戦争へと追い立てられた世代の無念と、親世代の真実を知らず、軍国少年として図らずも彼らの死を後押ししてしまった、作者の世代の自責の念が複雑に入り混じった魂の遺言。
まさに、人生これだけは言わずに死ねないという、映画作家・大林宣彦の命をかけた執念の一人語りなのである。

もちろん、映画はエンターテイメント。
圧倒的な情報量を持つ作家のシネマティック・ワンダーランドに遊べば、169分の長尺も一気呵成。
私小説的スタンスと、40年前に書かれた脚本を基にしたことで、本作は老いてなおアヴァンギャルドな大林宣彦と、野心に溢れた若き頃の大林宣彦のハイブリッドの様な面白さがあるのだ。
この作品は、「この空の花 長岡花火物語」「野のなななのか」に続く三部作の最終作であるのと同時に、「EMOTION=伝説の午後・いつか見たドラキュラ」をはじめとした自主制作時代の大林映画と、初の商業映画「HOUSE / ハウス」の間に入る作品としてもしっくりとくる。
常盤貴子が妖艶に演じる、皆の憧れの叔母さまは本作のキーパーソンであり、彼女と肺病を患った薄幸の美少女・美那の、生命の象徴たる"血"を介した関係は、ロジェ・ヴァディムの「血とバラ」にオマージュを捧げた「EMOTION〜」とイメージが重なる。
また「HOUSE / ハウス」の本当の主役たる人食いの家は、南田洋子演じるおばちゃまが、戦争に行ったまま戻らなかった愛する人を何十年も待ち続けた結果、妖怪化したものだ。
「HOUSE / ハウス」がオリジナルの「花かたみ」の企画が頓挫した後に作られたことを考えると、本作の叔母さまの戦争未亡人という設定の符合は偶然とは思えない。
テリングのスタイルも、あえて合成であることを隠さないコンポジットや、原色を強調したカラー効果、クローズアップの多用などは、前二作よりむしろ自主制作時代や「HOUSE / ハウス」からテレビのスペシャルドラマ「麗猫伝説」あたりまでの初期の作品のテイストに近く、映画作家・大林宣彦の古きと新しきが同居する集大成としてもユニークな作品だ。


作者が本作を「観てもらいたい」と語る若者世代ど真ん中、19歳で美那役を演じた矢作穂香は、東京国際映画祭のQ&Aセッションで、「最初観た時は何が何だかよく分からなくて、理解するのに時間がかかったのだけど、何度も観るうちにどんどん違う魅力が出てきた」と正直過ぎる感想を述べていたが、私も同感。
こちらが映画文法に慣れ過ぎているのもあると思うが、近年の大林映画は、情報量が凄いのとフリーダムが加速し、面白いのだけど一回観ただけでは表層を捉えるのがやっと。
前二作も初見より二度目の方が遥かに面白かったが、今回も二回目の鑑賞でようやくデイープな作品世界に浸ることが出来た。
これほど純粋で、切なく美しい青春映画はちょっと無い。

ちなみに、テーマは異なるのだが、本作と少し似た印象を抱いたのが、アレハンドロ・ホドロフスキーのこちらも遺言的自分語り「エンドレス・ポエトリー」だ。
既存の約束ごとに縛られない、自由なスタイルももちろんだが、次第に濃さをます死の香りがどちらの作品でも異様な緊張感を作り出す。
東西の元祖映像の魔術師が、齢80にして老いと若さを同時に感じさせる新たな代表作を作り上げているのは、長年のファンとして非常に感慨深い。
大林監督の癌は幸いにも進行が止まった状態とのことで、両巨匠には是非とももう一本は撮っていただきたい。

12月8日の最後の晩餐で、登場人物たちはアペリティフにベルモットを選んでいた。
白ワインベースに香草を配合して作られるベルモットには、イタリアで多く作られる甘口のスイート・ベルモットとフランス発祥の辛口のドライ・ベルモットがあるが、甘いノスタルジイの中に辛口のテーマを含む本作には、辛口の代表格「ノイリー・プラット ドライ」をチョイス。
まろやかな風味でストレートでも美味しいが、マティーニやカールソーなど様々なカクテルにも欠かせない、名バイブレイヤーだ。

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コメント
この記事へのコメント
分からんかった。でも、すんげえ童貞っぽいなとは思った。
常盤貴子から三人の女学生まで血を吐かせながら、もう女が女が好きで好きでみたいなのが伝わってきた。そのくせ、肉体とかよりも女の子の精神が好きって感覚が、おかしいくらいロマンチック。
2018/02/12(月) 10:04:39 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
大林作品は昔からむっつりスケベなところがあって、それを思いっきり精神性のオブラートで包むから余計にエロいという。
80歳近くになってこの艶っぽさは凄いです。
2018/02/15(木) 22:04:25 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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1941年・春。 17歳の榊原俊彦は、両親が駐在するアムステルダムを離れ、佐賀県唐津市の叔母の元で暮らすことになった。 学校ではアポロ神のように雄々しい鵜飼、虚無僧のような吉良、お調子者の阿蘇らと親しくなる一方、肺病で療養中の従妹・美那には淡い恋心を抱く。 ところが、自由気ままな日常は、いつしか戦争の波に飲み込まれてしまう…。 青春ドラマ。
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