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The Breadwinner(原題)・・・・・評価額1700円
2018年02月10日 (土) | 編集 |
絶望の世界を、生き抜く。

The breadwinner

タイトルの「The Breadwinner」とは、“働き手”を意味する。
2001年のアメリカによる侵攻前夜、タリバン支配下のアフガニスタンを舞台とした、異色のアニメーション映画だ。
原作は、紛争地の子どもたちをモチーフに、多くの作品を発表しているカナダの児童文学作家、デボラ・エリスの同名小説で、実写作品の監督としても活躍するアニタ・ドロンが脚色。
邦訳版の原作も「生きのびるために」というタイトルで、続編の「さすらいの旅」「泥かべの町」「希望の学校」と共に、四部作としてさ・え・ら書房から出ている。
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」や「ブレンダンとケルズの秘密」で知られるアイルランドのスタジオ、カートゥーン・サルーンが素晴らしいクオリティのアニメーション制作を担当し、両作でコ・ディレクターを務めたノラ・トゥーミーが、見事な長編監督デビューを飾った。
当初本作を監督すると伝えられたトム・ムーアも、アンジェリーナ・ジョリーと共にプロデューサーとして参加している。

11歳の少女パヴァーナ(サーラ・チャウドリ)は、戦争で足を失った元教師の父、体の弱い母、姉、幼い弟と共に、カブールの小さな家で暮らしている。
だがある日、パヴァーナが父の行商を手伝っていると、理不尽な理由でタリバンの兵士に目をつけられ、父は“イスラムの敵”として、刑務所に入れられてしまう。
一家に残されたのは女と赤ん坊だけ。
女が働きに出ることは禁止されているので、大黒柱を失った一家はたちまち困窮する。
そこでパヴァーナが少年を装い、街に出て働くことになる。
もちろん彼女にとって、働くことは初めての経験だが、乳飲み子のいる家族を支え、父が刑務所から釈放されるまで待ち続けるためにはお金がいるのだ。
聡明なパヴァーナは、同じ境遇の友達ショーツィア(ソマ・チャーヤ)の助けもあり、だんだんと働くことにも慣れてゆくが、彼女たちが知る由もないところで、カブールには戦争の嵐が迫っていた・・・


主人公のパヴァーナを演じるサーラ・チャウドリは、アフガニスタン系カナダ人。
9歳の時に原作を読んだ彼女は、自分の家族のルーツと重ね合わせ、主人公への精神的な結びつきと共に教育を受けられる幸運を感じたという。
タリバン政権下のアフガニスタンは、女性の権利が根こそぎ否定され、実質男性の所有物とされていた異常な社会。
学校に行くことはもちろん、男性家族の許可なしには外出することさえ禁じられた状況では、もはやお金を稼ぐことも、買い物に出ることすらできない。
この時代、女だけの家は存在し得ないのだ。
そんな中で、長い髪を切り、亡くなった兄の服を着て、少年のフリをしたパヴァーナは、同じ理由でやはり少年の姿をしているショーツィアを共犯者とし、彼女からも男として生きてゆく術を学んでゆく。
男女の性差が目立たない年齢だからこそ出来る奇策だが、聡明な少女は封じられた家族を養うため、一家の唯一の働き手(breadwinner)として街に出る。
刑務所の父が釈放されることを願って、それまでなんとしても家を守るために懸命に働くのだ。

丸を基調としたキャラクターデザイン、手描きと切り紙風アニメーションが混在する特徴的なテリングのスタイル、現実世界の物語と主人公が語るむかし話が、徐々にシンクロしてゆく映画版オリジナルの筋立てなど、カートゥーン・サルーン作品らしい味わい。
むかし話の主人公、スレイマンは、恐怖の象徴である“ジャイアント・エレファント”を倒すため、ながい旅に出て、三つの試練をクリアしなければならない。
パヴァーナの現実世界での“冒険”がむかし話とシンクロし、虚構の“恐怖”が迫り来る戦争の脅威によって、徐々に現実で顕在化するという仕掛けは秀逸だ。
劇中のフィクションを、現実の戦争のメタファーとして落とし込む手法は、ちょっとギレルモ・デル・トロの傑作「パンズ・ラビリンス」を思わせる。
また戦時下の女性を主人とした作品であり、過酷な状況下でも日常に根ざした陽性の視点は、「この世界の片隅に」にも通じる部分があると思う。

