2018年01月25日 (木) | 編集 |
シリアルキラーvsシリアルキラー。
嘗て多くの人を殺めた殺人鬼、ビョンスはアルツハイマー症を発症し、表の仕事も裏の仕事も引退。
ところが、彼の住む街で新たな連続殺人事件が起こり、ひょんなことから二人の元・現シリアルキラーが邂逅を果たす。
主人公が認知症のサスペンスは、ナチスの戦争犯罪を扱った「手紙は覚えている」が記憶に新しいが、本作は主人公が忌むべき存在である殺人鬼というのがまずは意表を突く設定。
まあ確かに人殺しだって人間だから、歳もとれば認知症にもなるだろうけど、殺人鬼と認知症という二つのキーワードをリンクさせた原作者のアイディアはまことに秀逸。
しかもデジュと名乗った若い方のシリアルキラーは、いつに間にかビョンスに接近し、しれっと彼の娘のウンヒと恋仲になっているから、お父さんビョンスは大慌て。
無慈悲に他人の命を奪う二人の表の職業が、本来命を守る側の獣医と警官なのも面白い。
「主は与え、主は奪う」は聖書のヨブ記の言葉だが、神の様に他人の生殺与奪を握る殺人者もまた、奪い、そして与えるという訳か。
もっとも、やってることは同じだが、二人の動機、というか“殺しの思想”は対照的。
ビョンスは少年時代に暴力で家族を苦しめる父親を殺したことから、「正しい殺人もある」という考えに取り憑かれ、そこらじゅうにいる“世の中のゴミ”を、自分の基準でジャッジし葬ってきた。
身勝手極まりないが、どちらかといえば歪んだひとりビジランテの様なものだろう。
一方のデジュは、幼い頃にやはり母親に暴力を振るう父親を刺そうとしたところ、守ったはずの母親に殴られて瀕死の重傷を負ったのがトラウマ要因。
母親の裏切りによって、彼は全ての女性を恨み、殺すようになる。
殺しのスタイルも、素手で殺すビョンスに対してデジュは道具を使うなど、似ている様で、実はあらゆる点が対照的な二人のシリアルキラーの対決こそ、この映画の核心だ。
お互いの闇を知る怪物同士、父親と恋人の正体を知らない、無垢なるウンヒを間に挟んだ命がけの駆け引きは非常にスリリング。
ビョンスは、必死にウンヒをテジュから引き離して守ろうとするのだが、何しろ認知症なので、自分が何をやっているのか、次の瞬間には忘れてしまう。
例えば、ウンヒから映画館でデートしていると聞くと、急いで迎えに行くのだが、いざ映画館に入ると目的を忘れて、映画を観て笑い転げているうちに二人はいなくなってしまったり、肝心のデジュが何者かもしばし失念してしまうのだ。
“覚えられない”という現象が、サスペンスを増幅するのと同時に、もの哀しくシニカルな笑いにも繋がって、他に類の無い独特のムードを醸し出す。
またビョンスの視点以外のサブプロットを、極力排しているのもポイント。
病の進行と共に、彼の意識はだんだんと現実と妄想が入り混じったものになり、スクリーンに映っているものが事実なのかも曖昧になってくるのだ。
いったい何が本当の記憶なのか、誰が事件を起こしてるのかも含め、自分自身を信じられないビョンスと一体化した観客も、大いに混乱するしかない。
この辺り、ちょっとクリストファー・ノーランの出世作、「メメント」を思わせる凝った作劇で、心理サスペンスとかなりボリュームのあるアクションシークエンスとのメリハリも効いている。
残酷性が抑えられていることもあり、韓国犯罪映画の鬱要素は全部入ってるのに、後味は結構スッキリ。
ほぼ出ずっぱりで大怪演を見せる名優ソル・ギョングと、テジュを演じるキム・ナムギルとの火花散る演技合戦、ウンヒ役のキム・ソリョン、オ・ダルスらのキャスティングも絶妙。
心の迷宮に彷徨う118分、予想外の展開に何度も驚かされる、秀逸なクライムスリラーだ。
今回は、ラムベースのカクテル「アウトロー」をチョイス。
ラム20ml、テキーラ10ml、ウゾ10ml、グリーン・ミント・リキュール10ml、ライム・ジュース10mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
好きな人にはたまらない、ウゾのアニス香がアクセントの相当に強いカクテルだが、グリーン・ミントの爽快感とライムの酸味が飲みやすく演出している。
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嘗て多くの人を殺めた殺人鬼、ビョンスはアルツハイマー症を発症し、表の仕事も裏の仕事も引退。
ところが、彼の住む街で新たな連続殺人事件が起こり、ひょんなことから二人の元・現シリアルキラーが邂逅を果たす。
主人公が認知症のサスペンスは、ナチスの戦争犯罪を扱った「手紙は覚えている」が記憶に新しいが、本作は主人公が忌むべき存在である殺人鬼というのがまずは意表を突く設定。
まあ確かに人殺しだって人間だから、歳もとれば認知症にもなるだろうけど、殺人鬼と認知症という二つのキーワードをリンクさせた原作者のアイディアはまことに秀逸。
しかもデジュと名乗った若い方のシリアルキラーは、いつに間にかビョンスに接近し、しれっと彼の娘のウンヒと恋仲になっているから、お父さんビョンスは大慌て。
無慈悲に他人の命を奪う二人の表の職業が、本来命を守る側の獣医と警官なのも面白い。
「主は与え、主は奪う」は聖書のヨブ記の言葉だが、神の様に他人の生殺与奪を握る殺人者もまた、奪い、そして与えるという訳か。
もっとも、やってることは同じだが、二人の動機、というか“殺しの思想”は対照的。
