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ブリムストーン・・・・・評価額1650円
2018年01月11日 (木) | 編集 |
この世界に神はいるのか。

開拓時代のアメリカ。
謎めいた“牧師”によって執拗に追われ、攻撃されるある女性の人生を、4章構成で描く異色の西部劇
主人公のリズをダコタ・ファニング、少女時代をエミリア・ジョーンズが演じ、屈強な肉体と歪んだ信仰を持つ牧師をガイ・ピアースが怪演する。
監督・脚本はオランダ出身のマルティン・コールホーヴェン。
アメリカ資本も入ってはいるが、実際のロケーションもプロダクションも、オランダをはじめとする欧州の複数の国の合作体制で行われているヨーロッパ映画だ。
今まであまりスポットが当てられたなかった、西部開拓時代の女性史の闇。
マカロニにオマージュを捧げた、パワフル&ダークなダッチ・ウエスタンである。

とある村で助産師として働く唖の女性リズ(ダコタ・ファニング)は、年の離れた夫と二人の子どもと共に暮らしている。
夫の連れ子である息子はなかなか母親として認めてくれないが、村人からは頼られ、夫には愛されて、幸せな生活を営んでいる。
しかしある時、村の教会に新しい牧師(ガイ・ピアース)が赴任し、礼拝で彼の顔を見たリズは恐怖に戦慄する。
すると、礼拝に来ていた妊婦が産気づき、リズはすぐに対処しようとするが難産となり、母親の命を救うため、やむなく赤ん坊を犠牲にする。
この事件によって、彼女と村人の間には微妙な距離ができ、逆恨みした父親が家に押しかけて来て、家畜を殺されてしまう。
牧師はリズに「汝の罪を罰する」と告げると、しばしば彼女と家族の周りに現れ、少しずつ精神を追い詰めてゆく。
実は、リズと牧師の間には、二人だけが知っている恐ろしい因縁があった・・・・


4章からなる物語は、リズが小さな村で家族と幸せに暮らす第1章から始まり、突然の異物“牧師”の出現によって非日常へと突入すると、第2章、第3章と彼女の過去へと遡ってゆく。
現在を起点に時間を逆行し、「なぜこうなったのか?」を描いてゆく作品には、主人公の男の自殺の瞬間から、彼の人生を遡ることで現代韓国史を描き出した「ペパーミント・キャンディー」が有名だが、本作の構成もまたきちんとした意味がある。
はたして牧師は何者なのか、リズと過去に何があったのか、第1章で提示された謎で観客の興味を引っ張り、徐々に二人の間にある因縁が明かされて行くと共に、物語の全貌と映画のテーマがくっきりと浮き上がってくるという仕掛け。

タイトルの「ブリムストーン」とは燃える石、硫黄のこと。
「Fire and brimstone」の慣用句になると神の怒りを指し、黙示録20章は「彼ら(獣と偽預言者)は生きたまま硫黄の燃える炎の池に投げ込まれた(These both were cast alive into a lake of fire burning with brimstone.)」とその光景を描写している。
本作で描かれるリズの人生は、まさにいくつもの炎によって焼かれる様な過酷なものだ。
第1章で現在の幸せを失うと、第2章ではなぜか一人で荒野を彷徨う少女時代の彼女が、人買いの手に落ち娼館に売られ、娼婦に身を落とす。
男たちに暴力的に支配される日々、しかしそんな生活ですら甘受する彼女の前に、またしても牧師が姿を現わす。
最初ジョアンナと名乗っていた彼女が、なぜリズという名に変わったのか、なぜ普通に話していたのに唖になったのか。
ミステリアスに展開する映画は、第3章で起点であるオランダ移民のコミュニテイにたどり着き、遂に牧師とリズの本当の関係が明かされるのである。

第2章、第3章で描かれるのは、女たちへの徹底的な抑圧だ。
妻は夫との性交渉を拒む権利を持たず、抵抗すれば鞭でひどく殴られ、口ごたえすれば禍々しい金属の口枷を嵌められる。
その名も娼館“インフェルノ”に囚われた娼婦たちは、どんなに男にいたぶられても反撃を許されない。
キスを拒んで男の舌を噛めば、目には目の論理で舌を切り取られる。
それでも彼女たちが声を上げようとするなら、命を賭けるしかない。
しかし夫の目の前で首を吊って見たとしても、既に愛のカケラも持たない相手にはなんの痛みももたらさない。
これは#MeTooの嵐が吹き荒れる今、ある意味で非常にタイムリーな作品だ。
力が正義のマッチョな男性優位社会の中で、ジョアンナ改めリズをはじめ、決定権を持たない女性たち人生は、ほとんど男運まかせ。
リズの様に最悪の巡り合わせだと、タイトル通り心も体も炎で焼かれ、たとえ優しい男に出会えたとしても、彼らは弱肉強食の荒野では相対的に無力だ。
彼女には歪んだ信仰と、欲望という偽りの愛に基づく、ありとあらゆる暴力が降りかかり、牧師はその比喩的な象徴と言える。