印象的なのは、パヴァーナが文盲のタリバン兵ラザックに、亡くなった妻の手紙を読んであげ、その親切が後々に因果応報的に効いてくるエピソード。
イスラム原理主義者と呼ばれているが、「タリバン兵の多くは、実際には(文盲ゆえ)コーランを読んだこともない、飢えたパシュトゥーンの怒れる子である」という、昔読んだルポ記事を思い出した。
タリバンの勃興は、多民族国家のアフガニスタンで最大の民族でありながら、社会主義革命以降影響力が低下したパシュトゥーン人の不満の高まりがその一因と言われている。
自分たちが抑圧を感じているからこそ、いざ立場が逆転した時に、弱き者をより残酷に抑圧する悪循環。
しかし本作では、人間の作り出す悪を逃れようの無い絶対悪とはせず、知恵と寛容と優しさによって退けさせる。
粗野な乱暴者と思っていたタリバン兵が、愛する者を亡くした悲しみに耐える姿に接したことで、パヴァーナは人間の複雑さを感じると共に、幼いながらに世界の多面性を知るのである。
これは、ジェンダーイコーリティーと共に、教育へのアクセスという、本作の訴える重要なテーマを象徴するエピソードでもあった。

映画の終盤は、原作よりもドラマチックな脚色がなされていて、それまでの世界が崩壊する中、パヴァーナと一家はそれぞれ苦難の道に歩みだす。
女性に自己決定権が認められない絶対的男性優位社会で、男たちの庇護を拒否した彼女らの未来は厳しい。
タリバンが去っても、今度は戦争というより大きな災厄が立ちはだかる。
9.11の同時多発テロに端を発する米軍の侵攻から17年、アフガニスタンでは3万人を超える民間人が犠牲になり、その数は未だ増え続けているという事実を私たちは知っている。
しかし、物語を通して逞しく成長し、この無情の大地で生き抜くことを決意したパヴァーナは、もう父に依存するだけの無力な少女ではない
原作の続編にある様に、彼女には過酷な人生が待っているけれど、生きている限り希望はゼロではないのだ。

地味な題材なので、洋画アニメーション不毛の地、日本での劇場公開は無いかと思っていたが、アニー賞の長編インディーズ部門で受賞、アカデミー賞にもノミネートされたことで、ある程度注目も集まった。
これは小規模でも日本公開してもらって、多くの人に観てもらいたい大力作だ。
まだ日本語レビューが殆ど出ていないので、本当に微力ながら、このブログ記事にて応援したい。
世界でもまだ公開されていない国が多い様だが、出来れば興行的にも成功して、原作の続編も映画化して欲しいところ。
ちなみに、劇中でパヴァーナの同世代のメンターとなるショーツィアのその後は、第三部の「泥かべの町」で描かれる。
現時点での最終話となる「希望の学校」まで、悲惨な状況下でもとにかくタフな少女たちの物語は読み応え十分なので、映画が公開されるまでに全巻読破しちゃっても良いかもだ。

アフガニスタンは果樹栽培が盛んで、様々なフルーツが採れるのだが、近年輸出用としても人気が高まっているのが、種が詰まっていることから古来より肥沃の象徴とされ、中東地域でもよく見られるザクロだとか。
今回はウォッカにザクロの果汁を配合したドイツのリキュール「オルデスローエ グラナートゥアプフェル」をチョイス。
甘酸っぱい風味で、真紅の色合いも美しい。
オン・ザ・ロックかスパークリング・ウォーターで割るのがおススメ。

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