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ショートレビュー「希望のかなた・・・・・評価額1750円」
2017年12月27日 (水) | 編集 |
希望の国のリアル。

一年の最後にこんな傑作と出会えるとは。
2011年の「ル・アーヴルの靴みがき」以来となるアキ・カウリスマキの長編最新作。
物語の主人公は二人いる。
内戦の続くシリアのアレッポで家族を失い、トルコへ脱出後にヨーロッパを転々として、フィンランドに流れ着いた難民の青年カーリド。
もう一人は、衣料品のセールスマン稼業に嫌気がさし、アル中の妻とも別れた初老の男ヴィクストロム。
年齢も国籍も境遇も異なる二人だが、閉塞した今を変え、未来に希望を見出したいという心情は共通している。

前半はフィンランドで難民申請し、旅の途中で生き別れとなった妹を探すカーリドと、新たにビジネスを始めるヴィクストロム、人生の転換期にある二人の物語を並行に描く。
この二人は、持てる者と持たざる者でもある。
ヴィクストロムは、衣料品の在庫を売却した金をギャンブルにつぎ込み、運良く一攫千金。
その金でゴールデン・パイントというレストランを居抜きで買い取って、第二の人生を始める。
わらしべ長者とまでは行かなくても、それなりに恵まれたリスタートだ。
一方のカーリドは、街を歩けばスキンヘッドのネオナチ集団に襲われ、入管当局には難民申請を不条理に却下され、強制送還されそうになる。
当局が「アレッポで戦闘は行われていない」ことを理由に、申請を却下した直後に、TVからアレッポ爆撃のニュースが流れてくる皮肉。
初めから持てる者の人生はベターになってゆくが、持たざる者の運勢はとことん悪い。

だが、ある瞬間から、全く接点のない二人の人生は奇妙に絡み合うのだ。
収容施設を脱走したカーリドが、ゴールデン・パイントの裏で寝ていたところヴィクストロムと出会い、一悶着の末に境遇に同情され店に雇われることに。
ここから、二人は水も甘いも人生のある程度の領域を共有する様になる。
モチーフは、欧州を揺るがす難民問題とどストレート。
カウリスマキの視点は、いつもと同じ様に切なく優しくユーモラスだ。
歌唄いたちの詩が、寡黙な登場人物の心情を代弁する。
客の減少に悩んだヴィクストロムが、付け焼き刃で店をスシバーに改装するシークエンスは笑った。
あのニシンの塩漬けにぎりはちょっと食べてみたい(笑
しかし一見すると穏やかなテリングの裏側には、作家の自国社会の不寛容に対する沸々とした怒りが沸き立っているように感じる。

前作の「ル・アーヴルの靴みがき」は、フランスの港町を舞台に、病を患った貧しくも慎ましい靴みがきの男と移民たちの物語だ。
あの作品でも様々な葛藤はあれど、物語全体を覆うトーンは優しさと善意が優っていた。
ならば、母国フィンランドの港町を舞台とした本作ではどうか。
フィンランドには戦争がない。
正確には、1944-45年に駐留ドイツ軍との間で行われたラップランド戦争以来、国内が戦場になったことは一度もない。
それだけで、銃弾飛び交う故郷を捨てざるを得なかったカーリドにとっては、希望の国

しかし現実は残酷だ。
身長171センチのカーリドは、北欧にあってはかなり小柄。
その子供の様に小さく弱い彼を、執拗に排撃しようとする巨漢のネオナチたちは、難民の背景にあるものなど全く関心が無い、社会の不寛容の象徴と言える。
妹と再会し、兄としての責務を果たしたカーリドを襲う、余りにも理不尽な運命からは、作者の平和への深い祈念と静かな怒りが伝わってくる。
たどり着いたはずの希望は、まだ遥か先だった。
振り返って、難民認定率僅か1パーセント未満にも関わらず、偽装難民ばかりが「問題」として取り上げられる我が国にも、はたして「希望」はあるのだろうか。

フィンランドというと、蒸留酒のイメージが強いが、実はビール大国。
劇中でも登場人物たちがビールを飲んでいた。
今回はフィンランドの代表的な銘柄の一つ、ハートウォール社の「ラピン・クルタ」をチョイス。
「ラップランドの黄金」を意味し、その名のとおり最北部の北極圏の水を使った、喉越しスッキリ、清涼なピルスナー・ラガー。
日本の冬の幸との相性も抜群だ。

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2017/12/30(土) 21:24:21 | 象のロケット
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