ビョンスは少年時代に暴力で家族を苦しめる父親を殺したことから、「正しい殺人もある」という考えに取り憑かれ、そこらじゅうにいる“世の中のゴミ”を、自分の基準でジャッジし葬ってきた。
身勝手極まりないが、どちらかといえば歪んだひとりビジランテの様なものだろう。
一方のデジュは、幼い頃にやはり母親に暴力を振るう父親を刺そうとしたところ、守ったはずの母親に殴られて瀕死の重傷を負ったのがトラウマ要因。
母親の裏切りによって、彼は全ての女性を恨み、殺すようになる。
殺しのスタイルも、素手で殺すビョンスに対してデジュは道具を使うなど、似ている様で、実はあらゆる点が対照的な二人のシリアルキラーの対決こそ、この映画の核心だ。
お互いの闇を知る怪物同士、父親と恋人の正体を知らない、無垢なるウンヒを間に挟んだ命がけの駆け引きは非常にスリリング。
ビョンスは、必死にウンヒをテジュから引き離して守ろうとするのだが、何しろ認知症なので、自分が何をやっているのか、次の瞬間には忘れてしまう。
例えば、ウンヒから映画館でデートしていると聞くと、急いで迎えに行くのだが、いざ映画館に入ると目的を忘れて、映画を観て笑い転げているうちに二人はいなくなってしまったり、肝心のデジュが何者かもしばし失念してしまうのだ。
“覚えられない”という現象が、サスペンスを増幅するのと同時に、もの哀しくシニカルな笑いにも繋がって、他に類の無い独特のムードを醸し出す。
またビョンスの視点以外のサブプロットを、極力排しているのもポイント。
病の進行と共に、彼の意識はだんだんと現実と妄想が入り混じったものになり、スクリーンに映っているものが事実なのかも曖昧になってくるのだ。
いったい何が本当の記憶なのか、誰が事件を起こしてるのかも含め、自分自身を信じられないビョンスと一体化した観客も、大いに混乱するしかない。
この辺り、ちょっとクリストファー・ノーランの出世作、「メメント」を思わせる凝った作劇で、心理サスペンスとかなりボリュームのあるアクションシークエンスとのメリハリも効いている。
残酷性が抑えられていることもあり、韓国犯罪映画の鬱要素は全部入ってるのに、後味は結構スッキリ。
ほぼ出ずっぱりで大怪演を見せる名優ソル・ギョングと、テジュを演じるキム・ナムギルとの火花散る演技合戦、ウンヒ役のキム・ソリョン、オ・ダルスらのキャスティングも絶妙。
心の迷宮に彷徨う118分、予想外の展開に何度も驚かされる、秀逸なクライムスリラーだ。
今回は、ラムベースのカクテル「アウトロー」をチョイス。
ラム20ml、テキーラ10ml、ウゾ10ml、グリーン・ミント・リキュール10ml、ライム・ジュース10mlをシェイクし、グラスに注ぐ。
好きな人にはたまらない、ウゾのアニス香がアクセントの相当に強いカクテルだが、グリーン・ミントの爽快感とライムの酸味が飲みやすく演出している。

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この記事へのコメント
こういう分野は韓流の独壇場で邦画は足元にも及ばないと思います(>_<)
>まっつぁんこさん
猟奇殺人鬼物では世界のどこも韓国に勝てないでしょう。
キャラクターの豊富さ、シチュエーションの面白さ、しかも実話が多いのもw
韓国猟奇殺人物の名作にまた一本加わりましたね。
猟奇殺人鬼物では世界のどこも韓国に勝てないでしょう。
キャラクターの豊富さ、シチュエーションの面白さ、しかも実話が多いのもw
韓国猟奇殺人物の名作にまた一本加わりましたね。
2018/02/08(木) 20:51:05 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
韓国の人々のイメージは喜怒哀楽が激しいのと、権利を守るためには命をも捨てるみたいなのがある気がする。普通に付きあうのはいいけど、修羅場は怖そう。
2018/02/12(月) 09:04:39 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
>ふじきさん
まあ歴史的な要因が大きいのでしょうね。
普段付き合いでは感じないけど、本当喜怒哀楽は大きそう。
まあ歴史的な要因が大きいのでしょうね。
普段付き合いでは感じないけど、本当喜怒哀楽は大きそう。
2018/02/15(木) 22:01:36 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
これ気になってるんですよー
韓国スリラー大好きだから
やっぱり観るべきかなぁ・
韓国スリラー大好きだから
やっぱり観るべきかなぁ・
>migさん
おススメです。
韓国スリラーの中でも、かなり上位に来る秀作です。
ストーリー的な“含み”も深いですよ。
おススメです。
韓国スリラーの中でも、かなり上位に来る秀作です。
ストーリー的な“含み”も深いですよ。
2018/02/21(水) 16:08:03 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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▲ラス10分。
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でも、逆に言えばそこまでは耐えて耐えて耐え抜く話だからしんどい。しかも、あんまり理屈が通っていない。
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