しかも本作はヨーロッパ映画。
ハリウッド映画にありがちな予定調和を、ことごとく裏切ってくる。
虐げられる者に助けは来ず、無垢なるものは失われ、第1章の後日談となる最終の第4章に至っても、物語は観客の望むものは見せてくれない。
劇中、神の視点を思わせる鳥瞰ショットが何度も出てくるが、この映画の世界には男の肉欲を満たすための神はいても、女たちを守る神はどこにもいないのである。
物語の終わりに微かに見える希望も、あくまでもリズの人間としての尊厳と自由を求める行動によってもたらされたもので、神の言葉を都合よく語り、信仰を盾に性差別と抑圧を正当化する、男性原理的キリスト教社会に対する痛烈な批判と言える。
そういえば、アメリカ開拓時代の奴隷制度の闇を最初に描いた「アンクル・トム」も、ハンガリーのゲザ・フォン・ラトヴァニ監督によるヨーロッパ映画だった。
本作もオランダ人作家が、異国に渡った同胞をモチーフとしたからこそ描けた、個性的かつ非凡な西部劇である。

声を封じられたリズを、説得力たっぷりに演じるダコタ・ファニングが素晴らしい。
少女の様な無垢さと母親の貫禄を同時に感じさせる成熟した演技を見せるが、まだ23歳だったのには逆に驚いた。
子役の頃から見てるので、勝手にもう30歳くらいかと思っていた。
彼女のローティーン時代を演じるエミリア・ジョーンズも、ダコタの十代の頃とそっくりで、一瞬どちらが演じているのか分からなくなるほどのピッタリなコンビネーション。
しかし、そんな魅力的な主人公と互角以上の存在感なのが、最狂の変態ストーカー“牧師”を演じたガイ・ピアースだ。
あまりのゲスっぷりにリアルな人間ではなく、霊的な悪鬼の類かと思っていたくらい。
リズの首元にヴァンパイアのキズの様なもの(鞭のキズなのだろうが)があったり、一度死んだはずなのにピンピンして現れたり、リズが牧師の超自然的な力を匂わせたり、明らかにそういう印象に持って行っている。
これは欲望の限りに虐げる男と、懸命に抗う女を象徴的に描いた寓話なので、牧師は偽りの神の子=悪魔という捉え方で良いのかも知れない。

今回はオランダ系移民社会に端を発する物語なので、オランダを代表するビール銘柄「ハイネケン ロングネック」をチョイス。
1873年に、ジェラルド・ハイネケンがアムステルダムの一角で創業し、140年後の現在では世界中に愛飲者がいるフルーティーで非常に飲みやすいビール。
付け合わせる料理も選ばない使い勝手の良い一本で、キリリと冷やしてグイッといただきたい。

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コメント
この記事へのコメント
牧師
第一章と第四章の牧師は悪魔?の化身ととらえました。
“虐げられる者に助けは来ず、無垢なるものは失われ”⇒どうしても救いを求める自分を発見しました(笑)
2018/01/12(金) 08:14:30 | URL | まっつぁんこ #L1vigvx6[ 編集]
こんばんは
>まっつぁんこさん
やっぱあいつ一度死んでますよねえ・・・
思いっきり喉かっ切られてたし。
本当に救いの無い話でした。
2018/01/12(金) 20:19:23 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
逆恨み
当然の報いを受けたのに化けて出た。
そして逆恨みの報復をした。
マシューがかわいそうでした(>_<)
2018/01/13(土) 11:45:58 | URL | まっつぁんこ #L1vigvx6[ 編集]
こんばんは
>まっつぁんこさん
子供殺しもハリウッド映画は避けますからね。
色んな意味でアンチテーゼですね。
2018/01/14(日) 20:10:33 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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ブリムストーン@新宿武蔵野館
2018/01/12(金) 08:09:07 | あーうぃ だにぇっと
開拓時代のアメリカ。 小さな村で歳の離れた夫と2人の子供と暮らす美しい女性リズ。 彼女は言葉を発することは出来ないが、助産師として村では頼られる存在だった。 ある日、村にやって来た新しい牧師を見て、リズは顔色を変える。 その後、一家に次々と不幸が襲い掛かることに…。 サスペンス・スリラー。 R15+
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